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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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異世界生活17日目 侵攻

「痛っ」


 ルッツに蹴られて目が覚めた。

 なんでだ?

 と思ってルッツを見たけど、寝ている。

 寝ながら動いている。

 そういえば、犬も夢を見るんだよな。

 多分夢の中で駆け回っているんだと思うんだけど、足がめっちゃ動いている。

 それで、蹴られたみたいだ。

 まあ、かわいいから許せる。

 時刻も6時だし、そろそろ起きようかな。


 コンコン


 ノックの音がした。


『ユウト、朝早くにすみません。

 お邪魔してもいいですか?』


「はい。どうぞ。」


 なんだろ?


『失礼します。

 おはようございます』


「おはようございます。

 どうかしましたか?」


 サラはあまり元気がなさそうだ。

 昨日からずっとだ。

 心配だな。


『実は、ちょっと話を聞いてほしくて』


 何があったのか話してくれるんだろうか。


「はい、どうしたんですか?」


 俺は居住まいを正して、聞く態勢になる。


『昨日、お姉ちゃんから聞かされたんですけど、【あの国】が隣国を占領したらしいんです。

 いえ、占領と言うよりは吸収らしいんですけど』


「え?ニグートが吸収されたんですか?」


『いえ、それがニグートではなく、ニグートとは逆側の国らしいんです。

 なぜかはよく分かりません。

 あの国が攻撃するならニグートだろうと、ずっと言われてきました。

 前にもご説明したと思いますが、ニグートはずっとあの国を侵略しようとしていましたから。

 ですが、なぜかニグートとは逆側の国に攻め込んだんです。

 いえ、攻め込んだ形跡はあまりないらしいんですけど。

 本当に状況がよく分かっていなくて、でも、とにかくあの国が隣国を支配下に置いたらしいです』


「それはいつのことですか?」


『正確にいつから、というのは分かっていないです。

 ですが、ここ数日のことだろうと。

 大して争ったような話も聞かないうちに、いつの間にか吸収まで済んでいたらしいんです』


「その吸収された国はよっぽど弱いんですか?」


 大して争わずに無条件降伏したってことだもんな。


『いえ、あの国やニグートほどの力はないと思いますが、弱いということはないはずです。

 まともに戦ってもあの国にすぐに負けるとは思えません。

 ニグートと正面から戦っても数日どころか、数か月は持ちこたえると思いますし。』


「それは、おかしいですよね?」


『ええ、ニグートの人間は同盟を結んでニグートに攻めるつもりじゃないかと考えているようです』


 ああ、それはありえるのか。


『でも、あの国はこれまで、どことも同盟など結ばず、最近は全くと言っていいほど交流さえもありません。

 ニグートはその吸収された国とは交流がありましたから、いきなりニグートを裏切ってあの国と同盟する、というのはおかしいです』


 俺には国同士の関係など分からない。

 色んな思惑があるんだろうし。

 でも、サラがおかしいと言うんだったらおかしいんだろうな。


『それで、ニグート本国からお姉ちゃん宛に、私を帰国させろという通達が来たみたいです』


「え?どうしてですか?」


『それが、あの国の動向を調査しろということらしいです。

 私はバイクの扱いが得意だから、効率よく調査できるだろうと』


「それはおかしくないですか?

