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オーバードライブ  作者: dice-k


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4/4

4球目:夢と現実の差

前回までの【あらすじ】


光羽虹翔。

中学3年生にして初めての公式戦。

その相手は、県ダブルス優勝候補ともささやかれる『鷹宮蓮』要する『滝川南中学校』だった。


お互いの公式ウォームアップが終了し、いよいよ試合開始の号令が鳴る。

果たして、その結果は――。

主審の号令とともに、両者の選手がネットを挟んで、互いの陣地コートのエンドラインに立つ。


主審がそれを確認するとともに再び号令をかける。


『集合ーーーーーっ!!!』


その言葉とともに、虹翔たちも、エンドラインからネットへと進んでいく。


お互いがサービスラインまで到着したのを確認すると、主審がコールを開始する。


『只今より、滝川南中学校 対 北松中学校の団体戦を開始いたします!』


『互いに、礼!』


「よろしくお願いしまぁーーーーーーす!!!!!!」

コートのエンドラインに互いが整列し、あいさつを交わす。


観客席には、滝川南中の応援団だけでなく『鷹宮蓮』を一目見ようと、高校生や一般の観客も交じっている。


『オーダーの確認をします!』

その言葉とともに、虹翔のなかにも緊張が走る。


(いよいよ...........)


(いよいよ、始まる...........)


『第1ダブルス 滝川南中学校 山下さん、松戸さん!』


「はい!」

相手の2人が手を挙げて返事をする。


『北松中学校 高木さん、三上さん!』


「は、はい!」

2人もつられるかのように返事をする。


『第2ダブルス 滝川南中学校・・・・・・』


『・・・・・・・高野さん』


『以上。第1ダブルスの選手は準備をしてください』


主審の掛け声とともに、両者は自陣ベンチへと戻っていく。


「こうちゃんの相手、あの鷹宮とかってやつだったね!」

三上が緊張したような表情で、虹翔に話しかける。


「う、うん..........」

何かを考えているような、覚悟が決まったようなそんな表情で返す。


「で、でも、勝負なんてやってみなきゃわかんないしね!」

取り繕うように、三上が返す。


「ほら、行くぞ!」

緊張して、虹翔に話しかけている三上に高木が声をかける。


「お、おう!」

三上は短く返すと、2人はコートへと入っていく。



――第1ダブルス試合開始。


――パァアアアン!!!!!

――スパァァァァアアン!!!!!

――ズバァァァァァアアアン!!!!!!


相手の強烈なスマッシュが、次々にコートへと突き刺さる。


「がんばれ!!!!!!」


「先輩、頑張って!!!!!」

応援はしてみるが、力の差は歴然


――数分後


『マッチワンバイ 滝川南中学校 15‐4 15-6』


「........こうちゃん、ごめん」

そういいながら、三上と高木がコートから戻ってくる。


「大丈夫!!ドンマイ!ドンマイ!!!」

ベンチでは虹翔が笑顔で待っていた。


「2人ともナイスプレーだったよ!」


「あんなに速いスマッシュにあてれるなんて、すごいです!」

後輩たちも、声をかける。


「いや........さすがに無理があったね」


「そうか?俺は、勝てそうな気したけどな!」


「お前、スマッシュ打たれて、ヒャッ!とか女の子みたいな声出してだろ!」


「なあ、こうちゃ..........」

虹翔に話を振ろうとして、三上が口を紡ぐ。

その表情に、()()()とするほどの畏怖が走る。


(なんか、こうちゃんめっちゃ集中してる?)

とっさに高木に耳打ちする。


(みたいだな。)


