18日目 ニグートへ
「こちら、【あの国】の研究者の方です」
『あの国?
どうも、トライファークで研究をしているマイです。
今回はご協力頂けるみたいで、ありがとうございます』
あの国?何それ、みたいな感じで見られた。
やっぱり、トライファークには自分の国をそんな呼び方をする習慣はないみたいだ。
当たり前か。
そういえば、初めてこの人の名前を聞いた。
名乗られなかったし、聞かなかったからな。
サラとおっさんは、トライファークと名乗ったことに驚いているようだ。
まあ、ファスタルでは誰も言わないからな。
「こちらがニグート出身で、ファスタルの研究員のサラと、護衛をしてくれる調査員の統括です」
『サラです。
こちらこそ、バイクを使わせて頂けるので、助かります』
『おう、俺は護衛でサラのおまけだが、よろしく頼む』
今、俺はトライファークの研究者、マイさんと言うらしい、サラ、おっさんを引き合わせている。
場所はファスタルの大通りの一角だ。
ここまでは、特に問題もなく、すぐにファスタルを出発できそうな感じだ。
それも、多分おっさんとユラさんのおかげだな。
俺は研究所でのユラさんとのやりとりを思い出した。
◇
朝、サラとルッツと一緒に会議室に行くと、既にユラさんとおっさんがいた。
ユラさんには昨日の夜のうちにおっさんが説明してくれていたから、特に新たに説明することはなかった。
俺は、昨日のうちにトライファークの人間に了解を得たことを伝えた。
ユラさんには、
『くれぐれもサラのことをよろしく頼むわ。
ニグートに入ったら変な奴が寄ってくるかもしれないけど、無視していいから。
あと、大丈夫だと思うけど、サラに馴れ馴れしく接してくる奴がいたら、ぶっとばしていいからね』
そんなことを言われた。
まあ、俺はニグートの人間と関わる気はあまりない。
誰に聞いても評判がよくないし。
いくつかニグートに入ってからの注意事項なんかを聞いて、すぐに出発することになった。
『ファスタルの役人とかニグートの人間には私から伝えておくから、あなたたちは道中の安全にだけ注意して行ってくれたらいいわ』
どうやらユラさんがややこしい連絡関係は処理しておいてくれるらしい。
俺たちができるだけ煩わしいことをしなくていいように、との配慮からだった。
とてもありがたい。
朝から偉い人たちと打ち合わせして、というのは勘弁してほしかったからな。
会議室を出るときにユラさんとサラは何事か話した後、抱き合っていた。
普段はよく憎まれ口を叩いているけど、本当に仲良いよな。
ちょっとうらやましい。
その後は、一度帰ってそれぞれの荷物を取ってきてから、研究所の玄関に集合することにした。
俺は部屋で一人になったときに、スマホでマイさんに連絡を取った。
準備はできていたようなので、待ち合わせ場所を教えて、すぐに出発することを伝えておいた。
◇
そして、さっき待ち合わせ場所に着いて、今に至っている。
最初にマイさんを見た時、サラが微妙な表情で俺を見ていた。
「じゃあ、行きましょうか。
とりあえず、マイさんのバイクのある所に案内してほしいんですけど」
『分かりました。
こっちです』
マイさんの案内の下、ファスタルの街を出発する。
街から出て、しばらくは道沿いに歩いていたが、すぐに逸れて近くの森に入った。
ちなみに、サラのバイクはおっさんが手で押している。
最初はサラが自分で押そうとしたけど、おっさんがすぐに代わった。
おっさんは軽々と運んでいる。
相変わらずのパワフルさだ。
まあ、俺でもあれくらいはできるし、立場的にはおっさんは偉い人だから、俺がやるべきなんだけど、代わろうとしたら断られた。
マイさんの相手をしろ、ということらしい。
確かに、マイさんはサラとおっさんのことを警戒している節がある。
まあ、サラについては、トライファークとニグートの関係を考えたら当然か。
おっさんは、初見の人には警戒されても仕方ないタイプだと思う。
俺もそうだったし。
存在感が強すぎて、警戒心を持つレベルという感じだ。
いや、どんな感じだ?って思うけど、とにかくそんな感じだ。
森の中を5分くらい歩いたところで、ちょっと不自然に盛り上がった葉っぱの山を見つけた。
マイさんはそれに近づくと、葉っぱをどける。
すると、中から二台のバイクが出てきた。
「これはちょっと不用心すぎません?
