13日目終了 古代種対策
『じゃあ、始めるか。
おい、入って来い』
おっさんが部屋の外に向かって言う。
すると、白衣を着た研究者らしき人が入ってきた。
『コイツはここの研究員だが、古代種研究会にも所属している。
今回はコイツの知恵を借りる』
『どうも、研究員で古代種研究会のカトーです。
今回はよろしくお願いします』
ふむ、加藤さんか、いや、カトーさんだ。
なんでもいいけど、苗字みたいな名前だな。
見た目の印象はモブっぽい、というかあんまり特徴のない普通の人って感じだった。
こっちの世界に来てから、会う人みんな個性的だったから、逆に新鮮だな。
「よろしくお願いします。
ユウトです」
『はい。
統括から話は聞いています。
それで、古代種のことですけど』
「ええ、俺たちが見つけたのは古代種で間違いないんでしょうか?」
『そうですね。
統括から聞いた外見からして、這いずりしもので間違いないと思います』
『だそうだ。
大方の事情は既に話してある。
だから、今は対策について話そう』
「分かりました。
じゃあ、単刀直入に聞きますけど、這いずりしものは倒すべきなんですか?
それとも普通のモンスターがいる方に行くべきですか?
いえ、そもそも地下探索は諦めて調査を放棄すべきですか?」
『ええとですね。
これは私の考えなので、完全に正しいとは言えないのですが、おそらく現状では這いずりしものを倒すしかない状況だと思います』
ちょっと意外だった。
論文などを見た感じでは、古代種研究会の人はあまり古代種を倒したがらないような印象を受けていたから。
「それはどうしてですか?
俺が言うのもおかしいかもしれませんけど、古代種は貴重な存在なんでしょ?」
『ええ、貴重です。
ですが、それ以上に恐ろしい存在でもあるのです。
古代種と言っても、それぞれ個性がありまして。
這いずりしものは比較的初期の頃に生み出された古代種だとされています。
そのせいか、後に生み出されたものよりも気性が荒く、知能も低いとされています。
いつからファスタルの地下にいたのかは分かりませんが、ここ数年という話ではないでしょう。
その間、地上を攻撃してこなかったのは確かですが、人間が近づかなかったからだという可能性が高いです。
今は、もう統括とユウトさんに見つかっていますから、人間を排除しに地上に出てきてもおかしくありません。
出てこられたら、ファスタルの街がどうなるのかは想像に難くありません。
そうなる前に対処する必要があります。
もちろん、地上に出てくる可能性は非常に低いのですが、出てきてもおかしくはない状況だということです』
「でも、あのときは寝ていたっぽいですし、俺たちがいた場所は距離も遠かったですよ。
気づいていないって可能性もあるんじゃないですか?」
『いえ、あなた方から見える位置まで近づいたのなら、確実に気づかれているでしょう。
攻撃を仕掛けてこなかった理由は分かりませんが、人間が近づいたのが久し振りだったので、様子を見ていたのかもしれません』
「這いずりしものは奥にあるものを守っているようなんですけど、古代種にとって大切なものってなんなんですか?」
『はっきりとは分かりませんが、文献によれば古代種は出された命令を忠実に守るように作られているそうです。
誰からの命令かは分かりませんが、這いずりしものは奥にあるものの守護を命じられたのでしょう。
ですから、這いずりしものにとって大切なものは、奥を守護するという命令でしょう。
奥に何があるのかではなく、奥にあるものを守護するように命じられたことが重要なんだと思います』
「なるほど。
命令は変えることはできないんですか?」
『古代にはできたでしょう。
ですが、今は古代種を制御する方法は失われています。
ただ、一部高位の古代種は人語を理解しますから、そういった種なら、対話してこちらの希望を伝えることはできると思います。
ですが、さっきも言ったように這いずりしものは知能が低いので、対話することは難しいかと思います』
「分かりました。
ただ、奥にあるものを守護するのが目的なんだったら、古代種を倒さなくても、大量のモンスターの方を倒してしまうって方法もあるんじゃないですか?
その場合、モンスターを倒して、奥の部屋に到達した時点で古代種の命令はなくなったことになりませんか?」
『多分それは色々な意味で難しいでしょう。
私は直接見ていませんが、かなりの数のモンスターがいたんでしょう?