その視線の先には.........。


《鷹宮蓮》の姿があった。


「よし!行こう!」

後ろで不安げにラケットを握る1年生に声をかけると、自らコートの中に入っていく。


ネットの中央に進むと、鷹宮蓮が立っている。

虹翔との身長差は20㎝くらい。

そして、上から見下ろすその目は『鷹』という文字がそっくりなほどに鋭い。


主審が互いの選手を確認するとトスを行う。

サーブは滝川南中学校に決まる。

シャトルを鷹宮蓮に渡すと、審判台に座りコールする。


『オンマイライト 滝川南中学校 レプリゼンティッドバイ 佐野さの康太こうたさん 鷹宮蓮さん』


『オンマイレフト 北松中学校 レプリゼンティッドバイ 光羽虹翔さん 今野こんの智樹ともきさん』


『滝川南中学校 トゥ サーブ 佐野康太さん トゥ 今野智樹さん』


『ファーストゲーム ラブオールプレイ!』


いよいよ、虹翔の初の公式戦が始まった。

すべての音が遠くなっていく。

まるでコートの中だけ、現実世界から切り取られたように。


佐野のサーブがスッと放たれる。

そのシャトルはネットすれすれを滑るように超えてくる。


「わっ!!!!」

そのハイクオリティーなサーブに今野はびっくりしてロブを上げる。


しかし、ラケットを強く振ったことが幸いした。

浅くはない。

エンドラインまでは届かないが、ダブルスのロングサービスラインくらいまでには飛んでいる。

虹翔もそのシャトルを見て「よしっ!」「これなら!」とラケットを構える。


が、シャトルの下にいたのは。


鷹宮蓮――


構え、腕を引き、シャトルに向かって跳んだ。


時間が引き延ばされるような感覚。


シャトルがゆっくりと、鷹宮に引き込まれていく。

空気が張り付き、音が消えたような気がした。


そして、鷹宮の腕がしなる。


次の瞬間。


――ズバァァァァァァァアアアアン!!!!!!!!


聞いたこともない轟音とともに虹翔めがけてシャトルが放たれる。


***********************************************

【世界最速の球技】

バドミントンのスマッシュは男子で最高時速565キロ(ギネス記録)にもなる。

そのスマッシュは打たれてから、相手の手元に遠くまでの時間は、わずか0.3~0.4秒。

プロの選手ともなればその時間は、実に0.2秒を切ることもある。


人の反応速度が0.2~0.3秒といわれるため、見てから動くのではとても間に合わない。

***********************************************


慌てて虹翔がラケットを出そうとした瞬間。


シャトルは、虹翔の横を通り過ぎ、コートへと突き刺さる。

あまりにも、あっけない開幕。


『ポイント ワンラブ!』

主審の声が響き渡る。


たった1球だが、その差を突き付けられる。

ネットの向こう側では、何事もなかったかのように、鷹宮が元の位置に戻っていく。


(................。)

声にならなかった。


***********************************************

虹翔の頭の中をこれまでの3年間の練習が駆け巡っていく。


小学5年生の時に見た【インターハイ 男子バドミントンの決勝戦】

その強烈なスピードと迫力に魅了されて始めたバドミントン。


しかし、虹翔の中学校にバドミントン部は女子しか存在しなかった。

担任の先生には、大会にも出られないことを理由に、ほかの部活への転向も進められたが、1人でもやると決めた。


部活ではなく、愛好会だったため、まともに体育館の使用も認められなかったが、あきらめることはしなかった。


体育館の隅で、ほかの部活が練習する中、一人で壁打ちを行い。

自作の竹竿にシャトルを紐で吊るしては、ジャンピングスマッシュの練習をした。

ほかの部活が外のランニングに出ると、その隙を見てフットワークの練習をした。


最初は、何1つできなかった。

壁打ちをしてはシャトルをスカし、ただ吊るしてあるだけのシャトルすらからぶった。

初めのうちは上手くいかず、苛立ちを覚えることもあったが。

それでも、少しずつ出来るようになっていく実感がやがて楽しさに変った。


中学2年生の時には、顧問の先生が地元の社会人サークルの会長さんに話をつけてきてくれて、人と打つ機会も増えた。

中学生だったため、19時~21時の活動時間も20時までの参加しか認められなかったが、それでも人と打てるのにはまた別の楽しさがあった。

田舎ということもあり、参加者はほとんどが、おじちゃん、おばちゃん。

お世辞にも若いと呼べる人はいなかった。


それでもシャトルが返ってくる幸せ。

シャトルを上げてもらえる幸せがあった。

相手がいる幸せがあった。


シャトルを上げてもらい、ジャンピングスマッシュの練習をし。

スマッシュを打ってもらいレシーブの練習もしてきた。


はずだった............。

***********************************************


「せ、せんぱい..........」

今野が不安そうに虹翔に声をかける。


その声に、ハッと我にかえる。


「ご、ごめん.........次は捕るね!」

とっさに出た言葉であった。


しかし、その眼に刻まれたのは、圧倒的な実力の差。

町内会の人たちが健康のために週1回運動としてやっている【趣味】のバドミントンとはまるで違う。

【競技】としてやっている者。


「大丈夫!こうちゃん!切り替えていこう!!」


「先輩!まだまだここからです!!!」

ベンチからの応援とともに、再びラケットを握りなおす。


「うん!」

そういうと、虹翔は再びサービスラインの位置へ戻っていく。


――。


しかし、無情にも点差は開いていく。


「2セット目も、滝南の圧勝かな...........」


「なんだかかわいそうになってくるな。」


「すでに、1セット目圧勝でとられて、2セット目もこの点差だもんな」


「うわーーーー。また決まった!」


「ほんと、鷹宮のスマッシュ強力だな!」


「高校生でも取るの厳しいんじゃねぇか?」


「あれ、俺返せるかな?」


そんな声が観客席で飛び交う。


(...........くらえ!!!!!)

