兄と姉
『今日も太陽は眩しい。分け隔てなく全てを照らす。日向は、時に暖かく、時に暑いもの。恋しい時もあれば、避けたい時もある。恋愛も似ている。一緒にいたい時もあれば、離れたい時もある』
筆を動かす音が鳴る。机に芯が当たって音が鳴る。それは軽快な音楽のよう。紙をクシャクシャに丸めて後方へ。部屋には紙が散乱していた。
部屋の扉がゆっくり開く。そーっと中を覗くリーリッドだが、シャリアに簡単にバレてしまった。
「襲いにでも来たのせえ? ワタクシは大歓迎せえ」
「僕は狼じゃないよねん」
「冗談せえ。でぇ、何の用せえ?」
「ラルロアを見なかったか、と」
「相変わらずの心配性だ。弟離れしないといかんせえ」
「まだ六歳だから。兄としての責任もあるよねん」
「まだ、か。六歳ならば、自分で善悪の区別くらい付く。好奇心が旺盛な分、物事を吸収するのが早い。ナナを見ていれば分かるせえ」
「そうだろうか」
「仮に間違った行いをした時は、正しいことを教えてやればいい。それが兄の……姉の役目せえ。叱る役割は親に任せればいい。叱られて泣いていた時、傍にいるのが兄の……姉の役目せえ」
「難しいよねん。ラルロアが間違っていたら、僕が真っ先に叱ってしまうよねん」
「両親が家を空けることが多い分、その代わりをしているんせえ。ラルロアは両親に甘えているだろう?」
「確かに。僕が叱った時は、両親にベッタリだよねん」
「子供は世渡りが上手いせえ。大人になるにつれて下手になる。立場を弁えてしまうからせえ。子供は遠慮なしせえ。大人が言えないことをハッキリと言う」
「正しいかどうかは二の次だけどよねん」
「正しいなら褒めればいい。間違っているなら叱ればいい。そうやって子供は成長するせえ」
「そうだよねん! そうだよねん!」
「随分と話が逸れてしまったせえ。ワタクシを襲いに来たのだったせえ?」
「違うっ! ラルロアを見なかったかだよねん!」
「あーあ。そうだったせえ。……心配は不要せえ」
「そうか。執筆の邪魔をしたよねん、ごめん」
「許嫁に遠慮は不要せえ。頼られるのは悪くないせえ」
「ありがとう、シャリア」
静かに部屋を後にするリーリッド。クルッと部屋を見渡すと、散らかっていた紙が片付いていた。
「優しい許嫁せえ。ゆっくり語り合うのも悪くないせえ」
『心が寂しさを感じれば、それを埋めようと動くもの。食べて埋めるか? 見て埋めるか? 聴いて埋めるのも悪くはない。が、寂しさの原因が恋愛ならば、愛しの人に会うのが一番だ。心を埋めるのもまた、心なのだろう』
筆を置いたシャリアは満足していた。腕を伸ばして深呼吸。黒い髪を触りながら、持参したアロマでリラックスしていた。




