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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
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二十一話 ゲームの遊び方

 タゴサクは何度もヴァイスと戦っている。レベルを知ったのは今だが、隔絶した力量差があるのは体感していた。

 白の特徴として、ダメージを与えるスキルや魔法はさほど充実していない。特殊な効果を持つ攻撃を多用するタイプだ。

 だとしても、普通に戦ったのでは勝負にならない。事実、これまでは手も足も出ずに全敗している。

 秘策と胸を張れるほどではないが、対策は一応考えた。


「【孤独な剣士(ロンリーセイバー)】!」


【底都テイヘーン】で購入したスキルを使用する。使用者のステータス全般をアップさせるスキルだ。

 便利だがデメリットもある。スキル使用後、最初に攻撃した敵以外には一切攻撃ができなくなってしまう。

 モンスターが複数出現している時にスキルを使用すれば、その時点で詰みだ。一体は倒せても、他のモンスターを倒せなくなる。

 単体のボスモンスターや、ソロで襲ってくるプレイヤーにしか使えない。

 今回はヴァイス一人だ。よって、デメリットはデメリットにならない。


「【白斉射(ホワイトバラージ)】!」


 タゴサクが己を強化すると同時に、ヴァイスもスキルを放った。

 地を蹴って大きく跳躍し、即死級の攻撃を見事回避する。

 タイミング的には、「ホワイトバ」まで聞こえた辺りで動いている。発動後に動いてしまっては到底避けられない。

 だてに全敗していない。負けるたびにアイテムや金を失っているが、逆に得た物もある。

 幾度も殺された甲斐があり、やっとのこさタイミングがつかめた。


「【影縫い(シャドウアロー)】!」

「【全力(パワー)】!」


 今のは、【ケダモノの塔】でタゴサクとソーニャの動きを封じたスキルだ。こちらも痛い目を見た経験があるため、タイミングよく迎撃できる。


「【白雪(スノウドロップ)】!」


 このスキルは迎撃不可能だ。白い花びらが雪のように舞う綺麗なスキルだが、数が多いせいで一枚一枚に対処していては追いつかない。

 綺麗さに反して、効果は凶悪だ。迂闊に触れると肉体が壊死してしまう。

 HPは減らず、敵を倒し切ることはできない。手足を使えなくしたい時などに使われる。

 幸い、はらはら舞っているだけなので、注意すれば当たらずに済ませるのは難しくないが。


「【白液(ホワイトリキッド)】! 【ホワイトキャッツ】!」


 ヴァイスが次々と攻撃してくるから厄介だ。

 ソーニャが食らった白濁の液体に、タゴサクが食らった自爆する白猫たちだ。白い花びらと合わせ、三重の脅威がタゴサクを襲う。


【白液】を食らうとまずい。白濁にまみれる美少女なら需要があっても、タゴサクでは放送事故だ。エロ方面ではなく、グロテスク方面でR18になる。

 アホな理由は置いておくとしても、粘性の液体に捕まってしまえば【白斉射】でハチの巣にされる。

【白雪】や【白液】に比べれば、【ホワイトキャッツ】の方がまだマシだ。


「【全力】! 【バースト】!」


 白猫に突っ込み、仕留めていく。二度までなら自爆されても問題ない。

 前回は、一匹が自爆してタゴサクを殺し切れなかった。レベルやステータスに関係なく固定ダメージを与える魔法なので、一撃必殺にはなり得ない。タゴサクのHPなら二度まで耐えられる。

