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【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました  作者: 天地サユウ
第一章

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第一話 悪役令嬢の取り巻きA

「ほんっとに、ムカつくわ! あの泥棒猫!」


 王立学園のサロンにて、公爵令嬢イザベラ・フォン・ローゼンバーグ様が、ヒステリックに叫んだ。

 その瞬間、すかさず彼女の背後に控えていた令嬢たち――通称『取り巻き軍団』が一斉にさえずる。


「その通りですわ!」(取り巻きB)

「まったくです!」(取り巻きC)


 まずは『肯定班』が相槌を打ち、続いて『攻撃班』が畳み掛ける。


「あのような平民など、イザベラ様の足元にも及びませんわ!」(取り巻きD)

「図々しいにも程があります!」(取り巻きE)

「身の程知らずですわね!」(取り巻きF)


 さらに『賛美班』が、全く関係のないポイントを褒め称える。


「それに比べて、イザベラ様の気高いことと言ったら!」(取り巻きG)

「今日もドレスがお似合いですよ!」(取り巻きH)

「髪の艶も素晴らしいですわ!」(取り巻きI)


 最後に『賑やかし班』が勢いだけで叫ぶ。


「さすがは公爵家の華!」(取り巻きJ)

「世界一ですの!」(取り巻きK)


 うるさい、実にうるさい。

 彼女たちは善良なる『取り巻きB〜K』の皆様だ。

 男爵家から伯爵家まで、様々な家柄の令嬢たちだが、その実態は、イザベラ様の機嫌を取ることで、おこぼれに与ろうとする涙ぐましいイエスマン集団である。


 質より量。彼女たちの仕事は、その数の暴力でイザベラ様を全肯定することだ。

 だが、取り巻きAの私、リリアナ・フォレストは、彼女たちとは一線を画している。


 彼女たちが『媚び』と『ノリ』で動いているのに対し、私は『給料ビジネス』と『計算』で動いているからだ。


「流石ですわ、イザベラ様! その高潔なお怒りこそ、正義の証です!」


 私は彼女たちの雑音を切り裂くように賛同した。

 発声のタイミングは、イザベラ様が扇子を閉じた直後の0.5秒間。

 声のトーンは『驚嘆』が7割。『追従』が3割の黄金比。

 完璧だ。しがない男爵家の三女ではあるが、今日も私の仕事に一点の曇りもない。


「当然よ! あの平民の存在自体が、この王立学園の汚点だわ!」


 再びヒートアップし始めたイザベラ様を眺めながら、私は密かに口角を上げた。


 全く平和なものだ。

 世間一般において、私たちのような『取り巻き』は、権力者の威を借る金魚のフンだと思われている。個性がなく、薄っぺらく、主君が没落すれば共に消えゆく『背景モブ』。


 だが、真に優秀な『取り巻き』とは、高度な感情労働従事者――つまり、プロフェッショナルなのである。


「ねえ、リリアナ聞いてるの? あの泥棒猫のことよ!」


 イザベラ様のヒステリックな声が、現実へと私を引き戻す。

 私は瞬時に思考を切り替え、表情筋を『忠義の従者』の形に固定する。


「はい、イザベラ様。聖女ソフィア・ファルシアのことですね。先ほどの中庭での振る舞いは、実に目に余るものでした」


 私は懐から手帳を取り出し、ペンを走らせる。

 説明するまでもない。これは単なる噂話ではなく、ビジネス。

 明日、食すパンのため、今日も私は完璧な腰巾着を演じるのである。


「許せないわ! リリアナ、今すぐあの女の教科書を中庭の噴水に投げ込んでらっしゃい! びしょ濡れにしてやるのよ!」


 ソファの上でクッションを放り投げながら、イザベラ様が鼻息荒く命じた。


 燃えるような赤髪は、芸術的なまでに完璧なツインドリルに巻かれている。その見事な縦ロールを怒りで震わせながら、勝気な吊り目をさらに吊り上げる。


 黙っていれば絶世の美女だが、口を開けば残念なワガママお嬢様。

 それが、私の雇い主だ。


 私は飛んできたクッションを見事な手さばきでキャッチし、元の位置に戻しながら首を横に振った。


「イザベラ様、それは下策というものです」

「な、なんですって!?」

「教科書という物品の損壊は、学則第15条『生徒間の私有財産侵害』に抵触します。もし見つかれば、こちらが停学処分を受け、アレクセイ殿下に『心の狭い女だ』と幻滅されるリスクがございます。ハイリスク・ローリターンです」

「むぅ……じゃあ、どうすればいいのよ!? この怒りは収まらないわ!」


 イザベラ様が地団駄を踏む。

 私は深いため息をつくと、眼鏡を中指で押し上げた。


「イザベラ様、感情任せの嫌がらせは三流の悪役がすることです。我々は一流を目指さねばなりません」

「い、一流……? どういうことよ?」

「まずは鏡をご覧ください。今のイザベラ様の表情は、どう見えますか?」

「え? そんなの決まってるじゃない。不正を許さない、気高い公爵令嬢の顔よ!」

「いいえ、今すぐ処刑命令書にサインしようとしている独裁者の顔です」


 私は手鏡を突きつけた。

 鏡の中のイザベラ様は、眉間に深い皺を寄せ、般若のような形相をしている。


「一流の被害者は怒りではなく『悲しみ』を武器にします。顎を引き、瞳を潤ませ、扇子で口元を隠す……そう、これです」


 私が実演して見せると、イザベラ様は素直に真似をした。


「こ、こうかしら……? 『殿下、その女に騙されてはいけませんわ……』」

「セリフは棒読みですが、顔は合格です。本番では、その『可憐な被害者』の仮面を被り続けてください。決して『その首を刎ねて差し上げますわ!』などと叫ばないように」


 私は手鏡を置き、話を続ける。


「殿下がソフィアを庇護するのは、彼女が『清廉潔白な聖女』だと信じているからです。ならば、我々がやるべきことは水をかけることではなく、その化けの皮を論理的、かつ不可逆的に剥がすことです」


