建国記念日
アンオールの人々にとって今日は特別な日。各地からアロポリアに人が集まり、アロポリアの道の一部は封鎖されるが、街の誰一人文句は言わない。正午を迎えた頃、そんな表通りを進む一台の馬車。二頭の馬が引く車に座っているのは、アンオール国王と騎士団長である。
「フフフ。予定通りに進んでおる」
「王城を出てから不審な者は見受けられません。ですが、そう簡単に安心出来ないのも事実。国連の発表もありましたから」
「常に危険とは隣り合わせ。それが国王というものだ」
「しっかりとお守り致します。この命に代えても」
「頼もしいものだ。安心して国民に応えることが出来る」
「……おーい……」
国王ゴルドと騎士団長リンクと共に座っている少年。黒いローブを身に纏ってはいるが民間人である。この頃の日課となっていた稽古を終えた時に今日のことを聞いたのだが、何故だか騎士団側の手伝いをすることになってしまったのだ。今も緊張と不安で一杯である。そんな少年の緊張を解そうとリンクは声を掛ける。
「ハルード殿、心配は無用。堂々と胸を張っていれば大丈夫です!」
「……そいつは無茶ってもんだぞ!? 俺は只の民間人! ましてや貴族じゃなくて平民、庶民だ! 数合わせとはいえ、こいつを着てるのはおかしいだろう! 国王を守るどころか、騎士団に守られる側だぞ!」
「大丈夫です。馬車を騎士団が囲って張ってますし、狙撃団も付いてますので」
「そういう問題じゃないんだけどよ」
トホホと項垂れるハル。そんなことなどお構い無しに進んでいく馬車。気が付けば、よく知る場所まで来ていた。
「ルキの家だ」
「やはり。あそこにいらっしゃるのはルーキッド殿ですよ」
「本当だな」
馬車を見るルキは、ハルに気付いて驚いている。ルキの隣にいるミントも気付いて笑っている。笑われたことに複雑になりつつ、ゴルドを真似て手を振った。ルキとミントは振り返す。『馬子にも衣装ね』とルキに言われたハルは照れてしまう。
「どうです? 嬉しいものでしょう」
「まあな」
「もうすぐで折り返しです。来た道を戻ります」
「えっ?」
「アンオール・タワーやアロポリア・ドーム前にも行きますし、この表通りは花道ですので。沢山の方に国王を見ていただきたいのです」
「マジかよ……あはは」
折り返してもう一度通る。行きよりも人の数が増えているのは一目瞭然だった。だがそれよりも明らかだったのは黄色い声援の数。ゴルドに対するものよりも遥かに大きい声援にハルは笑うしかない。
「どうかしましたか? ハルード殿」
「気付かないのかよ? リンク。お前に対する声援が凄いのを」
「私への?」
「「リンク様!!」」
自分の名前を呼ぶ声に応えるリンク。『キャー!!』という黄色い声援が沸き上がる。
「なあ?」
「今まで普通だと思ってました。騎士団長として名が広まることは光栄です」
「光栄、か」
(出会いがないって言ってたけど違うぞ。出会いはそこら中にあるんだよ! お前が気付いてないだけだ!)
必死に念じるハルだが、それがリンクに届くことはなかった。結局、特に起きることもなく、ただただ満面の笑みを振り撒いていくゴルドとリンクであった。




