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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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四十六話 名前の由来

「【首カラ吹キ出ス黒流血(エグゼキューショナー)】!」


 イアが奥義を放った。暗いので見えないが、タゴサクを狙ってくれたはずだ。

 罪人の首を刈り取る処刑人の一撃。

 その性質上、攻撃されるのは首と決まっている。すなわち、首さえ守れば即死は避けられる。

 両腕で自分の首をガードすれば、豆腐のように軽々と斬り裂かれた。

 が、首はかろうじて無事だ。両腕を失ったものの、まだ生きている。

 生きているのも、両腕を失ったのも計算通りだ。


 イアに攻撃させたのは、スキルを使うためだった。

 奥義を放ち終えたイアが松明を灯してくれ、女神の姿も見えるようになる。

 女神に向けて即座にスキルを放つ。


「【敗者の競演(ルーズルーズ)】!」


 これは、自身の状態異常を敵にも付与するスキルだ。

 四肢が欠損した場合は、「右腕欠損」のような状態異常になる。扱いとしては毒などと同じだ。

 だから、両腕を失っているタゴサクが使えば、女神の両腕も失われるはずだ。

 自分で自分の腕を斬り落としてもスキルは効果を発しないため、誰かにやってもらう必要がある。

 状態異常攻撃を多用するモンスター相手に使えば効果的だ。モンスターは、自分の状態異常攻撃で自分が苦しむ羽目になる。


 一方だけが痛みや苦しみを味わうのは許さない。

 苦楽を共にするのではなく、苦のみを共有する。

 死なばもろとも。勝者不在の不毛な争い。

 ゆえに、【敗者の競演】である。SOSらしいスキルと言えよう。


 自分が一番を目指す以上、他人が得をするのは絶対に認めない。他人に得をさせるくらいなら、一緒に損をする方がマシだ。

 ウィンウィンの関係など目指さない。理想は自分が勝ち相手が負けることで、次善策が共に負けるルーズルーズだ。

 このゲームは本当におかしい。


 おかしい奥義に頼るタゴサクには、SOSを悪く言う資格はないが。

 スキルは命中し、女神は予想通り両腕を失った。

 両腕を失えば、十本の指による攻撃もやむ。大チャンス到来だ。

 とはいえ、攻撃できないのはタゴサクも同様だ。松明を持っているイアも、槍が使えないので難しい。

 まともに戦えるのはソーニャだけになる。


「私のSPやMPも残り少ないんだけど!」

「なんとか頑張れ!」

「なんとかって……ああもう! 【ライジングサン】!」


 半ばやけくそになって、ソーニャは魔法での攻撃を開始した。

 無論、女神も黙って負けてはくれない。両腕を失おうとも反撃する。


「【神罰(ジャッジメント)】!」


 旭日の光と神罰の光が衝突した。威力は女神の方が上らしく、余波でソーニャのHPが削られる。


「く……【ライトアロー】!」


 ジャパンステラで購入した光の矢の魔法だ。

 ただし、これは弱い。コモンステラで売っているなら分かるが、ジャパンステラにしては不自然な弱さだ。一発ではたいしたダメージを与えられない。

 代わりに、ちょっとした特殊効果がある。

 光の矢は女神に向かって行かず、ソーニャの傍にとどまっている。


「【ディバイン】!」


 単体では弱い【ライトアロー】は、別の魔法と組み合わせることが可能だ。

 神聖な光の魔法の【ディバイン】と合わせれば、一筋の巨大な光となる。


「【ディバインアロー】!」


 神聖な矢が女神の顔面に突き刺さった。


「やった!?」

「ソーニャちゃん、それはフラグだよ……」


 確かに、「やったか?」のようなセリフを口にして、実際に倒す展開はほとんどない。

 今回も例外ではなく、女神は死んでいなかった。


「【神罰】!」

「ラ、【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 ソーニャは、タゴサクも愛用する奥義【全テヲ滅スル光】で防いだものの。


