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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第3章 ジャパンステラ
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四十四話 隠し通路の先には

 途中で夕飯を食べるための休憩を挟み、ダンジョン探索を行う。

 実入りはかなりいい。モンスターの経験値やドロップアイテム、宝箱から入手できるアイテム、プレイヤーをPKして奪える金やアイテムと、面白いほどよく稼げる。ソーニャもホクホク顔だ。


「喜んでるところになんだが、何人PKした? 恨まれそうで怖い」

「まだ四人よ。私が二人でイアも二人。お兄ちゃんだけゼロ。私たちにだけ手を汚させるとか、お兄ちゃんは鬼畜よね」

「PKを拒否してるわけじゃないぞ。つうか、拒否してるわけじゃないが、よくよく考えると一度もPKしてない気がする」

「だからゼロよね」

「今日だけじゃなく、SOSを始めてからずっとだ」


 プレイヤーとは何度も戦っているが、大抵は負けた。勝った時も、とどめを刺したのはソーニャやイアだったりする。

 レアステラでは試合をしたが、あの時はデスペナルティがなかった。勝っても相手の金やアイテムを奪えず、本来の意味でのPKとは少々異なる。


「つまり、私たちに汚れ仕事をやらせて、自分の手は汚さずに高みの見物?」

「結果だけ見ると正しいが、言い方に悪意を感じるな。そこまで言うなら次は俺がPKする」

「待ってください。どうせなら、このままでいきませんか?」


 イアが奇妙なことを言い出した。

 このままとは、タゴサクが今後もPKせず、ソーニャとイアにやらせるという意味だろうか。


「PK前提のSOSで、PKを一切しないプレイヤーってまずいませんよ。必ず経験するものです。ゲームを始めたばかりの初心者ならまだしも、サクさんは一ヶ月以上遊んでいてジャパンステラまできているのに、PK経験がないんですよね。こんなの、ひょっとしたらSOSで唯一ですよ」

「唯一だからどうした?」

「何かあるかもしれないって思ったんです。PK経験がない、もしくは極端に少ないプレイヤーだけが受けられる特別なクエストとか」

「あるか? あるとは思えないが」


 SOSは他人を蹴落として一番を目指すゲームだ。

 自分が一番になるためには、PKも日常茶飯事だ。

 他のプレイヤーなど、自分が成り上がるための踏み台でしかない。

 イアが言っているのは、ゲームの趣旨に沿って行動するプレイヤーが損をする展開になる。

 そんなものを実装すれば大顰蹙(ひんしゅく)だ。苦情が殺到するに違いない。


「SOSは性格悪い展開も多いし、なんでもありでしょ? イアの言うこともあるかもよ。私は鋭い意見だって思ったわ」

「なんでもありに思えて、一定の方向性は保ってるぞ。ソロ前提、PK前提、他人を蹴落とすこと前提ってな。前提を崩す展開はなさそうだが」

「そう言われると、お兄ちゃんが正しい気もしてくるわね」

「だろ? 第一、PKの回数は取り返しがつかない。ゼロが一になれば、二度とゼロには戻らないんだ。戻したければキャラクターを作り直すしかないが、育て上げたキャラクターは軽々しく削除できないしな」


 取り返しのつかない数値を基準にした展開があるかと考えれば、なさそうだ。

 PKした回数とPKされた回数を比較して、どちらが多いかによりストーリーが分岐する。

 これならありそうに思うが、PK数がゼロだからといって特別にはなるまい。


「わたしのはただの予想ですから、サクさんが決めてくれればいいんですけど、少しもったいないかなって気がします」


 もったいないと言っているイアの気持ちも理解できる。

 とりあえずは保留だ。意識してPKを避ける気はないが、進んでPKもしない。

 PKをせずとも、金はモンスターから、アイテムはダンジョンの宝箱から入手すればいい。

 ダンジョンを探索していれば、袋小路になっている通路で宝箱を発見した。


「宝箱見っけ! 次は順番的に私よね!」


 宝箱を発見した場合は、変に揉めないよう、三人が順番に開ける取り決めにしてある。中身がしょぼくても文句は言わない。運が悪かったと思って諦める。

 今はソーニャの番だが。


「待った。あれは多分罠だ」


 タゴサクは、嬉々として駆け寄ろうとするソーニャを止めた。


「なんで罠だって分かるの?」

「これまでの宝箱と見た目が違う。ほんの少し色が濃い」

「イア、分かる?」

「違うような気もするし、違わないような気も……並べて見比べれば分かると思うけど、別々に見せられたらサクさんみたいに断言できないよ」

「お兄ちゃんの言う通り違うとしても、罠じゃなくて中身がおいしい特別な宝箱って可能性は?」

「ないとは言い切れないし、開けたきゃ開ければいい」

「じゃあ、開ける。罠だったら罠だった時よ」


 ソーニャは即決した。

 決断力があると褒めるべきか、欲深い妹だと嘆くべきか悩む。

 警戒しつつソーニャが宝箱を開ければ。


 ちゅどがーんっ!

