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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
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十四話 PK三人組

 ゴールデンウィーク四日目。

 SOSにログインしたタゴサクは、ソーニャやイアと本日の予定を決める。

 何度も考えているが、戦力の増強が最優先だ。レベリングをして強くなり、金策を行って装備、スキル、魔法を充実させる。

 タゴサクは武器が壊れたため、買い直さなければならない。

 よって、最初に買い物タイムだ。ソーニャはスキルを買いに、タゴサクは武器を買いに行く。イアはどちらについて行ってもよかったが、悩む様子も見せずにソーニャを選んだ。


「サクさんと二人きりになるのはちょっと……貞操の危機が」


 申し訳なさそうな顔をしつつも、意外と毒舌なイアだった。

 昨日まででタゴサクのスケベさが伝わってしまい、すっかり警戒されている。タゴサクの自業自得と言えばそれまでだ。


「ナンパには気を付けろよ」

「平気よ。現実でもイアと遊びに行くけど、ナンパは私が全部追い払ってるの」

「ソーニャちゃんは頼りになるし、格好いいもんね。ソーニャちゃんが男子なら、わたしの彼氏になってもらいたい」


 美少女二人のキャッキャウフフな関係はタゴサクも好きだが、自分がハブられてしまえば面白くない。

 ふてくされた状態で【テイヘーンの町Ⅱ】を孤独に歩く。

 武器の購入はすぐに終わる。たいして強い装備が売っているわけでもないし、これまで通り剣を買った。

 残ったお金でスキルでも買おうと考え、店を出たが。


「お願いします! 助けてください!」


 いきなり声をかけられた。

 相手は十歳ほどの少女だ。プレイヤーではなくNPCである。

 少女はタゴサクに助けを求めつつ、町中で土下座を敢行した。地面に額をこすりつけて、「お願いします、お願いします」と繰り返している。


 朝の町には人の姿がある。プレイヤーもNPCも、タゴサクに軽蔑の視線を向けている。子供に土下座させる鬼畜野郎だと誤解されているに違いない。


「土下座はやめてくれ! 頼むから!」


 タゴサクが悲鳴じみた声を出すと、少女は顔を上げてくれた。

 だが次は、膝立ちになってタゴサクの足にすがりついてくる。足というか、ほとんど股間というか。

 これまた誤解しか与えない。幼い女の子にナニをさせているのだと。

 突き放して逃げてもいいが、それはそれで軽蔑されそうだ。目に涙を浮かべる少女が切羽詰まった様子で懇願しているのに、話を聞きもせずに逃げた鬼畜だと。


 どう転んでも鬼畜になってしまう理不尽な状況だ。日頃の行いが悪いせいで、こうなってしまうのだろうか。

 仕方なく、少女の話を聞く。


「どうしたんだ? 落ち着いて話してくれないか」

「は、はい……実は、母が病気なのです。お医者様がおっしゃるには、治療のためには特別な薬草が必要だと。ですが、薬草が生えている場所はモンスターの巣窟のため、ワタシでは採りに行けません。どうか、薬草を採取してきていただけないでしょうか」


