プラネタリウムの後で
洋がプラネタリウムの座席に座り、周りを見回したところ……。
夕方の回ということもあってかカップルが多かった。
確かにデートスポットとして人気の場所だろう。
その時、洋は何と両親に挟まれて座っていた。
母がそうしたいと言ったのだが、何とも気恥ずかしい感じだ。
いい歳した親父が両親に挟まれて座るとは。
そんなことには全く頓着していない母が楽しそうにプラネタリウムの天井を見上げている。
「いよいよ始まるわね〜。」
段々と場内は暗くなり夜空が映し出される。
「うわ〜っ。」
思わずその美しさに洋の口からも声が洩れた。
「洋ちゃん、ほら、あそこにオーロラが!」
母が囁く。
どこからともなく良い香りも漂ってきた。
これがアロマの香り?
それともフィンランドの森の香りか?
洋は目を閉じて香りを嗅ぐ。
両親と会って多少緊張していたが、今はリラックスできているような気がする。
目を開けてそっと父の方を見ると父も神秘的な夜空に感動している様子だった。
こんな両親との時間が持てた自分は凄く……凄く幸せ者だろう。
洋はもう一度目を閉じてずっとこの幸せな時間が続くことを祈った。
そして少し眠ったのかもしれない。
次に目を開けた時、両隣にいたはずの両親がいなくなっていた。
「えっ?嘘だろ!」
洋は小さな声をあげた。
慌てて周りを見回したが、どこにも両親の姿は見つけられなかった。
今は暗いのでよく見えないだけだ。
明るくなればどこかにいるのが見えるかも……と洋は淡い期待を抱いたが、場内が明るくなっても両親の姿はそこになかった。
「本日はありがとうございました。」
というアナウンスとともに扉が開く。
よろよろと立ち上がった洋は、それからどうやって家に帰ったかを後で思い返そうとしてもはっきりとは思い出せなかった。
また洋の前から忽然と姿を消した両親。
別れの挨拶をするのが照れ臭かったのかな?
父と母の両方の顔を思い出してみる。
不思議とまた別れてしまった寂しさより温かな気持ちに包まれた。
俺は両親に愛されていたんだ。
両親に久しぶりに会うまではずっと胸の奥にぽっかりと開いた大きな穴があったが、今はその穴は塞がった。
そんな気がしてならない。
その晩、妻が規則正しい寝息をたてる横で満ち足りた気分のまま洋は眠りに落ちた。