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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第2章 レアステラ
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三十二話 亡者の怨念

 選考会当日になる。

 午後一時、タゴサクは【港町ゲン】にある選考会の会場に足を運んだ。

 待機部屋では、出場者だと思われるプレイヤーが十数人、椅子に座っている。誰もが無言だ。

 中には見知った顔もある。


「あんたも参加するのか? 強さ的に、とっくに上の星へ行ってるかと思ってた」


 タゴサクが二度PKされた二刀流男だ。

 レベル的には、ゴブリンの王を倒してチケットを入手できる。選考会に参加するのは意外だ。


「馴れ馴れしく話しかけてくるな。コダるのは禁止だ」

「知り合いを見かけて話すのもダメなのか?」

「コダっていると判断されかねないからダメだな。何より、今から選考会なんだ。参加者同士が知り合いとなると、結果が出来レースだと思われるかもしれない」

「ないとは言い切れないのがSOSだよな。俺が悪かった」


 タゴサクは謝罪し、話を切り上げた。大人しく座って待つことにする。

 一人でじっとしていると緊張してきた。こういう時、ソーニャやイアがいてくれればと思う。雑談をして気を紛らわせられる相手が欲しい。


 落ち着きなく周囲を見渡すと、他のプレイヤーたちが強く見える。

 昨夜のレベリングの結果、タゴサクはレベル88になった。

 選考会に出場するにしては低いだろう。勝ち抜けるか不安だ。

 ドキドキしながら待っているとNPCが登場し、選考会の説明をしてくれる。


 変わった部分はなく、普通のトーナメント形式だ。

 プレイヤーが一対一で戦い、負ければリタイアになる。最後まで勝ち残った一人が代表者だ。

 この戦闘で負けても死んだ扱いにはならず、金やアイテムを失わない。戦闘終了後にはHP、SP、MPが全快するという至れり尽くせりな仕様になっている。


 プレイヤーたちが待機部屋から試合場に移動する。戦うには十分な広さを持つ部屋が複数あり、同時に何試合も進行する流れだ。

 公平を期すためか、他のプレイヤーの戦いは見られない。

 タゴサクの対戦相手も決まり、二人だけが残る。相手は二刀流男だ。


「因縁の対決ってところか。俺が一方的に思ってるだけかもしれんが」


 タゴサクにとっては二度もPKされた相手になるが、二刀流男からすれば数多くPKしてきたうちの一人に過ぎない。


「一回戦が弱い相手で助かった。運がいい」

「勝ってから言えよ。確かに二度負けてるが、今日は俺が勝つ」

「雑魚がほざくな」


 二人で向かい合って立ち、火花を散らす。

 電光板には数字が点灯しており、減っていっている。ゼロになれば開始だ。

 タゴサクは頭をフル回転させ、戦いの進め方を考える。

 相手は何を考えるか。タゴサクはどうやって対処すべきか。

 様々な状況を想定し、シミュレートする。


 二刀流男はタゴサクを弱いと思っているし、事実弱い。

 タゴサクを舐めている相手はどうするだろう。

 雑魚を軽く蹴散らしてやろうと考え、のっけから奥義をぶっ放して全力で攻めてくる。

 十分にあり得るが、失敗した時のリスクが大きいやり方だ。


 二刀流男は一か八かの賭けに出る必要などない。タゴサクの出方をうかがってから、手堅く確実に戦うのではなかろうか。

 そうやって動くと仮定すれば、タゴサクの戦い方もおのずと決まる。

 考えもまとまったし、時間はまだ一分ほどある。戦う前に一つ聞いておこう。


「名前を教えてもらっていいか? 俺はタゴサクだ」

「ダサい名前だ。いかにも雑魚という名前でふさわしいな。俺はリュウキオウ」

「リュウキオウね。そっちは格好いいな。マンガの主人公みたいだ」

