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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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古代遺跡 フォーサル

 俺はサラとルッツと一緒に辺境の遺跡フォーサルの中に入った。


 守備隊の人たちは既に中に入っている。

 何日も入れなかった遺跡だから、かなり張り切っているみたいだ。

 もっと警戒した方がいい気もするけどな。

 罠もあるかもしれないし。

 まあ、腕の立つ調査員の人たちってことだから、その辺は心得てるだろうけど。


 今の所、左右の部屋か奥の扉が調査対象だと思うけど、奥の扉は既に守備隊の人が群がっているし、右の部屋にも何人か入っていくのが見えたから、俺は左の部屋を見てみることにした。

 

 その部屋に入ると、中に大掛かりな機械が置いてあるのを見つけた。

 見つけた、というか、部屋の大部分をその機械が占有していた。

 機械がでかいのもあるけど、部屋自体もそれほど広くはなかった。

 その機械はいかにも映画に出てきそうな感じの装置だった。

 と考えて、ふと思い出したが、そういえば、雑貨屋の店主が、トライファークにあったトリップ装置は映画に出てきそうな機械だったって言ってたな。

 一応、店主にはその装置の外観上の特徴も少し聞いている。

 目の前にある装置はその特徴と一致している、と思う。

 もしかして、これは店主が言っていたのと同じ装置なのか?

 だとすれば、俺がトリップしてきたのは、この装置を使ってなのか?

 正確なことは一切分からないが、俺はトリップしてきた時、この辺境にいたから、この装置がもし転移装置なんだとしたら、俺がこれでトリップしてきた可能性はあると思う。

 雑貨屋の店主は、俺が辺境にいたのは、トライファークから辺境へ移動した記憶がなくなっているからだと思っていたみたいだが、スマホの時計がトリップ前とトリップ後でほとんど進んでいなかったことを考えると、俺自身は自分の記憶は飛んでいない可能性が高いと思っている。

 ただ、もし俺がこれを使ってトリップしてきたんだとしても、俺はこの部屋に見覚えはないから、こっちにトリップしてきてからこの遺跡を出るまでの記憶はないのかもしれないな。

 でも、俺のおぼろげな記憶では、この遺跡は俺が最初にいた場所にとても近い気がしたから、やっぱり俺はこの装置でトリップさせられた可能性が高い気がする。

 そうだとすると、俺をこっちの世界に呼んだのは誰なんだ?

 見た所、この遺跡に人はいないように思える。

 いや、奥にはいるかもしれないけど。

 ファスタルの地下みたいに誰も入った形跡がない、ということはないから、もしかしたら人の出入りはあるのかもしれない。

 でも、キュクロプスがいたから、普段から人が近づけるような場所じゃなかったはずだ。

 もしかして、キュクロプスを倒した奴が俺をトリップさせたとか?

 それだと、わざわざ強力なモンスターを倒してまで俺をトリップさせたのに、俺に会わずにどっか行ったってのはおかしい気がする。

 苦労して俺を呼んだんだとしたら、何かさせたいこととか目的があったはずだし。

 だとすると、キュクロプスを倒したやつと俺は無関係なのか?


 うーん、さっぱり分からない。

 情報が足りなさすぎる。

 だが、折角見つけた手掛かりだ。

 何か収穫がほしい。

 せめて、この装置が転移装置かどうかだけでも知りたい。

 あ、そうか。

 スマホがあるんだから、写真を撮って雑貨屋の店主に見せて確認すればいいか。

 

 そう考えた俺は、かばんからスマホを取り出して電源を入れた。

 サラに見られると色々聞かれそうだったから、こっそりとだ。

 電源が入ったのを確認した後、シャッター音を消して撮影できるアプリを使って装置の写真を撮った。

 よし、サラにはバレていない。

 なんかこっそり撮ってると、盗撮してる気分になってくるな。

 非常に後ろめたい。

 別に悪いことはしてないけど。

 

 あとは、どうするか。

 何か他に情報はないだろうか。

 俺は、装置自身を調べることにした。

 