明らかに不自然でしたよ」
『いいんです。
どうせ私のマナがないとロックを外せませんから』
ああ、そうか。
この時代はマナでセキュリティ対策が完璧なんだな。
「じゃあ、一台は統括が運転してください」
『おう』
「サラは自分のバイクを運転して」
『はい』
「あと一台は俺が運転するので、マイさんは後ろに乗ってください」
『え?
どうしてですか?』
なぜか、サラに聞かれた。
「だって、ニグートに入るときには、マイさんには隠れてもらわないといけませんから。
2人乗りができるのは俺だけみたいだし、ニグートに入るまでにも運転して、バイクに慣れといた方が不自然さを隠せるでしょう」
サラは不満そうだけど、納得はしてくれたみたいだ。
『それはそうですけど、どうやって隠れたらいいんですか?』
今度はマイさんに聞かれる。
「ああ、サラ、あれを貸してください」
そう言って、サラに借りたのは、俺が最初にファスタルに来た時に使った光学迷彩の機能がある布だ。
「これを使ってください」
サラのマナで透明にしてもらう。
『これは何ですか?』
マイさんが驚いている。
トライファークには光学迷彩はないらしい。
『これは、古代の遺物を元に作ったものです』
サラが簡単に説明している。
『ファスタルの技術力はなかなか、というのは聞いたことがありましたけど、本当のようです。
トライファークの外にも色んな技術があるんですね。
世界は広いというか、トライファークは狭いというか。
これは反省しないといけないですね』
そんなことを言っていた。
これを機に、トライファークとファスタルが技術交流でもすればいいのに、と思った。
まずは、サラとマイさんが仲良くなってくれたらいいと思う。
「まあ、それはニグートに近づいたら使えばいいと思いますから、とりあえず最初は普通に行きましょう」
そう言って、出発した。
実は、俺はバイクの運転は久しぶりだったので、ちょっと不安だったりした。
サラの運転を見て、操作自体が俺の知っているバイクと同じなのは分かっていたが、バイクの運転自体が元の時代以来の、それも何年かぶりだから、かなり久しぶりだった。
しかも、後ろに人を乗せて走るのは初めてだから、ちょっと緊張している。
「最初は運転が荒れるかもしれませんから、しっかり掴まっていてください」
『分かりました』
そう言って、マイさんは俺に掴まる。
とはいっても、間にルッツを挟んでいるが。
そんな俺の様子をサラが恨めしそうに見ていた。
あれは嫉妬してくれているんだろうか。
だとしたら、ちょっと嬉しい反面、誤解だ。
特に下心はない。
「じゃあ、行きます」
3台のバイクに分乗して出発した。
◇
しばらく運転してみたけど、思っていたよりも問題はなかった。
振動が少なくて運転しやすかったのもあるけど、それ以上に、信号もない一本道をただ真っ直ぐ走っているだけだから、問題なんて起きようもなかった。
道中、それなりにスピードは出していたけど、俺もおっさんも不慣れだから、それほど飛ばしはしなかった。
音が静かなこともあって、それなりに大きな声を出せば会話もできた。
とはいえ、ずっと声を張り上げて話すのも疲れるので、しばらく走ってからは自然と会話は同乗者であるマイさんとするのが多くなっていた。
小声で話せば、サラとおっさんには聞こえないので、俺に関する話もできた。
「ところで、トライファークに行ったら、どうするつもりなんですか?」
『そうですね。
やらないといけないのは、まずは情報収集です。
この間、あなたを連れ戻す連絡を受けた後、またトライファークとは連絡ができなくなっています』
「こちらからの呼びかけにも答えてくれないんですか?」
『はい。
理由は分かりませんが。
そのせいで、現在のトライファークの状況が分かりません。
とは言っても、私がトライファークを出てから一月と経っていませんから、それほど劇的に変わることはないと思います。
ただ、前も言った通り、急に戦力の増強が進められていますから、何かみんなの気持ちが変わる様なことが起きたのかもしれません。
その辺りを調べたいと思っています』
