表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/100

吠える番犬

 時間は十二時を過ぎていた。ぐう~という音が空腹を知らせる。懐中時計を見ながら、左手でお腹を撫でるハル。


「腹へったぁ」


「正直なお腹だこと。そろそろ戻るとしましょうか」


 紙飛行機で遊んでいたラルロアとナナに声を掛けると、王城へと戻っていく。

 王城へと戻ると、メイド達に出迎えられた。昼食の用意が出来ていると言われ、二階の大広間に招かれる。既にゴルドは座っており、ハル達の姿を見るや微笑んだ。


「羽を伸ばせているみたいで何よりだ。さぁ、口に合うかは分からんが、腕に縒りをかけた料理ばかりだ。遠慮なんてせずに食べてくれたまえ」


 テーブルに並べられた料理が、真っ白いテーブルクロスを彩っている。ハルは座るが、じーっと眺めるばかり。ハル以外の面々は、一つひとつの料理を楽しんでいる。


「食べないの? 冷めてしまうわよ」


「……俺、タコが駄目なんだよ……食えないんだ」


「好き嫌いがあるなんて初耳だわ。サラダでも駄目なのかしら」


「生だろうが加熱だろうが関係ない。タコの食感が駄目なんだ。思い出すだけで……うぅ~」


「ワタシも嫌いな食べ物があるわ。好き嫌いは駄目と強く言えないけれど、食べ物を残してはいけないとは言えるわ。ワタシの苦手な食べ物と交換ならいいわよ」


 そう言ってルキが差し出してきたのは、付け合わせのブロッコリーだった。タコとブロッコリーの交換を終え、漸く食べ始めたハル。ジャガイモの冷製ポタージュを口にして感動している。


「どうやら、ここの料理は口に合ったようだ。腹が減っては戦は出来ぬ。しっかり食べてくれたまえ」


「王様。今回、ワタクシ達を招待した理由……不穏な動きに心当たりはないせえ?」


「シャリア殿。今は食事中。そういう発言は控えるべきだ」


「一刻を争うことの筈。食事を楽しみたい気持ちは察するが、あまり悠長にはしていられんせえ」


「シャリアさんに賛成かな。敵の数も分からない以上、騎士団や狙撃団だけで対応出来るかも分かりませんから」


「ミク殿もか。レイフォン大統領の孫娘にも言われてしまっては仕方あるまい。シャリア殿、発言を許可しよう」


「感謝致すせえ。では早速、ワタクシの質問に答えて頂きたい」


「心当たりはないのだ。王族に恨みや妬みを持つ者は少なくない」


「過去に王城へ来た人間の可能性は? 祖父も何度か狙われたことがあって」


「貴族の者なら来ているが。まあ、貴族の者が王族を狙うとは思えん」


「平民ならあるって聞こえるけど」


「それは誤解だ、ハル殿。私は国民を信じておる」


「どうだかな? 王様は民を見下してるんじゃないのか?」


「しっ、失礼だわ!! ハル、何を言って!?」


「腹割って話そうぜってことだ。俺の今の発言が気に食わないってんなら、煮るなり焼くなり好きにしろ」


「ハル!!」


 パチンッという音が響く。ルキの右の平手によるビンタが炸裂し、ハルの頬が赤くなる。


「ルキルキ! ちょっと落ち着くよねん!?」


「駄目ですよ。こういうのはハッキリしないといけないの! ハル、どういうつもり!?」


「さーな。王様の甘さに耐えられなかったのかもな。どう考えたって国民の仕業だろうよ。それなのに、真っ先に貴族を除外しやがった。平等とは言ったもんだ。魔術師が苦しむのも無理ねえな」


「ハル様、気分を害されたのですね。外の空気でも吸いに行かれては?」


「そうさせてもらうよ。……ルキ、俺の分も食べてくれ。食べ物を残すのは駄目だろう」


 ハルは部屋を出ていった。ハルが残した料理を見て、ルキは溜め息を吐いた。


(ブロッコリー、食べないといけないじゃない。バカ! 一人だけで熱くなっちゃって。ワタシだって平民だわ!)


※ ※ ※


「あーあ、言っちゃった。王様に口答えしちゃった」


 王城から十五分。広々と生い茂る芝生に横になる。思ったことを正直に言っただけだが、言った相手と場所が悪かった。『死なないのなら串刺し刑か?』と思うハル。


「生き地獄だな」


 苦笑いを浮かべる。そんなハルの耳に声が聞こえてくる。犬の吠え声が聞こえてくる。最初の門の方から聞こえてくるのに気付いたハルは、門に向かって走っていく。


「何があっ……た……!?」


 ハルの視界に飛び込んできたのは、首を咬まれて倒れている門番の血塗れな姿と、口を血塗れにしている番犬の姿。

 番犬は牙を剥いている。その様子から、普通じゃないと判断したハルは、短剣を静かに抜いた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