表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
52/139

五十二話 アイドルとトキヒメ

 女性三人が盛り上がっており、タゴサクは精神的ダメージを受けている。

 イアに謝りたいし、事情を説明したいが、この場にはいないので話せない。今頃はクエストを終わらせ、こちらに向かっているだろう。

 イアが戻ってきた時に謝ることとし、今はシンガーと男性同士で会話する。


「おかしな状況になりましたね。僕たちはクエストのためにきただけなのですが」

「うちの妹もノリノリになってしまって、すみません」

「こちらこそ。ユメのせいで状況をややこしくしてしまったようで、すみませんでした。マネージャーとして、僕がたしなめるべきでした」

「あれは俺が悪いので。ただ、ファン全員にあんな真似をしていると、勘違いして暴走する男もいませんか?」

「普段はあそこまでしません。おそらく、ファンではないと思って落ち込んだところへ、本当にファンだと知って嬉しくなったのでしょう。困ったものです」


 シンガーは肩をすくめ、首を横に振った。

 同じ仕草をしていた男性に覚えがある。かつて戦った眼帯男アキオーダックだ。

 シンガーは、アキオーダックとは比べるべくもない美形なので、同じ仕草でも印象がまるで違う。

 イケメンだから許されるのだな、とタゴサクは少し嫉妬した。

 はっきり言って、この容姿でマネージャーなどしているのが意外だ。シンガー自身が男性アイドルになっても通用するだろうに。


「ユメは極端なんですよね。愛嬌を振りまく時と振りまかない時で、差があり過ぎます。人気以前に、アイドルとしては未熟と言わざるを得ません。芸歴だけはそれなりに長いのに」

「シンガーに言われたくない。綺麗な女性には、いまだに色目を使うでしょ」


 女性同士で会話をしていたユメが、シンガーに反論した。


「昔の癖が抜けなくて」

「今は私のマネージャー。マネージャーが女性関係で問題を起こせば、私の醜聞にもなる。自重して」

「善処します」

「あの、昔の癖ってことは、シンガーさんもアイドルだったんですか?」


 不躾な質問をしたのはソーニャだ。タゴサクも気になっていたし、便乗して聞きたいと思った。


「僕は、アイドル歌手の卵だったというところですね。プレイヤー名がシンガーになっているのはそのためです。人気が出なくてとっくに引退しました」


 不躾な質問だったが、シンガーは微笑を浮かべて答えていた。

 この容姿で人気が出ないとは、芸能界は恐ろしいところだ。平均レベルより少しイケメン程度のタゴサクでは、到底勤まるまい。


「失礼なことを聞いてすみません」

「構いませんよ。実は、僕もソーニャさんにお聞きしたいことがありまして、だからこちらの事情を話したという下心があります」

「私に聞きたいこと?」

「SOSにはトキヒメという女性プレイヤーがいます。ご存知ですか? ソーニャさんに似ていらっしゃいますし、もしかして関係者かと思いまして」


 シンガーの口からトキヒメの名前が出るとは予想外だ。

 スクリーンショットが出回っているし、知っていてもおかしくないが。


「ユメは、トキヒメさんに会いたくてSOSを始めました。僕はユメの付き添いです。もしもトキヒメさんとお知り合いであれば、会わせていただけませんか?」

「あいにく知り合いじゃないんですよ。私に似てるのは他人の空似だと思います」

「残念です」

「残念。会いたかったのに」


 ユメは目に見えて落ち込んでいた。よほど会いたかったようだ。


「この際だし、タゴサク君にも話してみたら? あたしのクラスメイトだから、一応信用できる人だって保証するよ」

「一応は余計だって」

「ごめんごめん。さっきの修羅場を見ちゃうと、どうしてもね」

「うぐ……」

「自分の修羅場の次は、クラスメイトの修羅場を目撃するなんて思わなかったよ。あたしって修羅場に縁があるのかな」


 自虐的なジョークを口にするレンだが、タゴサクは精神への大ダメージ再びだ。

 自業自得とはいえ、レンの言葉はタゴサクの心をえぐることえぐること。


「修羅場はともかく、あたしたちより上の星に行ってるなら、トキヒメって人にも近いと思ったの。協力者は多い方がいいよ。タゴサク君たちも三人でコダってるんだし、協力プレイに肯定的でしょ?」

