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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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地下探索

 おっさんに従って地下に降りる。


 前と同じでかなり暗かったが、今日は照明があるので、それなりに視界ははっきりしている。

 降り切った所で一度周囲を照らしてみた。

 降りた場所はトンネルの途中のようになっていた。

 見える範囲では何もいない。


「前は降りてすぐにサラマンダーに襲われました。

 今日はいないみたいですけど」


『ああ、そのようだな。

 決まった場所にいるとは限らんから、前はたまたま運悪く出くわしたのかもしれん。

 いないならいないで構わんから、マッピングを始めるか。

 気は抜くなよ』


「ええ、分かってます」


 そう言いながら、階段を降り切った地点で原点用プロッタを設置する。

 それからは、いつも通り10mおきくらいにプロッタを設置してマッピングを始めた。

 

 マッピングを始めてから、30分くらいは何も起きなかった。

 物音もしなかったし、何かを見つけることもなかった。

 そのまま、今日はけっこう何事もなく進むかもな、なんて期待をしかけたところでルッツが


『うぅー』


 と唸りだした。

 俺には何も感じられないが、ルッツが唸るということは何かがいるんだろう。


「統括、多分なにかいる」


『ああ、この奥だろうな。

 気配を感じる』


 おお、おっさんは察知している。

 犬並、ってか獣並の感覚とかありそうだもんな。

 いや、なんか緊張感無いな。

 もっと警戒しないと危ない。

 そう考え直して、俺も周囲を警戒しながら進む。


 ルッツが唸り始めてから50mくらい進んだところで、先の方に何か見えてきた。

 

「統括、あれって」


『ああ、サラマンダーだろう。

 なぜあんなに集まっているのかは分からんが』


 おっさんの言葉通り、道の先にはサラマンダーが10匹くらい群れているようだ。

 その姿を見て、先日の記憶が甦る。

 一気に俺の緊張感が高まっていく。


「サラマンダーってのは元々群れるもんじゃないんですか?

 前に襲われた時も、あれよりは少ないけど、群れてましたよ」


『いや、普通は一匹か番いでいることが多いな。

 たまに子供も一緒にいるやつがいるが、あのサイズが群れているのは俺は初めて見る』


「どうします?

 引き返して違う道を進みましょうか?」


『いや、あの程度の数のサラマンダーは問題ない。

 このまま進むぞ。

 それに、早いうちにあのサラマンダーが普通のやつなのか、特殊なやつなのか把握しておく必要がある』


 それは確かに一理あるな。

 あの数が問題ないなら、問題なさそうなうちに敵の情報を仕入れておくべきた。

 余裕がなくなってから調べようとしたって危険が増すだけだし。

 俺はすでにちょっとびびってるけど。


『俺が行って倒してくるから、お前はここで待っとけ』


「分かりました。

 もしあのサラマンダーが特殊なやつで、危なそうならすぐに撤退しますから、逃げてきてください」


『ああ、分かってる。

 まあ、問題ないと思うがな』


 そう言いながらおっさんは一人で進みだした。

 ルッツもついて行きそうになったが、俺が引き止めた。

 ルッツは意外と好戦的なんだろうか。

 遊んでいるつもりになってそうで怖いけど。


 おっさんが近づいている途中でサラマンダー達もこちらに気づいたらしい。

 気づくと同時にそこにいたやつ全てがおっさんに向かって進み始めた。

 おっさんはそれを気にした風もなく、さらに近づいていく。

 おっさんとサラマンダーの距離が2mくらいまで近づいた所で、いきなりおっさんが群れの中に飛び込んだ。

 本当に文字通り飛び込んだ。

 すごい跳躍力で、群れの真ん中に突っ込んで、そこからは何と言えばいいだろうか。

 ライオンがうさぎの群れに飛び込んだような感じだった。

 手あたり次第にサラマンダーをぶっ飛ばし始めたのだ。

 サラマンダーが雑魚だからなのか、おっさんのスタイルがそうだからなのかよく分からないが、特になんの戦略もなく、ただただ襲ってくるやつをぶん殴っている。

 殴られたサラマンダーは壁に激突して動かなくなっていく。

 体が変に折れ曲がっているから、もう息はないだろう。

 

