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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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トライファークの内情~奇襲

 森を抜けたら、いきなりトライファークに着いたと言われた。


「え?関所は?」


『そんなところ通ったら、私が帰ってきたことがばれるし、あなたたちが誰かを説明しないといけないから通りませんよ』


 ああ、トライファークに入るのが大丈夫ってのは、裏道を知ってる的な意味だったのか。

 確かに、帰ってきたことがバレたら、すぐに俺をトライファークに再現された俺の所へ連れて行かないといけなくなりそうだもんな。

 まだ、何も状況が分かってないのにそれはまずいしな。

 でも、先に言っといてくれたらよかったのに。

 一瞬、迷子になったのかと思って少し心配した。

 そういえば、昨日出発する前にスマホの電源を切るように言われたし、マイさんも持っていた端末の電源を切っていた。

 それも、電波を観測されて帰ってきたことがばれないようにするためだったんだろうな。

 まあ、確かに俺たちが一緒にファスタルを出発することがバレるだけでもまずいしな。

 何の説明もなかったけど。


『とりあえず、こんな所に止まっていても目立つだけなので、街まで行きましょう』


「バイク3台ってのは街中でも目立ちませんか?」


『大丈夫ですよ。

 トライファークにはけっこう走ってますから』


 サラは動くバイクは国全体に20台くらいしかないって前に言ってたけど、トライファークは別なのか。

 技術立国とか自称するだけあって、他国よりも進んでいる部分は多いんだろうな。

 サラとおっさんも驚いている所を見るに、知らなかったようだ。

 多分、ニグートでの人の反応を考えても、サラが言っていた20台ってのはほとんどがニグートにあるんだろう。

 実際、ファスタルではサラのバイク以外には見たことなかったし。

 だから、それだけのバイクがトライファークにあるってのが驚きだったんだろうな。

 それにしても、そんな情報すら漏れないくらいにトライファークの情報統制は厳しいってことなのか。

 それを考えると、ちょっと森の中を通ったくらいで入国できたってのは幸運なんだろうな。

 まあ、知らなきゃ絶対に分からない道なのは確かだけど。


『じゃあ、行きます』


 マイさんに従って、さらに進むこと5分。

 街の中に入った。

 街はファスタルともニグートとも違う雰囲気だった。

 一番現代的だった。

 けっこうな数のビルがある。

 まあビルとは言っても、どれもぼろぼろで最近建てられたものでないことは、すぐに分かった。

 一見廃墟みたいなものが多かったが、人が出入りしているから、使われてはいるんだろう。


『トライファークはほとんど古代の都市をそのまま使っています。

 それだけに、古代の遺物も多く残されており、それがトライファークの技術を支えています』


「今からどこに行くんですか?」


『現在のトライファークの状況が知りたいので、私が懇意にさせてもらってる研究者の元へ向かいます。

 そこで、知っている限りの情報を聞きます。

 ただ、どうも様子がおかしいですから、くれぐれも気をつけてください』


 どこかおかしいだろうか?

 普段のトライファークを知らないから、よく分からない。


「どこがおかしいんですか?」


『どうも、みんなのマナがおかしい気がします。

 ざわついているというか』


 言っている意味が分からない。


「どういうことですか?