「雑魚に褒められても嬉しくないな」


 タゴサクとリュウキオウが話しているうちに、残り十秒を切った。

 減っていく数字を見つめつつ、心の中でカウントダウンをする。

 三、二、一。


「【孤独な剣士(ロンリーセイバー)】!」


 最初はスキルでステータスアップだ。

 予想通り、リュウキオウはまだ動かない。おかげできっちり発動した。

 ダンジョンでも使おうとしたし、タゴサクが【孤独な剣士】を使えることは知っているはずなのに動かない。

 ステータスをアップされても自分の方が強いと確証を得ているからか。

 リュウキオウの考えは知らないが、余裕綽々に振る舞ってくれるならどんどん攻める。


「【ミラージュカッター】!」

「【氷譜(コールドスコア)】!」


 今度はさすがに反応した。

 幻影の刃は、宙を舞う氷の五線譜に当たっても素通りする。逆に、実の刃は氷を砕く。

 一発で見破る効果的な方法だ。咄嗟に考えたとすれば見事である。

 でかい口を叩くだけあり、リュウキオウは強い。タゴサクの魔法を回避し、接近してくる。


「【スカイバード】!」


 アキオーダックも使っていた空色の巨鳥を降らせる魔法だ。

 接近されてしまえば不利になる。リュウキオウの【舞踏剣(ソードダンス)】や【舞嵐剣(ソードストーム)】は、タゴサクには脅威だ。

 よって、遠距離から魔法を中心に戦う。


「【アイシクルアイズ】!」


 巨鳥が降り氷柱が降り、なのにリュウキオウは止まらない。


「【舞嵐剣】!」

「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 リュウキオウのスキルとタゴサクの奥義が衝突した。

 ダンスを踊るかのごとく動くスキルだ。奥義をぶっ放して動きを止めれば防げると考えた。

 うまくいってくれたようで、【舞嵐剣】はタゴサクにダメージを与えることなく終わる。チャンスだ。


「【全力(パワー)】!」


 タゴサクのスキルがリュウキオウを捉えた。

 コモンステラで最初に覚えたスキルは、熟練度を最大にしてすらたいした威力ではない。ぶっちゃけるなら弱い。


「【全力】!」


 だが、クールタイムがほとんどなく連発できる。発動も早く阻害されにくい。

 タゴサクが最も頼りにしているスキルと言っても過言ではない。


「【全力】!」

「【青旋律(ブルーメロディ)】!」


 三発目はリュウキオウのスキルで押し返されたが、こちらも別のスキルでお返しだ。


「【新鮮な死体落とし(フレッシュドロップ)】!」

「【双戟(ツインインパクト)】!」

「【バースト】!」

「【ウォーターウェーブ】!」


 お互いの攻撃が激しくぶつかり合う。

 優勢なのはリュウキオウだ。ステータスをアップさせても追いついていない。

 しかし、余裕綽々ではなくなっている。表情は必死だし、本気だ。

 となると、次にくるのは。


「【永劫ノ誓断ヲ求メシ赤(エタニティレッド)】!」

「【リトルカウンター】!」


 そろそろ奥義を使ってきそうだと考えたが、ドンピシャだ。

 赤く燃える二本の剣を交差させ斬り裂く攻撃を、【リトルカウンター】で反射した。タゴサク自身が驚くほど完璧なタイミングで、リュウキオウに反射ダメージを与える。

 これまで使っていたスキルや魔法からして、リュウキオウの色は青だと考えていたが、赤の奥義を使ったのは意外だ。

 思考にふける余裕はない。次の攻撃を食らう前に仕留める。


「【邪なる乱斬り(イーヴィルエッジ)】!」


 防御を捨てた連撃で斬り刻む。

 ゲームだから痛みはないのに、リュウキオウの顔は苦痛に歪んでいる。格下に押される精神的な苦痛かもしれない。

 効いているという実感があるが、惜しくもスキルが終わってしまう。

 だからといって、タゴサクの攻撃が終わったわけではない。まだまだ手はある。


「【生者ヲ悼ム詩(ラブソング)】!」

「【悠久ノ誓盟ヲ追イシ青(エタニティブルー)】!」