 おっさんが群れの中に飛び込んで5分も経っていないんじゃないだろうか。

 すぐに決着はついた。

 相手にならなかったようだ。

 おっさんは息も切らしていない。

 むしろ見ていた俺の方が緊張で息が切れそうになっていた。


『おーい、もう来ても大丈夫だぞ』


 そんなおっさんの声に俺は一息ついて緊張状態を解いた。

 

 おっさんに近づくとまさしく死屍累々といった有様だった。


「どうでした?

 何かおかしい所とかありました?」


 俺はまだちょっと緊張していたが、努めて冷静に話す。


『いや、群れてはいたが、ただのサラマンダーだろうな。

 近づいたら突っ込んでくるだけだ。

 特に強力な個体がいる、ということもなかったと思うぞ』


「そうですか。

 それは良かった、のかな。

 まだ分かりませんが。

 じゃあ、サラマンダー自身が変わっているのではなく、この地下という場所に原因があって、群れる行動を取っているのかもしれませんね」


『そうだな。

 動物が群れる理由ってのは外敵から身を守るためってのが大半だろうが、この場合はどうだろうな』


「そうですね。

 もしそうだとしたら、ここにサラマンダーを捕食するような別の生物がいる可能性が高いでしょうし」


『まあ、サラマンダーの餌場がここにあって、それで集まってたってのもなくはないんだろうが。

 どう見ても餌場には見えんしな』


「ですねえ。

 見た所、何もないですし。

 外敵から身を守るにしても、物陰でもないですから、ここが身を守るのに適しているとも思えないんですけど」


 うーん、どうもすっきりしないな。


『どちらにしても、現状では何も分からん。

 もう少し探索を進めるか。

 出てくるモンスターがサラマンダーならば、多少数がいようが問題ない』


 そうでしょうね。

 さっきもサラマンダーが憐れなくらいでしたしね。


「はい。

 ちなみにこのサラマンダーの死体はどうするんですか?」


 ゲームのように倒した敵が消えることはない。


『サラマンダーの肉は食うとうまいんだが、今は必要ないし、荷物を増やすのも良くないからな。

 腐ったら困るから、倒した後は焼くか埋めるかするのが普通だが、ここでは埋められないし、焼くしかないだろう。

 ここの空間の広さがよく分からんから、あまり火を点けたくはないんだが、仕方ないな。

 だが、念のために焼くのは帰りにする。

 帰りだったら、俺たちはすぐに地下を出るから、影響は少ないだろう』


 狭い地下で火をつけるのは危ないからな。

 酸素濃度が低下することもあるみたいだし。

 おっさんよくそんなこと知ってるな。

 というかこの世界でもそういう常識があるんだな。

 いや、そういう意味で言ったのかどうかは分からないけど。

 まあ、見た所、この地下空間はかなり広いから大丈夫だとは思う。


「分かりました。

 じゃあ、先に進みましょう」


 それから、またマッピングをしながら探索を続けた。

 しばらくマッピングを続けていたが、この地下もファスタルの裏通りと同じでかなり分岐があった。

 初めてここに入ったから、迷ってもおかしくはなかったが、ある程度行きたい方向が感覚で分かったので、迷いはしなかった。

 もちろん、地図を作成しながら進んでいるからというのが大きいが、分岐が裏通りと同じような規則性に則っているっぽいから、というのも理由の一つだ。

 レオンハルトさんが言っていたが、古代のファスタルの地図には地下が書かれているらしい。

 その地図と今マッピングしている地図がある程度一致するのであれば、その地図は本物である可能性が高まるだろう。

 もしかしたら、俺が感じている裏通りの規則性というのは、古代のファスタルの名残かもしれない。

 レオンハルトさんは現在のファスタルとは違いがあると言っていたが、それは現在の裏通りがいじくりまわされたせいで、元の地図との比較ができなくなっているため分からなくなっているという可能性がある。