「トライファークに再現された俺に会いに行かなくてもいいんですか?」
『もちろん、会いに行きます。
ですが、色々な変化はその人が原因だと思っていますから、迂闊に近づきたくないと思っています』
うん、冷静だ。
俺もその方がいいと思う。
「昨日も話しましたけど、サラもトライファークの調査をすることになると思います。
それは一緒に行動しても構いませんか?」
『それは、正直な所、あまりよくはありません。
ニグートの人にトライファークの内情を知られるのはまずいですから。
ただ、まだほとんど話してませんけど、サラさんは信用できそうな気がします。
ニグートの人にしては珍しいタイプだと思います。
私としては、ニグートと争いたくないですから、サラさんと協力することがトライファークとニグートの争いを止めることに役立つなら、協力してもいいと思っています。
サラさんがある程度、見たことを口外しないでくれるなら、私も無下に追い返そうとは思いません』
いい答えだ。
うまくいけば、サラの危険も減らせるし、トライファークとニグートの争いも防げるかもしれない。
まあ、サラがニグートからどういう指示を受けるかとか、トライファークの状況がどうか、によるとは思うけど。
少なくとも、サラとマイさんの関係は今の所、悪くない。
それは今後もいい方向に働くと思う。
『何を話してるんですか?』
サラがバイクを寄せて訪ねてきた。
「何でもありません。
この後、どうするか相談していたんです」
『私には言えないことですか?』
なんだかサラが不機嫌そうだ。
「そういうわけじゃないですよ。
大したことじゃないですから」
トライファークの俺、とかはまだ話せない。
そういう意味では、確かにサラには言えないことだけど、別にサラを蔑ろにしているわけじゃない。
『2人で、仲良くひそひそ話をするなんて』
サラがぶつぶつとそんなことを呟いている。
いや、呟き声なんて聞こえないから、そう言っているように感じただけだけど。
『おい、ちょっと休憩するぞ』
今度はおっさんが寄ってきて、そう言ってきた。
「え?まだ疲れてませんよ?」
『いいから、休憩だ』
そう言って、おっさんが減速しだしたので、休憩することにした。
バイクを停めると、おっさんに引っ張られて少し離れた所に連れて行かれた。
『あのな、しばらく、サラと2人乗りに変更だ』
「え?どうしてですか?」
『そのくらい察しろ。
あの国の情報を聞くのも大切だがな、サラだってこれからのことが不安なんだ。
お前がそれを和らげてやらんでどうする』
おっさんに諭された。
確かに。
俺はサラのために付いてきたのに、ついつい自分のことばかり気にして、トライファークの情報ばかり得ようとしていた。
反省しないとな。
おっさんは気遣いもできる上司だ。
さすがだ。
「分かりました。
配慮が足りませんでしたね。
ありがとうございます」
『ああ、分かればいい。
お前は頭はいいんだから、もっと視野を広くした方がいいぞ』
「そうですね。俺もそう思います」
全く、おっさんには適わない。
そこで10分くらい休憩した後、サラのバイクに乗り換えて出発した。
そこからの道中、サラは機嫌よく話してくれた。
何よりだ。
◇
最初に休憩した後は、特に問題もなく、走り続けた。
途中で昼食を取ったりはしたが、それ以外は基本的に移動し続けた。
辺境も通ったが、特に何か問題がある様子はなかった。
守備隊の人たちに挨拶してもよかったが、道を外れるので、今回は素通りした。
ちなみに、俺はサラのバイクとマイさんのバイクを交互に乗り換えて運転している。
そうすれば、サラとマイさんが休憩しながら進めるからだ。
俺とおっさんは特に休憩しなくても問題はない。
できるだけ効率よく進みたいので、話し合って、そうすることにした。
『そろそろ、ニグートの国境が見えてきます。
警備兵がいると思いますが、私が話を通します。
多分、既に私と二人の護衛が通ると連絡は入っていますから、問題はないと思います。
すみませんけど、マイさんはここから布を被ってもらえますか?』
『分かりました。