「まあな。ユメさん、よろしければお聞きします」

「うん……トキヒメさんは、多分私の恩人と同じ人だと思うの。数年前にトラブルがあって、私がアイドルをクビになりかけた時に庇ってくれた人。私を庇ったせいで、その人がクビになっちゃったの。お礼も謝罪もできなかったし、会いたいって思ってたら、このゲームのことを知って」

「で、始めたと?」

「うん。だから、会うことがあれば紹介してほしい。お願い」


 ユメは深々と頭を下げ、タゴサクに頼んでいた。

 表情は真剣そのものであり、気持ちが伝わってくる。


「僕からもお願いします。アイドルがSOSをプレイするのは、本来は褒められた行為ではないのですよ。基本的な容姿を変更できませんし、何が起きるか分かりません。それでも、外見を変えられるだけ変えることを条件に、事務所に許可を得ました。ユメはそれだけ会いたがっているのです」

「分かりました。紹介すると確約はできませんが、もし会えれば必ず」


 タゴサクやソーニャの理由とは違うが、トキヒメに会いたがっている人だ。同じ目的を持つ者同士、協力するのもいい。

 何気にトキヒメの情報も手に入った。

 ユメを庇ってクビになったのだから、トキヒメもアイドルだったのだ。あれだけの美少女だしおかしくない。自信家である点も納得だ。


 逆に、思い描いていた人物像とは異なる部分もあった。

 男性プレイヤーを下僕としか思っていないと聞いていたので、性格が悪いと考えていた。ユメを庇ったということは、意外といい人なのだろうか。

 あるいは、同性には優しいが、異性には厳しいとか。

 美少女であれば、嫌な経験をして男性不信になっているとも考えられる。


 推測の域は出ないが、ユメが慕っている人という部分は覚えておこう。

 タゴサクとソーニャは、三人と連絡先を交換し、別れた。

 シンガー、ユメ、レンの三人は、まだレベルが低くコモンステラで活動中だ。一緒に遊びはしないが、何かあれば連絡を取り合う。


「よかったわね。大好きなアイドルと知り合えるなんて、滅多にない幸運よ」

「代わりに、イアとの関係がな……最っ低とか大っ嫌いとか言われて……」

「どうするの?」

「いい機会だと思うことにする。イアとの関係にケリを着ける機会だ」


 タゴサクは、イアへの気持ちを曖昧にしている。本気で好きになり、本気でアプローチをかけた場合、一緒に遊べなくなるのが怖かった。

 SOSというゲームを通じて維持されている関係なので、イアがタゴサクの好意を迷惑だと思えば簡単に離れられる。パーティーを解消してもいいし、なんならSOS自体をやめたっていい。