 うん、もし可能ならレオンハルトさんに古代のファスタルの地図を見せてもらおう。

 国の資料らしいから、貸出は難しいだろうけど、見せてもらうくらいできるかもしれない。


『うぅー』


 とルッツが再び唸りだすのと、


『ちょっと止まれ』


 とおっさんが警戒する声を出すのはほぼ同時だった。

 俺には全く何も感じられない。

 ホント、この二人の感覚器官はどうなってんだよ。

 いや、ルッツは犬だから分からなくもないけど。


「何かいますか?」


『ああ、この先の角を曲がった所だ。

 嫌な感じだな。

 俺たちを待っているような雰囲気だ』


「どうします?

 回避することもできますけど」


 ここに来るまでに幾つかの分岐があった。

 違う道を選べば、今言っている所は避けられそうだ。


『いや、それじゃ意味ないだろうな。

 さっきのサラマンダーと違って、コイツはこっちに気づいている可能性が高そうだ。

 それでも、逃げずに待っているということは襲う気があるってことだろう。

 道を変えてもついてくる可能性がある』


「強いんですかね?

 やばそうですか?」


『それは大丈夫だろう。

 俺たちを見つけたのに襲い掛かってこないってことは正面からじゃ勝てないと判断したってことだろう。

 だから、待ち伏せて奇襲をかけようとしているんだろうから、さっきのサラマンダーより頭はいいんだろうが、こっちより強いって可能性は低いだろうな。

 ただ、あそこで待ち伏せてるってのがコイツに有利な何かがあるのかもしれない。

 それが、嫌な感じだ』


 なるほど。

 まあ、モンスター自体は統括より弱そうなので、少し安心した。

 今は待ち伏せしてるのが怪しいってことだよな。


「だとしたら、罠か何かあるんですかね。

 じゃあ、ここから俺のヨーヨーで攻撃してみましょうか?」


『そうだな、頼む。』


 俺はヨーヨーを取り出して、マナを使った状態で回しだした。

 ヨーヨーと糸が光っていく。

 そのまま回転を上げていき、通路の奥に向かって光弾を飛ばした。



 ものすごい音と光とともに通路の角が吹き飛ぶ。


 吹き飛ぶ寸前に角から何かでかいのが飛び出てくるのが見えた。

 それは、でかい犬、いや狼だった。

 超大型犬よりでかいんじゃないか。

 体高は優に1mは超えている。

 その狼が出てきて角の前の通路に着地した瞬間、狼のすぐ前の通路が爆発した。

 これは、俺のヨーヨーのせいじゃない。

 多分、元々の罠か何かだろう。

 なるほど、あいつは角で待ち伏せして、俺たちがあの罠にかかった瞬間に襲い掛かってくるつもりだったんだろうな。


「統括、あいつは?」


『ああ、ウォーグの一種だな。

 狼のモンスターだ。

 色んなやつがいるから、俺もすべて把握はしていないが、コイツはかなりでかいな』


「大丈夫そうですか?」


『さっきも言ったが、正面から戦って負ける様な相手じゃない。

 それはあいつも分かってるだろうが、さっきの爆発で興奮してるから、逃げはしないだろうな。

 下がっとけ』


 そう言いながら、おっさんはウォーグの相手をするために進み出た。 

 おっさんの言った通り、ウォーグはかなり興奮しているようだった。

 めちゃくちゃでかい狼がこっちを血走った目で見ながら、今にも襲い掛かろうとしている。

 その姿だけでもけっこうビビってしまいそうだったが、おっさんは表情も変えずに近づいている。

 その時、ものすごい速さでウォーグがおっさんに飛び掛かった。

 おっさんは避けきれずにウォーグに伸し掛かられ、と思ったら、巴投げみたいな感じでウォーグを投げ飛ばした。

 壁にぶつかってウォーグは少し怯んだようだった。

