六十話 初めての
イアと話し合いをした結果、再びパーティーを組んで遊ぶことにはなった。
一応、仲直りできたと言えるだろう。一応は。
もふもふのショックから立ち直れないまま、一度ログアウトして休憩した。
現実に戻っても食欲がなく、箸が進まない。一緒にいる双那は心配そうに見ていたが、SOSにログインしてから教えると言っておいた。
両親の前では言えない。絶対に言えない。
午後から再びログインすれば、久々に三人がそろう。
三人パーティーとして、改めてやっていくのだが。
「ご、ご主人様とペットぉ?」
「わたしがサクさんを教育するの。ソーニャちゃんも教育したって言ってたし」
「お兄ちゃん……とうとうそこまで堕ちて……うぅぅ」
「俺をそんな目で見るなっ!」
「猫ちゃん」
「ソーニャの前では勘弁してください! 兄としてのプライドがあるんです!」
「猫ちゃんです」
「……【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】!」
ご主人様の命令は絶対である。タゴサクに拒否権はない。
奥義を使用してネコサクに変身すると、イアは嬉々としてもふり始めた。
「もふもふ、もふもふ」
「ん……くぅ……」
「もふもふ、もふもふ」
「あぁ……」
我慢しようと思っても、気持ち悪い声が出てしまう。
ソーニャやイアのような美少女が喘ぐのは色っぽい。需要もある。
男のタゴサクが喘いでどうするのだ。
自分の声だが、非常に、非っ常に気持ち悪い。死にたくなるほどだ。
イアにもふられて知ったが、猫耳にも尻尾にもちゃんと感覚があった。もふられると、むず痒くてくすぐったい。だから声も出てしまう。
「ソーニャちゃんもやれば? わたしは耳、ソーニャちゃんは尻尾ね」
「上と下同時になんてらめぇぇ!」
ネコサクの哀願は聞き届けられない。
美少女二人の手により、猫耳と尻尾をもふられまくった結果、ダウンした。
奥義に制限時間があって本当によかった。永続であればどうなっていたか、考えたくもない。
「これ、いいわね。高級な絨毯に触ってるみたいだったわ」
「いいよね。最高の手触りだよ」
「お、俺はよくないぞ……こういうのを好きな男はいるが、俺は違う……」
美少女からおもちゃにされ、嬲られるのが好きなドM男はいる。
タゴサクは、どちらかといえばSだと考えている。美少女をペットにしたいのであって、ペットになりたいのではない。
もちろん、健全な彼氏彼女の関係が一番なのは当然だ。
「お兄ちゃん、もう一回。今度は猫耳も触りたい」
「クールタイムがあるから連発できん」
「使えるようになってからでいいわよ。いくらでも待つから」
「ダメだよ、ソーニャちゃん。サクさんはわたしの猫ちゃんなんだから、まずはわたしの許可を取って」
「猫耳をもふらせて」
「いいよ」
「俺の意思は!?」
「拒否したいなら、してくれていいですよ。わたしはサクさんを教育すると決めました。わたしに教育されるかどうか、決めるのはサクさんです」
「……俺は、とんでもない子を好きになってしまった」
イアと別れるなら、猫の方がマシだと思ってしまう。
無論、いつまでも怪しげな関係でいる気はない。下剋上を夢見ている。
下剋上を夢見ていなければ耐えられないとも言う。ただの現実逃避だ。
「ねえ、そろそろ使えるんじゃない?」
「まだだな。奥義だからクールタイムも長い。つうか、普通にゲームしようぜ」
せっかく三人に戻れたのに、もふられるだけではつまらない。
ぼちぼちゲームの攻略を始め、ジャパンステラ脱出を目指したい。
「イアはどんな感じなんだ? 上の星に行くために、王様に認められた?」
「二人の王様から認めてもらいました。国宝を修理したのと、もう一人です」
「俺とソーニャは、誰からも認められてないんだよ。二人でレベリングばっかしてた。イアと決闘したいって考えてたし」
「だから強くなってたんですね。わたしが色々教えてた頃は、サクさんに負ける日がくるとは思いませんでした」
「俺だって、イアの猫になる日がくるとは思わなかったっての」
ゴールデンウィーク中のタゴサク自身に話せば、笑われてしまう関係だ。絶対に信じてもらえない。
「お兄ちゃんが猫になったのもそうだけど、PKもよね?」
「PKって何?」
「俺は、ずっとPKをしてこなかった。イアと一緒にいない間も意識して避けた。最初にPKするのはイアだって決めてたんだ。俺の初めての相手だぞ。俺の初めてを奪ったのがイアだとも言える」
ただこれを言いたいがために、レベリング中もPKをしなかった。
バカなのは百も承知だ。
