表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第1章 異世界生活1日目
13/119

辺境の調査について

 

 サラさんがしばらく自分の家に住むことを勧めてくれた。

 そんなことを言ってくれるとは思わなかった。

 ちょっとありがたすぎるが意味が分からない。


「ありがたいですが、どうしてそこまで俺にしてくれるんですか?」


 と言うと、


『それは、今日の私の状況をご説明しないと分かって頂けないと思うので、また長い話になりますが、簡単に言うと命の恩人に対するお礼というところです。』


「さっきもそんなことおっしゃられてましたけど、俺そんな大したことしてませんよ。」


 と言った。するとサラさんは、


『そんなことはありません。

 ユウトさんが現れなければ私はあそこで死んでいた可能性が高いのです。』


『それを分かってもらうために、まず私のことをもう少し詳しく話す必要があります。

 あの、申し訳ないのですが、これから話すことは他言無用にてお願いします。』


「分かりました。約束します。」


『では、まず、先ほど説明したとおり、私はこの国を治める小国の一つの代表者の一族です。

 とはいえ、兄弟や親せきも大勢いるので、私が小国の代表者を継ぐ、ということは、おそらくありません。

 ですが、代々代表者の血族には優れた能力を有しているものが多く現れます。

 自分で言うのははばかられるのですが、私は普通の人よりもマナの扱いが得意です。

 例えば、バイクに乗ることはそう難しいことではないのですが、保護装置の制御を行いながら運転する、ということができる人間はあまりいません。

 また、結界石の調整も得意です。

 それで、今日行ったような辺境の調査は私が行うことが通例となっています。

 調査内容ですが、具体的には辺境に現れる怪物の状態と結界石の綻びが出ていないかの確認、となります。』


「怪物?あのスライムのことですか?」


 途中に出てきた怪物という言葉が気になったので、聞いてみた。


『スライム?いえ、あれは怪物を弱らせるために人間が設置した

 機械のようなものですよ。』


 と、驚きの新事実、俺がモンスターと思ったのは、実は人間側の兵器でした。


「え?でもあれ俺に襲い掛かってきましたよ。」


 と言うと、今度はサラさんがめちゃくちゃ驚いた顔をした。


『え?あれが人間を襲った?そんな、まさか。

 お怪我は?大丈夫だったんですか?』


 と若干取り乱しながら聞かれた。


「ええ、最初に襲われた時にはちょっと危なかったですけど、その後は気をつけてれば擬態していても見つけられたので、一度しか襲われてないです。」


『え、あの擬態が見破れるんですか?すごいですね。

 それにしてもあれが人を襲うなんて。大問題です。

 ちょっと調査しないといけないですね。う~ん。』


 と唸りだしたので、


「ちなみにあのスライムの攻撃条件ってなんなんですか?

 どうやって怪物と人間を区別してるんです?」


『あぁ、それは怪物の体から出ている電波に反応するようになっています。

 人間の体からも微弱な波動は出ているのですが、怪物はその何倍もの電波を発生させていますので、それに引き寄せられて襲うようになっています。』


 それって、もしかしてスマホの電波とかに反応したりしませんよね?

とは聞けなかったが、多分俺が襲われたのは、俺ではなく、スマホに反応したのだろう。


「えーと、多分襲われたのは、俺に原因がありそうなので、スライムの誤動作じゃないです。

 調査しないでいいです。」


 と言うと、サラさんはかなり怪訝そうな表情になって


『何を言ってるんですか?そんなのだめです。しっかり調査するように言っておきます。』


 と言われた。ほんとに真面目でいい子ですわ。

 多分調査しても無駄だけど。


「そんなことより、怪物ってのは?どんな奴がいるんですか?

 俺はあの草原を1時間弱くらい動き回ってましたけどそんなの見かけませんでしたよ。」


 と言うと、サラさんはまた驚いた顔になって


『あの草原を生身で1時間も歩いたんですか?よくぞご無事で。

 怪物というのは、巨人です。私たちはキュクロプスと呼んでいます。

 一つ目で大きな棍棒を持った10m位の怪物ですね。

 大きいですが、あまり知能は高くないようで人を見つけると襲ってきます。

 これまでに襲われた人は数知れません。

 今のところは、あの草原付近にしか現れていません。

 そこで、私たちはあそこを無事に通れるようにあの周辺に密に結界石を設置しました。

 さっきも話しましたが、私は結界石の調整が得意です。

 ですからあの辺境の結界石は私が設置しました。

 そして、一度調整した結界石はもう他の人には調整することはできません。

 ですから、私は定期的にあの辺境の調査を行っています。』


 と、そこで一呼吸をおいて俺の方を確認した。

 俺はうなずいて話の先を促す。


『今日もキュクロプスの状態を確認しに、と言っても調査しにあの領域に入ったら、どうやってか、こちらが近づいたのを感知して大体すぐに結界のすぐ外まで近寄ってきて襲う隙を伺ってきます。

 調査と言うのはそこでキュクロプスがいつもと変わりがないかを確認するだけなのですが。

 それと結界に綻びがあれば、石の輝きが不安定になるので、それも確認しに行ったのです。

 ですが、今日はあの領域に入っても全くキュクロプスは現れる様子がなかったのです。

 それで不審に思って周囲のことを気にしていたら、道の上にいたわんちゃんに気づくのが遅れて、あとはご存知の通りです。』


「なるほど。それで命の恩人と言うのは?」


『それは、確かに結界石が働いている間はキュクロプスは道路に侵入することができませんが、あの結界石はそれほど耐久性が高いものではないのです。

 ですから、バイクで走り抜ける分には問題がないのですが、キュクロプスに見つかった状態で徒歩で歩いていれば、そのうち結界に攻撃を加えて破られてしまうでしょう。そうなればどうなるかは明らかです。