 どうせ、ヴァイスの攻撃はいずれも致命傷になるものばかりだ。HPが全快だろうと瀕死だろうと大差ない。防御よりも数を減らすことを優先する。

 タゴサクが抗っている隙に、ヴァイスは次なるスキルを使用する。


「【白弧月(ホワイトアーク)】!」


 姿を消すスキルだが、これはチャンスでもある。

 白猫が一匹、タゴサクに引っついた瞬間を見計らい、スキル発動。


「【瞬剣(エフェメラルソード)】!」


 ヴァイスに接近する。

 姿を消したからといって、攻撃を無効化できるわけではない。見えないだけで確かにそこにいるし、こちらの攻撃もちゃんと当たる。

 移動する前に攻撃してしまえばいいのだ。

 ヴァイスに近付いたところで白猫が自爆し、ダメージが入る。同時に【瞬剣】もキャンセルされるが、むしろありがたい。


「【邪なる乱斬り(イーヴィルエッジ)】!」


 接近後、スキルで攻撃だ。【孤独な剣士】と同じく、【底都テイヘーン】で購入したスキルになる。

 デメリットがあるのも同じで、発動中は防御力がゼロになってしまう。敵を斬り刻むスキルだが、その間に攻撃されると一瞬で死ぬ。


 もっとも、ヴァイスの攻撃が致命傷になるのは説明した通りだ。この戦闘に関してなら、防御力があろうとなかろうと変わらない。

 どの程度ダメージが入っているかは不明だが、手ごたえはある。

 スキルが終わるところで、もう一発。


「【バースト】!」


 魔法で爆破し、大爆発が巻き起こる。

 これもヴァイスに負ける中で得た物の一つだ。

 プレイヤーと戦った場合は、モンスターとは違い経験値は稼げない。しかし、スキルや魔法の熟練度は、勝敗に関係なく稼げる。

 タゴサクは、【全力】、【ショートショット】、【バースト】の三つの熟練度を最大まで上げており、当然威力も増している。


「【ショートショット】!」


 熟練度が最大になった【ショートショット】も使用したが、今度は手ごたえがない。ヴァイスは爆発に紛れて移動したようだ。

 どこにいるかは分からない。全方位に攻撃できるスキルでもあればいいが、あいにく覚えていない。

 だが、いくら姿を消していても、攻撃時はスキル名なり魔法名なりを声に出す必要があるわけで。


「【白斉射】!」


 意識を集中し、声が聞こえた方からスキルの軌道を予測、回避してみせた。

 姿を現したヴァイスは渋面を作っている。


「しぶとい」

「何度PKされたと思ってるんだ。お前の戦闘スタイルは大体分かってるんだよ」


 圧倒的なレベル差があるのに、ヴァイスの戦い方が分かっているからこそ、今のところは互角以上に戦えている。

 綱渡りにもほどがあるやり方だ。一瞬の油断が命取りになり、タゴサクは簡単に死んでしまう。

 いや、油断せずとも敗北はまぬがれまい。

 懸命に攻撃を加えているが、ヴァイスはどれだけのダメージを受けているやら。


 全てがうまく進み、ヴァイスの攻撃を回避してタゴサクの攻撃を命中させるとしよう。それでも、タゴサクのSPやMPが先に尽きる。

 レベルの差、ステータスの差とは、とにかく理不尽だ。

 弱者は強者に勝てない。絶対に。


「僕には理解できない」


 戦闘中なのに、ヴァイスが話しかけてきた。

 タゴサクが話しかけ、油断させてから攻撃するなら分かる。卑怯者と(そし)りを受ける戦法だが、一度やっているし、元よりコダる卑怯者なので今さらだ。

 ヴァイスが話しかけて油断させる必要はない。

 つまり、普通に話したいのだろう。


「先ほど、君は推測を述べていたな。認めたくはないが認めよう。僕は確かに非リア充だ。この外見なので、周囲からは化け物だと嘲笑されている。髪や瞳の色は変更してあるが、肌の色はいじっていない。現実でもこれだ」


 タゴサクが自分の話を伝えたように、ヴァイスも伝えてくれる。


「高校に友達はいない。恋人などもってのほかだ。リア充たちが楽しくしているのを、外から眺めるしかできない惨めな生活を送っている」

「ちょっと待った。ヴァイスって高校生? 大学生くらいかと思ってた」

「高二だ」

「俺より年下かよ! 俺は高三だぞ!」

「不健康な外見なので老けて見えるが、僕はまだ十六歳だ」


 想像よりも若かったが、納得した部分もある。

 自らを白弓(しらゆみ)のヴァイスと名乗るなど、イアと同じ厨二病の匂いを感じた。大学生なら痛々しいが、高校生ならギリギリセーフと言えなくもない。


「僕はリア充が嫌いだ。僕をバカにし、見下す連中が嫌いだ。君たちも嫌いだ。特に君が。可愛い女の子二人と一緒にいて、楽しく遊んでいる姿を見ると、殺したくなるほど嫉妬する。憎らしい。僕が君の立場にいられたらと想像し、できないことに絶望する」


