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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第五十二話 次なる目的の先


「朱音ちゃん、良かったねー! 彰人に褒めてもらえて!」

「優奈……う、うん。嬉しかったなぁ……」


 彰人が朱音の水着姿を本心から褒め称え、それを受けた彼女が照れた仕草を見せるという何とも不可思議な事態が発生した直後。

 そこに飛びつくようにして共に喜ぶような動きを見せる優奈に対して、朱音もつられたのかはにかむ様な笑みを見せていた。


 …その事態を引き起こしたのが彰人であるため、眺めている側としては何とも言えない感情が湧き上がってくるが……とりあえず悪いことではなさそうなので良しとしておこう。


「おう彰人! …お前にしては勇気振り絞ったみたいじゃねーか」

「航生か……まぁ半ば誘導されたみたいなもんだから、完全に自分から言ったわけでも無いんだけどな」

「だとしても間宮さんには喜ばれたんだろ? だったらそれでいいじゃんかよ!」

「……そうだな。そうしておこう」


 互いに喜び合っている女子二人の絡みを横目にしながら、彰人はというとこちらはこちらで男子同士での絡みが行われていた。

 肩に手を回しながら声を張り上げてくる友が口にすることにも言いたいことは色々とあったものの、確かにその通りであることにも違いないため一旦納得しておいた。


 朱音が喜んでくれたか否かははっきりしないが……あれだけの反応を見せられたら疑う方が失礼というもの。

 あの時の彼女のリアクションからして心から喜んでくれたのは間違いないだろうし、それは彰人だって感じたことだ。


 もし朱音が彰人の洞察力すら上回ってくるような演技力を持っているのだとすればもはやお手上げだが……そうでもない以上はきっと肯定的に受け取ってもらえたのだろう。


「まぁそれはともかくとして、だ。この後はどうするよ? 何かやりたいこととか決まってるのか?」

「ん? そうだな。特にしたいこととかは定めずに来たから……優奈たちは何か行ってみたい場所とかあったりするか?」

「え、私達? うーん、そうだなぁ……強いて言うならあのウォータースライダーとか乗ってみたいけど……凄い人並んでるからね。もう少し空いてからでも良いかな」


 ただいつまでもそんな状況に居るわけにもいかないし、ようやく全員が無事に揃うことが出来たのだから時間を無駄にしないためにも早いところプールに入水しておきたいところだ。

 ただ、彰人一人で勝手に行動するわけにもいかずせっかく友人同士で遊びに来ているのだから、ここは個々人の意見を聞いておくべきところだろう。


 …ちなみに彰人は特に目当ての場所があるわけでも入ってみたいプールがあるわけでも無いため、他の者から要望があればそこに行くつもりである。

 そう思って聞いてみたのだが……航生からはさして良い意見が出てくることも無かった。

 優奈の方からはウォータースライダーという要望が出てきたが…そちらはそちらで込み具合という問題があったようで後回しでも構わないとのことである。


 …こうなると困ってしまうことになった。

 何か一つでも今から行ける場所があればそこに向かえるのだが、それが無いともなれば行き先が見つからず悩み立ち尽くしてしまうだけだ。


 頭に思いつく限りのもので、どこかいい場所がないかと考えを巡らせてみるが……そうそう都合の良い場所など思いつくものでもない。

 これでは楽しみに来たのに、最初の思い出が微妙なものから始まってしまうと内心で不安が煽られてくるが……その時、静かに場の流れを見守っていた朱音がおずおずと手を挙げてきた。


「……あのー、空気を読めてないかもしれないんだけど、ちょっとだけ良いかな?」

「ん、どうしたんだ朱音? 別に遠慮せずに言ってくれていいぞ?」

「皆で悩んでるところに言うのもどうかなと思ったんだけどね……実を言うと私、あまり泳げなくて……」

「……あ、そういえばそうだったな」


 …と、そこで言われて思い出したがよくよく考えてみれば朱音の状態を考慮することを失念していた。

 確かに彼女が言う通り、朱音は常日頃から眠気に襲われているからかその代わりとして体力がそれほど多くあるわけではなく、同時に運動神経もそこまで高いとは言えない。


 当の本人からもそう聞いたことがあったため、忘れたわけではなかったのだが……うっかりそのことが頭から抜け落ちてしまっていた。

 そしてもちろん、その運動神経の不足は水泳競技にも適用されていたようで朱音曰く泳ぐことは苦手な傾向にあるらしい。


「だから私としては、荷物はこっちで見てるから三人で遊びに行ってくれても全然大丈夫だよ。適当な場所で待ってるからさ」

「……いやいや、そんな朱音を除け者にするような真似は流石にしないって」

「どうして? 私は気にしないけど……」

「朱音が気にしなかったとしても、俺たちが気にするんだよ。せっかく四人で来てるんだから、全員で楽しめないと意味ないだろ?」


 …だが、その後に彼女から提案された事柄については即座に否定させてもらった。

 確かに彼女の視点からすれば自分一人のために全員の都合を変えさせるというのは申し訳なく感じるのかもしれないが……だからと言って、彼女を一人にするなんてことはありえない話である。