 それに、今日ファスタルに入ったときにお気づきだと思いますが、街に誰もいなかったと思います。

 また、辺境からこの街に帰る間に道で誰ともすれ違わなかったじゃないですか。

 あれは偶然ではないのです。

 この地域一帯には私が辺境の調査に向かう日には外出禁止令が出されるのです。

 それは、もし万が一キュクロプスが私についてきてしまったら、近くにいた人が襲われる可能性があるから、できるだけそうならないように、との配慮からです。

 ですから、私があのままバイクを動かせずに立ち往生していたら、誰にも発見されずに歩いてここまで帰ってこなくてはなりませんでした。

 大した食料なども持っていませんでしたので、そうなればここに無事に帰れた可能性は低いと思います。』


「そんなに重要な調査の割にはだいぶ安全対策がおろそかですね。

 せめて護衛をつけるなりした方がいいんじゃないですか?」


 俺はサラさんの安全があまりにもおろそかにされていることに少し腹を立てながら言った。


『それはできればそうしたいんですが、先ほど言った通り、動かせるバイクはとても貴重で、今ファスタルで調査に使えるのは私が乗っていた一台だけなのです。

 馬では残念ですが、バイクと同じスピードで調査に行って帰ってくることなどできませんから、どうしても単独での調査になります。』


「じゃあせめて誰か後ろに乗せて二人で行けば、今日のような状態は避けられたんじゃないですか?」


 ま、そうだったら俺は助けてもらえなかったけどな、と思いながら聞いてみた。


『それも難しいです。今日、私はユウトさんを後ろに乗せてバイクを運転しましたが、実はあんなに長距離を人を乗せて運転したのは初めてなんです。』


 え、そうなの?


『頼まれた時はお安いご用と言いましたが、実はバイクの二人乗りはかなり難しくて。

 というのは、後ろに人を乗せるとその人のマナが干渉してうまく制御ができなくなるんです。

 命の恩人ですから、少々大変でも断る気は全くなかったのですが、いざユウトさんを後ろに乗せてみると、全くマナの干渉を感じなくて。

 私がユウトさんにすごい素質があると思ったのは、無意識のうちにマナを調節して干渉していないようにしているのだと思ったからです。』


 あぁ、それで。まぁ、俺は何もしてないから偶然だと思うけど。

 なんだか相性がいい、みたいに言われているみたいで嬉しかった。


「なるほど、それで。色々納得できました。」


 本当に、色々納得できた。

 多分俺がスライムに襲われたのはスマホに反応したのだろうが、キュクロプスとやらも体からソナーみたいに電波を出して、それで自分の領域内に入った獲物を感知していて、その電波とスマホのデンパをスライムが誤認識したんだろう。

 スライムの擬態を見破れたのは、俺には光学迷彩という概念があったから、それゆえに発生する視界の歪みをとらえられたのだろう。

 人間、知らなければ景色が多少揺らいでも気づかないものだが、知っていればその揺らぎには敏感になれるものなのだ。

 となると、


「もしかして、あの透明になる布ってのは、スライムの擬態と」


『同じ技術です。』


 やっぱり。


「あ、そういえばなぜ街に入るときにあの布を被る必要があったんですか?」


『それは、さっきも言った通り、今日は外出禁止令が出ています。

 それは私の調査完了と同時に解かれるので、街の人たちは私が帰ってくるかどうか家の中から確認しているはずです。

 それで、街に帰ってきた私が、バイクの後ろに見知らぬ人を乗せていたら、多分街の人たちに不要な心配をさせてしまいそうだったからです。

 あ、別にユウトさんが怪しいとか、そういうわけではないんですよ。』


 と、言われたが、そういうわけなんだろう。

 確かに俺は怪しく見えるんじゃないだろうか。

 この世界の標準的な服装は知らないが、作業服があるとも思えないし。

 まぁ、サラさんのおかげで特に問題なく街に入れたから気にしなくていいか。


「ちなみに、あのスライムではキュクロプスとやらを倒すのは難しいと思いますけど。」


 と聞いてみた。そうなのだ。

 あれは俺から見ても動きは遅かったし、そんな怪物を倒せるほど高性能には思えなかった。


『そうですね。確かにスライムは素早く動くことはできませんし、大きな攻撃力があるわけでもありません。

 あのスライムの目的はキュクロプスを倒すことではなく、あくまで弱らせることなのです。

 どうするかと言うとまず、擬態をしながらゆっくりと攻撃目標の近くまで近寄ります。

 そして、十分に近寄れたら一気に飛びついて、その体に取り付きます。

 体の柔軟性が高いので、取り付かれたら振り払うのは困難となります。

 そこで、取り付いた後から、消化液で対象を溶かそうとします。

 溶かすといってもそれほど致命的な影響を与えられませんが、火傷したような状態にすることができます。

 一体だけで火傷させてもそれほど影響はないのですが、あの一帯にはかなりの数のスライムを設置しているので、それでキュクロプスを弱らせてあの辺境をより安全に通り抜けられるようにしています。』


 だからあんなにいっぱいいたのか、ともう一つ納得した。

 あと、俺はもう少しで溶かされる所だったんだな、と思うと鳥肌が立ってしまった。


『私がユウトさんに感謝しているのは大体そんな理由です。

 本当にありがとうございました。』


 また、お礼を言われた。


「それを言うなら、俺だってここまで連れてきてもらいましたし、家にも泊めてもらいますし、こちらの方がありがとうございます。」


『じゃあ、しばらくうちにいてくれるんですか?』


「ええ、ご迷惑をおかけしますけどよろしくお願いします。」


 と俺が言った時のサラさんの笑顔は本当に華が咲いたように可愛くて直視していられなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