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由緒正しい田舎娘

⚠全体的に、不妊・流産などに関する表現があります⚠


よろしくお願いします。


山と畑と水脈に恵まれたこの地では、日が昇ると同時に人も活動を始める。

簡易ドレスを着て、エプロンと頭巾を被ったキャロルは、袖を捲りあげて廊下へと飛び出した。


「おはよう」


「あら、おはようございますお嬢様。旦那様たちは、もう畑へ行かれましたよ」


「そうなの? なら、お花当番はわたしね」


ふんふんと鼻歌を口ずさみながら、亡き母の墓前に飾る花を選ぶため、キャロルは庭へと向かう。

キャロルは、歴史だけはある田舎のリクロ伯爵家の、九人兄妹の末子として生まれた。


長兄はお嫁さんをもらったし、他の兄姉は嫁入り婿入り独り立ちと、家を出て行った。

母はいないが、今は長兄の子供たちも幼いため、賑やかな生活を送っている。


長閑で穏やかな領地は、そのまま領主家に反映されていて、さっぱりと付き合いやすい人柄のため、それなりに慕われていた。

また、まあまあの家格と、一貫して政治から距離を保つ性質上、婚姻先としてもそこそこ人気がある。


かくいうキャロルも、最近ちょっといい感じかしらと思う子爵令息がいて、頻繁に文通なんかしちゃったりしている。

お互い跡継ぎではないので、働きながら平和に生きていけたらいいな、なんて思っていたのだけれど。


「だ、第二夫人……」


父に呼び出された居間に駆け込むと、汗だくの父と青白い顔をした見知らぬおじさまがいた。

王都の大公家から来た使者だというおじさまからもたらされたのは、衝撃の報せだった。


大公家は、遡れば王家に連なる尊き血筋。言わば、王家のスペアとも言えるお家柄である。

しかし、公子夫妻が子に恵まれない。

仲睦まじい夫妻だが、四年前に御子が流れてしまって以来、夫人はお身体を悪くされている。


夫人の身体に負担をかけることなく、しかしどうしても後継が必要なため、第二夫人を娶るように、との王命が出た。

相手を選定するにあたり、派閥に属さない高位貴族の独身の令嬢の中で、キャロルが適任ということになった。


いや、〝ということになった〟って。

確かに独身だし、婚約者もいないけども。


キャロルはちょっぴり面白くない気分になる。

まだ孕んだこともないのに、必ず後継を産めるなんて保証はない。子だくさん家系ではあるけども。


「あの。夫人のお身体に障りなく、とおっしゃっていましたが」


遠慮なく口を挟んだキャロルに、使者はほんの少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な顔で向き直った。

うん。本当に切羽詰まっているのだろうなとは、ひしひしと感じる。


「仲睦まじいご夫婦なのに、第二夫人を娶ったりしたら、お心には障りがあるのでは……?」


「厳しいことを言うようですが、大公家の次期当主夫人ですので、そこは耐えていただくしか。ご夫妻も王命の意義はご理解されております」


「さようですか」


意義を理解するのと、現実は違うのでは。なんて思ったりもするが、確かに貴族には血をつなぐ義務がある。

すんごい他人目線で言うと、離縁せずに第二夫人を娶るほど、夫に愛されているのは幸運だ。


次期当主夫人ともなれば、子ができなければサクッと離縁されるのが常である。夫に理由があるかもしれなくても。理不尽。

だから、王命は温情とも言えるだろう。


────まあ、仕方ないよねえ。


田舎暮らしの芋娘といえど、建国から続く名家の令嬢としての教育は受けてきた。

まさか第二夫人なんてものになるとは思わなかったが、家門のために嫁ぐ覚悟くらいある。


「このように、気の強いお転婆娘です。都会の大貴族に馴染むか……」


「まあ、お父様。わたしに求められてるのは、淑やかさじゃなく繁殖でしょう?」


「こ、このように……」


がっくり項垂れる父に首を傾げていると、何度か目を瞬いたおじさまが、綺麗な碧の瞳を和ませた。


「とんでもない。美しく、活力に溢れた素敵なご令嬢です。ぜひ当家にいらしてください」


都会のお嬢様方ほど淑やかには振る舞えなくていいなら、まあどうにかなるのではないだろうか。

諸々、こちらにも有利な条件を詰めよう。父の隣に陣取ったまま、キャロルは気合いを入れ直した。




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