だったら、倒すのにはそれなりの時間がかかると思います。
ですが、倒すのに手間取っていたら、多分壁を破壊してでも這いずりしものはモンスターがいる道の方に現れると思います。
這いずりしものは遠距離から攻撃しないとまずいので、狭い通路に来られるとお手上げだと思います。
もし仮に成功したとしても、命令がなくなった這いずりしものがどんな行動を取るか予測ができません。
もしかしたら、そのままそこに留まるかもしれませんし、命令がなくなったら地上に出てくる可能性もあると思います』
「なるほど。
それはまずいですね。
逆に這いずりしものと戦っている最中にモンスターが這いずりしものの方に来る可能性はありませんか?」
『ないとは言えません。
そちらもあまりに長い時間をかければそうなる可能性はあります。
ですが、這いずりしものは自分が倒されることを考えないと思いますので、助けを呼ぶようなことはしないと思います』
なるほど。
確かにそうだな。
「じゃあ、古代種を倒すのが最善ということですね。
倒す方法はあるんですか?
統括は相性が悪いって言ってましたが」
『そうですね。
実は、這いずりしものに関しては、文献に倒す方法、というか相性のいい武器が記載されていました』
「それは何ですか?」
『マナウェポンです』
『え?』
サラが驚いている。
「それはなぜですか?」
『そもそも、這いずりしものが厄介なのは、名前の由来になった逸話を作っている体液が非常に強力だからです。
その体液は高い毒性と揮発性を持っています。
直接皮膚に付着すれば、すぐに皮膚が溶けてしまうようです。
また、触れなくても、体液が外部に流出すれば、すぐに揮発して有毒なガスになります。
今回の場合は、場所も非常に悪いと言えます。
地上であれば、少々有毒なガスが発生してもすぐに拡散しますので、致命的な状況は避けられると思います。
ですが、今回は地下ですので、ガスはどんどん溜まっていって、すぐに致死量を超える濃度になるでしょう』
「それはそうなのかもしれませんが、では、なぜマナウェポンが有効なんですか?」
『それは、文献によると、マナウェポンから出る弾はかなりの熱量を持っているようです。
そして、うまくマナを制御するとかなりの大きさの弾が出せるらしいです。
その弾を用いれば、這いずりしものの外皮を破壊しながらも、同時にその高い熱量で焼くことで傷口を塞ぎながらダメージを与えることができます。
それによって、体液を撒き散らすことなく、倒すことが可能なようです』
現代における電気メスもそんなような作用があるとか聞いたことがある気がする。
高い止血作用を持っているとかなんとか。
電気メスは間違ってるかもしれないけど、傷口を焼いて塞ぐってのはよく聞く方法だよな。
でも、それって、
「じゃあ、這いずりしものを倒すのにはマナウェポンが必要なんですね。
マナウェポンは誰にでも使うことはできるんですか?」
『それは無理です。
私にしか使えないようになっています』
サラが答えた。
『だから、古代種討伐にはサラにも参加してもらわざるを』
とおっさんが言いかけたが、
「ダメです」
『ダメよ』
俺とユラさんが遮った。
「古代種の討伐なんかにサラを連れて行くことなんて、できません」
『気持ちは分かるがな、それが最善なんだ。
危なくなったら、俺とお前で援護して逃がせばいい。
遠距離から攻撃する役目だから、直接的な危険はそれほどないはずだ』
「それはそうかもしれませんが、何があるか分かりませんし」
『私は大丈夫です。
マナウェポンが役に立つなら、私も連れて行ってください』
サラは真っ直ぐな目でそう言ってくる。
『でもね、サラ。
古代種よ。
危険よ?』
『大丈夫よ。
統括とユウトなら余裕で倒せるんだから。
ですよね、ユウト?』
ぐはっ。
そう言えば、今日の朝、辺境に行くときにバイクで確かに俺はそう言った。
まさか、こんな形で返ってくるとは思っていなかったが。
サラを心配させないための嘘なんだけど、今更嘘とはいいづらい。
仕方ない、おっさんの言う通り、何かあったら俺とおっさんが盾になってサラを逃がそう。
「分かりました。
じゃあ、サラにも一緒に来てもらいましょう。
統括、すみませんけど、危険になったら俺と一緒に命懸けでサラを守ってくれますか?」
『言われるまでもない。
俺たちが不用意に古代種に近づいたせいで、今後ファスタルが危険になる可能性ができたんだからな。
その責任は取る必要があるだろう。
俺にできることはなんでもやる』
確かに、俺たちが近づかなかったら、今までと同じように地上には何も起きなかった可能性が高い。
カトーさんの言うように、地上にモンスターが出てくるリスクを作ったのは俺とおっさん、と言うか、地図の印の地点に行きたいと言い出したのは俺だ。
ほとんどの責任は俺にあるだろう。
もちろん、地下探索を進めれば、いずれ同じ状況にはなっていたかもしれないが、それは結果論だからな。
おっさんはそれを一切指摘せず、俺と一緒に責任を取ってくれると言っている。
お前のせいでこんな状況になった、と非難されても仕方ないのに。
やっぱり、おっさんは上司にしたい男No.1だな。
「ありがとうございます。
そういうわけですので、ユラさん、すみません、サラを地下に連れて行きます」
『しょうがないわね。
でも怪我一つさせたら承知しないわよ』
「ええ、分かっています。
それで、話を戻しますけど、マナウェポンを使うとして、それだけで古代種を倒せるものですか?