 機動性は高くても、自国の姫に言うような命令じゃないでしょう」


『お姉ちゃんもそう言って怒ってました。

 ニグートの頭がおかしい連中の言うことに従う必要なんてないって』


「その通達はどういう人から来たんですか?」


『それは、その、そうですね。

 自分の国のことですから、悪く言いたくはないんですけど、ニグートの人間は立場が上の人間ほどプライドが高くて、高圧的な態度をとる人が多いです。

 そういう人自体はどこの国にもいるんですけど、ニグートの場合、立場が偉くなると、急に人が変わったみたいに偉そうになるんです。

 そして、そういう人が大抵あの国への侵略を支持しています。

 ニグートがあの国を攻めているのは、そういう一部の上層部の人間の強硬な意見があるからです』


 いざこざを起こしている元凶みたいな奴らがいるんだな。


『今回の通達もそういう人たちから来ました。

 まあ、送り主は代表者の名前になってましたけど』


「代表者って?」


『現在のニグートの代表です。

 私の父ですね。

 ここ数年は会ってもいないですけど。

 父も昔は他国に攻めるなんて言い出す人じゃなかったんです。

 でも、祖父から代表者を引き継いだ時から、急に変わってしまいました』


「それは、絶対に行かないといけないんですか?」


『断りたいですけど、難しいです。

 これから、お姉ちゃんと打ち合わせをして、なんとか行かなくて済む方法を考えようってことになってます。

 それでも、私はしばらくここを出ることになる可能性が高いと思いますから、ユウトには話しておかないとって思って』


 なるほど。

 それで元気がなかったのか。

 サラは自分の国とはいえ、ニグートのことを嫌っていて、この研究所のことはかなり気に入っているみたいだしな。

 なんとか行かずに済ませてあげられないだろうか。

 でも、国の問題に俺が首を突っ込むことなんてできないだろう。

 ユラさんに任せるしかないだろうか。

 なんかイライラするな。

 なぜ、サラがそんな目にあわないといけないんだ。

 場合によっては、戦争の真っ只中に調査に行けってことだよな。

 調査が必要なら、調査専門の人間でもなんでもいるだろう。

 何かサラに依頼する理由があるのか?

 

「俺に何かできることはありませんか?」


『お気持ちは嬉しいですけど、私の国の問題ですから、ユウトに迷惑はかけられないです』


「そうですか」


 俺はなんて無力なんだろう。

 本当に何もできないだろうか?


『じゃあ、お姉ちゃんの所に行きますね』


 サラはそう言って、部屋を出て行った。

 

 俺はしばらく煩悶していたが、いてもたってもいられなくて中庭に来た。

 朝練をするつもりには全くなれなかったが、そのまま落ち着いて部屋にいることもできなかった。

 中庭に着くと、おっさんを見つけた。

 おっさんはいつも通り運動していた。

 俺に気づいたおっさんはこっちに近づいて、話しかけてきた。


『ひどいツラだな。

 さては、サラから事情を聞いたな』


「知ってたんですか?」


『ああ、昨日の夜ユラから聞いた。

 今日は一日そのことについて研究所の幹部と国の役人連中で会議をすることになってる。

 だから、悪いんだが、今日はお前との地下探索は無しだ』


「そんなこと、どうでもいいです。

 サラが行かなくて済むようにはできないんですか?」


『それは難しいな。

 内政干渉になりかねんから安易に口出しもできんしな。

 ただ、ここ何十年もどこかの国が侵略されるなんて事態はなかったからな。

 ファスタルとしても、無関心ではいられんわけだ。

 そして、この研究所はファスタルの重要な戦力である調査員が集まる施設だからな。

 俺たちも他人事というわけにはいかんのだ。

 まあ、俺にできる範囲でサラの便宜も図ってやる。

 俺がせずとも、ユラがどうにかしようとするだろうが。

 だから、まあ、お前は俺たちに任せて待っとけ』


 情けないな。

 これが子どもだったら待っていればいいだろう。

 だが、俺は立派な大人だ。

 確かにこの世界に来て日は浅いし、権力なんかもないから、できることは少ない。

 でも、少なくとも今の俺にとって一番大切な人の非常事態を人頼みにしかできないなんて。

 おっさんも便宜を図ってくれると言ってるから、成すがままにはされないはずだけど。


「お願いします。

 俺は俺でできることを考えてみます」


『ああ、それは構わんが、無理に動こうとするなよ。

 何かするなら、俺に相談しろ』


「分かりました」


 おっさんは頼りになる。

 おっさんと話したおかげで少し落ち着いた。

 俺にできることは限られているが、何もできないわけじゃない。

 とにかく、情報を集めることから始めよう。


 俺は、雑貨屋の店主と話をしに行くことにした。

 