 大掛かりな装置、というのは一目見て分かっていたが、細部はかなり精密なようだ。

 巨大なタワー型パソコンっぽい箱とそこから延びる各種ケーブル、レーザーが出そうな突起?など、よく分からない部分がほとんどだが、複雑な構造になっている。

 今は電源が入ってないっぽいけど、どうにかしたら起動できるんだろうか。

 装置の横にはディスプレイっぽい鏡面の部分があるが、電源が入っていないとただの黒い板だ。

 イメージとしては、近未来の大型マシニングセンターって感じだな。

 マシニングセンターってのは製造業にはお馴染みの工作機械だ。

 俺は職業柄、何度も見たことがある。

 操作方法は分からないが。

 そういえば、どこかにこの装置の取説かメンテナンスマニュアルでもないだろうか。

 使い方が分かれば、元の世界に帰れるかもしれない。

 帰りたいわけではないけど。

 できたら俺がこの世界にトリップさせられた理由は知りたい。

 だから、今は少しでも情報がほしい。

 

 それから、俺はその装置の周りを色々調べてみた。

 装置の横の部分にあった収納っぽい空間とか、装置自体の下とか、くまなく調べた。

 本当は勝手にいじったらまずいのかもしれないが、俺のトリップに関係があるかもしれないから、思いつく限りの所は全て確認した。

 そして、非常に狭い隙間みたいな所に小さなケースが隠してあるのを見つけた。

 いや、隠してあるのかどうかは分からないけど、それくらい見つけにくかったってことだ。

 サイズはA4の書類が入るくらいで、材質はアルミか何かの軽い金属のようだ。

 何が入っているのかは見えない。

 ロックがかかっているようで、開けることもできない。

 マナでロックを解除するタイプかと思って、マナを使ってみたが、全く反応しなかった。

 専門家に聞いてみることにする。


「サラ、こんなものを見つけたんですけど。

 これってマナを使って開けるものじゃないんですかね?」


『どうでしょう。

 ちょっと見せてもらっていいですか?』


 サラにケースを手渡す。

 サラはしばらく触って何かを確かめていたが、


『多分、マナを使って開けるもので合っていると思いますよ。

 でも、エレクターが切れてるから反応しないんじゃないですか?』


 なるほど、そんなこともあるんだな。

 確かにマナを使ったって、エネルギー切れじゃ動きようがないよな。


「ちなみに、これは俺が研究所に持って帰ってもいいんですか?

 守備隊に渡したほうがいいですか?」


『遺跡での発見物は原則、発見者のものになりますから、ユウトが持っていていいと思います。

 でも、守備隊にもお姉ちゃんにも報告はした方がいいと思います』


「分かりました。

 エレクター切れに関しては、アルクさんに相談したらなんとかしてもらえるかと思うんですよ」


『そうですね。

 それがいいと思います。

 普通は動力切れの発掘品でエレクターの補給方法が分からないものは、がらくた扱いされることが多いみたいですけど、アルクさんくらいのエレクター技師だったら何とかできるかもしれないです』