「俺は彼女がいたことない。女子に告白したのはイアが初めてだ。初めてのPKもイアだ。初恋もって言えないのは残念だが、初めての彼女もイアがいい」
「うゎお、お兄ちゃん、大胆」
「……サクさんは、恥ずかしいセリフを言いますよね。ソーニャちゃんも聞いてるのに」
「本心だからな」
「口がうまいサクさんは、信用できません。信用できるようになるまで教育です」
「戻るのか……」
イアは、何がなんでもタゴサクを教育したいらしい。
信用してもらえる日はいつにやるやら。
「初めてのご主人様もイアってわけね」
「そっちはいらんわ! 無駄にうまくまとめるな! 猫なのは不服だぞ!」
「不服なら、わたしとバイバイします?」
「猫で結構でございます!」
「サクさん、素敵です」
「違うんだ……これじゃないんだ……」
聞きたかったセリフではある。
イアに「サクさん、素敵です!」と言わせてやると考えていた。目標だった。
このシチュエーションは違う。断じて違う。
「もうそろそろですよね。猫ちゃん」
「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔】!」
ネコサクに変身し、もふもふ攻撃の餌食になる。プライドはズタズタだ。
何が嫌かって、嫌だ嫌だと言いつつ、ネコサクであることを受け入れる自分が嫌だ。
そこまで嫌なら拒否すればいいのに。拒否しないのは、満更でもないからだろ。
第三者が聞けばそう言うに違いない。
「猫っていいわね。ペットは飼ってないけど、お父さんとお母さんに頼んでみよっかな。猫が欲しいって」
「猫飼うの? いいなあ。わたしの家はマンションだし、ペット禁止だから飼えないんだよ。飼いたいのに」
「うちに遊びにくればいいわよ。猫を飼うようになったら教えるから」
「いいの!? ソーニャちゃん、大好き!」
会話だけは、ほのぼのしていて平和なものだ。会話だけは。
ソーニャとイアは、会話中もネコサクをもふっている。
ソーニャが猫耳で、イアが尻尾だ。上下同時に攻められている。
「誰か……助けて……」
ネコサクの救難信号は、SOS内の誰にも届かなかった。
とまあ、色々と不健全なあれこれはあったものの、ネコサクをもふった二人は満足してくれた。
ログアウトすれば、両親に猫を飼いたいと頼もうと決意する。ソーニャも飼いたがっているし、二人で頼めば両親も認めてくれる。
本物の猫がいてくれれば、ネコサクの需要もなくなってくれるはずだ。
猫の件はさておき、ゲームをやる。
「世界が定めた運命に抗おうとした三人は、些細なすれ違いがあり、一度は別れました。でも、絆は途切れません。再び集まります。新しい仲間も迎え、世界が定めた運命に抗うのです」
イアがナレーションっぽくまとめた。綺麗にまとめ過ぎだが突っ込まない。
新しい仲間とは、知り合った人たちを指しているのだろう。
コダりはしないが、仲間と言えなくもない。
「なんでもいいが、頼むから他の人にペットだの猫だの言ってくれるなよ」
「言いませんよ。ミドリちゃんたちが、サクさんをもふもふしたいって言い出せば困ります。サクさんは、わたしとソーニャちゃんの猫ちゃんなんです」
「共有財産ってわけね」
「ソーニャ、てめえ……」
「怖い怖い。でさ、これからどうするの?」
「王様に認められて、上に行くんじゃないのか?」
イアは二人に認められているので、あと一人だ。
タゴサクとソーニャは三人に認められる必要があり、少々時間がかかる。
「イアを私たちに付き合わせるのもどうかなって。あと一人でいいのに」
「だったら、皇帝陛下に認めてもらえばどうかな? それなら一発だよ」
ジャパンステラから脱出するには、王様三人、もしくは皇帝陛下一人に認められればいい。
「俺、皇帝に認められる方法は知らないぞ? 王様も知らないが、普通に考えて王様よりも皇帝の方が難しいよな?」
「わたしも知りませんけど、三人で探せばいいじゃないですか。三人一緒に難しいゲームを攻略すると楽しいです。正直、ソロの時はつまらなかったんですよ」
「やりごたえがあって楽しそうではあるな。ソーニャはいいか?」
「いいわよ。じゃあ、皇帝陛下に認められるように頑張るってことで」
方針も決定したし移動する。【桃源郷シュト】から宇宙船に乗り、皇帝陛下のおわす星へと。
皇帝陛下の居場所だけは知っていて、【皇星ジャパン】だ。
星の名前でもあり、町の名前でもある。
名前からも皇帝陛下に関連する場所だと分かる。
皇帝の星で、ジャパンステラの名前がそのままついているから、ジャパンステラ全体を統べるという意味になる。