 マナって見えませんよね?」


『そうですね。

 見えはしませんよ。

 ですが、私はすごく敏感で人のマナを感じることができます。

 ですから、あなたとその古代種の間もつながりも感じるんですけど』


 そういえば、初めて会った時に、俺とルッツのマナの流れがどうたら言われたな。

 なんだろう、第六感的なやつなのかな。

 オカルトだな。

 まあ、オカルトだろうがなんだろうが、それは別になんだっていい。


「俺にはよく分かりませんけど、今トライファークがおかしいのは確かなんですか?」


 重要なのは、トライファークがどうにかなってしまっているのかどうかだ。


『ええ。

 何が起きているかは分かりませんけど、何かが起きているのは確かです』


 その何かを調べたら、色々分かるのかもしれないな。

 そのまましばらく、トライファークの街を進む。

 街中だから、スピードは抑え目だ。

 だから会話もできる。


『ここです』


 ついたのは、他と特に変わらない廃墟みたいなビルだった。

 その前にバイクを停めて中に入る。

 中はそれほど汚くなかった。

 老朽化が進んでいるのは見た目にも明らかだが、掃除はされているみたいだし、補修痕もあるから、色々直しながら使っているようだ。

 不潔な感じもしない。

 マイさんは迷うこともなく奥に進み、一つのドアの前で止まった。


 ノックをする。


『どうぞー』


 中から声が聞こえてきた。

 男性の声だ。

 マイさんはドアを開けて中に入っていく。


『こんにちは、マイです』


『いらっしゃい、マイちゃん。

 今日はたくさんお友達を連れてきたね』


『ええ、急にぞろぞろと押しかけてすみません、先生』


『構わないよ。

 珍しいから驚いたけどね。

 マイちゃんは何かの調査で国を出ているって聞いていたけど、帰ってきてたんだね』


『はい、さっき帰った所です。

 でも、私が帰っていることは誰にも言わないでください』


『それは構わないけど、どうかしたのかい?』


 先生と呼ばれた人はちょっと不思議そうな顔をして首を捻っている。

 多少不審がってはいるようだが、それほど気にした様子もない。


『はい。

 今日先生を訪ねたのも、それが原因です。

 今、トライファークはどうなっているんですか?』


『どう、とは?

 別にトライファークは普通だよ』


『普通じゃないです。

 先生は今トライファークが戦力の増強を進めていることをご存じないんですか?』


『もちろん知っているよ。

 僕も協力しているからね』


『え?なんで?

 どうしてですか?』


 どうも様子がおかしいな。


『どうしても何も、そうした方がいいからだよ。

 今までトライファークは、他国からの攻撃に対して寛容すぎたんだよ。

 だから、却って増長させる結果になっていたんだね。

 一度痛い目にあわせて身の程を教えてあげた方が、お互いのためだということに気づいたんだ』


『どうしたんですか、先生。

 この間まで先生も戦争なんて反対だっておっしゃってたじゃないですか。

 それに、確かにニグートに対して怒っている人がいるのは分かります。

 それに対する戦力の増強というのも、分からないではないです。

 でも、関係ない国を吸収するのはおかしいじゃないですか?』


『ああ、そうだね。

 確かに私も不思議だった。

 でも、新しい代表者にとって何か理由があったらしいよ。

 詳しくは聞いてないけれど。

 それに、別に武力で制圧したってわけじゃないから、誰かに迷惑をかけたわけじゃないよ。

 僕は今も戦争なんて反対だよ。

 だからこそ、やることはやらなきゃいけない。

 最初に少しだけ痛い目にあわせて、酷い戦争が起こるのを防ぐ。

 とても理に適っているじゃないか』


 確かに、この人の言っていることは一理あるようにも感じられる。

 だが、マイさんの反応を見るに、この人らしくはないようだ。

 少しニグートの代表者の態度に似ている気がして、寒気がする。

 表情は穏やかだし、別に狂ってるとまでは思わない。

 でも、言っていることがちょっと過激だ。

 それにしても、今確かに隣の国を吸収したのは武力で制圧したんじゃないって言った。

 だったら、どうやったんだ。

 さすがに聞いても教えてはくれないだろうが。


『先生、どうして……』


 そこでマイさんは絶句してしまった。

 トライファークがおかしくなった原因を聞こうとして、知り合いがおかしくなっているのを発見した、って状況だよな、多分。

 確かにそれは堪えるよな。


「ちょっとお聞きしてもいいですか?」


 俺も割り込むことにした。


『いいですけど、あなたは?』


「ああ、マイさんの友人です」


 名乗るわけにはいかない。

 おそらく、この人が言ったトライファークの新しい代表者は俺だろうからな。

 名乗ったらややこしい事態になるとしか思えない。


「あの、増強している戦力でニグートと戦うんですよね?」


『まだ具体的に戦うと決まったわけではないですけど、そうなっても問題がないように準備をしているという所ですね』


 隣でサラが緊張したのが伝わってくる。


「それは、ニグートに攻め込むということですか?」


『私は詳しくは知りませんが、それはないんじゃないでしょうか。

 私たちは戦争がしたいわけじゃありませんから』


 少しだけ、ほんの少しだけど、サラの緊張が解けた気がする。

 侵略してくるニグートを痛い目にあわせるのと、トライファークからニグートに攻め込むのでは、大きく意味が変わってくるからな。

 俺たちの今後の方針にも大きく影響があることだ。


「そうなんですか?

