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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
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六話 ゲームのマナー

 ゲーム開始初日からPKされるという不運はあったが、全体的に見ればまずまず順調に進んだ。

 クエストはアイテムを集め直してクリアできたし、初スキルを覚えた。レベルも10にまで上がっており、初日の成果としては十分であろう。

 そこでゲームを終わりにし、ログアウトする。続きは明日だ。


 ログアウトした(そら)は、自室でSOSについて調べている。

 昨日双那(そうな)に頼まれて、今日始めたゲームだ。何も知らないと言っていい。

 たった半日遊んだだけでも、SOSの殺伐とした空気は感じ取れた。今後のためにも情報収集をしておきたい。

 一番を目指すゲームなので、プレイヤーが持つ情報は秘匿されがちだが、情報が皆無ではない。公式に発表されている情報はあるし、プレイヤーなら誰でも知っている内容であれば攻略サイトに載っている。


 公式の情報で気になった部分は、「オンリーワンはございません」の文言だ。

 ここで言われているオンリーワンとは、特定のプレイヤーのみが入手できる物になる。特定のプレイヤーだけが持つ装備や、習得しているスキルなどだ。

 要するに、サーバー内で一本だけの剣とかは存在しないと。


 意外な気もするし、妥当な気もする。

 何が優越感を満たしてくれるかというと、「自分だけが特別」だ。

 特別な装備を身に着けて町を闊歩すれば、嫉妬の視線が突き刺さる。これが気持ちいい。

 自分だけのスキルで他者を蹂躙するのも優越感に浸れる。

 ただし、気分よくなれるのは当の本人だけだ。他のプレイヤーからすれば理不尽極まりない。五万スターのお金にも苦情が殺到するのだから、クソゲーだとの声が続出してゲームどころではなくなる。

 特別な何かなどなくても、工夫して一番を目指せという話だ。


 条件は全プレイヤーが対等だが、逆転の目が少ないとも言える。プレイ時間と、それに比例するレベルが大正義になりそうだ。

 案の定、掲示板では同じことを発言しているプレイヤーが多かった。レベルを上げてごり押しするゲームだと。

 まあ、イアも言っていたがレベル50を超えれば幅が広がるらしいので、レベル的には格下のプレイヤーが格上に勝つことも十分あり得る。


 あとは、ソロが前提となっているゲームなのを逆手に取り、複数人で協力し合って上を目指すやり方があると書かれている。公式の情報ではなく、プレイヤーの意見だ。

 システム的にはパーティーを組めない。すなわち、RPGでよくある全体回復魔法や、味方を強化する補助魔法は存在しない。アイテムもしかり。

 経験値もドロップアイテムも、モンスターにとどめを刺したプレイヤーの総取りになる。

 フレンドリーファイアも発生する。モンスターと斬り合っていたら、味方と思っていたプレイヤーに後方から魔法でドカンとやられてしまう。


 協力し合うメリットは少なく、デメリットが多いが、できなくはない。実際に空たちは三人だ。

 信頼できる相手なら擬似パーティーのようなものを組める。さらに、特定の一人を押し上げることもできる。空とイアが完全に補佐に回り、双那一人を強くするなどだ。

 これは、ソロで遊ぶというゲームの趣旨に反する行為とされ、忌み嫌われる。


 ネットでは「コダる」という蔑称が使われていた。イタリア語でCodardo(コダルド)という単語があり、「臆病な」、「卑怯な」という意味である。そこから生じた造語だ。

 一人ではまともに戦えない臆病者、群れなければ勝てない卑怯者、という意味で使われている。


 コダるプレイヤーはゴミクズだ。ゲームのマナーを乱し、楽しく遊んでいるプレイヤーを邪魔する奴だ。真面目にソロで遊ぶプレイヤーが損をする行為は、決して許してはならない。


