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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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五十七話 害虫

 土曜日になり、イアとの決闘の日を迎える。

 朝の十時に待ち合わせだが、タゴサクとソーニャは三十分前に決闘場所に行く。

 コモンステラにある【離別の草原】だ。別名【害虫たちの楽園】とも呼ぶ。

 害虫系モンスターが闊歩する地獄のフィールドだが、訪れたソーニャの様子は酷いものだった。


「お、お兄ちゃん……なんだか、地面がぬらっとしてるんだけど……」

「ミミズとかナメクジとかのモンスターがいるんだろ」

「あ、あっちの方は、あり得ない量の蜘蛛の巣が……でっかい蛾が引っかかって、うごめいて……」

「蜘蛛もいるんだろ」

「ひっ! なんかカサカサって音が!」

「ムカデかゴキか、そんなところだろ」

「お兄ちゃあん……」


 ずっとこの調子だ。半べそをかきつつ、タゴサクにくっつく。

 ソーニャは特別に虫嫌いではないが、でかくてキモい害虫モンスターともなれば平然としていられない。

 コモンステラは紫の雲が空を覆っているし、空気も澱んでいる。肌を撫でる風は生温い。

 雰囲気たっぷりなのに、加えて害虫だ。そりゃあ怖がりもする。


「お、お兄ちゃんは平気なの?」

「いや、俺もぶっちゃけ怖い。害虫が大好きって奴の方が少数派だろ。ゲームだからって割り切れるもんじゃない」


 気持ち悪い物は気持ち悪い。イアから指定されたのでなければ、絶対に近寄らない場所だ。

 ビビりまくるソーニャの前に、害虫モンスターが姿を現す。


「【遠キ彼ノ地ヘ消エヨ(アトランティス)】ッッ!!」


 即座に奥義をぶっ放し、グロい蜘蛛のモンスター【グロスパイダー】を瞬殺するソーニャがいた。

 奥義名の通り、モンスターは跡形もなく消え去った。


「おー、豪快豪快。雑魚モンスター相手に【遠キ彼ノ地ヘ消エヨ】か。ソーニャちゃんは強くなったね」

「ナンパ、おはよう」

「おっはーおっはー、タゴサク。今日は誘ってくれてありがとね。イアちゃんとの決闘、楽しみにしてるよ」


 ナンパは、ソーニャが連絡をして誘っていた。きてくれたようだ。

 ミディーリもいるが、こちらはソーニャのように脅えている。


「よりにもよって、なぜここを……」

「無理しなくてよかったんだぞ」

「無理などしておりません。高潔なお嬢様は害虫になど屈しません」


 強がるミディーリへの洗礼として、モンスターが襲いかかる。グロいナメクジのモンスター【グロスラッグ】だ。


「【一宵ノ影月ヨ踊レ(ナイトメア)】!」


 ミディーリは奥義をぶっ放して、綺麗さっぱり消滅させた。


「おっほっほー。ミドリちゃんも豪快豪快」


 ナンパのミドリちゃん呼びを訂正する余裕もなく、ガクブル震える。

 同じくガクブルのソーニャは、タゴサクから離れてミディーリとくっつく。


「ミディーリ」

「ソーニャさん」

「美少女同士の百合ん百合んな展開キターッ! 目の保養目の保養!」


 鼻息を荒くするナンパは、本日も絶好調だ。

 タゴサクも便乗したい気持ちはあるが、決闘前なので控える。


 時間が近付くにつれ、他の人も現れる。

 ヴァイスとサンサンのカップルに、ユメ、レン、シンガーの三人組だ。

 ソーニャが連絡を回した人たちは、なんだかんだ全員集まっていた。初対面の人もいるので軽く自己紹介をしている。

 ユメたちは、つい先日コモンステラを脱出し、レアステラに行っているらしい。ジョブにも就いたと言っていた。

 最後に登場するのはイアだ。十時ジャストである。


「イア」

「イアさんは、なぜここを選んだんですか!」


 タゴサクが声をかけようとしたのに、ミディーリに割り込まれた。

 イアもタゴサクを無視してミディーリに答える。


「【離別の草原】だし、サクさんと別れるにはピッタリだもん。あとは、害虫が多いからだね。SOSだと、見た目が気持ち悪いって意味で害虫なんだよ。益虫もいるのに酷いよね。かわいそうだよね。サクさんの方が害虫なのに」

「俺は害虫か……」

「違いますか? サクさんは、顔は悪くありません。害虫みたいに気持ち悪くありません。だけど、害虫よりも害虫らしいですし、気持ち悪いですよね? サクさんなんか、ここでモンスターの餌になっちゃえばいいんです」