上がってきたシャトルに虹翔が必至で飛びつく。


――バシンッ!!!!


それでも、鷹宮には通じない。

当たり前のように返球される。


点差はすでに【13-5】


そして、再び鷹宮のスマッシュが炸裂する。


――バシィィィィン!!!!!


しかし、今度は違った。

シャトルはコートに落ちず、虹翔のラケットにあたった。


元のスマッシュの速さもあり、それがそのままネットを超え相手コートへと返っていく。


しかし、前衛にすでに佐野が入っている。

そのまま前衛でたたかれる!!!!!!


と、思ったとき。


――ガシャン!!!!!!!


一瞬時間が止まり、シャトルが、力なく鷹宮の足元に落ちる。


返ってくると思っておらず、明らかに気を抜いていた。


「ご、ごめん..........」

佐野が、申し訳なさそうに鷹宮に謝る。


「...........。」

鷹宮は佐野を一度にらみつけると、シャトルを拾い上げ、北松中側に返球する。


北松中側は初めての鷹宮のスマッシュのリターンに大盛り上がりを見せている。


「ヨッシャァァァァァアアアアア!!!!!」


「先輩!!!!ナイスです!!!!!!」


「こうちゃぁぁぁぁぁぁああああああん!!!!!」


観客席からも声が漏れる。


「はは!一本レシーブしただけで、北松中すごい盛り上がりっすね!」


「マグレだとしても、初めてのリターンだからな!」


「それにしても、あの小っちゃい子、よく動くな!」


「たしかに、ここまで点差ついてたら、あきらめたくもなるけどな!」


「でも、1年生と組みながら、あの初心者同然のチームをよくまとめてるよ!」


「あの子が中心になってるのがよくわかる!」


「技術はないけど、いいチームだな」


「それに比べて、滝川南はいまいち、まとまってない気がするな」


「鷹宮も、噂通り確かに上手いけど、1人でダブルスしてるみたいな感じがするしな」


「たしかに、1人でとって、1人で決めてって感じしますね!」


「そうだね。いまいちペアを使いきれてないっていうか.........」


「たしかに、個人の力が出やすい競技ではあるけど、あれで県勝てんのか?」


『サービスオーバー 6-13』

主審のコールとともにサーバーが北松中に移る。


しかし、滝川南も黙ってはいなかった。

さっきまでとのスマッシュ一辺倒の攻撃とは違い、コースをついて揺さぶりをかける。


「うお!コース空いた!!!!!」

観客席から声が漏れる。


北松中の今野がドロップで崩され、ネット前で転倒。

シャトルは宙にふわふわと浮き、もはや虹翔のシングルス状態である。


そして、そのシャトルに跳んでいるのは、鷹宮蓮。


――ズバァァァァァアアアアンンンンン!!!!!!


ものすごい轟音とともに、シャトルが北松中のコートめがけて飛んでいく。


コースには誰もいない。

会場の全員が決まったと思っていた。

滝川南の佐野も気を緩めラケットを下す。


その時。


「まだだ!!!!!!!!」

鷹宮の声が響き渡る。


たしかに、さっきまで誰もいなかったコース。

鷹宮自身も、誰もいないことを確認してから打ち込んだ。

しかし、そこに1つの影が飛びついている。


――光羽虹翔


――バシィィィィィンン!!!!!


必死に伸ばしたラケットにシャトルが当たる。


(か、かえっ.............)


虹翔は飛びついた反動でコート外へゴロゴロと転がる。


(シャトルは.........!?)

時間がスローモーションになり、全員がそのシャトルの行方を追う。


確かに、シャトルは前に飛んでいる。

ギリギリネットを超えそうな軌道を描きながら。


――コツン。


無情にもシャトルは白帯にあたって、力なく北松中のコートに落ちた。


「おしいーーー!」


「がんばるねーーー!!」


「痛そう。。。。」

観客席からも声が飛ぶ。


「うわ!あぶねーーーー!返ってきたら絶対取れなかったわ!」

佐野も口を開くが、どこか、気の抜けた、勝ちを確信したような口調であった。


しかし、鷹宮の目には、そのプレーがしっかりと焼き付いていた。

(こいつ............。今、間違いなく...........。)


転がる虹翔を上から見下ろすと、虹翔も立ち上がり鷹宮をにらみ返す。


しかし、その虹翔の目には、まだ闘志が宿っていた。


その視線に、ぞっとした気配を覚える鷹宮。


虹翔も立ち上がると、再び鷹宮を見る。


(こいつ..........まだ、目が死んでない)


(まだ、終わってない!)


2人の闘志がぶつかり合う。


『フォーティーシックス!』(14-6)

主審のコールが会場に響く。

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