 ネット上での共通見解である。

 コダるプレイヤーを見かければ即抹殺せよと過激な発言をしている人もおり、周囲も同調する始末だ。

 空と双那がPKされたのは、これが理由かもしれない。相手からすれば、ゲームのマナーを乱す悪質なプレイヤーを成敗したのだ。


「しばらくしたら解散した方がいいかもな」


 双那やイアにも迷惑をかけるし、マナー違反もよくない。パーティーがマナー違反という意見には賛同しかねるが、その場所に合ったマナーがあるのだろう。

 SOSではパーティーがマナー違反とされるなら、従う方がよさげだ。

 明日ログインすれば相談してみよう。

 そう考えつつ、情報収集を終わりにして受験勉強を始める。ゲームだけをやっていられないのが受験生の辛いところだ。





 ゴールデンウィーク二日目になり、空はSOSにログインした。


「おはよう、イア」

「おはようございます」

「お兄ちゃん、なんでイアにだけ挨拶するの? 私は?」

「お前とは家で『おはよう』って言っただろうが。ついさっき、朝食時に顔を合わせたばかりだぞ」

「嘘つかないで。お兄ちゃんは、『うぃー』ってやる気のない挨拶をしたの。イアにだけは『おはよう。キリッ』って格好つけるのに」

「分かった分かった。おはよう、ソーニャ」

「よろしい。おはよう、お兄ちゃん」


 イアと、ついでに絡んでくるソーニャとも挨拶をしてからゲーム開始といく。

 予定は決めてある。レベリングと金策を本格的に始めるのだ。

 昨日は、ゲームに慣れる意味合いが強かったため、今日からが本番とも言える。

 まずはダンジョンに挑む。

 予定だったが、予定は変わってしまう。フィールドに出た途端に襲われたのだ。


「ソーニャ!」


 昨日と同じだ。遠距離から魔法を放たれ、ソーニャが即死する。

 タゴサクが難を逃れたのは、ソーニャとやや距離があったためだ。魔法の効果範囲はたいしたことないらしい。

 それが分かったからといって、次の攻撃を逃れる手があるわけではなく。


「【黒壁(ブラックウォール)】!」


 ソーニャに続いてやられそうになったタゴサクだが、守ってくれたのはイアだ。

 イアがタゴサクの前に出て言葉を紡げば、名前の通り黒い壁が出現した。スキルか魔法か知らないそれが、相手の攻撃を防いでくれた。


 昨日は一度も戦わなかったイアは、初めて槍を抜く。柄から穂先まで漆黒に染まる黒槍(こくそう)だ。

 禍々しい色にも見えるのに、不思議と安心感がある。仲間だからか、もしくはイアの左目を連想させるからか。


「【黒旗(ブラックフラッグ)】!」


 旗が風になびくように、槍の穂先がゆらりとぶれる。

 黒の津波が敵を襲う。相手も反撃し、赤の閃光を放ってきた。

 両者の距離は目算で二十メートルほどだろう。その中間で、黒の津波と赤の閃光がぶつかり合い、拮抗の末に消滅する。

 イアはすぐさま次の一手を放つ。


「【黒眼の怪光線(ブラックシュート)】!」


 先のが津波なら、今度はビームだ。一秒とかからずに相手の元へ到達し、胸元を貫いた。

 姿が消えたので、死んだのだと思われる。


「倒した……のか?」


 見ているだけしかできなかったタゴサクは、恐る恐るイアに問うた。

 イアは、ひゅんと槍を半回転させ、背中に当てた。鎧にくっつくように仕舞われる。

 武器を片付けたのは、タゴサクの問いに対する返答だろうか。

 凛とした横顔は、持ち前の美貌と相まって幻想的な雰囲気を漂わせている。

 かと思えば、相好を崩してタゴサクに向き直った。


「今のわたし、めっちゃ格好よくありませんでした!?」

「は、はあ?」

「急にごめんなさい。ソーニャちゃんが死んでいますし、それどころじゃないのは重々承知なんですけど、我ながら最高に格好よかったと思うんです。ソーニャちゃんにも見てもらいたかったですね」


 自画自賛のセリフを述べるイアは、凛とした空気など微塵も残っていない。子供のようにはしゃいでいた。


「もう、思い出しただけで……うへへへ、ぐへへへへへ、ぐうぇっへっへっへ」


 気持ちの悪い笑い方三段活用である。いくら外見が美少女とはいえ、これにはタゴサクもドン引きだ。


「よ、よく分からんが、イアが満足できたならよかった?」

「大! 満! 足! です! めっちゃ気持ちよかったです!」


 イアの意外な一面を垣間見てドン引きのまま、とりあえずソーニャを迎えに行くために町へとんぼ返りする。

 事情を聞くのは町でだ。フィールドにいると、いつまたPKの危機にさらされるか分かったものではない。

 また、今のイアはタゴサクの手に負えないという切実な問題もある。


「ソーニャ、お前って凄かったんだな」


 このイアと友達をしている妹に、尊敬の言葉を贈った。

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