 っと、轟音と共に大爆発が巻き起こった。タゴサクやイアには被害が及んでいないが、ソーニャはモロに食らった。


「ほら、罠だった」

「ドヤ顔してどうするんですか! ソーニャちゃん、大丈夫!?」


 イアは心配しているが、爆発の煙が晴れれば無事なソーニャが姿を見せた。

 即死する罠ではなかったようだ。

 死ななかった代わりに、買ったばかりの服がボロボロになっている。


「私の服が……」

「エロいな。脱げかけの和装って妙にエロい」


 ちょっとしたラッキースケベだ。タゴサクの待ち望んだ展開が訪れた。

 ソーニャよりもイアの方がよかったが、この際贅沢は言うまい。


「冷静に変態発言しないでよ! 装備変えるから、お兄ちゃんは目を閉じてて!」

「裸になるわけでもなし、何を恥ずかしがってんだ?」

「いいから!」


 ソーニャに怒られてしまったので、素直に目を閉じる。

 半開きにして覗き見る真似はしない。バレたらもっと怒られてしまう。


「もういいわよ」


 目を開けると、ソーニャはレアステラで装備していた鎧姿になっていた。


「気に入ってたのに……町に戻ったら修理しなきゃ」

「俺も、無骨な鎧より色っぽい和装の方が好きだな」

「お兄ちゃんを喜ばせるために着てるんじゃないんだけど」

「サクさんが喜ぶのは、可愛い服よりもエッチな服ですよね。裸が一番じゃないんですか?」

「スケベ」


 二人の意見もあながち間違っていないが、少し誤解している。


「やれやれ、分かっちゃいないな。裸はもちろん嬉しいが、恥じらいもなく全裸になられたって魅力半減だ。恥じらいを忘れた女性は、下品なだけでエロくない。俺は下品な女性よりも上品な女性が好きだ。下品とエロいの境界線は曖昧で、下品にまでは届かず、でもエロいと最高だ。現実でソーニャが俺の部屋にくる時も、全裸だとかえって困る。全裸よりは、下着の上から大きめのシャツを一枚羽織って、胸元が大きく開いてるとか太ももが見えてるとか頑張ればパンツも見えそうとか、そういうチラリズムが興奮するわけで、服の下を妄想したり隙間から手を突っ込んで胸をまさぐりたいと思ったり……」


 タゴサクが己の性癖を熱く語り出せば、ソーニャとイアは無言で歩き出そうとする。突っ込みを入れてすらもらえない。


「移動するのは早いぞ。まだやることが残ってる」

「どうせスケベなことなんでしょ? 付き合ってられないわよ」

「サクさんは、たまーに真面目になるので見直しても、すぐにエッチになるから幻滅するんですよね。男の人ですし、エッチなのは仕方ないと思いますけど、行き過ぎはダメですよ」

