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魔導書使いは現在逃亡中です。  作者: 無頼音等
第一章 白の魔導書使い
12/29

番外編 「たっくんはわたしのゆうしゃさま」

この話、載せるかどうか悩んだ末に結局載せることにしました。

シリアスを期待していた方々、本当に申し訳ございません。

そして多分このイラストは必要なかった。可愛く描けなくてごめんよ……。

挿絵(By みてみん)

「じゃあ描くなよ」とか思った奴……全くその通りですハイ。

 わたしは一人が怖かった。

 一人はとても怖くて、寂しくて、不安で、切なくて、嫌いだ。

 だけどわたしのパパとママはいつもお仕事で何処か遠い所に出て行ってしまう。

 嫌……! わたしを置いていかないでよ! わたしを一人にしないでよ!

 わたしは怖くて、不安で、何度も泣いた。

 ぜにすっていう怖いおじさんがごはんを届けにきてくれるけど、あの人はきっとわたしのことが嫌いなんだ。わたしが泣いていても無表情のまま帰っていくし。

 結局わたしは一人だから、だれもわたしの涙には気付かない。皆見て見ぬふりをして何処かに行っちゃうんだ。

 けれど、彼だけはわたしの涙に気付いてくれた。


 「どうして泣いてるの?」

 

 わたしのお隣に住んでいる男の子。わたしは彼のことをたっくんと呼んでいた。初めてたっくんを見た時、ほわほわした髪の毛がちょっとだけ赤みを帯びていて、まるで不死鳥の羽のようだと思っていたからとても印象に残っている。

 家の前で泣いていたわたしに、たっくんだけが優しく声をかけてくれた。


 「パパとママがまたわたしを置いて出かけていったのぉ……!」

 「そうなんだ。ぼくも父さんに置いていかれたんだ……一緒だね」

 「ひっぐっ……一人は……嫌だよぉ!」

 「一人じゃないよ。僕がいる。僕が一緒にいてあげる」


 たっくんはわたしをそっと抱いて、優しく頭を撫でてくれた。それはとても暖かくて、安心できる何かがあって、とても心地よかった。たっくんの温もりに、心を冷たく凍らせる恐怖がゆっくりと溶かされていくのを感じた。

 安心したら、もっと涙が出てきてわたしは思い切り泣いた。ちょっとたっくんは戸惑っていたけれど、それでも優しく何度も頭を撫でてくれた。わたしが泣き止むまで、ずっと傍にいてくれた。


 「たっくん! あそぼ!」

 「うん。いいよ。何して遊ぶ?」

 「おままごと!」

 「……う、うん。またぼくが……夫なの?」

 「うん! わたしがお嫁さん!」


 気が付けばわたしはずっとたっくんにくっ付くようになっていた。たっくんは時々恥ずかしがっていたけど絶対に離れてあげない。だってたっくんの体はぽかぽかしてて暖かいもん。それに凄く安心するから、ずっと一緒にいたかった。

 おままごとをやったり、絵本を読んだり、絵本の内容を真似たりもしていっぱい遊んだ。

 たっくんといる間は全然寂しくなかった。


 「お姫様は勇者さまに助けられ、幸せに暮らしましたとさ……いい話だったね」

 「おひめさまかぁ……。たっくんは、おひめさまみたいに綺麗な人が好き?」

 「え? うーん? どうだろう? ……ティナちゃんはどんな人が好きなの?」

 「えへへ! わたしはね、ゆうしゃさまみたいにカッコイイ人がいい!」

 