 私は脇に抱えていた革張りのファイルを、テーブルの上に置くと、ドンッと重々しい音が立った。

 表紙には金文字で『対聖女ソフィア・ファルシア戦略的排除計画書』と記されている。


「ここ数週間、私はソフィアの周辺調査を行いました。結果から申し上げますと、彼女は真っ黒です」

「ま、真っ黒? 日焼けでもしたの?」

「いいえ、腹の中と素行の話です」


 私はページをめくり、イザベラ様に提示する。


「まず、彼女が平民出身ながら、不自然に高価なアクセサリーを所持している点。これは学園の備品管理室から消えた魔石の数と一致します。次に、テストの点数が急激に上昇した時期と、教員室への不法侵入の痕跡が見つかった時期の相関関係。そして極めつけは、これです」


 私はイザベラ様に、一枚の羊皮紙の写しを指さす。


「彼女が隣国の密偵と接触している現場を、私が雇った『庭師バイト』が目撃しました。日時は先週の火曜日。場所は裏庭の温室です。さらにその目撃情報を元に、イザベラ様のお名前を拝借して王都の『憲兵隊』を動かし、裏付け調査も完了しています」


 イザベラ様が目を丸くした。


「み、密偵ですって!? 泥棒猫どころか国家の敵じゃないの!? で、でも、すごすぎてよく分からないわね。と、とにかくあいつが悪党だって証拠があるのね!?」

「はい。ですが、これらはまだ状況証拠の域を出ません。来たる卒業記念舞踏会……通称『断罪イベント』までに、これらを確定的な法的証拠へと昇華させる必要があります」


 私はイザベラ様の目を見て、恭しく一礼する。


「イザベラ様、私に全権をお与えください。明日の『舞台演出』と資料の手配などの工作資金として金貨10枚ほど必要ですが、必ずや殿下の目が覚めるような『完璧なステージ』をご用意いたします」


 イザベラ様は、一瞬ぽかんとした後、満面の笑みで私の手を取った。


「いいわよ、リリアナ! 金貨でも何でも持って行きなさい! すべて、あなたに任せるわ!」

「かしこまりました(予算確保完了です)」


 チョロい。もとい、決断の早い上司で助かる。

 私は心の中でガッツポーズをした。この予算があれば、弟のエルヴィンの学費だけでなく、実家の雨漏りの修繕もできる。

 そして余った分は、私の老後資金だ。


 ◇


 夜明け前、私は寮の自室で一人作戦会議を行っている。

 狭い机の上には、学園の見取り図と、ソフィアの行動パターンを記したタイムテーブル。そしてここ、カイゼル王国の法律書を所狭しと広げた。


「聖女ソフィア、彼女もまた、この学園という舞台でのし上がろうとする野心家ですね」


 私には分かる。彼女もまた、生きるために必死なのだ。だが、やり方がずさんすぎる。

 色仕掛けや小細工で一時的な寵愛を得ても、それは砂上の楼閣。


 真の地位とは、堅実な実務能力と、瑕疵のない経歴によってのみ担保される。


 私はインク壺にペンを浸し、報告書の最終校正に入った。

 ターゲットは、第一王子アレクセイ殿下。

 冷徹無比な『俺様王子』として知られる彼は、無能を嫌うと聞く。

 涙ながらに「ひどいんです!」と訴えたところで、「証拠は?」と切り捨てられるのがオチだ。


 彼を動かす鍵は『正義』ではなく、『損得』と『事実』だ。


「構成案A……ソフィアの素行不良による品位低下の指摘。いや、これでは弱い。やはり構成案C、国家保安上のリスクとしての排除勧告で行くべきね」


 数週間にわたる地道な裏付け調査と、連日の深夜に及ぶ書類作成。

 本来ならば、貴族の令嬢がするようなことではないが、徹夜作業は苦ではない。むしろ、数字や事実がパズルのように組み合わさり、一つの結論――『ソフィアの社会的抹殺』という解へと導かれる過程には、ある種のカタルシスすら感じる。


 そして夜明けの光が窓から差し込む頃、ついにその資料は完成した。

 厚さ5センチにも及ぶ、渾身の調査報告書。

 これこそが私の武器であり、イザベラ様を守る盾となる。

 さらに、私がこの学園から無事に卒業し、退職金をもらって平和に暮らすための切符だ。


「ふう……。これで準備は整った」


 私は大きく伸びをし、冷めた紅茶を一口飲んだ。

 明日は卒業記念舞踏会。

 私のシナリオ通りにいけば、イザベラ様は真実を暴いた勇気ある公爵令嬢となり、ソフィアは退場する。


 完璧だ。どこにも破綻はない。

 私は信じて疑わなかった。


 だが、その『完璧すぎる仕事ぶり』が仇となり、あの恐ろしい俺様王子の目に留まることになろうとは、この時の私は知る由もなかった。

お読みいただき、ありがとうございます。

※毎日投稿となります(12時)

※毎話3000字程度


【短編】https://ncode.syosetu.com/n2525ln/

[日間]総合 - すべて 2位に入りましたm(__)m


2026.2.21 新連載始めました。

【連載版】悪役令嬢のメイドAですが、お嬢様の婚約破棄を阻止するのも私の仕事です

https://ncode.syosetu.com/n6676lp/

今後ともよろしくお願いします( ´∀`)ノ

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