 一度、家に帰って準備を整えた。

 朝練はしていないけど、サラと話したり、おっさんと話したりしていたから、いつも家を出る時間に近い時間になっていた。

 朝飯を食う気分じゃなかったけど、ルッツのご飯もあるから、食堂で朝食をとってから、研究所を出ることにした。


 朝食後、研究所の出口でアルクさんがいるのを見つけた。


「あ、アルクさん。

 どうしたんですか?」


『いえ、プロッタもどきの調査が終わったので、返しにきました、はい。

 一応、後日報告書にして渡しますが、概要は昨日話した通りです、ええ。

 特に新しい情報はありませんが、私の方でエレクター補給は済ませてあります、はい』


「わざわざありがとうございます」


『いえ、研究所に用もありましたのでついでです、はい』


 アルクさんは俺にプロッタもどきを渡すと、そのまま研究所の中に入って行った。

 俺はプロッタもどきをポケットに入れて、研究所を出た。

 朝だから開いていない可能性もあったけど、真っ直ぐに雑貨屋に向かう。


 雑貨屋に着いて、ドアを開けた。

 カランカラン

 いつも通りのドアの音と、


『いらっしゃーい』


 というやる気のない声。

 良かった。

 雑貨屋は開いていた。


「おはようございます。

 ちょっと聞きたいことがあります」


『おう、どうした?

 ん?ちょっと待て、店を閉めて奥で話そう』


 店主は俺の様子を見て只事ではないと感じたらしい。

 おっさんにも言われたけど、そんなにひどい顔をしているのだろうか。

 店を閉めた店主に連れられて、奥の打合せスペースに入る。


『世間話って雰囲気じゃないが、なにがあった?

 厄介なことでも起きたか?』


「実は、……」


 俺は今日の朝、サラから聞いた話を店主に話す。


『それは妙だな』


「どのあたりが妙ですか?」


『いや、俺はそのトライファークに吸収された国にも行ったことがある。

 そこはニグートとは多少のつながりはあったが、トライファークとは全く関わっていなかったはずだ』


 サラもそんなことを言っていたな。


『それどころか、隣接する変人の国ってことで、トライファークのことを気持ち悪がっていたはずだぞ。

 もちろん、俺がその国を見てから何年か経つから、ここ最近で急激に関係が変わった可能性もないわけではないが。

 だがな、前も言った通り、俺がトライファークを出るときに起こった事件以降、トライファークは全く他国との交流を絶っているはずだ。

 だから、仲が悪くなることこそあれ、大した戦闘もなしに吸収されるってのはかなり不自然だ』


 確かにそうだ。

 多分、みんなそう思っているだろうが、トライファークも吸収された国も、両方の事情を知っている店主だからこそ、余計に奇妙に感じるのだろう。


「ニグートの人間はトライファークがその吸収した国と一緒にニグートに攻めてくると思っているみたいですけど」


『それも普通なら考えにくいな。

 トライファークはそれまで全くつながりのなかった他国とすぐに同盟を結べるような国じゃない。

 他国との交渉事なんてできるようなやつらじゃないからな。

 前も言ったが、トライファークは元々研究者気質のやつがほとんどの国だ。

 他国と共謀してニグートを攻めるなんて考えるような奴はほとんどいないと思う。

 それに、領土的野心なんてものはほとんどない。

 武力増強を主張する奴らも対象はあくまでニグートに対してに限っていた。

 まあ、俺もトライファークの内情のすべてが分かるわけじゃないから、推測でしかないんだがな。』


「そうですね。

 じゃあ、何が起きたと思いますか?」


『俺が思うに、トライファークの内部に今までいなかったような好戦的な奴が現れたんじゃないか。

 それも、かなりの影響力を持つような立場の人間で、だ。

 そいつが今回の隣国吸収を推し進めたとか。

 ただなあ、そうだとしても、大して争わずにってところが謎だ。

 圧倒的な戦力差を持って降伏させた、ってことができるなら可能かもしれんが、流石にそこまで圧倒的な兵器ってのは俺の知る限りではなかったはずだがな。

 もしかしたら、ここ数年でそんな圧倒的戦力を手に入れたのかもしれんな。

 そして、その戦力と好戦的な奴によって、隣国を無条件降伏させたってのならありえるか。

 ただな、そんな圧倒的戦力があるなら、同盟なんて組まずにそのままニグートを攻めると思うがな』


 なるほど。

 

