三十一話 三つの奥義
選考会前日の金曜日になった。
この二週間、タゴサクは必死でレベリングを行い、スキルや魔法も充実させた。
ジョブは【腐敗騎士】から【新鮮死人】に変え、今は【背教者】だ。
レベルが上がったおかげか、新しいジョブが増えていたので就いてみた。
スキルと魔法は十個ずつ、合計二十個覚えられるが、全ての枠が埋まっている。コモンステラで【全力】一つを頼りに戦っていた頃を思うと、強くなった。
メニュー画面を開き、覚えているスキルや魔法を確認してみる。
・スキル
【全力】
【瞬剣】
【孤独な剣士】
【邪なる乱斬り】
【瘴炎焼閻】
【花葬幻想】
【新鮮な死体落とし】
・魔法
【バースト】
【ワイルドカード】
【アイシクルアイズ】
【スカイバード】
【リトルカウンター】
【ミラージュカッター】
【ゾンビヒール】
七つしかないのは、奥義を三つ覚えているからだ。
スキルと魔法が七つずつに、奥義が三つ。
明日の選考会に向けて熟考を重ね、選択した構成だ。
枠が足りず、入れたかったのに入れられなかったスキルも多い。
【腐敗騎士】で覚えた【賤炎穿閻】や【背教者】で覚えた【敗者の競演】は、使いたかったが諦めた。
使い勝手に優れる【全力】を入れる方が便利だ。【瞬剣】も活躍機会が多い。
非戦闘用の【暗乱夢】は入れる意味がない。弱過ぎる【最強無敵神業】や剣を突き刺さなければ使えない【脳髄祭】は、入れても使い道がないと判断した。
実は、【最強無敵神業】は熟練度を最大まで上げて奥義になっていたりもする。奥義として活躍してもらおう。
魔法に関しては、【ショートショット】は威力が弱いので外した。
命中率が悪過ぎてまず当たらない【エクスクラメーション】もリストラだ。一か八かの魔法なら、ランダム効果の【ワイルドカード】で足りている。
明日の準備は整った。宿屋の部屋では、ソーニャとイアにも構成を確認してもらう。
「知らないやつが多いわね。【花葬幻想】と【新鮮な死体落とし】って何?」
「【花葬幻想】は毒みたいなもんだ。相手のHPを継続的に減らしてくれるが、俺のHPも減る。【新鮮な死体落とし】は回復の妨害だ。このスキルで攻撃して与えたダメージは、回復魔法やアイテムで治療できない」
「面白いわね。魔法は、前半四つは店売りだから知ってるけど、他が知らない」
「【リトルカウンター】は、名前通りカウンター攻撃だ。魔法が発動してる時間はすっげえ短くて、熟練度を最大にしたのに一秒もないが」
タイミングがシビアだ。早ければ効果が切れるし、遅ければ敵の攻撃を食らってしまう。
「【ミラージュカッター】は刃を飛ばす魔法だが、目に見える攻撃が幻になってる。実体は別にあるから、見えてる攻撃を回避しても実の刃に斬り裂かれるって寸法だ。【ゾンビヒール】は継続ダメージを回復に変換できる。【花葬幻想】とセットで使うと効果的だな」
「毒で回復するとか、さすがゾンビね。お兄ちゃんがどこを目指してるのかは、相変わらず分からないけど」
「言わないでくれ。とにかく、俺が選んだ構成はこんなもんだ。作戦もいくつか考えてあるが、実際に戦ってみたいことにはなんとも言えないな」
ソーニャに説明しているが、一緒に聞いているイアが難しい顔をしている。
「厳しくないですか? 特殊な効果のあるスキルや魔法が多くて、ダメージソースになりそうなものがありません。うまくはまれば強力でしょうけど、博打要素が強いと言いますか、安定感に欠けると言いますか」
「俺も分かってるが、これでいくしかないんだよ。レベルが87だぞ。普通に戦っても勝てない」
レベル100を目標にしていたが、残念ながら届かなかった。
タゴサクのレベルは、出場者中最低クラスだろうと考えている。
「レベル高くない? 私なんか、まだレベル77よ」
「わたしでも93ですね。ほとんど追いつかれちゃいました」
「レベリングを頑張ったからな。これでも選考会で勝ち抜くのは困難だし、真っ向勝負じゃなくて搦め手で挑んでみる」
「サクさんが決めてるなら構いませんけどね。奥義もあるでしょうし」
「そうよ、奥義。お兄ちゃんはどんな感じ? 私は橙色っぽい奥義を覚えたわよ」
「ソーニャちゃんの奥義、格好よかったなあ。動画を撮って部屋で鑑賞したい」
「イアのもね。黒い美少女ってギャップがそそるわ」
二人はお互いを褒め合っているが、奥義は一番突っ込まれたくない部分だ。
ラインナップを見て分かる通り、酷いものが多い。魔法はまだマシだが、スキルはどこに出しても恥ずかしい極悪人風となっている。
だが、奥義に比べれば可愛いものだ。
三つの奥義のうち、一つは最強(笑)の【全テヲ滅スル光】だ。
これはいい。笑われようがまともなのだ。新しい奥義は直接攻撃タイプではないため、今もなお最強の座を譲らない。
