掲示板と初依頼申請
夕食の帰りに総務課前の依頼掲示板を見に来た。
掲示板はけっこう大きかった。
縦2m位で横幅は10m位ありそうだ。
そこに綺麗に分類分けされた依頼の用紙が貼られていた。
俺の勝手なイメージでのギルドとかの依頼の掲示板は、大小さまざまで統一性のない紙が整理もされずに雑多に貼られている、というものだったから、ちょっと驚いた。
まあ、荒くれ者の冒険者向けの掲示板と国立の研究所の掲示板では違って当然だよな。
分類は観察、採取、捕獲、討伐、その他などに分かれていた。
適当に目の前にあったその他の分類の中の一枚を見てみる。
【中庭の整地】と書いていた。
なんだこれ?
内容は週に一回中庭の整地を行うというものだった。
報酬は小遣い程度だった。
「サラさん、これなんですか?」
『ああ、それは総務課が出している雑用ですね。
依頼にしてしまえば、誰かがやってくれるので出しているみたいです。
そういうのもけっこうありますよ。
例えば、ほらこれとか。』
と言って、サラさんが指さしたものを見た。
項目は討伐、となっていたが、内容は【研究所内の害虫駆除】だった。
やはり、報酬は低かった。
なるほど、色々便利に使っているんだな。
と、思いきやその横にあったのは
【ファスタル近郊の遺跡に出没するモンスターの殲滅、及び素材の入手】
だった。
いきなりファンタジーだな。
内容は、ファスタル近郊の遺跡に出没している大型の肉食獣の討伐とその肉食獣の爪、牙の入手だった。
この素材が薬になるらしい。
依頼書にはその他、詳細が書かれていた。
報酬も高額だ。
いやあ、こういうのを求めてたんだよな。
まだやらないけど、いつかは挑戦してみたいな。
あと、観察という分類の所に俺の中二病を異常にくすぐる依頼があった。
【古代種に関する調査】
古代種、いいな。
その言葉だけでロマンを感じる。
かなり高額な報酬みたいだし、危険ぽいから、これも俺にはまだ早いだろうな。
けっこうおもしろそうな依頼がいっぱいあるな。
『あ、ほら、ユウトさんこれですよ。』
と言って、サラさんが指さした一枚を確認した。
【ファスタル裏通りのマッピング作業】
これか。
前に裏通りで迷いそうになったときにサラさんが言っていた依頼。
条件を確認する。
報酬は1km四方のエリアマップ作成ごとに10万円。
高いか安いかは分からない。
普通に考えれば高額だけど行方不明になるという都市伝説付の迷路だからな。
期間は無期限。
但し書きで、裏通りは常に変化するので継続調査できる人を歓迎します、と書いていた。
費用負担は、マッピング用の装置など一式は依頼主が負担。
責任範囲は、完全自己責任。最悪、行方不明になっても捜索致しません、となっている。
依頼主は国の地理省となっている。
確かな所だろう、多分日本で言う国土地理院のことだと思う。
なるほど、正直悪くない条件だと思う。
「サラさん、これってマッピングが出鱈目でも多分ばれないですよね。
そういうのに対する対策はしないんですか?」
『多分、マッピング用の装置がそういう偽装をできないようになっているんだと思いますよ。
それを使って距離の測定とか、分岐の記録とかできるようになっているんでしょうし。』
「じゃあ、これはある程度マナを使えないと受けられないですか?」
『いえ、依頼条件にマナ必須と書いていないので大丈夫だと思います。
汎用的な装置は誰でも使える場合が多いですし、マナを使わないのではないでしょうか。
それだけ便利な装置だと多分古代の遺物だと思いますが、遺物が全てマナの制御を必要としているわけではありません。』
「これって俺まだ受けられないんですよね?」
『どうでしょう。
所長は仕事が早いですから、ユウトさんはもう調査員に登録されているかもしれないです。
登録されていれば、依頼を受けることは可能です。
ちょっと待ってくださいね。』
と言って、総務課の受付の人に何か聞いている。
『やっぱりもう登録されているみたいです。
どうします?
その依頼を受けられますか?』
「はい。
確か申請書に記入しないといけないんですよね?」
『はい、これですよ。』
と、サラさんが総務課から依頼の申請書を受け取ってくれた。
記入しなければいけないのは、名前、調査員登録番号、依頼遂行の希望期間、のみだった。
これも絶対ユラさんが作っただろ、と思ったが今はどうでもいい。
「サラさん、調査員登録番号というのが分からないんですが。」
『ああ、それは総務課の担当者に書いてもらうようにお願いしました。
登録証には記載されているので、次からは登録証を持っておくといいですよ。』
「なるほど、分かりました。
依頼遂行の希望期間と言うのはなんでもいいんですか?」
『そうですねえ。
この依頼だったら長い方が喜ばれるでしょうけど、特に規定があるわけではありませんよ。』
よし、じゃあとりあえず、1ヶ月にしとくか。
「これを出したら完了ですよね。
はい、お願いします。」
と言って、総務課の受付の人に申請書を提出した。
「それにしても、これだけの手続きでいいんですか?
すごく簡単ですね。」
『依頼主は登録番号から調査員の詳細情報を知ることができますので、あまり申請書に無駄なことを書く必要がないそうです。
他に必要な情報があったら、契約時に質問状が届くみたいです。
これも調査員統括が作った仕組みらしいですよ。
本人曰く、調査員はバカも多いから難しい手続きなんかやらせるな、簡単にしろ、だそうです。
この意見を所長も受け入れたので、すぐに導入されました。
以前は、住所とか、年齢とか、契約に対する条件とか、色々書かないといけなくてすごく煩わしかったそうです。』
・・・ユラさんが作ったとか思って申し訳ありませんでした。
単純な申請書とバカにしてすみませんでした。
それにしてもその統括は本当に有能だな。
確かに、体を使うのが好きな人が調査員になる傾向にある、とサラさんは言っていた。
悪い言い方をすれば体力バカが多い、ということだろう。
だったら申請を簡単にすることは効果が大きいだろう。
依頼に対するやる気もそがれないだろうし。
俺はすぐに物事をバカにしたり、自分の意見が正しいと思い込む癖があるな。
もっと反省して謙虚になろう。
「とりあえず、申請できたみたいなので帰りましょうか。
サラさんはどこか寄りたい場所とかありますか?」
『そうですね。
私ももう特に用はないので、帰りましょう。』
それから、すぐに帰宅した。
さて、帰ったらあのマナの入門書を読み切るか。