「まず……MPが……」


 今の奥義でMPがほぼ尽きたようだ。アイテムで回復しようとしている。

 回復したとして、倒し切れるか怪しいところだ。

 どうもタゴサクが犠牲にならないとダメらしい。


「しゃあない。骨は拾ってくれよ」

「お兄ちゃん?」


 両腕がないとバランスが取りにくく走り辛いが、懸命に走って女神に接近する。


「一緒に死のうぜ、女神様よ! 【シールドロック】!」


 魔法により女神の動きを封じた。

 同時にタゴサクも動けなくなる。両者共に身動きが取れなくなる魔法だからだ。

 タゴサクは攻撃できず、女神もできない。睨み合うようにして不動となる。

 状態異常を付与する【敗者の競演】といい、お互いに不利になる技ばかりだ。


「やれ!」

「お兄ちゃんのくせに格好つけて! 【虹ノ二番ハ橙々キ雨(レイニーボウ)】!」

「サクさんの死は無駄にしません! 【地獄ニ誘イシ千手乙女(メイデン)】!」


 ソーニャとイア、二人の奥義が、タゴサクもろとも女神を呑み込んだ。

 タゴサクが二発の奥義に耐えられるわけもない。

 一人で【空中都市アオゾラ】に死に戻りした。

 激戦の疲れから、自然とため息が漏れる。


「ソーニャとイアは勝ったかどうか。これで負けてりゃ、俺は無駄死にだな」


 独りごちつつ、死んだ時に失った物を確認する。

 被害は多少の金と回復アイテムで済んだ。

 レアステラでは、ミディーリに負けてせっかくのスキル習得アイテムを失った。あの時に比べればたいした被害ではない。


 確認が終わったところで、ふと時間を見れば、深夜零時を過ぎていた。

 明日は学校があるので、とっくにログアウトしていなければならない時間だ。夢中になって遊び過ぎた。

 二人には悪いが、先にログアウトさせてもらうことにする。

 ログアウトする旨のメッセージを送っておけばいいだろう。女神との戦闘結果などは、明日聞かせてもらう。





「おぁよぉ」


 水曜日の朝、眠そうに眼をこすりながら双那(そうな)が起きてきた。

 パジャマは着崩れているし、髪の毛はぼさぼさだ。年頃の女の子にあるまじき姿である。

 既に制服を着て登校準備を終え、リビングでのんびりしている(そら)とは大違いだ。


「だらしないな。シャキッとしろよ」

「だって眠いもん。お兄ちゃんは眠くないの? 昨夜はあんなに激しかったのに」

「言い方をなんとかしろ!」


 両親もいるのに、誤解を与えそうなセリフだった。

 実の兄妹が不健全な行為に及んでいると思われては敵わない。いくら子供に甘い両親とはいえ、絶対に許してくれない。


「念のために言っとくと、ゲームしてただけだから。ゲームで戦闘があって、激しかったって意味」

「なるほど」

「ビックリしたわ」


 両親に弁明すれば信じてもらえた。疑われずに済んで助かった。


「変なことじゃないならいい。にしても、ゲームはそこまで楽しいのか?」

「楽しいよ。変な部分もあるが、色んな楽しみ方があるゲームなんだ」

「私、可愛い服を買ったの。現実じゃ着ないような藍染(あいぞめ)の和装でね」

「藍染?」


 父は妙な部分に反応した。


「欲しいなら買うか? お小遣いが必要なら渡そう」


 藍染に何かあるのかと思ったが、すぐに普段通りの会話になった。

 双那の服を買うと言い出すあたり、父は今日も甘い。値段を調べもせず即決だ。

 他の家庭でも、男親は娘に甘いものだと思う。その分、母が厳しくしてバランスを取る気もするが、御堂(みどう)家ではどちらも甘い。


「いいわね。双那の和装は似合いそう。お母さんとおそろいにして出かけない?」

「出かけるのはいいけど、服はいらないわよ。普段から着られる服でもないだろうし、持て余すわ。ゲームで着られれば十分よ」

「双那だけずるい。お母さんも着たい」

「お母さんこそ、買って着ればいいじゃない」

「恥ずかしいのよ。和装って、品のあるマダムしか似合わないもの。双那と一緒なら恥ずかしくないのに」

「お母さんは品があるわよ」

「まあっ! なんていい子なの!」


 双那の褒め言葉に気をよくした母は、娘を抱き締めて頭を撫でる。

 それを優しく見守るのは父と兄だ。

 温かくて優しい、絵に描いたような理想の家族であろう。

 母の抱擁が終わり、双那も席に着いて朝食を食べ始める。

 食べながら話すのはSOSのことだ。


「RPGなのに、防御力が全然なくて可愛いだけの服があってね。私が着てるのはそれ。一目見て気に入っちゃった。ボロボロになったけど、修繕してまた着るつもりなの」