「今度は真面目な方だ。爆発した宝箱があった床に、何か仕掛けがあるっぽい」


 二重の仕掛けになっているわけだ。

 宝箱を発見し、喜び勇んで開ければ爆発する。してやられたと後悔し、即座に立ち去れば気付かないが、実は宝箱が置かれていた場所にもう一つの仕掛けがある。


「罠に引っかかって探索を怠れば、仕掛けに気付かないって展開ですか。つまり、いいことが起きるかも? 本物の宝箱があるとかですかね?」

「また爆発するんじゃないの? 私は懲りたし手を出さないわ。さっきので宝箱を開けたことにするから、私の順番は終わりでいいわよ」

「俺がやるよ」


 爆発した宝箱の下にある仕掛けなど、普通は気付きにくい。

 気付いたプレイヤーは、イアのようにいいことがあると考える。

 そこで、再び爆発だ。絶望を味わうこと間違いなしである。

 SOSは、底意地の悪い展開を実際にやらかすゲームだ。タゴサクも身に染みて理解している。

 プレイヤーにとって都合のいい展開になるか悪い展開になるかは半々だろう。


 緊張しながら床を踏む。

 すると、行き止まりになっていた壁が動いた。狭い通路が続いている。

 タゴサクを害する罠は発動しないし、どうやらアタリのようだ。


「お兄ちゃんは、珍しくお手柄ね」

「何があるんでしょうか? 行ってみましょう!」


 三人で隠し通路に足を踏み入れれば、後方で壁が閉じ、後戻りできなくなった。

 しかも、壁が閉じれば通路が暗くなる。

 コモンステラで体験した暗いダンジョンみたいだ。自分の足元すら見えない真っ暗闇である。


「俺はアイテムを持ってないんだが。空中ダンジョンが暗いって情報はなかったから、何も準備してない」

「わたしが持ってます。コモンステラで使ったやつの残りですけど、ここで役に立つとは思いませんでした」


 イアが松明を使ってくれた。こちらもコモンステラのダンジョンと同じだ。


「戦力バランス的には、サクさんに松明を持ってもらいたいところですけど」

「私とイアが戦って、お兄ちゃんは斥候の役目になってもらうのが一番よね。渡せないの?」

「できないよ。アイテムの譲渡ができない仕様なのに、実体化すれば渡せると意味ないよね。松明もポーションの類も、武器も防具も、全部他のプレイヤーには渡せないの」

「俺に松明を譲渡してもらうほどの場面じゃないか」


 金やアイテムの譲渡はしないとルールを課している。例外措置にすべきほどの状況ではないと判断した。

 イアには明かり役となってもらう。

 片手が塞がれば戦い辛いので、モンスターが出現すればタゴサクとイアで対処する。罠の警戒も怠らない。

 鬼が出るか蛇が出るか。一抹の不安はあるが、楽しみだ。

 狭い通路をゆっくりと進んで行く。


「マップには居場所が表示されていませんね。秘密の通路って感じがします」


 ダンジョンでは、簡略化された地図を確認できる。自分が探索した場所が表示されるため、地図を見ていれば広いダンジョンでも迷わない。

 イアが言うには、この通路は表示されていないとのことだ。

 ますます楽しみだ。


 RPGのお約束として、隠し通路の先にある物は大体決まっている。

 レアアイテムがあるか、隠しボスがいるか。ダンジョン最奥へのショートカットとも考えられる。

 不思議とモンスターは出現せず、罠もない。ゆったりペースではあるが、着実に前へ進む。


「宝箱があった場合、俺がもらっていいよな? ソーニャは終わりっつったし、順番は俺になる」

「終わりって言わなきゃよかったわ。でも、一度言っちゃったし、お兄ちゃんでいいわよ」

「わたしも構いません。二つあれば独占しないでくださいね。サクさんとわたしで一つずつですよ。三つあるのが理想ですよね」


 取らぬ狸の皮算用ではあるが、宝箱の分配を決めつつ通路を進む。

 どれだけ進んだだろう。狭い通路が終わり、開けた場所に出る。

 十メートル四方ほどの四角い部屋だ。ここも暗いが、松明の明かりが届く広さになっているおかげで、部屋全体が見渡せる。

 部屋の中には奇妙な機械が設置されている。何に使う物か不明だが、イメージは遺跡のコントロールルームだ。


「あれって触っても大丈夫だと思うか?」

「ここまできて、何もしないのは変でしょ」

「ソーニャちゃん、格好いい。勇気あるね」

「毒を食らわば皿までだな」

「サクさんが言うと、思慮が浅くて考えなしな発言に聞こえる不思議です」

「一度、イアに分からせる必要があるな。俺とじっくり話でもしよう」

「お兄ちゃんが言うと、ベッドの上での肉体言語って聞こえる不思議よね」

「妹よ、お前もか」


 じゃれ合いもほどほどにして、機械をいじってみる。

 液晶パネルはあるが、何も表示されていない。

 分かりやすいことに、いかにも起動スイッチですよと自己主張するボタンもあるので、ポチッと。


「ホログラム?」


 現れたのは、半透明の美しい女性だった。

 胸の辺りより上だけがあり、腹部より下はない。目を閉じ、胸の前で十本の指を絡める姿は、何かに祈っているように見える。

 サイズはかなり大きく、両腕を広げれば部屋の端から端に届きそうだ。


「これって、入口にあった女性像に似てない? 噴水に設置されてたやつ」

「関連性があるのかもな。この先の展開が楽しみだ」


 タゴサクだけではなく、ソーニャやイアも期待している。

 三人が見守る中で、ホログラムの女性の両目が開かれた。

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