 そこにおっさんは突っ込んでいき、ウォーグの頭を殴りつける。

 そして、ふらついたウォーグを蹴り飛ばした。

 吹っ飛んでいったウォーグはしばらくピクピクしていたが、やがて事切れたようだった。

 モンスターだから倒さないといけないんだけど、犬好きの俺にとって、狼型のモンスターがぶちのめされているのは悲しい光景だった。

 多分、俺には攻撃できないだろうな。

 おっさんと一緒に来ていて良かった。

 俺一人だったら、きっと今頃、くそっ、俺には、できない……とかいう鬱陶しいキャラクターみたいなことをやっていただろう。

 それにしても、おっさんはホントに強いな。

 完封じゃないか。

 そういえば、これの前に受けていた依頼も討伐系だったみたいだし、専門家なんだろうな。


 ウォーグを倒したおっさんがこっちに戻ってきた。


「それにしても、こんな地下に狼のモンスターってのは普通なんですか?」


 俺的には狼は山とか草原とかにいそうなイメージだ。


『そうだな。

 狼ってのは穴倉を住処にするからな。

 洞窟にいるやつもいるみたいだから、おかしくはないんじゃないか?

 ここは暗くて何も見えないが、狼は鼻が利くからな。

 生きていけるんだろう。』


「今のやつも特に変わったことはないんですよね?」


『ああ、かなりでかい部類であることは確かだが、特に強いってこともなかったな。

 俺としては、ウォーグよりも気になったことがある』


「なんですか?」


『さっき、アイツが角から飛び出してきた時にな、地面が爆発しただろう。

 あれはおそらく罠だが、罠ってのはこれまで古代遺跡でしか見つかっていなかったんだ。

 ああ、そこらの賊が仕掛けてるバカみたいなやつは除いてだぞ。

 とにかく、ここは今まで見つかっていなかった古代遺跡である可能性が高い。

 だが、ファスタルの地下にそんなものがあったとはな』


 ああ、そういえばおっさんには言ってなかったか。


「それなんですけどね、これの依頼者の地理省の人によると国が保管している古代の文献の中にファスタルの地下が描かれている地図があるそうです」


『なんだと?

 そんなもの見たことないぞ』


「あんまり信憑性の高いものでもないから、関心を持たれていないそうですよ」 


『なるほどな、そういうことはよくあるからな。

 まあ、それがあるなら、俺の方から一度連絡して借りられるように手配しておこう』


「ほんとですか?

 俺にも見せてください」


『当然だ。

 俺は手配するだけで中身を精査するのはおまえだ』


 うん?

 押し付けられた?

 いや、これは俺がやった方がいいから、それでいいのか。

 あ、俺がおっさんにモンスターを押し付けるって言うのってこんな感じなのか。

 うん、本人の前で露骨に押し付けるって言うのはやめよう。

 押し付けることは変わらないんだけども。


『そろそろ昼だな。

 一旦休憩して昼飯を食うぞ』


「はい。

 そうしましょう」


 さっきまで緊張していて忘れていたが、そういえば結構腹が減っている。

 今日もここに来る途中に大通りで軽食を買っておいた。

 ルッツにも肉を買ってある。

 おっさんは俺と同じ軽食を俺の5倍買っていた。

 どこに行くときでも食べる量は変わらないんだな。

 一切ぶれないおっさんの生き方はかっこいいと思う。


 一応周囲への警戒を怠らないようにしながら食事をとった。

 俺は興奮と緊張であまり味は分からなかったが、満腹にはなったから問題ない。


『よし、続けるぞ』


 昼食後もおっさんに先導してもらってマッピングを続けることにした。





 

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