 奥義の発動は、タゴサクがわずかに先だった。

 リュウキオウの二本の剣は、今度は青く凍りつくが、タゴサクの奥義により出現したモノにぶつかる。

 女性を模したモノに。


 顔には目隠しと猿ぐつわ、手足や胴体には拘束具。

 髪は生命力を失い白く枯れ、肌は鈍色でひび割れている。

 不謹慎な表現になるが、激しい拷問の末に人間から化け物へと変質してしまったような女性だ。

 猿ぐつわがはらりとほどければ、口が裂けてこの世のものとは思えない歌声が発せられる。魂を破壊するおどろおどろしい歌だ。


 悼むとは、お悼み申し上げますという言葉もあるように、人の死を悲しみ弔うことを意味する。

 生者を悼む。矛盾した言葉に込められているのは、生者を地獄の底へと引きずり込む亡者の怨念である。

 それでいて、名前がラブソングだ。頭おかしい。


 ソングなので音による攻撃になる。防具では防げず、動いて避けることもできない。耳を塞いだとしても全身を汚染する。

 攻撃力そのものはたいしたことない。HPをじわじわと削る程度だ。

 何が厄介かというと、肉体を蝕み精神を摩耗させ、まともに戦闘を継続できなくする点だ。


 戦闘継続が困難になるのはタゴサクも同様である。ダメージこそないが、亡者の歌は当然聞こえているわけで、二人そろって苦しみの淵に沈む。

 だが、タゴサクは自分の奥義なので予測できていた。身構える時間もなかったリュウキオウよりはマシだ。

 苦しみつつリュウキオウに触れ、魔法を使用する。


「【フルバースト】!」


 残りMPをつぎ込んだ一撃だ。

 が、リュウキオウは倒れない。怨念にさらされながらも二本の剣に力を込める。


「【終ノ誓約ヲ継ギシ赤青(アポカリプス)】!」


 三発目となる奥義の発動……と思ったが、何も起きなかった。

 気が付けば、タゴサクが使った【生者ヲ悼ム詩】の効果も切れている。

 奥義が発動する前に、リュウキオウのHPがゼロになったようだ。【フルバースト】で決まったのか【生者ヲ悼ム詩】で削り切ったのかは知らないが、勝負が着いたため発動しなかったと考えられる。


「勝った、か」


 タゴサクが勝利したものの、心臓に悪い戦いだ。負けてもおかしくなかった。

 自分の勝利をいまいち信じられないが、リュウキオウも同様に敗北を信じられない様子だ。


「俺は負けてないからな!」


 負け惜しみの言葉を叫んだ。


「いや、俺が勝ったし」

「負けてない! 最後の奥義さえ決まってれば勝ったんだ!」

「だったら、もったいぶらずに最初から使っとけよ」

「発動には準備が必要なんだ! 【永劫ノ誓断ヲ求メシ赤】と【悠久ノ誓盟ヲ追イシ青】を先に使って、ようやく使えるようになる! 条件が厳しいだけあって最強だぞ!」


 色々と腑に落ちた。

 深く考える余裕はなかったが、冷静になった今は変だと分かる。


 二つの色の奥義を使ったこともだし、奥義にしては弱かったように思う。

 ごく普通のスキルである【リトルカウンター】で反射でき、防御系の奥義でもない【生者ヲ悼ム詩】で防いだ。

 二発の奥義は、いわば下準備だった。本命は三発目だ。

 リュウキオウの言葉は、あながち負け惜しみとも言えない。発動を許していれば勝敗は逆転していた。

 それでも勝ちは勝ち。二度負けた相手にリベンジ成功だ。


「つっても、まだ選考会の一戦目なんだよなあ……」


 タゴサクの感覚としては、大熱戦を繰り広げて奇跡的な勝利を収めた気分になっている。

 なにせ、プレイヤーとの戦闘に勝ったのは、SOS開始以来初めてだ。

 アキオーダックには一度勝っているが、あの時はソーニャと共闘していたし、とどめを刺したのも彼女だ。

 タゴサクが一人の力でつかんだ勝利という意味では、これが初めてとなる。


「俺は負けてないからな!」


 捨てゼリフを残してリュウキオウは去り、タゴサクは二戦目に臨む。

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