表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/100

惹かれ合って

 事件から数日。病院の一室で水色の髪を解いたスズメが寝ている。そんな彼女の傍らに座るジャック。果物ナイフを使い、リンゴの皮を剥いていた。


「こんなものだ」


 赤から白へと変わったリンゴを満足げに見つめるジャックの気配を感じたのか、寝ていたスズメが目を覚ました。


「おはようっす」


「起こしてしまった?」


「そんなことないっす。今日もいい天気っす」


「こんな日は散歩でもしたい」


「いいじゃないっす。散歩したらいいっす」


「一人でしてもつまらないの。折角の休みなのに」


「誰かいないっす?」


「幼馴染は檻の中だ。会うことは出来るが、一緒に外を歩くことは出来ないの」


「残念な人っす。先輩って幾つっす?」


「二十歳だが?」


「もっとアタックしないと駄目っす。若いんだから」


「お前さんも若いだろう。オレに言えたことか」


「こちとら今も告白されるっす。断ってるだけっす」


「折角の告白を断るのは何故なの?」


「軍人と付き合うのは大変っす。すれ違いの日々になるっす」


「そんなことを言っているとキリがないの。出逢いは大切にしないと」


「同じ軍人となら上手くいきそうっす。誰かいないっす?」


「オレに訊かれても困るの。どうせ寂しい独り身だ」


「使えないっす。毎日見舞いに来てくれるのは嬉しいけど、ちゃんと私生活も大事にしないとっす」


「大事にしてる。こうして休みを謳歌してる」


「散歩を一緒にしてくれる人がいないってことは、休みを謳歌出来てないってことっす」


「一人でも散歩は出来る。一人じゃつまらないと言ったの」


「こんな怪我をしてなければ、寂しい先輩に付き合ったのにっす」


「怪我人は大人しくしてるの。ほれ、折角剥いたんだ」


 フォークに刺してスズメにリンゴを差し出す。リンゴを見たスズメは、口を開けて催促した。


「あーん、してっす」


「仕方ない後輩だ」


 スズメの口にリンゴを放る。美味しそうにリンゴを食べるスズメを見たジャックも、ひと切れ食べる。


「美味しいっす?」


「我ながら上手く切れた」


「何気に間接キスっす。意外に大胆っす、先輩」


「別に気にしていない」


「少しは気にするっす!」


「それだけオレをからかう元気があれば大丈夫だ。一ヶ月もすれば退院出来る筈だ」


 椅子から立ち上がり、スズメに背を向ける。着てきた上着をハンガーに掛けていた為、取ろうと手を伸ばす。


「待ってっす!」


 ジャックのワイシャツの裾を掴むスズメ。掴まれたことに驚いて振り向くと、ベッドから身体を起こしたスズメと目が合った。


「どうした?」


「こっちが寝ている時、先輩は果物を切ってるっす、花瓶の水を替えてくれてるっす。起きた時にそれは分かるっす」


「水を替えなきゃ枯れちゃうからな」


「それでも分からないっす。他に何かしてるっす?」


「特にはない。寝ているところを起こすのは悪いしな」


「本当にっす?」


「オレがいない時に何かあったのか?」


「違うっす……違うっす」


「ん?」


「寝ている間に先輩が何かしたのかと思ったっす。そんな気がしたっす」


「……鋭い」


「えっ?」


「普段身体を動かしている人間が寝たままということは、普段使っている筋肉を動かさないということになる。硬くなっては、退院後に支障が出るかもしれない」


「な、何をしたっす!?」


「マッサージだ。身体をほぐしてやっていたの」


「ええー!」


 思わず身体を丸くするスズメ。恥ずかしそうに身体をモジモジ動かしている。


「柔軟体操みたいなものだ。そんなに照れることか?」


「当たり前っす! これでも乙女っす!」


「出来ればバレたくなかった。嫌ならやめておこう」


「マッサージって……どこをしたっす?」


「全身だが? もちろん避けた箇所はある」


「何で避けたっす!? 触る価値もないっす!?」


「マッサージをしていたんだ。触る必要のない箇所は触らないの」


「先輩の意気地無しっす! 寝ている隙に触り放題なのにっす」


「変な言い方をするんじゃないの。まるで触ってほしかった風に」


「そうっす! 触ってほしいっす!」


「お、おい!?」


 ジャックの腕を掴むと、自分の胸に触れさせた。スズメの胸の感触が、ジャックの手に伝わる。


「先輩の幼馴染に協力して捕まった司令部の門番がこの身体を抱き締めていたって聞いた時、全身に鳥肌が立ったっす。でも先輩に触られても平気っす」


「スー!?」


「どうして先輩はそこまでしてくれるっす? 仕事の時でも休みの時でも、こうして見舞いに来てくれるのは嬉しいっす。けどその分、先輩が大変っす」


「オレが来たいからだ。様子を見ておかないと、どうも気になって仕方がない」


「只のイチ後輩に気を配り過ぎっす。他の後輩がヤキモチを妬いちゃうっす」


「全く。只のイチ後輩に気を配れる程、オレは出来た人間じゃないの。そこまで器用じゃないの」


「変な言い方をしないでっす。勘違いしちゃうっす」


「勘違い、か。あれだけ普段からベタベタしてくる奴の言葉とは思えないな」


 そっとスズメを抱き寄せるジャック。ワイシャツ越しに伝わる人肌にスズメは顔を赤くする。必死に離れようとするものの、軍人として鍛えているジャックの力は強かった。


「何を企んでるっす!?」


「自分からはよくて、相手からは駄目なの? そいつは不公平じゃないの?」


「おかしくなっちゃうっす!」


「ほう、どうなっちゃうの?」


「惚れちゃうっす……好きになっちゃうっす!」


「こんな男にか?」


「そうっす。責任取ってっす!」


 ジャックの顔を見上げたスズメ。再び椅子に座ったジャックもまた、スズメの顔を見つめて微笑む。


「どうすればいい?」


 ジャックの問いに答えるように、静かに目を閉じるスズメ。スズメの答えに応える為、静かに唇を重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