追跡
病院に着いた四人は足早に病室へ駆け込む。四人が見た光景は、もぬけの殻のベッドだった。病室の窓は開いており、白いカーテンが風で揺れている。ベッドの側に落ちていた軍服を拾ったジャックは、その軍服を握り締めた。
「この軍服は門番のだろう。トランシーバーも置いてある」
「窓から出ていったようだわ。二階から飛び降りることなんて軍人なら可能でしょう」
「飛び降りた? ホントにか?」
「どういうことかしら? ミント」
「地面は芝生になってる。二階から飛び降りたってんなら、芝生は踏み荒らされてる筈じゃねえか? そんな痕跡は見当たらねえ」
「じゃあ一体どうやって」
「ルッキーの推理は半分正解だね。〝飛び降りた〟ってのは不正解。〝飛び立った〟ってのが正解だとアタシは思うね」
「ちょっと待って! そんなことが出来るわけ……」
ルキの脳裏に浮かぶ姿。異世界に来て初めて見た魔術師の姿が呼び起こされた。
「……空を飛べる魔術師なら可能だわ!」
「ん? 空を飛ぶ魔術師は死火で死んだんだろう?」
「同じ魔術を使える人間がいたって不思議じゃないわ。獣化の魔術師のように」
「そう言われれば確かにな」
三人の会話を聞いていたジャックの目の色が変わる。握り締めた軍服を睨み付けている。
「アンチャンの目の色が変わったね。魔術師は嫌われてるって聞いてたが、こうも露骨な反応を間近で見れるとはね」
「違う。オレはそうは思っていない。死火同様、呪いとして嫌われているのは承知している。が、誰しも望んで魔術師になったわけではない。魔術師もまた、魔術という呪いに苦しんでいるだろう。オレは魔術師を否定しない」
「フーン。何か理由でもあんの?」
「スーも魔術師なんだ。普段は明るい奴だが、時折寂しい顔をしている。オレが、スーが魔術師であることを知った時、『先輩、心臓を刺してほしいっす』と言われた。オレに知られたのがショックだったのだろう。あの時のスーの泣き顔が忘れられない」
「フーン。切っ掛けが何であれ、アンチャンを変えたのはネエチャンってこったねえ」
「軍に入ってからというもの、肩の力を抜く余裕などなかったオレが、スーが入ってきて変わったのは確かだ。自然と自分を出して話せ、スーの話なら飽きずに聞けた。上手くいっていなかったオレと仲間の間に立ち、潤滑油にもなってくれた」
「……ジャックさん、魔術師を嫌ってないというのは本当ですか?」
ルキがジャックの目を見て問い掛ける。ジャックは静かに頷いた。
「スズメさんのトランシーバーなら追える筈だわ。司令部に連絡して車で追ってください。ワタシは空から追います」
「君も魔術師なのか?」
「ええ」
※ ※ ※
「あぁぁ!! 温い! 温いぃぃ!」
スズメを抱き締めて飛ぶ門番。スズメの軍服の前を開けたまま抱き締めている為、彼女の体温を感じていた。だがそこでトランシーバーの存在に気付く。急いでトランシーバーを取り外して投げる。
「これで邪魔者は入らない!」
「それはどうかしら?」
門番の視界に映ったのは、空を飛ぶルキの姿だった。