 辛辣な意見にショックを受ける。

 害虫よりも害虫らしい。気持ち悪い。

 イアの毒舌は何度も聞いていたが、全て冗談だった。タゴサクを傷つける目的で口にしたのではなく、冗談を言って笑い合うための物だ。

 今回の発言には、イアの怒りが込められている。タゴサクを傷つけても構わないという気持ちがある。

 非常に効いた。


「そんな顔しないでください。わたしの方が傷ついてるんです。これでもサクさんを信じてたんですよ。信じてたんです。それなのに、サクさんは……」


 タゴサクへの文句を途中で切り上げ、イアは首を振った。

 舌戦よりも決闘をしようとする決意だ。


「悪いが、モンスターやプレイヤーの露払いを頼む」

「了解了解。ヴァイスも、今だけはコダるとかなんとか言わないよね?」

「僕も空気は読める。露払いを引き受けよう」

「私も手伝います。ソーニャさんとミディーリは頼りになりませんし、ユメさんたちはレベルが低いですからね。私、ヴァイス、ナンパの三人で」


 露払いも頼んだし、いつでも決闘できる。


「サクさんは、覚悟はいいですか? 死宮のイアがお相手します」

「し、しきゅう?」


 支給か、もしくは至急か。

 まさかと思うが、子宮ではあるまい。子宮では下ネタだ。

 タゴサクは面食らい、他のメンバーも何を言い出すのだという目で見ている。


「エッチな想像しないでください! サクさんが考えてる意味じゃありません!」

「俺だけじゃなくてみんなも」

「言い訳するサクさんは格好悪いです! 死の(みや)で死宮です! エッチな意味じゃないんですよ! わたしのジョブが【死宮女王(デスクイーン)】だから死宮のイアです! 文句ありますか!」