「さすがのSOSも、天皇陛下に喧嘩は売らなかったか」
ジャパンステラの皇帝陛下だから、日本の天皇陛下を連想する。
なのに、ふざけた名前にする度胸はなかったと見える。不敬にもほどがあるし、いくらゲームでも不謹慎だと言われそうだ。
「度胸ないわよね。ふざければいいのに」
「無理じゃないかなあ。大人の事情的なのがあるでしょ? ふざけてたら面白いとは思うけど、不謹慎な面白さは笑えない人もいるよ」
「皇帝陛下の居場所が【陰火帝国モッコリーゴ】だったら大変だよな」
タゴサクが口にした【陰火帝国モッコリーゴ】は、四十七の星の一つだ。
読みは「いんか」だが、「いんび」とも読める。漢字を変えれば「淫靡」だ。
しかも【モッコリーゴ】とくれば、タゴサクでなくともスケベな妄想をする。
モッコリにしか聞こえない。【チンチマーニの町】もあるし、モッコリなチ○チ○? と突っ込みたくなる名前だ。
他の町だって、【ボインニーゴ】だの【アヘガーン】だの、バカとしか言えない名前が目白押しになっている。ボインにア○顔とは酷い。
SOSは、インカ帝国に土下座して謝罪すべきだ。
日本はHENTAI文化の国である。
間違っているような極めて正しいような日本観が外国に伝わっていたりするが、よりによってそれを採用しているのだ。
特徴としては、セクハラモンスターが多いと聞いている。
ゲームとしてありなのか心配になるが、嫌なら行かなければいいため、自己責任でどうぞという考えかもしれない。
「【陰火帝国モッコリーゴ】……あれは悪夢です……」
「イアは、まさか行ったのか?」
「行きました。サクさんなんか大嫌いだってなって、ヤケになっちゃったんですよね。セクハラモンスターとも戦いました。感想は、酷いとしか言えません」
イアが戦ったセクハラモンスターを教えてくれる。
まずは、超絶イケメンの天使型モンスターだ。
ステータスが高く、攻撃も苛烈で強敵だが、致命的な弱点がある。弱点を攻撃すれば、こちらのレベルが低くても割と楽に勝てる。
「弱点は、具体的な名称はとても口に出せません。男性の大事な場所とだけ」
イアは言葉を濁したが、弱点は股間だ。
男性の弱点で間違いない。他のどこよりも一番の弱点だが、あんまりだ。
超絶イケメンの股間を攻撃すれば楽に勝てる。
が、代わりに喘ぐ。男なのに、無駄に色っぽい声で、アンアン喘ぐ。死ぬ瞬間は○ヘ顔Wピースだ。
女性型モンスターの股間を攻撃して喘がせれば大問題になるので、男性型にしたと思われる。最低限の配慮はあるが、本当に最低限だ。
他には、触手を伸ばしてくる男性型モンスター、全裸の男性型モンスターなどがいる。
「男ばっかじゃねえか。てか、全裸はまずいだろ? 性的な表現に規制があるって話はどこに消えた」
「見えちゃまずい部分は見えませんよ。モンスター名は【毛深き雪男】です。全身が体毛に覆われています。動物みたいに綺麗な毛じゃなくて、名前の通り毛深いんです。モジャモジャっとしてます。顔だけはイケメンでしたね」
「最悪なモンスターだ……」
「お兄ちゃんに怒ったからって、よくそんな場所に行ったわね」
「後悔したよ。女性プレイヤーには、意外と人気らしいけどね。超絶イケメンの大事な部分を攻撃するとか、現実じゃできないもん。わたしは違うよ! 違いますから、サクさんは誤解しないでください!」
「してないから」
趣味は人それぞれだ。男性も女性も、どっちもどっちだった。
「それで、一応そこの王様から認めてもらったんです。碌でもない展開になりましたけど」
「聞いていい? 私がやりたいとは思わないけど、怖い物見たさで興味あるわ」
「ソーニャちゃんならいいけど、サクさんがいるから今はダメ」
「じゃあさ、今晩泊まりに行っていい? 現実のイアの家に」
「あ、それいいね! お泊り会しようよ! ミドリちゃんも呼んで! 住んでる場所は知らないけど、多分近いよね!」
ミディーリは、現実でナンパされていた時にソーニャから助けてもらった。
すなわち、家も近いはずだ。
「助かるわ。キモい害虫を見たばかりだから、夜は誰かと一緒にいたいの」
ちょっとしたオフ会をしようと話していた。
以前も三人で女子会をしたが、SOS内だった。今度は現実で会おうと。
男のタゴサクは入れないので、女性だけで楽しんでもらう。
今晩の予定を相談しているうちに、宇宙船は【皇星ジャパン】に到着する。
皇帝陛下に認めてもらい、上の星へ行くのだ。
次話は、主人公が登場しないサイドストーリー的な内容になります。
本編と無関係ではありませんが、少し横道に逸れるので今晩投稿します。




