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上陸

 泣いたまま寝落ちしたハルが目を覚ましたのは昼過ぎであった。とはいえ、とても起き上がる気力はない。ベッドに身を預けたまま動けないでいる。ベッドの感触を確かめるのに恐怖を覚える。聴覚、嗅覚、視覚、味覚に異変が起きた今、残る触覚にも異変が起きると思っているからだ。感触を感じなくなってしまうのか? はたまた感触が鋭敏になるのか? ハルを襲う恐怖心は計り知れない。


「俺は……このままじゃ……」


※ ※ ※


「歩かなくてはいけないの!?」


「砂漠は車かラクダ移動が基本。観光客は砂漠を舐めている。今一度、砂漠の恐ろしさを思い知るべきだ!」


「観光客には優しくしないと駄目だわ」


「優しく? 優しくすれば付け上がる。そいつはお断りだ!」


「そういうことなら仕方ないわね。もう結構」


 船から降りたルキを待ち受けていたのは、過ごしやすい気候の砂漠であった。ハルを追い掛けてやって来たのだが、どこをどう行けばいいか分からない。いつまでも船着き場で立ち往生してても仕方ない為、覚悟を決めて踏み出した。


「かなり足を取られるわね」


 靴を履くだけ無駄だと数歩で判断し、靴を脱いで裸足になる。砂漠の感触を足裏に直に感じる。海の砂浜とは違う感触を楽しみながら歩いていく。


「方向感覚が狂うわね。どこを見ても砂漠だもの。目印となるようなものもないし、砂漠を往き来するのに欠かせない筈の車もラクダも見掛けないし。いい加減面倒になってきたわ」


 カードを一枚取り出す。属性は風。このカードを使えば飛ぶことが出来るが、空を飛んでいれば目立ってしまうのは間違いない。ましてや砂漠の上空なら尚更だ。砂漠で立ち尽くして、カードを使うか迷っていると、一台の車が通り掛かる。


「これはビックリら! 連日の遭遇ら!」


「どなた?」


「わっちはシーラ! 昨日も人を拾ったら! ハルって男ら!」


「ハル!?」


「やっぱりら! 君はハルの知り合いだら!」


「そうだけど」


「わっちが連れていってあげるら。乗るら」


「……信用してもいいのかしら? 人が良すぎない?」


「わざわざ砂漠を彷徨く物好きはいないら。それとも砂漠を歩きたいら?」


「このままよりかはマシでしょう。シーラと言ったわね? ワタシはルキだわ。よろしく」


「よろしくら!」

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