「意外と似合ってるよな。イアも似合いそうだし、見てみたいが」

「イア? 三人で遊んでると言ってたが、双那の友達か?」

「うん。木野蔵(きのくら)藍子(あいこ)って名前で、私と同じ高校の同級生なの。クラスは違うけど一番の友達よ」

「……アイコ?」

「藍色の子供で藍子。可愛い名前よね。本人も美少女で、お兄ちゃんなんかいっつもデレデレしてるの」

「藍子か」


 父は、双那の後半のセリフには突っ込まず、藍子の名前に反応した。

 藍染に続いて藍子。両者の共通点は藍だ。


「藍色になんかあるの?」

「いや……たいしたことじゃない。昔、双那の名前を決める時、藍那(あいな)も候補になっていたんだ」

「へえ。俺の名前と関連性を持たせようとしたとか?」


 空色と藍色。いかにも兄妹らしい名前だ。


「そんなところだ」

「双那って名前も気に入ってるけど、藍那も可愛いわね。藍那にしなかったのはなんで? ソウナにするとしても、漢字を変えて蒼那(そうな)って手もあったでしょ? くさかんむりに倉って書く蒼。空と蒼那なら兄妹っぽいのに」

「その……画数がな」

「ふうん」


 父の言葉は歯切れが悪かった。隠し事でもあるような雰囲気だ。

 双那はそれ以上突っ込む気はないのか、名前の話題を切り上げた。

 空も深く聞かないことにしたが、妙に気になってしまう。

 これまで、双那の名前の由来を深く考えたことはなかった。

 今の会話を聞くと疑問に思う。双の文字は、少々おかしくないかと。


 兄の名前が空だ。妹の名前にふさわしいのは、双那よりも藍那や蒼那であろう。

 二文字にこだわらず、一文字にしてもいい。(あい)でも(あおい)でもありだ。

 SOSを始める前であればスルーしていた。

 今はある人物の存在を知っている。SOSの世界にいる双那のそっくりさん、トキヒメの存在を。

 他人の空似ではなく、双那の双子の姉妹だとは考えられないか。何かしらの事情があって別々に暮らしているが、両親は双子の分まで込めて双那にしたと。


 双那の双の文字には、二人分の命という意味が込められている。

 突拍子もない想像をして、あり得ないと考え直す。

 別々に暮らす理由がない。御堂家は裕福なのだから、子供が何人いようと問題なく養える。子煩悩な両親が養子に出すとも思えない。


 それに、空の推測が正しいなら不自然な点もある。

 空は法律に詳しくないが、子供の名前を届け出るのは出生後割とすぐのはずだ。

 届け出る時点で双那にしたなら、産まれた直後に別れたり養子に出したりしていることになる。

 行動があまりにも早い。不可能ではないが、時間的にかなり無理がある。

 やはり考え過ぎだ。トキヒメは他人の空似で、双那の名前にも深い意味はない。


「以前の記事の続きが掲載されていた」


 双那の名前について、つまらない妄想をしていれば、父が唐突に言った。


「脳に負荷がかかって健康被害が生じるという記事だ。新しい研究結果が次々と発表されている」

「やっぱり危険だって?」

「そうだな。一昔前ならともかく、今の時代にVR技術は不可欠だ。車などと同じで、事故が起きると分かっていても根絶はできない。利点も欠点も含めて人類は受け入れなければならない」

「人類って大げさな」

「大げさじゃない。科学技術の発展は、生活の利便性を向上させるが、落とし穴も数多くある。だからこそ慎重にもなるし、研究者は研究する。日本だけではなく世界中でな」


 父がやけに真剣に語るので、空も双那も真剣に聞く。


「あまり口うるさく注意するのは好きじゃない。二人とも、甘やかされてきた割には真っ直ぐに育ってくれたし、口うるさく言う必要も少ないと思っている」


 父にも甘やかしているという自覚はあったらしい。自覚しているなら、双那の服を簡単に買い与えなければいいのに。


「俺もお母さんも、空と双那を愛している。二人にはこのまま元気に育ってもらいたい。親より先に死ぬのは一番親不孝だぞ。真っ直ぐに育ったいい子でも、親より先に死ぬのはダメだ。健康被害問題が深刻化しそうな場合はゲームをやめさせる。そのつもりでいなさい」


 死ぬだのなんだのは、いくらなんでも大げさだ。

 とは反論できなかった。父があまりにも真剣な顔をしているためだ。

 今すぐにゲームをやめさせるとは言われなかったし、これからも続けるが、父の気持ちは受け取っておく。健康被害の話も覚えておこう。

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