 その後もしばらく装置周辺を調べたが、他には特に何も見つからなかった。

 その部屋には装置以外は何もないので、次はもう一つの部屋を調査することにした。


◇ 


 もう一つの部屋は簡易的な休憩所だったのだろう。

 ベッドらしきものとテーブルや椅子がおいてあった。

 らしきもの、と言うのは、あまり原型を留めていないからだ。

 ベッドはフレームだけが残っている状態だった。

 テーブルと椅子は足が折れていた。

 でも、年季が入って壊れたというよりも誰かが暴れて壊したみたいにも見えるんだよな。

 どっちにしろ、その部屋には特に役立ちそうなものはなかった。


 最後に奥の扉に近づいた。

 守備隊の人が何人かいるが、どうやらこの扉も入り口と同じで開かないらしい。

 ファスタルの地下にあったドアにしてもそうだけど、どうして遺跡のドアってのは開かないものばかりなんだろう。

 そんなもんなのだろうか。

 まあ、遺跡って言っても元は誰かが使っていた施設だろうから、誰でも入れる状態が好ましくないってのは分からないでもないけど。


「サラ、この扉も入り口と同じですかね?」


『分からないけど、調べてみますね』


 そう言って、サラは扉に近づいた。

 守備隊の人たちもサラに任せる気らしく、すぐにどいてくれた。

 まあ、守備隊の人が何日かかっても開けられなかった入り口のドアをサラはあっさり開けたからな。

 サラは扉に触れて何かを調べていた。

 俺には何をしているのか分からない。


『うーん、一応マナを使うと反応はあるみたいですけど、入り口ほど複雑なことをしなくても良さそうです。

 ですけど、この扉も鍵か何かがないと開かないような気がします』

 

「鍵、ですか?

 入り口と同じ石で試してみます?」


『そうですね。

 多分違うと思いますけど、一応試しましょう』


 サラはそう言って、扉に触れてマナを使い始めた。

 入り口みたいに幾何学模様は現れなかった。

 今度は単純に扉の中央部分が光っているだけだ。

 俺は入り口の合鍵の石を当てる。


 反応はなかった。


『やっぱり違うみたいですね』


「だとすると、またこの遺跡のどこかに合鍵があるんでしょうか?」


『その可能性はあると思いますけど、何とも言えませんね』


「一応、ちょっと探してみましょう」


 それから、俺とサラは遺跡の中に合鍵がないかを探してみた。

 守備隊の人もサラの話を聞いていたので、一緒に探してくれた。

 何人かは自分で扉を開けようとして武器で攻撃したりしていたけど。


 そういえば、ルッツは遺跡に入ってからずっと、入り口すぐの空間の真ん中辺りに座って、奥の扉の方をじっと見つめている。

 俺が隣の部屋の探索をしている時もついてこなかった。

 モンスターの気配を感じ取ったのかと思って、少し警戒したが、


「ルッツ何かいるのか?」


 と聞いても、


『わう?』


 みたいな感じではっきりとしなかったので、多分大丈夫だと思う。

 ルッツはモンスターを見つけたときはかなり緊張した感じになるから、態度を見れば今はそうじゃないのが分かる。

 まあ、扉の向こうの様子ははっきり分かっていないだけかもしれないけど。

 


 しばらく奥の扉の合鍵を探したが、見つからなかった。


 俺とサラは遺跡の入り口の調査をするために来たので、入り口の扉が開いた時点で一応の目的は達している。 

 奥の扉が開かないせいで、達成感とかは全くないが。

 ただ、あまりここで深入りして調査するつもりもなかったので、後のことは守備隊に任せてファスタルに帰ることにした。

 

『すみません、お役に立てず』


 サラはそう言って、守備隊の人に謝っていた。


『いえ、入り口が開いただけでも大きな前進ですよ。

 奥の扉は複雑なマナの制御は必要ないということですし、私たちで開けることができるかもしれません』


 守備隊の人はそう言ってくれた。

 このまま遺跡の継続調査をするつもりのようだ。


『ここまでの状況は研究所で報告しておきますから、後のことはお願いします』


『ええ、気をつけて帰ってください』


 そんなやり取りを最後に俺とサラとルッツはファスタルに帰ることにした。

 


 帰りのバイクではしばらく辺境の遺跡の話をしていた。

 分からないことが多いし、まだ入り口が開いただけで調査する場所もあまりなかったが、古代の遺跡であることは確定したと思う。

 転移装置らしきものを見て、守備隊の人たちもサラもこんな機械があるのは古代の遺跡だけだ、と言っていたし。

 俺としては、失礼ながら守備隊の人たちでは奥の扉を開けることはできないんじゃないか、と勝手に思っていたが、サラ曰く、あの人たちは優秀だから、マナの制御が必要ないなら、自分よりも奥の扉も開けられる可能性は高い、とのことだった。

