五月の風とともに
カーテンが五月の風に揺れ、リビングからはコーヒーの香りが漂ってくる。
「幸ちゃん、さっさと食べちゃいなさい!」
いつもの妻の声。
「あなた〜、そろそろ起きないと電車の時刻に間に合わないわよ。」
「うん。今、起きるよ。」
ジュ〜ッというフライパンに卵を落とす音。
朝のニュース番組からは馴染みのアナウンサーの落ち着いた声が響く。
変わらぬ日常。
「幸ちゃん、悪いけどパパ起こしてきて。」
「はぁーい。」と元気よく答える幸太郎の声。
パタパタと小さな足音をたてながら寝室に飛び込んでくる可愛い息子。
ベッドにバサ〜ッと飛び乗ってきて
「パパ、起きなさ〜い!」
と言いながら腋の下に手を入れてこちょこちょとくすぐり出すからたまらない。
「幸太郎、わかったからくすぐるのはやめてくれ。」
堪えきれなくて飛び起きてから息子としばらくベッドの上で暴れる。
しばらくすると妻の直美が寝室を覗きにきてやれやれという顔をする。
「何やってるの。二人とも。あなたは着替えて早く朝ご飯、食べにきて。」
「はぁ〜い。」
息子と二人で元気よく答える。
「パパ、ママに怒られちゃったね。」
息子がニヤッと笑ってまたパタパタと足音をたてて寝室から出ていく。
こんな光景をどこからか両親は見ているだろうか?
そして安心して顔を見合わせて笑うかな?
洋はふと思った。
最後に両親に会って以来、スーツの上着のポケットから手帳は消えた。
自分と同じ年頃だった両親。
あまりに早い二人の死に今だ納得はいかない。
ただ……自分が幼かった頃に幸せだった家族の姿が確かにそこにはあった。
自分もまた家族を作り、大切な今を生きている。
朝食を終え、ネクタイを締めて玄関に向かう。
「行ってきます!」
洋の声を聞き、玄関まで出てきた家族が手を振って見送ってくれたことにちょっとじんとくる。
当たり前のそんな幸せを感じながらまた、今日という日が始まった。
相変わらず陽射しは眩しく、初夏を思わせる陽気だ。
以前よりいくらか軽くなった足どり。
見上げた空はどこまでも澄んでいた。
最後までお読み下さり有難うございました。