「そういえば、噂でトライファークがドラゴンを倒せる兵器を搭載した飛行機を作ったって聞きましたけど」


『ああ、それか。

 それは半分当たりで半分ガセだ。

 飛行機の研究はしていたようだ。

 そして、一応作ることもできたみたいだ。

 ほとんど古代の遺物頼みだったようだが。

 だがな、トライファークはかなり狭い国な上に、他国との交流もないからな。

 そんな長距離用の移動手段なんて必要ないんだよ。

 だから、飛行機の研究はやめた、と言っていたぞ。

 ドラゴンを倒せる兵器の方は本当だ。

 エレクターを使った兵器で、古代の兵器を参考にして、自分たちでアレンジしたらしい。

 古代の兵器ほどの小型化はできなかったようだが、威力はそれなりだったようだ。

 それの開発ができたからこそ、武力増強派が勢いを増したということもある。

 それを量産すればニグートを痛い目に合わせることができると思ったんだろう。

 ただなあ、それは確かに強力な兵器だろうが、圧倒的とは言えないんじゃないか』


 小型化のできていないマナウェポンみたいなものかな。

 自分たちで作れたのなら、小型でなくても十分すごいな。

 でも、確かにそれだけで無条件降伏するような代物とは思えないな。


『やはり、トライファーク内部に何か動きがあったのは確かだろう。

 これからどうするつもりかは知らんが、ニグートを攻める可能性は高まったと考えた方がいいだろうな』


「そうですね。

 そこに調査に行くってなったら危険ですよね」


『ああ、いつ戦争が始まってもおかしくない状況だろうしな。

 それに何より、もし本当にそんな好戦的なやつ出てきたとしたら、近づいてくるニグートの調査員に手を出さないと考えるのはちょっと楽観的すぎるだろうな』


 そうだよな。

 やっぱり、そんな所にサラを行かせたくない。

 決めるのは俺じゃないんだけど、なんとかして止めたい。


「色々参考になりました。

 ありがとうございました」


『おう、何か聞きたくなったらまた来い』


 雑貨屋を出た。

 少しだけど、トライファークの状況がさっきよりも分かった気がする。

 店主の言うように、トライファーク自体に変化があったのは確かだろうな。

 だけど、それが分かってもサラを止められない。

 

 俺はかなり悩みながら裏通りを歩いていた。


『あの、サエグサ ユウトさんですよね?』


 そう、声をかけられた。


「はい?」


『ユウトさんで間違いありませんか?』


「はい、俺はユウトですけど……」


 と振り返りながら、声をかけてきた人を見て、気づいた。

 こないだぶつかった人だ。

 なんで俺の名前を知っているんだ。


『良かった。

 あっ逃げないでください。

 怪しいものではありません』


 なんかめんどくさい空気を感じたので、立ち去ろうとしたが、止められた。

 そして、どこかで聞いたような怪しい人間が言いそうなセリフを言われた。

 俺は警戒を強めて返答する。


「どうして俺の名前を知っているんですか?」


『あの、大きな声では言えませんが、私はトライファークから来ました。

 お話があるんです』


 質問の答えにはなっていないが、トライファークだと?

 いいタイミング、なのか?

 なぜ俺に?

 

「トライファーク?

 本当ですか?」


『ええ、証拠はありませんが、嘘ではありません』


 確かに嘘を言っている感じはしない。

 それに、この国ではトライファークという名前を口に出す人間なんてそういない。


「分かりました。

 とにかく、ここでは目立つので、場所を変えましょう」


 俺は場所を変えて、話を聞くことにした。

 



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