 サラがそう言うんだから、あの人たちは本当に優秀なんだろう。

 後のことは任せて良さそうだ。

 俺ができることとしては、まずは遺跡で見つけたケースを開けられるようにすることが第一だな。

 もしかしたら、このケースの中に奥の扉の鍵とか入ってたりして、と思ったりもしている。

 もしそうなら、見つけたらすぐに持って行って守備隊の人に渡そうと思っている。

 もちろん、俺自身も奥の探索には同行させてもらうが。

 俺のトリップに深く関わっている可能性が高い遺跡だ。

 できたら、もっと調査したい。

 まあ、現状ではこれ以上どうしようもないが。


 それからは、辺境に関して話すこともなくなり、雑談をしながら帰っていた。

 その中で、サラが好きなこの世界の童話を話してくれた。

 なんでも、トライファークの童話らしい。

 サラはニグート出身だからこの童話が好きなことは内緒なのだそうだ。

 なぜなら、トライファークの英雄が大活躍する話で、ニグートの偉い人たちにはかなり毛嫌いされる類の話だからだ。

 サラが知っているのは、たまたま学院にいた物知りな人が教えてくれたからだそうだ。

 学院に入るまでは、ずっと家族がべったりくっついていたので、トライファークのことなんか聞かされることはなかったらしい。

 隣にある忌々しい国、とか言われていたとのことだ。

 だから、学院でその話を聞いたときはとても新鮮でおもしろく感じたようだ。

 俺の想像では、サラはニグートの偉い人間のことを気持ち悪いと感じていたらしいから、そんな人間が毛嫌いしているトライファークの印象は悪くなかったんではないだろうか。

 皮肉な話だと思う。

 話自体はよくある英雄譚という感じだった。

 トライファークの英雄が様々な困難に勇気と知恵で立ち向かう、というような。

 教えてくれた人が言うには、かなり脚色はされているが、これは実在の人物を基にした話らしい。

 トライファーク内部でもこの人物に対する評価は二分されていて、この英雄譚も好きな人と嫌いな人がいるとか。

 その英雄の外見的特長がきれいな黒髪、黒目ということで、サラは黒髪、黒目の人に憧れている、と言っていた。

 俺は黒髪、黒目なのでひゃっほう、と思ったが顔には出さないようにする。

 ただ、トライファークは黒髪、黒目の人が多いから、その英雄は特に特徴的な人間というわけではないようだ。

 ニグートにもファスタルにもそれなりに多いらしいし。

 ただ、サラ曰く、きれいな黒髪、黒目の人は珍しいんだとか。

 何フェチだ?と思ったが、サラなりの基準があるんだろう。

 フェチの話は同じフェチの人にしか分からないと思う。

 うん、どうでもいいな。

 ちなみにサラは話の間、ずっとトライファークのことをあの国と言っていた。

 本当に徹底している、というかそれが普通のことになっているんだろう。

 別に名前を隠すことにそれほど意味なんてないんだろうに、習慣というのはすごいもんだ。


 そんな下らない話をしながらファスタルに帰ってきた。

 戻ってきたころには日が落ち始めていたが、そんなに遅くない時間に帰ってこれたのは良かった。

 おっさんと地下探索の打ち合わせもしたかったし。


 研究所に着くと、サラはすぐにユラさんに報告するということで、研究所内の会議室に連れて行かれた。

 俺は初めて入る部屋だったが、こんだけでかい建物なんだから、会議室くらいあるよな。

 俺とルッツはそこでしばらく待たされたが、すぐにサラがユラさんを連れて戻ってきた。

 それから、辺境でのことを話した。

 俺が発見したケースもユラさんに見せた。

 とても興味を持っていたようだが、ちゃんと返してくれた。

 遺跡での発見物は発見者のもの、というのはこの世界の常識らしい。

 結論としては、それほど分かることは多くなかったしもう少し調べたいが、あとのことは守備隊に任せよう、ということになった。

 そう話していたところ、


『入るぞ』


 という声とともにおっさんが会議室に入ってきた。


『おう、ご苦労さん。

 もう話は済んだのか?』


「ええ、大体説明は終わりました」


『あとで、俺にも簡単に報告してくれ。

 俺の用件は、地下の探索の方なんだが、早速始めていいか?』


『ええ、構わないわ』


 ユラさんがそう答えた。

 それから、明日の地下探索について、おっさんと打ち合わせをすることにした。





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