 イアのジョブは【深淵門番(アビスキーパー)】だったが、【死宮女王】になったらしい。

 死宮に女王とつけるのは、エロ方面を暗示させたいとしか考えられない。

 王にして【死宮王(デスキング)】でもいいのに、わざわざ女王にしているのだから。


「なんつうゲームだ」


 SOSはバカだ。アホだ。なんというゲームだ。

 タゴサクの感想はさておき、エロい意味ではなく二つ名を名乗っているだけだと知って、一応納得する。


「僕が白弓(しらゆみ)のヴァイスと名乗るのと同じか」

「この子、ヴァイスさんに影響されたんですよ。黒天女のイア、深淵のイアって名乗っていて、今は死宮のイアだそうです」


 ソーニャが補足を入れれば、各々が感想を述べる。


「お嬢様のロールプレイをしているわたくしに言えた義理ではありませんけれど、どんどん酷くなっていっていますね」

「死宮のイアちゃん! 興奮興奮! ソーニャちゃんならもっと興奮興奮!」

「ナンパは、タゴサクさんと一緒に死んでください」


 厨二病患者のミディーリですら呆れ、ナンパは興奮し、サンサンはナンパを軽蔑する。


「ユメは聞いちゃダメ! アイドルなのに穢れちゃうよ!」

「私、子供じゃないんだけど」

「子供じゃなくてもアイドルだからダメなんですよ。マネージャーとしては許可できません」


 ユメたち三人も色々と言っていた。

 決闘を前に変な空気になるが、仕切り直しだ。


「深淵だろうと死宮だろうといいが、戦おうか」

「戦いじゃありませんよ。これから始まるのは、わたしの復讐です。ギッタギッタにします!」


 ソーニャたち八人が見守る中で、タゴサクとイアの戦いが始まる。


「【儚キ者ノ回想録(レミニセンス)】!」

「【地獄ニ誘イシ千手乙女(メイデン)】!」


 二人は奥義を放つ。

 タゴサクの【儚キ者ノ回想録】は、【地獄ニ誘イシ千手乙女】によって生み出された亡者の手を貫き、イアに届く。

 亡者の手は多数存在し、残った手がタゴサクの全身に突き刺さろうと迫る。


「【狂祖(マッドグル)】!」


 ここでスキルを使用した。敵のスキルや魔法に反応し、狂わせる効果を持つ。

 狂った結果、亡者の手は同士討ちを始めてしまった。

 全てを狂わせられるわけではない。生物を模した物に有効で、ただの斬撃や火球などには無効だ。

 亡者の手は微妙な線だったが効いてくれた。

 奥義もうまく防げたし、どんどん攻撃する。


「【ニビイロバード】!」

「【ブラックバード】!」


 鈍色の鳥と黒の鳥が衝突。強力な技の応酬が繰り広げられる。

 タゴサクがイアに接近しようと駆け出せば、イアも同じく駆け出した。

 彼我の距離が瞬時に縮まる。物理特化のイアにとっては得意とする距離だ。


「【乱れ純黒(カオスティックピュア)】!」

「【流星帝(スターロード)】!」


 イアの槍による乱れ突きに対し、タゴサクは激しい連続突きだ。

 タゴサクのスキルも金色モンスターのドロップで強いはずなのに、イアはさらに上回る。槍の一突き一突きが純粋な黒の軌跡を描き、タゴサクに命中する。

 対イアのために購入した【絶壁鎧(ぜっぺきがい)】の防御ですら防ぎ切れない。

 イアの乱れ突きを食らってしまうが、【儚キ者ノ回想録】の追加効果が入り、わずかに隙ができる。


「【ユキダルマン】!」


 魔法で出現した雪だるまは、雪の白さを失い鈍色に汚れていた。

 降り積もったばかりの新雪ではない。泥やスモッグで汚れてしまった雪だ。

 鈍色の雪だるまが出現している間だけ、相手の色は鈍色に変化する。すなわち、鈍色以外の色専用のスキルや魔法は使えなくなる。無論、奥義もだ。

 発動中だったイアのスキルは、名前や見た目からして黒専用だ。

 予想通りキャンセルされる。


「【ヒールヒール】!」

「【死黒(シッコク)】!」


 イアの【死黒】も黒専用スキルなので発動しない。その隙にHPを回復する。

 悪役の意味のヒールと回復の意味のヒールが合わさった魔法で、ドレイン効果になる。敵のHPを吸い取り、自分のHPを回復するのだ。

 イアは、スキルが発動しないことに動揺している。


「【首カラ吹キ出ス黒流血(エグゼキューショナー)】!」


 スキルがダメなら奥義でと考えたのだろう。【首カラ吹キ出ス黒流血】を唱えるが、こちらも当然発動しない。


「【極悪剣(インピアスソード)】!」


 ボスモンスター【ライオンエンマ】の腕すらぶった斬るスキルでイアを斬る。

 槍は両手持ちなので、片腕を失えば武器が使えなくなると考えたが、うまくはいかなかった。ダメージは与えたものの、それだけだ。

 ここでようやく、イアは黒のスキルが発動しないと気付いたようだ。

 攻撃手段を変えてくる。


「【六芒連槍(グノーランサー)】!」


 黒のスキルでなければ発動する。

 タゴサクもスキルで反撃するが。


「【流星衝(シューティングスター)】!」


 スキル発動中に、なんと剣が壊れた。耐久度の低い【金剛石(こんごうせき)(つるぎ)】が限界を超えたのだ。

 武器を失い、直撃を食らう。

 チャンスと見たイアは、さらに畳み掛けてくる。


「【七英連槍(ブレイブランサー)】!」

「【エクスクラメーション】!」


 命中率がすこぶる悪い【エクスクラメーション】は、今回も役に立たない。

 イアのスキル二発をまともに食らい、タゴサクのHPが危険水域に突入する。

 悪いことは続くもので、雪だるまが消えた。時間制限がある魔法だからだ。

 イアの色は元に戻り、黒のスキルも復活する。【儚キ者ノ回想録】の追撃が入るが、黒のスキルが復活してしまったのが痛い。

 とどめの奥義も放てるようになる。


「【復讐ノ憎悪ガ滾ル鬼(ネメシス)】!」


 発動の様子は【三途黒鬼(ステュクスオーガ)】に似ている。

 イアの体が、頭から爪先まで闇に覆われていく。復讐の女神ネメシスの闇だ。

 闇は、イアとタゴサク二人を侵食する。共に堕ち、染まろうとするかのように。

 ただでさえHPが減っていたのに奥義だ。このままいけば、HPが削り切られるのは必至である。

 切り札の一つを切らせてもらう。


「【堕天(フォールン)】!」


 起死回生を狙い、スキルでHP、SP、MPを全快させた。

 デメリットとして、モンスターを倒せば経験値が減少するスキルだが、今回が使いどころだ。リスクを背負ってでも勝たねばならない。

 全快させてもなお死にかけるが、死ななければよしだ。

 イアの奥義に耐え切れば、二つ目の切り札を切る。


「【再声(フェイクボイス)】!」


 使い道のないスキル【再声】は、事前に登録した声を再生する効果がある。

 事前登録した音声が、イアの耳元で囁かれる。

 タゴサクの声で、短く。


 ――イア、好きだ。


「ふへ?」

「【獅子ガ纏イシ死屍炎魔(ライオンエンマ)】!」


 イアが呆けている間に、ネコサクへと変身する。

 決着まではあと少しだ。こじれにこじれた関係を終わらせよう。

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