 好きでもない男から好意を寄せられているのに、一緒に遊びはしない。遊んでも楽しくないし気まずいだけだ。

 だから、冗談の範疇に抑えたことしか言ってこなかった。


「態度を保留するのは、もうやめる。本気になる。結果がどうなるとしてもだ」

「つまり、本気で好きだって?」

「俺は結構前から本気だったぞ。本気だからこそ、本気になれなかった。まあ、俺が臆病だったって言われりゃ返す言葉もないが」

「そっか、お兄ちゃんとイアがね。自分の兄と親友が付き合うのは変な感覚だわ」

「付き合えるかどうかは分からないがな。フラれる可能性の方が高いと思ってる」

「フラれたら言ってね。傷心のお兄ちゃんを慰めるために、私のおっぱい揉ませてあげてもいいわよ」

「いらん」


 おっぱい星人のタゴサクにしては、きっぱりと拒否した。

 本気になる以上、イア以外の女性にデレデレするのはない。胸を触るなど言語道断だ。

 スケベな本性を変えられるわけではないが、言動には注意する。

 最低限、そこから始めなければ。


「真面目な顔してるけど、いつまで続くかしらね。ユメさんと付き合えるってなったらどうするの? 大好きなアイドルを自分だけの物にできるのよ?」

「そりゃ嬉しいぞ。学校の友達に自慢もできる。俺の彼女はアイドルだぜって。だが、イアが一番だ」


 好きなアイドルと好きな女性は、意味が違うと考える。

 無論、アイドルを恋人にするのは憧れる。仮にユメを恋人にできれば、この上なく優越感に浸れるに違いない。アイドルが自分だけの物になったと。

 ユメの人気はさほどでもないが、少数ながらファンもいる。これから人気が出る可能性もある。

 みんなが夢中になるアイドルがタゴサクの物なのだ。優越感は絶対にある。


 優越感に浸りたいがために恋人にするのは、恋愛的な意味で好きとは言わない。

 ユメという女性を好きになったなら、彼女を選ぶ。アイドルとの恋愛は茨の道だとしても、乗り越えようと思える。


 優越感が悪いのではなく、優越感と恋愛感情、どちらが先にくるかだ。

 ユメと付き合えば、アイドルと付き合っているという優越感が上になる。

 ステータスと言ってもいい。魅力的な女性を侍らせるのは、自分にそれだけの魅力があるという意味で、ステータスになる。

 タゴサクが好きになったのはイアだ。優越感やステータスよりも好きという気持ちが上になる。

 これでも本気だ。


「うん、本当に本気みたいね。中途半端な気持ちだったら反対してたけど、本気なら応援してあげる」

「サンキュー」


 決意も固まったところで、イアを待つ。

 戻ってきてくれないかもと思ったが、戻ってきてくれた。

 ただし、タゴサクの方を見ようとしない。


「イア」

「うるさいです。話しかけないでください」

「お願いだから俺の話を」

「聞いて欲しいんですか?」

「お願い」


 何度も話しかければ、タゴサクの顔を見てくれた。

 イアは笑っていない。かといって怒っている顔でもない。表情がなく能面のような顔だ。

 タゴサクは、無表情のイアから視線を逸らさず、じっと見つめる。少しでもこちらの気持ちが伝わるように。


「サクさんのお願いは分かりました。わたしの答えは」


 イアは少々間を置き、声高らかに唱える。


「【首カラ吹キ出ス黒流血(エグゼキューショナー)】!」


 返答は奥義だった。

 タゴサクの首がすぽーんと吹っ飛び、即死する。【テイヘーンの町Ⅱ】に死に戻りした。

 話を聞いてもらうのは難しいと思っていた。思っていたが、迷いなくPKするとは予想外だ。

 泉はフィールドになるので戦闘行為はできるし、当然PKもできる。

 にしても、ここまでするとは。


「前途多難だな、こりゃ」

「前途多難ね」

「ソーニャ? なんで?」

「私もイアにPKされた。お兄ちゃんと話してって言えば、問答無用で奥義よ」

「首を飛ばされた?」

「クールタイムがあるから連発できないでしょ。私は【正シキ者ハ死セヨ(インファーナル)】って奥義で殺されたの」

「俺の知らない奥義だな。物騒な名前だ」


 Infernalは英単語だ。

 意味は、地獄のような、悪魔のような、極悪非道な、という形容詞になる。


「いわゆる即死攻撃よ。術者よりも低レベルの相手を即死させるの。レベルで判定するからモンスターには効果がなくて、プレイヤー限定ね。あとは色も関係してるわ。黒や鈍色のプレイヤーには通じなかったはずよ」

「橙色のソーニャには通じるって?」

「明るいイメージの色に効くの。赤とか橙とか白とかね。正しき者は死せよって書いてインファーナルって読むの」

「久しぶりに言わせてもらうが、なんつうゲームだ。なんつう名前の奥義だ」

「奥義も物騒だけど、イアも物騒よ。私まで容赦なくPKするんだもの。昔さ、冗談めかして暗黒面に堕ちるとかなんとか言ってたけど、まさにそれ。暗黒面に堕ちた美少女の完成ね。あの子、ヤンデレの素質あるわ」

「シャレになってねえ……」


 これは、今日明日でどうにかできる問題ではなさそうだ。

 イアはマジのガチでぶち切れているし、多少なりとも落ち着くまで待たなければ話どころではない。


「ごめんな。俺のせいで、ソーニャとイアまで喧嘩したみたいになってる」

「男を取り合って女の友情が壊れるとか、よくある話よね。私がお兄ちゃんを取ろうとしてるわけじゃないけど」

「俺のために争うのはやめてくれ! とか? こういうのって、美少女のセリフの気もするが」


 冗談を言っても気は紛れない。三人の関係がこじれまくっている。


「私のことは気にしないでいいわよ。イアを嫌いになったりしないし、この程度で壊れる友情でもないと思ってる。お兄ちゃんはイアと話し合うことを考えて」

「お前、頼りになるなあ。男前だ」

「いい女って言いなさい」

「いい女だ。イアの次にな」

「よろしい。今日はログアウトする? ゲーム続けても、なんにもできないし」


 タゴサクとソーニャは【テイヘーンの町Ⅱ】でログアウトした。

 明日以降、どうなるかは不明だが、なんとかするしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