例えば、もっと人を集めて銃か何かで援護とかした方がいいんですか?」
『いえ、銃なんかで攻撃したら、それこそ大量の体液を噴出させることになるでしょうし、不要です。
それに、あまりに大量の人間が近づいたら、気配を察した古代種がモンスターを呼ぶかもしれません。
自分が負けるとは思っていなくても、大量の人間を自分だけで相手するのは嫌がるでしょうから』
「じゃあ、俺と統括とサラとルッツで行くのがいいですか?」
『私も行きます。
折角、古代種を見られるチャンスなのに行かない手はありません。
倒した後は、細胞のサンプルも取りたいですし』
「危険ですよ?」
『分かっています。
最悪、古代種に殺されるなら、古代種研究会員としては本望でしょう』
うわ、すごいな。
研究者気質なんだろうか。
ちょっと、違う気もするけど、本人がいいって言うならいいか。
「分かりました。
ちなみに、這いずりしものに攻撃するのはサラだとして、俺と統括はどういう風に援護できますか?」
『それはですね、ちょっと言いにくいんですが、気を逸らす役目というか、分かりやすく言えば、的になってほしいんです。
古代種を攻撃するのがサラさんだけだと、すぐにサラさんが古代種に狙われます。
ですから、外皮を傷つけない程度の攻撃を行って、古代種の狙いを自分に向けてほしいんです』
なるほど。
要はヘイトを稼げってことね。
ゲームと一緒だな。
盾役が的になっているうちに高火力の味方が倒すと。
「分かりました。
じゃあ、役割分担はそれでいいですね」
『まあ、安心しろ。
その役目の中心は俺が引き受ける。
お前はヨーヨーを使って、俺の援護だ』
「いいんですか?
統括だとかなり近づかないと攻撃できないでしょう?」
『大丈夫だ。
回避に専念すれば、どんな相手でもなんとかできる。
逆に近接戦で囮にならないと、なかなかこっちに引き付けるのは難しいだろう。
お前より俺に向いている役割だ。
お前のヨーヨーこそ、あの威力を直接這いずりしものに向けたら、囮では済まんだろうし、大量の体液を撒き散らすことになるだろう。
だから、お前はヨーヨーを使って、這いずりしものの周囲を爆発させて、進路を俺に向かわせるようにしろ』
「分かりました。
申し訳ないですけど、それでお願いします」
『ああ、作戦はそんなところだな。
明日早速討伐に向かおう。
他に何かあるか?』
特にみんな問題なさそうだ。
『じゃあ、明日の朝、中庭で今話した作戦を少し練習してから、地下に向かおう』
「分かりました」
這いずりしもの対策はそこまでにした。
その後、俺は辺境の調査に関しておっさんに報告をした。
おっさんも辺境の調査はしばらく守備隊に任せればいい、と言っていた。
会議室の打合せ後、食堂で夕食を取ってから家に帰ることにした。
食堂からの帰り道、総務課に寄ってフォーサルで発見したケースを担当者に渡して、アルクさんに解析とエレクターの補給を依頼するようにお願いした。
もちろん、相応の報酬を払ってお願いするつもりだ。
その辺りは担当者の方でうまく処理してくれるらしい。
アルクさんが受けてくれるかどうかは分からないが、連絡だけは明日中には済ませてくれるようだ。
家に帰った時には、もういつも寝ている時間くらいになっていた。
「明日に備えて、今日はもう寝ましょう。
サラはずっとバイクの運転もしてくれて疲れているはずですし」
『そうですね。そうします。
じゃあ、おやすみなさい。
明日はがんばりましょう』
「おやすみなさい」
それから、すぐに寝ることにした。
明日は大変なことになりそうだけど、うまくがんばろう。
何かあってもサラだけは怪我をさせないようにしよう。
少し緊張していたが、長距離移動の疲れもあったのか、すぐに眠りにつくことができた。




