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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第六十八話 新たな誘い


「彰人ー! 盛り上がってるかーい!!」


「………盛り上がりたいのは山々なんだが、お前のテンションが高すぎて気後れしてる最中だ」

「何だよー、つれねぇなおい! せっかく二人で遊びに来てるんだから、楽しもうぜっての!」


 彰人と朱音、そして航生たちも含む四人でレジャー施設へと遊びに行ってから一週間と少しが経過した頃。

 現在の彰人は、久方ぶりに唯一の男友達とも言える航生と久方ぶりに二人で出かけている最中だったが……時間を空けて会った時のこいつのテンションの高さが何より鬱陶しい。


 航生は航生で休みの真っただ中にあって活力が溢れているのか、いつも以上に激しく気分を高揚させているので対処も一苦労だった。

 そんな二人がいるのは、とある店の一室………


 少し薄暗く、やたらと声が響きそうな密閉された空間。

 周りを少し見渡してみれば、目の前には大きなテレビに近い印象を受けるモニターと、何本かのマイクが設置されている。


 …早い話が、二人でカラオケに遊びに来ているところだった。


「それに彰人よ、お前全然歌ってないだろ! 二人で来てるんだからお互いに歌い合うのがセオリーってもんだろ!」

「しっかり歌ってるわ! …お前の選曲がハイペース過ぎて、こっちが追い付いてないだけだっての」

「本当かー? …ふむ、確かに履歴見たら見覚えないのが多いな」

「……何で俺が歌ってる時の記憶だけ抜け落ちてるんだよ」

「悪い悪い! …多分、彰人と久しぶりに集まってることにテンション上がって歌うことにだけ集中しすぎたな。はっはっは!」

「笑って誤魔化すな!」


 相変わらずノリと勢いで駆け抜けていくスタイルはまるで変わっていないようで、航生は馬鹿みたいに大きな声量を張り上げて笑っていた。

 心なしかその笑い声も、いつもより何割か増しででかくなっているような気もするが…いや、気のせいでもないか。


 おそらく今いる場所がカラオケルームの一室という、全力で声を出しても問題にならない空間ということもあって航生も遠慮せずに声を出しまくっているのだろう。

 …それを目の前でやられた彰人は、騒音が当たり前のカラオケであっても他の何よりもうるさい音を発せられる友にある意味尊敬してしまいそうになったが。


「にしても……いやー、歌った歌った! 一旦は満足だな!」

「あんだけ全力で歌い続けてればそりゃ疲れるだろうさ……ひとまず喉を休ませておけよ」

「いんや? 別に今は一通り歌いたかったものを歌い終わったってだけで疲れてはないぞ? とりあえず次に歌うもんが思いつくまでの小休憩だからな」

「……体力馬鹿が」


 しかしそうこうしていると、航生もいつしか満足げに背後のソファめがけて倒れ込んでいく。

 流石の航生であっても、数時間も歌い続けたとなれば疲労も限界に到達したか。


 そう思って軽く彰人が労いの声を掛けたのだが……なんと、こいつは疲れたわけではなく単に歌いたい曲を歌い終えてしまったので休憩しただけだと言い出した。

 …呆れるほどに有り余っているらしい体力の権化。もはや見習うべきではないかと思い込み始めてしまう。


「あ、そういえば言い忘れてたけどよ。この前はサンキューな! 彰人とプールに行くって目標も達成できたし……ダブルデートまでしてくれるとは思わなかったぜ!」

「…あれをデートと言っていいかどうかは微妙なところじゃないか?」

「何言ってんだ。男女が二人組になってどこかへ出かける……これをデートと言わずしてなんだってんだよ!」

「それは……確かにそうだけどさ」


 まさか航生に正論で言いくるめられるとは思っても見なかったが、言われてみればこの前の外出は見ようによっては朱音とのデートとも取れるものだった。

 彼女がどう捉えていたのかは当人に確認でもしない限り分かる事実ではないが……少なくともデートというものの定義を考えてみれば一応は当てはまっている。


 どちらかと言えばその後に起きた出来事のインパクトが強すぎたためにそこまで意識が向いていなかったが、今更ながらそう認識すると気恥ずかしくなってくる。

 彰人の認識の中ではデートというのはあくまで親密な仲の男女がするものであったため……無意識だったとはいえ、自分が朱音と知らず知らずのうちにそんなことをしていたと思うとむず痒くなるのだ。