 ヴァイスは恨みつらみの言葉を吐き続ける。


「SOSを遊んでいる理由も推測通りだ。リア充をPKすれば最高に気分がいい。僕は、見下されたくないんじゃない。見下してやりたいんだ。否定してやりたいんだ。普段の僕が味わっている屈辱を、ゲームの中でやり返したいんだ。実に醜い欲望を持っている」

「構わないと思うぞ。俺だって聖人君子とは程遠い。醜い欲望なんざ、数え切れないくらい持ってる。理解できないのは、リア充が醜い欲望を持ってることか?」

「違う。君がSOSをやめない理由だ。僕と戦う理由だ。僕は、SOSをプレイしなければならない。現実ではリア充を見下せないし、叩き潰せない。一人用のRPGでも不可能だ。僕の居場所はここにしかない」


 タゴサクの推測は正しかったとヴァイス自身が認めた。

 SOSをプレイするのは、SOSでなければならないからだった。


「君は違うはずだ。現実でもいい。別のMMORPGに移って、女の子たちと楽しく遊んでもいい。僕にはできなくても、君はできる。SOSで遊ぶ理由などない」

「目的があるって話したと思うが」

「その目的は重要なのか? コダるプレイヤーだと否定され、PKに襲われて敗北感を味わい、不気味な非リア充に踏み潰されて悔しい思いをし、なおも勝ち目のない戦いに身を投じる価値があるか?」

「そう言われると、価値なんかないな」


 ソーニャのそっくりさんは、何がなんでも解決せねばならない問題ではない。放置したって構わない。


「ならば、なぜSOSを続ける?」

「ぶっちゃけ、続ける意味も価値もたいしてないが」


 SOSをやめたって、他に楽しいことはいくらでもある。

 タゴサクはPKされなくなって幸せだし、リア充の姿を見ずに済むヴァイスも幸せ。丸く収まる完璧な解決策だ。


「俺たち三人はさ、ちょっと前にこんなことを言ってたんだよ。『世界が定めた運命に抗う』ってな。SOSの世界がパーティーを否定し、ソロを肯定するなら、それに抗ってやろうって」

「厨二病患者め」

「ヴァイスだって厨二病だろうが。こういうの好きじゃないか?」

「否定はしない」

「ともかくだ。俺たちは、世界が定めた運命に抗う。リア充が踏み潰される世界なら、逆にリア充っぷりを見せつけてやる。俺たちなりの、ゲームの遊び方だ。世界に否定されても、固い絆で結ばれた仲間たちは協力して立ち向かうんだ」


 イアやヴァイスだけではなく、タゴサクも意外と厨二病だ。こういうのを格好いいと感じる。

 そして、一番の目的は。


「困難な道のりになる。立ち向かう中で、単なる仲間から男女の関係に進展するのは定番だよな! 人生初の彼女を期待してもいいよな! ソーニャは妹だからどうでもいいが、イアはマジで好みなんだよ!」

「僕に訴えられても……」

「好みなのに、俺と付き合うのはあり得ないとか言われてるんだ。格好いい姿を見せて、いつか『サクさん、素敵です!』って言わせてやる。そのために、俺はSOSをプレイするんだ!」

「性格が悪いな」

「ヴァイスにとっても悪くない話だろ。全プレイヤーがソロになったら困るよな。否定できるリア充がいなくなる。俺をジャンジャン否定しろ。PKもしろ。ヴァイスなりの、ゲームの遊び方だ」

「ふう……話しているだけで頭が痛くなる。僕も人を悪く言えないが、僕以上にバカで性格が悪いとは思わなかった」


 長くなったが、おしゃべりは終わりだ。


「僕の名はヴァイス。白弓のヴァイス。君たちがSOSを続けられなくなるまでPKし続けると、改めて誓おう」

「俺はタゴサク。今はまだ初心者だが、いずれ強くなるぞ」


 ヴァイスは弓の弦を引き絞っている。【白斉射】が回避されるとなれば、使うのは決まっている。


「【闇ヲ斬リ裂ク白(アルテミス)】!」


 ヴァイスの最強に一撃に対し、タゴサクは。


「【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】!」


 こちらも最強の一撃で迎え撃った。

次で第1章最終話となります。

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