 じゃあ、自衛のための戦力なんですか?」


『そうでもないですけどね。

 うん?えー。

 ……。

 どうでしょうね。

 その辺りは、代表者たちが決めるんじゃないですか?』


 今、変な間があった。

 やっぱり、この人は少しおかしくなっているみたいだ。

 狂ってはいないけど、どこか考えがおかしくなっている、そんな感じだと思う。

 どういうことか分からないが、こんな状態じゃ、残念ながらこの人からほしい情報は得られないんじゃないだろうか。

 ただ、情報統制が厳しい割には、結構、質問にはほいほい答えてくれる。

 マイさんを信用しているからだろうが、どっかの使えないAIみたいに機密事項です、とか連呼されたらうんざりするところだったから、助かる。


「マイさん、一度お暇しましょう。

 また、何か聞きたければ日を改めましょう」


『そう、ですね。

 先生、失礼しました。

 また来ます』


『ええ、いつでもどうぞ』


 俺たちはその部屋を出た。

 外に出ながら、話をする。


「マイさん、あの人は、その、おかしくなったという認識で構いませんか?」


『はい。

 あの人は、私が研究者になったときに色々教えてくれた人です。

 そして、私がファスタルに向かう前まで、武力増強にも、ニグートとの戦いにも反対の立場をとっていました。

 それなのに、何かと理由をつけてはいましたけれど、いきなり戦力の増強に協力するなんて、ちょっと信じられないです』


「トライファークの他の人たちがおかしくなったのと同じ状況ですよね?」


『多分、そうだと思います』


 マイさんはめちゃくちゃ落ち込んでいる。

 多分、さっきの人をそれだけ信用して、頼りにしていたんだろう。

 そっとしてあげたいが、他にトライファークのことが分かる人なんていないから、今はがんばってもらうしかない。


「じゃあ、数日前にあなたに連絡してきた人はどうですか?

 その人はトライファークがおかしいことを認識していたんですよね?

 さっきの人の態度から考えて、おかしくなってしまった人にはその認識はないと思うんですけど」


『そうですね。

 確かにそうです。

 私に連絡してきた研究者は、今どこにいるのかは分かりませんが、いくつか心当たりはあります。

 そこを順番に回ってみましょう』


 それから、マイさんに案内してもらっていくつかの施設を回った。

 どこも似たような感じの廃墟っぽい所だった。

 でも、どこにも探している人はいなかった。


『次が最後になります。

 そこにいなかったら、私ではどこにいるか分かりません。

 そうなったら、また別の手を考えないといけませんが、とにかく行ってみましょう。

 少し離れた所になりますが、そう遠くはありませんので、ついてきてください』


 そう言って、再びバイクで移動した。

 5分くらい進んだ後、マイさんはバイクを停めた。


『ここから少し歩きます』


 俺たちもバイクを停めて、歩き出した。

 その辺りは街からは少し外れた場所に位置していた。

 周囲にいくつか建物はあるが、街という感じではない。

 道には瓦礫が落ちていたりして、確かにバイクでは走りづらそうだ。

 その中をマイさん、サラ、俺、ルッツ、おっさんの順番に歩いていた。

 すぐ先に大きな建物が見えるから、そこが目的地だろう。

 そちらに向かって歩いている。

 

 と、急に後ろを歩いていたおっさんが俺を吹っ飛ばした。

 いや、俺だけではない、マイさんもサラも吹っ飛ばして、自分も転ぶように前方に飛び込んだ。

 ルッツもおっさんと同じように前方に移動している。

 なんだ?

 俺が疑問に思う間もなく、俺たちが歩いていた場所に何かが落ちてきた。

 

≪≪≪≪≪ドゴッ≫≫≫≫≫


 ものすごい音が鳴った。

 同時に地響きも伝わってきた。

 その場所を見ると、地面に大きな亀裂が入っていた。

 間一髪だった。

 おっさんが吹っ飛ばしてくれなかったらどうなっていたか分からない。

 いや、ある意味、どうなっていたかはよく分かるけれども。


『ちっ、仕留められなかったか。

 異常に勘のいい奴がいるようだな。

 まあいい。

 レオ、後は頼む』


 そんな声が聞こえた。

 それは、近くの建物から聞こえていた。

 大きな声ではなかったが、なぜか聞こえた。

 俺は声のした方を見たが、人影がちらっと見えただけで、すぐに引っ込んでしまった。


 だが、そんな方に気を取られている場合じゃないことは分かっていた。

 なぜなら、俺たちの目の前には、ライオン顔に禍々しい角を生やした、筋肉質な巨人がいたから。


 その巨人は巨大な棍棒を持っていた。

 それで地面を割ったようだ。

 どこから飛んできたのかは分からないが、隠れる場所なんて周りにはたくさんあるから、どこかから様子を伺っていたんだろう。


「おっさん」


『ああ、コイツはやばいな。

 逃がしてくれたら、それが一番いいんだが』


 目の前のやつはこっちを凝視している。

 どう見ても、逃がしてくれるつもりはなさそうだ。


「そうですね。

 残念ながら、無理そうですけど。

 マイさん、あれって」


『ええ、レオルオーガです』





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