じゃあ、あとはお願いします』
そう言って、マイさんは布を被った。
ふと思ったけど、護衛が三人ってことにしてもらったら良かったんじゃないだろうか。
いや、統括と俺みたいにファスタルの人間だと証明することができないから、何かあったときにまずいのか。
でも、俺もファスタルの人間といっても、出自は怪しい人間なわけだしな。
いや、バイクの二人乗りがイレギュラーだから、ややこしい話になるのかな。
まあ、その辺のもろもろ含めて、今回はこの方法がベストなのかな。
俺はあんまり深く考えてなかったけど。
あと、連絡が入ってるってことは何か通信機で連絡したってことだよな。
ニグートにも通信機はあるんだな。
無線機みたいなものかもしれないし、もしかしたら、伝書鳩の可能性もあるけど。
なんにせよ、連絡が入っているなら安心だな。
その後、サラの言葉通り、関所みたいなものが見えてきた。
とは言っても、俺は関所なんて見たことないから、勝手なイメージだけど。
見張り台みたいな塔があって、そこからしばらく塀が続いている。
俺たちが進んでいる道の先は門のようになっていて、今は扉は閉められている。
近づくと、いかにも警備していますよという風体の男が2人近づいてきた。
『止まれ。何者だ?』
『ファスタルの研究員と護衛です。
ニグートの代表者からの指示で来ました。
これが証明書です』
そう言って、サラは何か書類を見せている。
ファスタルの研究員と言ったのは、敢えてだろうか。
自分をニグートの人間と言いたくなかったのかもな。
警備兵はサラが見せた書類を見た後、急に態度を改めた。
『サラ様と護衛の人でしたか。
失礼しました。
話は聞いています。
どうぞ、お通り下さい』
すぐに通してくれた。
サラは様付けだ。
ファスタルの研究所ではそんなに特別扱いされていないから、忘れがちだけど、やっぱり偉い人なんだよな。
ともかく、警備兵は俺の後ろのマイさんには気づかなかったようだ。
俺からしたら、光学迷彩ってけっこう不自然に見えるんだけど、気にしなかったら気にならないもんなんだな。
とりあえず、第一関門は突破って感じだな。
門が開くと、俺たちはそこを通り抜け、そのまま進んだ。
「とりあえず、ニグートには入れましたね。
次はどこに向かうんですか?」
『一度、ニグートの代表者に会いに行きます。
そこで、私へ詳細な指示が出されることになっています。
一応、現場での判断は私に一任されるようですが、調査内容なんかは指示に従うことになると思います』
「分かりました。
代表者がいる場所は遠いんですか?」
『このままのペースで行けば、今日中には着きます。
でも、代表者に会うのは明日の予定です。
今日は代表者のいる街まで行って、宿をとりましょう』
「分かりました。
じゃあ、ついて行きます」
ニグートは通り抜けるだけって言ってたけど、一応、代表者には会うんだな。
サラのお父さんなんだよな。
おかしくなってるって聞いてるけど、どんな人だろうか。
威厳とかあるんだろうな。
まあ、俺は護衛だから、会うのはサラだけかもしれないけど。
関所を通り過ぎてから、またしばらくバイクで進んだ。
ちなみに、しばらく走ってからマイさんには被っていた布を脱いでもらった。
別にずっと隠れないといけないわけじゃないからな。
道中、いくつか街を通り抜けた。
というか、ニグートはそれなりに発展しているようで、街と街の間にも家や工場のようなものはあった。
普通に俺の時代の片田舎とそう変わらない。
未来の世界、という感じもしないが、これなら異世界という感じもあまりしない。
家は木造建築もあったし、洋風の建物もあった。
要は本当に現代日本とあまり変わらないって感じだった。
まあ、よく分からない構造物もいくつか見つけたが、それだって現代日本にもよくある。
町はずれにある謎のモニュメント、とか。
うちの近くにもあった。
そんな風景を見ながら、サラはさして懐かしそうにもせずに一応説明をしてくれていた。
ここはニグートでは有名な観光地らしいとか、ここの特産物がおいしいらしいとか。