 もちろん、パパとママにも会いたいって思う気持ちは変わらない。

 だってたっくんのパパはちょくちょく帰ってくるのに、わたしの場合は家に帰っても一人の時間がやってくるだけだったから。


 「パパ……ママ……会いたいよ」


 わたしはある日我慢できなくなって、パパとママを探しに街の外に出てしまった。だけどわたしは街の外にモンスターという怪物がいることを知らなかった。


 『グアアアアアアアア……!』

 「ひっぐ……えっぐ……誰か……助けてよぉ! パパ! ママ!」


 わたしは必死に街に戻ろうと走った。だけど、虎のような化け物が後ろから追いかけてくる。そしてすぐに追いつかれてしまった。

 絶体絶命。わたしは幼いなりに自分が死ぬんだと悟った。

 助けを呼びたい。だけど、声が出ない。人は本当に恐怖した時、声も出せなくなると初めて知った。

 モンスターが嗜虐心を顔に浮かべ、ゆったりと口を開いた。鋭い牙が何本も見える。きっとあれに噛まれたら体はバラバラになってしまうだろう。

 涙で前が見えなくなった。わたしは体を震わせることしかできない。恐怖で固まった体は逃げるという意思に従ってくれない。


 「誰か……助けてよぉ……たっくん……」


 最後にそんな掠れた声で助けを呼んだわたし。だけど、ここは街の中じゃない。彼はここにはいない。

 わたしは絶望に飲まれて意識が朦朧としていた。

 その声が聞こえるまでは。


 「――ティナちゃんから離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 『グァアアアアアアアアアアアアアア!?』


 彼は炎のように真っ赤な剣をを振るって、化け物の顔に思い切り突き刺した。そして化け物の傷口から肉が焼けるような臭いがして、火を吹いた。


 『――――――ッッ!!』


 声にならない化け物の絶叫と共に、彼は剣を思い切り引き抜いた。化け物は顔が黒々と焦げていて、力なく倒れていく。

 いきなりのことでうまく頭が働かない。けれど、そこにはきちんと彼がいる。

 まるでゆうしゃのように駆けつけて、英雄のように剣を振って、そしてわたしを助けてくれたたっくんがいた。


 「ばかっ! どうして勝手に外へでたんだよ! 危ないだろ!」

 「ううう……ごめ……ごめんなさぁぁああい!」

 「ひっぐ、本当に、ぐすっ……心配したんだからな!」

 「ふぇええええええええええええええええん!」


 わたしたちはたくさん泣いた。お互いに声を上げてわんわん泣いた。

 だけど一緒に、わたしの中で熱い感情が花開いた。

 たっくんは、わたしのゆうしゃさまだったんだ……。



***************



 「で、その後にタクティスはおじさんに怒られたんだよね!」

 「ああ。勝手に持ち出した魔剣がかなり高価な物だったみたいでな……拳骨を食らったよ」


 私はタクティスに手伝ってもらいながら自分の家の中を大掃除している。その際、懐かしい絵本を見つけたので二人で思い出話に花を咲かせていたのだ。


 「それにしてもあの時の俺ってかなり無謀だったよなぁ。下手したら死んでたかもしれねえのに」

 「でも私は嬉しかったよ、勇者様?」

 「止めろよ、嫌味か。勇者はむしろお前だろ? 俺は町人Aくらいの役割が丁度いいんだよ。絵本に出てくる引き立て役……モブだ、モブ!」

 「じゃあ今年も、タクティスが危ない時は私が助けてあげるからね!」

 「去年みたいな集団病院送り事件を起こす気か? お前は全身爆弾みたいなもんなんだから自重しろよ」


 タクティス。君は自分のことを卑下しすぎだよ。私は知っている。君は本当は何だってできる凄い人なんだって。

 タクティスなら無謀を勇気に変えられる。どんな困難だって乗り越えられる。

 だから、君はいつだって私の勇者様だ。……鈍感なのがちょっと問題だけど。

 まぁいいか。いつか、私の口からはっきり伝えれば良いだけの話だし。


 「何ニヤニヤしてるんだ? 気持ち悪い」

 「えへへへ、何でもないよ! このデリカシー無しの鈍感男!」

 「笑顔で悪口とか……普通に言われるより傷付くんですが」


 私が笑うと、タクティスもちょっとだけ笑い返してくれる。それが嬉しくて私はまた笑顔になる。

 まだ先のことは分からない。だけど今はこの暖かい時間を大切にしよう。

 私はタクティスに抱き付きながら、そんなことを考えた。



***************



 これは春休みの最終日、新学期が始まる前日の話。

 タクティスがまだ『白の本』に関わる前の物語である。

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