残る二つが大問題で、できれば使いたくないと考えている。
とはいえ、手を抜いて勝てるとも思えないし、難しい問題だ。
「奥義は秘密にさせてくれ。言いたくない」
「もったいぶるわね。驚かせたいの?」
「驚く? まあ驚くわな。あれを見て驚かない奴はいない」
「じゃあ、ぜひとも見せてもらわないとね。選考会に勝ち抜いてよ。町の代表者同士の試合は、プレイヤーも観戦できるらしいの。私とイアも見に行くから」
「こなくていいって!」
「行くって決めたの。ねえ、イア」
「決めました。サクさんの晴れ舞台ですし、仲間としては見逃せません。絶対に見に行きます。明後日ですよね?」
選考会は明日行われ、代表者が決定する。
代表者同士の試合は、明後日の日曜日に開催だ。
月に一度開催され、月末の土日になると聞いている。毎月あれば、負けたプレイヤーもリベンジしやすい。
「マジで観戦する気か?」
「当然でしょ。お兄ちゃんがどれだけ強くなったか見てあげる」
タゴサクも格好よく勝つ姿を見せたい。
奥義さえなければ。
あんなものを二人に見せた日には、どうなっても責任は取れない。
「覚悟はしておけよ。俺は責任取らないからな。もっとも、選考会で負ければ無意味な心配だが」
「だから、勝ち抜いてって言ってるの」
「頑張ってください」
一抹の不安を残しているが、タゴサクの報告は終わりだ。
次は二人の近況報告をしてもらう。
「んで、ソーニャとイアはどんな感じだ? チケットは?」
「わたしは手に入れましたよ。ゴブリンの王を倒して入手しました」
「凄いな。一発ドロップ?」
「あれは、ドロップじゃないんですよ。旅人がゴブリンに殺されて、荷物を盗まれたって設定ですよね。つまり、チケットは絶対にあるんです。倒せば百パーセント入手できます。ただし、一人のプレイヤーで一度きりしか入手できません」
「何度も入手する意味なんかあるのか?」
「売ればいいお金になります。闇市の横流し品とは、プレイヤーが余分に入手して売却したチケットです」
設定がつながっているわけだ。細かく作り込んである。
「イアが入手できたのは分かったが、ソーニャは?」
「私はまだよ。レベル77で勝てる相手じゃないの。レベル100以上必要だって言われてるし」
「イアは勝ったんだろ?」
「わたしの場合は相性がよかったですね。わたしの色である黒は、物理攻撃と物理防御に優れています。魔法はパッとしませんけど、強力なスキルをたくさん覚えるんですよ。ゴブリンの王は物理攻撃がメインですし、戦いやすかったです」
「凄かったわよ。美少女とキモいゴブリンのガチンコ勝負」
イアが使っていたスキルを思い出せば、確かに物理系ばかりだった。
タゴサクのような特殊効果頼みではなく、正攻法で強いタイプだ。
「欠点も多いですけどね。スキルだけに頼ると、SPがすぐになくなります。MPは余っていても、魔法は不得意なので戦えなくなっちゃうとか」
「私は逆に、魔法の方が得意かな。イアほど特化してないけど」
「いつの間に魔法主体になったんだ?」
「ジョブを変えたのよ。【橙剣士】から【吟遊者】に」
「名前からはタイプが想像しにくいジョブだな。橙色との関係も不明だ」
「ジョブはいいんだけど、レベルが低過ぎてね。イアと一緒に戦って、とどめだけ私に譲ってもらえばチケットも手に入るわよ。それはどうかなって思ってやってないの」
普段協力するのはありでも、ボスは自力で倒したいのだろう。
レベル77で上の星へ行っても通用しないという問題もある。
「俺が遅れるかと思ったが、ソーニャには勝てそうだな」
「なんかムカつく。イア、レベリングに行きましょう。私のプライドとして、お兄ちゃんに負けてられないわ」
「分かった。サクさん、明日の結果は連絡してくださいね」
二人が慌しく部屋を出て行った。
タゴサクは、もう一度スキルと魔法を確認する。確認後はレベリングだ。
今は金曜の夜だが、深夜までレベリングしてみるつもりだ。レベルが1でも2でも上がれば有利になるし、選考会向けの構成で戦う練習もしたい。
場合によっては変更するかもしれない。奥義だけは変更しないが。
「使わないに越したことはないが、使うんだろうな。じゃなきゃ勝てない」
絶対に使いたくないと思っていれば、奥義を外せばいい。
使いたくないと言いつつ入れているのは、使わずに負けるくらいなら使った方がいいと思っているからだ。
自分の奥義が記載されているメニュー画面を見る。
まずは、【新鮮な死体落とし】と【ゾンビヒール】の熟練度を最大にして覚えた奥義。
【生者ヲ悼ム詩】。
次いで、【最強無敵神業】と【リトルカウンター】の熟練度を最大にし、とある条件を満たしたことで覚えた奥義。
【神ニ反逆セシ小鬼王】。