七話 厨二病患者の女子高生
「なんで私ばっかり……」
二日続けてPKされたソーニャは、目に見えて分かるほどふてくされていた。
「守れなくてごめんね。でも、ソーニャちゃんの死は無駄にしないから。ソーニャちゃんの分まで、サクさんを守ってみせる。わたしの命に代えてでも」
「イアの悪い癖が出てるわよ。お兄ちゃんと知り合って二日目なのに、もう本性を見せるの?」
「さっき見せちゃったし、隠しても仕方ないよ」
「イアはこう言ってるけど、お兄ちゃんの感想は?」
「感想って言われてもな」
ドン引きしたとは答えられない。
タゴサクは言葉を濁したが、ソーニャにはバレバレだった。
「お兄ちゃんはドン引きしたってさ」
「いいもん。わたしはああいうのが好きだから」
「ああいうのって、仲間を守るヒーローみたいな?」
タゴサクが質問すれば、イアは全力で頷く。
「わたし、少年マンガが大好きです。熱い戦いとか大好きです。昔から、少女マンガじゃなくて少年マンガばかり読んでます。マンガの主人公のようなことができればいいなって、ずっと憧れてました」
「イアは、顔に似合わず厨二病患者なのよ。必殺技を叫ぶのとか好きでしょ?」
「大好き! 『クーゲルシュライバー!』とか!」
「それ、ボールペンよね」
「格好いいからいいの。呪文の詠唱とかも好き」
「なるほど、厨二病患者」
言われてみれば納得である。
イアの外見は、新緑と漆黒のオッドアイだ。似合っているので何も思わなかったが、厨二病患者だからオッドアイにしているのだろう。
武器は黒槍で、使っていた技も黒かった。見た目で選んだ可能性がある。
「わたしはこんな性格なので、知らない人とパーティーを組みにくいんですよ」
「人見知りってのは建前か」
「完全に建前でもありません。特に男性は怖いです。サクさんは、ソーニャちゃんのお兄さんなので平気ですけど」
タゴサクを信用しているのではなく、ソーニャを信用しているからタゴサクも平気なのだ。
ソーニャがいなければイアとお近づきになれなかったし、妹に感謝しておく。
「イアに言っておくけど、お兄ちゃんを信用しない方がいいわよ。スケベで変態だから、イアみたいな可愛い子は毒牙にかかるわ」
「勝手なこと言うな!」
前言撤回だ。感謝などしてやるものか。
イアに警戒されてしまうかと思ったが、彼女は平然としている。
「えー、ないない」
「だから、お兄ちゃんを信用しちゃダメなんだって」
「ソーニャちゃんを信用してるんだよ。サクさんが危険な人なら、わたしに紹介しないよね?」
「まあ、スケベで変態だけど、根性なしでもあるからイアには手を出さないか」
「エッチなのは、男の人だし仕方ないよ」
「理解あるわね」
「少年マンガにも、エッチなキャラクターは多いからね。わたしは好きだよ。エッチで軽薄な女好きキャラが、いざっていう時に見せる格好いい姿とか」
「お兄ちゃんは、エッチで軽薄な女好きのくせに、いざとなると逃げるタイプよ」
「なあ、俺がいるんだぞ? 赤裸々な会話はやめてくれ」
暴露話をするのは構わないが、タゴサクがいることを忘れてもらっては困る。こちらが恥ずかしいし、男として見られていないようでショックだ。
妹のソーニャはともかく、イアとは関係を深められればラッキーだと思っているのに、脈はなさそうだ。
「変な話をしてしまってすみません。要するに、わたしは厨二病だってことです」
「自分で言うほどか」
「事実ですから。現実のわたしは普通の女の子です。ソーニャちゃんみたいに、ナンパされて困っている子を助けるなんて絶対にできません。自分が被害にあわないように逃げちゃいます。ヒロイズムに憧れていても、現実じゃできないんですよ。だからこそ、さっきは楽しかったです。仲間のピンチを華麗に救ってみせるシチュエーションとか大好物です」
「私は救ってくれなかったけどね」
「次は守るよ。わたしに任せて!」
イアは自信ありげに断言した。
タゴサクやソーニャに比べればレベルは高いし、上の星にも行っている。コモンステラにいるプレイヤー相手なら無双もできる。
しばらくの間は守ってもらうのもいいが、それでは根本的な解決にならない。
昨日、ネットで見た情報を思い出す。
「SOSって、パーティーを組むプレイヤーは嫌われるんだろ? 二日続けて狙われたのも、三人でいるからじゃないのか?」
「その話、私も聞いたけど本当なの?」
「残念ながら本当だね。狙われたのも、多分サクさんが言う通りの理由」
「俺たちも解散した方がいいんじゃないか? せめてイアだけでも抜けるとか」
タゴサクはソーニャに頼まれているので、最後まで付き合ってもいいと考えている。PKされようともだ。
イアを付き合わせるのは申し訳ない。
親切心から提案したが、女子二人には不評だった。
「わたしだけのけ者ですか? そんなの嫌ですよ。一緒に遊ばせてください」
「お兄ちゃんがシスコンなのは知ってるけど、私と二人きりになりたいからって、イアをパーティーから追放するのは」
「俺、割と真面目に心配して言ったんだが」