 別に彰人と朱音は()()()()()間柄ではないが……ならば尚更のこと、何とも言えない様な感情が蓄積されていく。


「朱音が不快に思ってないことを祈るばかりだな…今度それとなく連絡でもしておくか」

「別にそれくらいはいーんじゃねぇのか? 向こうだってそこまで気にしてないだろ」

「そういうわけにもいかないっての。…これで朱音に不用意な噂でも流れたら、それこそ申し訳なさ過ぎて潰れる自信があるしな」

「……むしろ、その展開を狙ってそうでもあるけどな」


 意味不明なことをのたまう航生を横目にしつつ、彰人はそれとなく今後の予定を練っておいた。

 …知らなかったとはいえ、もしあの外出が朱音を知る誰かに目撃されていたとして、そこから彰人とのあらぬ噂を流されでもしたら……そうなれば、今度は朱音に直接迷惑を被らせることとなる。


 朱音ならばたとえそうなったとしても、『気にしてないよ』と答えてくれるのは目に見えているが…これは彰人のプライドの問題である。

 こちらがいらぬ行動を起こしたせいで、彼女にまで何か被害が及ぶとなれば彰人は自分が許せない。

 もしそうなったとしてもどうなるというわけではないのだが、それはそれとしてもそのような事態に発展させないことが重要なのだから。


「まっ、そこは彰人の好きにしたらいいさ。んなことよりも良いタイミングだし、少し聞いておきたいことがあるんだが……いいか?」

「ん……何だよ改まって。何かあったのか」


 すると航生の方から呆れたようにして声を掛けられたが、何やら向こうから話したいことがあるらしい。

 …そんな様子で話を持ち掛けられたことなどそれこそ指で数える程度のことしかなかったため、何か重要な用事でも伝えられるのかと考えたが……聞かされた内容はそこまで大層なものでもない。

 普通の誘いの持ちかけであった。


「いやな、今度の十九日なんだけどさ……近くの河川敷で花火大会があるの知ってるか? あの毎年やってるとこなんだが」

「…ああ、そんなのもあったな。ほとんど行ったこともないから詳しいことはよく知らないけど…」

「……マジかい。結構でかめに開催してるところだと思うんだが…一回も行ったことないのか?」

「無いな。行ってもすることなんて無かったし…人混みに揉まれて疲れるだけなのが目に見えてたから」

「はぁー……そういやお前、インドア派だったっけか…だとしても行ったことが無いってのは予想外だったけど」


 航生が口にしたのは、何てこともない。

 この近所では毎年それなりに定番のイベントとも言える夏祭りが開催されることであり、彰人はあまり赴いたことが無いため勝手が分からないがそれが開かれること自体は耳にしていた。


 噂ではかなりの規模で実施される祭りのようなので、毎年大勢の人で賑わうとのことだが……航生が嘆く通り、インドア派の彰人はそこに赴いた経験がほとんどない。

 まぁそれはそうだろう。


 彰人からしてみれば向かったところで自分が疲れるだけの場所に行くだけで足踏みをするのに十分すぎる理由だというのに、加えて共に祭りを楽しむような友人だって中々近くにはいなかった。

 両親と行こうにも親は仕事に行ってしまっているため、その手段すら取ることが出来ず…結果、近場で行われているというのに自分で経験することもなくここまできてしまった。


「…まぁ考え方を変えれば、ちょうどいいタイミングだったとも言えるしな。そんじゃ彰人、予定が空いてたら俺たちで今度そこに行ってみないか?」

「俺たちで祭りに? ……そうだな、いい機会だしそのくらいは構わないぞ。確か十九日だったよな?」

「おうよ! 間違えても祭りの日を忘れたりすんなよな!」

「はいはい…分かってるっての」


 今まではまともに赴いたことも無い夏祭りだったが、これもせっかくの機会なのだ。

 たまには男同士で祭りを楽しむというのも悪くないだろう。


「……よし、これで彰人の方は問題なく誘えたな。あとは向こうの動き次第だが……」

「うん? 今何か言ったか?」

「あぁいや、何でもねぇよ! そんなことより早くカラオケの続きといこうぜ!」

「はぁ……なら良いんだが」


 …そしてその直後。

 何やら怪しげな雰囲気を滲ませた航生の顔を見て違和感を抱いた彰人は、その疑問を直接本人にぶつけてみたが……何故か曖昧な返事で誤魔化されてしまった。


 その勢いのまま二人はカラオケルームの一室にて激しくも楽しき時間を過ごしていき、そうこうしている間に彰人の頭からはこの時の違和感など抜け落ちていくのだった。




 …この瞬間に抱いた違和感の正体が明らかになるのは、夏祭り当日になってからのことである。


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