 どうやら、突発的に発生したクエストらしい。

 食糧を入手するクエストは、タゴサクたちが自発的に受けたものだ。こちらが基本だが、稀に予期しないクエストが発生するケースがあると聞いている。

 ゲームを盛り上げるためのサプライズといったものか。

 受けるか断るかはプレイヤーの自由だ。断ったところでペナルティはない。


 少し考え、クエストを受けることにした。

 困っている少女を見捨てるのは気分がよくないという理由も少しある。

 クエスト報酬がもらえそうだし、それが目当てでもある。

 何よりも、こうして頼られるのは悪い気がしない。

 ナンパを追い払っているソーニャのことを、イアは頼りになると褒めていた。兄として、男として、タゴサクも女の子から頼られる人間でありたい。


 ソーニャやイアがおらずとも、一人でクエストをクリアしてみよう。

 そう考えたタゴサクは、二人に「予定ができたので単独行動する」と連絡を入れてから、クエストに挑む。

 モンスターとの戦闘がありそうなので、薬草を入手しに行く前にスキルを買う。

 店に行くが、別の場所にでも行ったのかソーニャとイアはいなかった。

 残金を使い切りスキルを購入する。次の星へ行くために残しておきたいが、先のことよりも目の前の脅威に対処する方が重要だ。


 準備も終わり、町を出て薬草の入手に向かう。

 一人で行動するのは初めてだ。クエストを無事クリアできるかどうか不安はあるし、PKの問題もある。

 フィールドを歩いていれば、やはり出現した。


「うわ、出たよ」


 厄介なPKが三人もいる。

 二人は見知った顔だ。初めてPKされた赤髪の男と、眼帯男のアキオーダック。

 もう一人は見たことのない顔だが、仲間だろうか。小柄で童顔の少年だ。中学生くらいに見えるが、SOSは対象年齢が高校生以上なので中学生ではない。


「SOSは、コダるのは禁止じゃなかったのか? そういう理由で俺たちをPKしたくせに、そっちも三人パーティーかよ」

「俺たちは、別にパーティーじゃないぜ。協力なんかしない。一人一殺のために三人で集まっただけだ」


 タゴサクの問いにはアキオーダックが答えた。まさしく協力プレイだと思うが、言っても聞くまい。


「見ての通り、今日の俺は一人だぞ」

「その手には乗らねえよ。コダるのをやめたわけじゃないんだろ? 一人だろうがなんだろうが、敵は殺す」

「そもそも、SOSは理由などなくともPKするものだ。自分が上へ行くために」


 アキオーダックの言葉を赤髪の男が引き継いだ。

 彼らにタゴサクを見逃す気はない。戦うしかないが、一対一でも勝てないのに三人もいれば余計に勝ち目はない。

 となると。


「逃げんな!」


 アキオーダックの声が聞こえたが、無視してタゴサクは逃げ出した。

 現在の居場所は、【テイヘーンの町Ⅱ】からさほど離れていない。町の中に逃げ込めれば攻撃もできなくなる。

 戦って三人を倒せる可能性は万に一つもない。町まで逃げるのであれば、一パーセントくらいはあるかも。


 わずかな望みに賭けて脇目もふらず一目散に逃げるが、目の前に童顔の少年が立ちはだかったせいで足を止めざるを得なくなった。

 レベルの差は、先回りも簡単に許してしまう。逃亡すらできないようだ。


「すみませんねえ。俺は反対したんですが、アキオーダックとガンタの二人がどうしても殺したいって訴えるもので」


 ガンタというのが赤髪の男の名前だろうか。

 タゴサクの正面には童顔の少年が立ち塞がり、背後にはアキオーダックとガンタがいる。挟み撃ちにされてしまった。


「俺は嫌なんですがねえ。やりたくないんですがねえ」

「言い訳ご苦労さん。『俺は反対したから悪くない。嫌がっているから悪くない。俺を責めないでくれ』って言いたいだけだろ? どう思う?」


 背後にいる二人に問いかけた。

 童顔の少年の言い分は、押し付けがましいし恩着せがましい。「お前らのために嫌だがやってあげているのだ」という身勝手さを感じる。

 アキオーダックやガンタとしても、いい気分ではないと思う。仲間割れでもしてくれればラッキーだと考え、二人に問うた。


「グレスの性格がクソなのは、今に始まったことじゃねえからな。まずはお前をPKして、次にグレスをPKだ」


 童顔の少年の名前は、グレスというらしい。


「アキオーダックは酷いなあ。俺が手伝ってあげてるのに、善意を素直に信じられないなんて、そっちの方が性格クソじゃないですかあ」

「間延びしたしゃべり方もキモいしやめろ」

「キモいですかあ? おかしいですねえ」


 グレスは、首をコテンと傾げた。

 イアのような美少女がやれば、さぞ似合うし可愛い仕草だ。男がやるのはどうかと思うが、グレスは童顔なだけに似合わなくはない。


「それがキモいっつってんだ。いい歳した大人の男が何をやってんだ」

「大人?」

「グレスの外見に騙されがちだが、こいつは二十五歳だぞ」

「二十五!?」


 ガンタの答えに、タゴサクは驚愕した。

 中学生ほどに見えるくせに、実年齢は二十五歳とは。

 二十五歳の男が、すっとぼけた態度で首をコテンだ。確かに気持ち悪い。


「納得した。これだけキモい性格なら、現実に友達なんざいないわな。普通のMMORPGで友達付き合いもできないし、ソロ前提のSOSをやるわけだ」


 ソーニャがいれば、「お兄ちゃんもキモいでしょ」とでも突っ込まれそうなセリフだった。


「こっちの性格もクソですねえ。クソだからこそ、他人の迷惑も顧みずにコダるんでしょうが」

「問答するのはおしまいだ。やるぞ」


 ガンタが仕切り、前と後ろから攻撃が迫る。


「【ロングショット】!」

「【飛剣(ソニック)】!」

「【一本突(シングルスピア)】!」


 三人がかりでの遠距離攻撃だ。

 接近戦をしないのは、タゴサクごと攻撃されてしまうことを恐れたからかもしれない。共闘していても、味方ではないのは会話を聞けば明らかだ。

 前後からの攻撃を横っ飛びで避ける。

 初撃はしのいだが、長くはもたない。勝ち目もないし逃亡も不可能だ。

 ならば、少しでも抵抗する。嫌がらせと言ってもいい。


「【瞬剣(エフェメラルソード)】!」


 タゴサクは、新しいスキルを披露した。

 敵との距離を瞬時に詰め、勢いのままに斬りつけるスキルだ。序盤で覚えられるにしては強力である。

 ただし、欠点も多く使い勝手は悪い。

 直線移動しかできないせいで、間に障害物があれば衝突してしまう。

 相手にスキルなり魔法なりで迎撃されれば、自ら突っ込み自殺行為になる。


 今回は障害物がなく、迎撃もされなかった。グレスに肉薄しダメージを与える。

 これで倒せる相手ではない。彼我の力量差を考えるなら、【瞬剣】を十発直撃させても倒せるかどうか。

 そもそも、タゴサクは勝利を諦めている。PK三人に勝てるわけがない。

 勝てないなら勝てないなりに、一人だけでも道連れにしようとしている。


「【ショートショット】!」


 密着状態で魔法を使用し、グレスがわずかにのけぞったところで懐に入り込み。


「【ショートショット】!」


 再び魔法だ。

 グレスの攻撃で殺されず、かつ密着し続けるため戦法である。

 こうなれば、当然。


「【スカイバード】!」

「【アースクエイク】!」


 予想通りだ。

 タゴサクとグレスが固まっていれば、二人まとめて殺そうとすると思った。アキオーダックとガンタにとっては、グレスもPKできれば得をするのだから。

 上からは空色の巨鳥が降り、下からは地が鋭い凶器となって牙を剥く。

 タゴサクがグレスを殺す必要はない。というか、殺す手段を持ち合わせていないので殺せない。

 だったら、殺せる相手に殺してもらえばいいだけだ。


「よくも……」


 グレスが何か言いかけていたが、二人そろって魔法に呑み込まれる。

 タゴサクは即死し、【テイヘーンの町Ⅱ】に死に戻りする。グレスがどうなったかは分からない。

 負けはしたが、一矢報いたという気になれた。


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