「茶化したのは悪かったわよ。でも、パーティーを解散するのは嫌。PKっていう暴力に屈したことになるじゃない」
「マナー違反してるのはこっちだぞ」
パーティーを組むのがマナー違反であれば、間違っているのはタゴサクたちだ。
本音を言うなら、タゴサクは二人と一緒に遊びたい。片方は妹ながら、美少女二人の両手に花状態だ。これに喜ばないほど清廉潔白な人間ではない。
だが、自分の下心と二人の身の安全、どちらを優先するかとなれば後者を選ぶ。
「マナー違反、上等じゃないですか」
「おいおい」
イアの口からとんでもないセリフが飛び出した。
乱暴な意見だと思うが、イアには何やら考えがあるようだ。
「考えてみてください。全プレイヤーがソロになったとして、得をするのは誰だと思います?」
「……トッププレイヤーか」
「そうです。弱者が強者に勝とうと思えば、協力し合う必要があります。仮にですけど、わたしと同レベルのプレイヤーが何人か集まれば、レベル的には格上の人にも勝てますよ。これを恐れているんです」
システム的にはパーティーを組めないが、協力はできる。すると、トッププレイヤーが困ってしまう。
協力し合うプレイヤーたちに追い上げられる。
一対一の戦闘では負けないが、複数人を相手取れば負けてしまう。
かといって、トッププレイヤー同士は協力できない。一番を目指すゲームだし、周囲はライバルばかりだ。
「自分たちに都合が悪いので、パーティーはマナー違反としているんです。トッププレイヤーは、つまり古参のプレイヤーですから、自分たちが決めたマナーに従えと」
「SOSはソロで遊ぶゲームだろ?」
「ソロ推奨です。パーティー禁止とは一言も謳っていません。公式に問い合わせた人もいますよ。『複数人で協力して遊ぶのは禁止ですか?』って。答えは言うまでもありませんね。『禁止ではないし、やって構わない』です。ルールで禁止されていない以上、マナー違反とするしかありません。古参の人たちが勝手にマナー違反と言っているんです。自分たちが脅かされないために」
詭弁にも聞こえるが、一定の説得力はある。
イアの言葉を聞いていると、丸め込まれてしまいそうだ。
「イアって詐欺師の素質ありそうだな」
「私も思った。顔も可愛いし、男を手玉に取りそう」
「二人とも酷い! 詐欺師じゃないもん!」
失礼な発言をした兄妹に、イアは大層お怒りだ。
もっとも、プンスカ怒っている姿も可愛いだけだが。
「詐欺師って言ったのは悪かったが、そういう話ならパーティー組むか。俺も三人で遊べるのは嬉しいし」
「私は賛成。嫌われたっていいじゃない。開き直りましょう」
「話はまとまりましたね。わたしたちは運命共同体です。実は、こういうのも大好物なんですよ! 世界が定めた運命に抗う! めっちゃ格好いいです!」
イアがパーティーを組みたがっているのは、こちらが本音かもしれない。厨二病患者の彼女らしくはある。
「パーティーを組むのはいいが、差し当たって問題になるのはPKだよな。さっきイアが倒した奴って、昨日俺たちを襲った奴か?」
「顔を見た感じ、同じ人ですね。そっくりさんの可能性もありますけど」
「一度負けて引き下がると思う?」
「どうでしょう。引き下がるかもしれませんけど、他のプレイヤーが現れるだけですね。パーティーをPKする人って結構多いんですよ。中堅プレイヤーに多い印象があります。トッププレイヤーには勝てず、上には行けません。代わりに、格下のパーティーをPKします。マナー違反をしている方が悪いですし、大義名分にもなりますよね。治安維持のつもりなんです」
「つまり、俺たちは今後、PKと争い続けなきゃいけないわけだ」
三人で遊ぶと決めたが、自分たちが正しいと主張する気は毛頭ない。
どのような理屈を並べ立てても、マナー違反はマナー違反だ。正義があるのはPK側であり、タゴサクたちは悪になる。
話し合いでの解決は望み薄だ。違反をしておいて、PKされそうになれば「話し合いを」とか身勝手にもほどがある。
同じ身勝手なら戦う道を選ぶ。
この時、足手まといになるのは初心者二人である。
イアもコモンステラでは強いが、所詮はレベル65だ。上の星に行けば、タゴサクとソーニャを守る余裕もなくなる。
「結局、レベリングしようってことでしょ? なんにも変らないわよ」
「まとめられると身も蓋もないが、そういうことだな」
PKを警戒しつつレベリングだ。強力なスキルや魔法も覚えたい。
「イアが使ってたのってスキルか? 俺たちも覚えられる?」
「スキルですね。覚えられるかなら、もちろん覚えられます。ただし、今は無理です。レベル50で幅が広がるって話しましたけど、それからですよ」
「んじゃ、レベル50が当面の目標だな」
「私の偽物のことも忘れないでね」
「そっちは最終目標だろ。順番にやっていこう」
PKは頭の痛い問題ながら、なんだか楽しくなってきた。
イアの言葉ではないが、運命共同体の三人が悪とされながらも世界に抗う物語。現実では絶対に不可能な真似を、ゲームで楽しもう。