 それだけは譲らない。いくら朱音が言おうとも受け入れるつもりは毛頭ない。

 その点に関しては、彰人以外の者も同意見だったようで………


「そーだよ朱音ちゃん! そんな寂しいこと言ったら駄目だからね!」

「ゆ、優奈……だって私が居たって皆楽しめないだろうし…」

「だっても何もなーい! …朱音ちゃんがいないと私だって楽しくないし、そんなところで気を遣ってばかりなんて嫌でしょ?」

「…………うん」


 …近くにいた優奈も、同様に声を張り上げて朱音の意見を否定しにかかってきていた。

 彼女の言うことも最もである。


 どれだけその意見が集団にとって良いものだったからと言って、それで彼女が不利益を被ってしまうのであれば本末転倒も良いところだ。

 …もちろん、そのような選択が良いケースだってあるので判断はその時々によって異なるだろうが……少なくとも、今はそのようなタイミングではない。


 優奈が言うように、朱音一人が気を遣ったからと言って心からプールを楽しめるような者はここにはいないのだから。


「だけど、そしたらどうするか……朱音もいける場所となると深さがそれほどない場所が良いんだろうけど、そうなるとエリアがかなり少なくなるからな…」

「うーん………そうだね。そこまで限定しちゃうと子供用のプールとかになっちゃうだろうし……どうしようか」

「…やっぱり私はいいよ。そこは他の皆で──」

「それは駄目!!」

「──遊びに……って、今全部言う前だったんだけど…」


 ただ、朱音の意見を却下したからといって事態が好転しているわけではない。

 依然としてここにいる全員が満喫できるような場所の候補は中々浮かび上がって来ず、ひたすらに時間だけが過ぎ去っていこうとしている。


 …会話の途中でまたもや遠慮しようとした朱音の言葉が優奈によって即座に否定されるという流れもあったが、根本的な問題に変化はない。


「……ふむ、となると…一応解決策がないわけでも無いんだよね」

「え、本当か?」

「うん! こう見えてもこの施設のマップは一通り頭に入れてるからね! 楽しそうな場所は網羅してるよ!」


 だがそんな手詰まりかと思われた時、優奈から一筋の光明が差しかけられた。

 朱音を一人にすることも無く、なおかつ全員で楽しむことが可能であり、さらには時間も潰せるような場所。


 彰人にはそんなところに全く心当たりが無かったが、したり顔の優奈を見れば出まかせで口にしたというわけではなく本当に思い当たる場所があるのだろう。


「…彰人、俺としては優奈がああいう顔をしてる時は何となく嫌な予感がするんだが……」

「こ・う・せ・いー? なーにか変なこと言ったかなー?」

「いえ、何でもありません!」

「…だったらよろしい。全く、別に今回は変なこと考えてるわけでも無いんだからね! 少しは信用してよ!」

「………信用されなくなるほどに、優奈が何かを企んできた実績があるのが悪いと思うんだがな」


 しかし……その状況の中であっても彰人に不安そうな感情を滲ませながら、忠告をしてくる航生。

 言われてみれば……どこか何かを企んでいるようにも思えなくもない優奈の表情だったが、そこを指摘すればビシッ! とまるで敬礼でもするかのように体勢を整えなおす航生。


 …図らずもカップルの間にある力関係が見えてしまったような気もするが、そこを気にしていたらキリがないため一度無視しておく。

 それよりも今は優奈が思いついたという解決策の方だ。


「…それで? 優奈が言う場所ってのはどこのことなんだ?」

「それなんだけどね、実は───」


 そうして語られていく、優奈が示す新たな目的地。

 明かされた当初はまさか()()を挙げるとは夢にも思っていなかったため、目を丸くしてしまっていた彰人だったが……確かに条件としては申し分ない。


 同じ場にいた朱音や航生も、最初は少し悩んでいたようだったが説明を聞いていくと彼らも賛同していったため、一同はプールからしばしの間離れることとしたのだった。


一体彰人たちがどこに行くことになったのか。


それは次回で明らかになりますが……先に謝っておこう。

プールイベントを期待されていた方々、申し訳ない。


屋内プールの出番、ここにて終了です。

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