全部の説明に、らしい、が付いていたのは、実際にサラが来たことがあるんじゃなくて、話を聞いたことがあるくらいってことなんだろう。
サラはニグートにいた時は箱入りだったようだし、ほとんど自由にさせてもらえない境遇だったらしいから、特にニグートに思い入れはなさそうだ。
それは、とても気の毒なことだけど、俺がここで同情してもサラは喜ばないだろうから、大人しく説明を聞いていた。
バイクの運転に飽きてきた頃、その街に辿り着いた。
多分、ファスタルよりもかなり大きいと思う。
ただ、大きさよりも気になったのは、その街はファスタルとは違って、区画がかなり綺麗に整理されていたことだ。
素晴らしい、と思った。
見えている範囲のことしか分からないけど、多分碁盤目状になっているんだろう。
これなら、迷ったりしないと思う。
古代のファスタルもこれに近いものがあったのに、なぜか今はぐちゃぐちゃだ。
『代表者はこの街にいます。
今日はこのまま宿に向かいますので、ついてきてください』
そう言うサラは、特に街について関心は持っていない。
まあ、地元だろうから関心も何もないか。
でも、久しぶりの里帰りだろうから、普通は懐かしんだりしそうだけどな。
それだけ、サラがニグートのことを嫌っているのかもしれない。
観光したい気分がないわけじゃないけど、今はそれどころではないし、サラにとっても辛いことを思い出させる可能性があるから、今回は用事だけ済ませることにしよう。
ちなみに、マイさんはけっこうキョロキョロ周りを見ていた。
『へえ、ここがニグート。
やっぱりトライファークとは違うものですね』
なんて言っていたから、トライファークはこことも違う雰囲気みたいだ。
『今日はここに泊まります』
サラが案内してくれたのは、それなりに大きいホテルのような建物だった。
いや、そのまんまホテルだな。
なかなか豪勢だ。
そのホテルの前のスペースにバイクを停めて、中に入る。
そういえば、ニグートの街には、人がそれなりに出歩いていたけど、みんなそれほどバイクに驚いてはいなかった。
今日は他のバイクは見かけなかったが、ニグートではバイクが走っているのは、それほど珍しいわけではないのかもしれない。
『いらっしゃいませ』
フロントの男性が丁寧に頭を下げる。
異世界っぽくない。
いや、異世界ではないから、当たり前かもしれないけど。
時代が変わっても、ホテルは変わらないんだなあ。
俺がそんなことを考えている間にサラが手続きを済ませてくれた。
『じゃあ、部屋はこっちです』
部屋割りは男2人、女2人で別れた。
護衛が離れるってのはどうかと思わないでもないが、ここはニグートだ。
危険はないだろう。
部屋に荷物を置いた後、ホテルに備え付けのレストランで夕食をとった。
『じゃあ、明日は9時くらいに、ここを出て代表者に会いに行きます。
出る前にお二人の部屋に伺いますね』
「分かりました。
じゃあ、それまでには準備を済ませておきます。
ちなみに、朝ルッツを散歩させたいんですけど、構いませんか?」
『構わないと思いますよ。
声をかけてくれたら、私もご一緒します』
「分かりました。
いつもの時間に起きて、出ていくと思うので、早いですけど大丈夫ですか?」
『大丈夫です。
私もそれくらいに起きると思いますから』
「じゃあ、出る前に声をかけるようにしますね。
おやすみなさい」
『おやすみなさい』
そこで別れた。
ホテルの部屋に入って、俺はしばらくマナの練習をすることにした。
プロッタもどきを自在に動かせたら、かなり役に立つと思っているので、早く上達したい。
おっさんは部屋に入ると、すぐにいびきをかいて寝だした。
一言も言わなかったが、多分慣れない運転を長時間、一人でこなしたので、相当疲れていたんだろう。
しばらくマナの練習をしてから、俺も寝ることにした。
いつも通り、ルッツを抱いて寝る。
そういえば、ホテルの人はルッツについて何も言わなかったけど、文句を言われなかったってことは大丈夫って思っていていいよな。
そんなことを考えていたら、ものすごい睡魔に襲われて、すぐに眠りについた。




