不器用な心
ハルは冷凍庫から拝借したカップアイスをソファーで食べていた。程よく溶けたところで掬って口に運ぶ。バニラの香りとアイスの甘さが広がる瞬間は至福の時だろう。自然と笑みが溢れてしまう。暫し食べていると、視線を服に移す。カップが汗をかいて滴り落ちる水滴。それが服に付く分には構わなかったのだが、掬って食べていた筈のアイスまでもが付着していたのである。ワイシャツの上から上着を羽織っていたが室内だからと脱いでいた為、ワイシャツに水とアイスが付いてしまった。
「あちゃちゃ。染みになっちゃう前に洗っとかないと」
脱衣場に向かったハルは、その場でワイシャツを脱いで洗濯機に放り込む。元の世界と大して違わなかった為、簡単に動かすことが出来た。
「あとは待つだけ……ん?」
シャワーの音に気付いたハル。シャワーを浴びているのはルキだが、ハルはそれを知らない。浴室の扉に映るシルエットが肌色であることは直ぐに分かった。それと同時にタオルが無いということも。急いでタオルを脱衣場に運んでくるが、そのタイミングで浴室の扉が開いてしまった。
「あっ……」
「なっ、何でここに!?」
「タオルを補充してやったんだよ。無かったら拭けないだろう」
「そういう問題じゃないわよ!」
咄嗟に身体を手で隠したとはいえ、裸でいることに変わりはない。濡れている髪と身体が、なんとも言えない色気を醸し出している。タオルを要求されたハルは、そんなルキを直視出来るわけがなく、顔を背けながらタオルを手渡すと、ルキに背中を向けた。
「じゃあ行くな」
「ちょっと待ってくれないかしら」
髪と身体を拭き終えて服を着たルキ。ドライヤーを持って鏡の前に立つと、ハルにドライヤーを差し出した。
「ん?」
「髪を乾かしてくれない?」
「自分でしろよ。それに俺、誰かの髪を乾かしたことなんかないぞ」
「だったら丁度いいじゃない。ワタシで挑戦してみなさいよ」
「仕方ないな。文句言うなよ?」
「言わないわよ」
ドライヤーの風が髪を乾かしていく。器用に乾かしていくハルの顔を鏡越しに見るルキ。『どうだ?』と視線を鏡に移して訊いてきたハルと目が合い焦ってしまう。
「大丈夫だわっ! 上出来なんじゃないかしら!?」
「それならいいけどよ? 髪は女の命なんだろう? 乾かしているこっちはヒヤヒヤしたよ」
「助かったわ、ありがとう」
振り返ったルキは、ハルと直に目が合った。まだ少し熱を帯びているルキの顔は赤い。心臓の高鳴りと連動するかのように瞳が揺らいでしまう。
「ばっかやろう! いきなり振り向くなよ! 罷り間違ってキスでもしちゃったらどうすんだよ!?」
「罷り間違ったら、なの?」
ハルの身体に顔を埋めるルキ。以前のように泣いているわけではない。どこか悪いわけでもない。どうしてかは、ルキ自身も分かっていない。
「逆上せたのかよ。大丈夫か?」
「逆上らせたのはキミじゃない」
「え?」
「この気持ちは何なのかしら。ドキッとしたり、モヤモヤしたり。キミといると心臓が高鳴って、キミが他の女性といると胸が苦しくなる」
「マジで病気じゃないのか!?」
「そうね……あながち間違いじゃないかもしれないわ。この病気を治すのには……勇気が必要だわ」
「勇気? 本当に大丈夫なのか?」
「優しいのね。その優しさが辛いわ」
スッとハルから離れると、脱衣場から出るルキ。それを見計らったように洗濯が終わった。




