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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四十九話 待ち受けた者


「…なあ航生。一つ聞いてもいいか?」

「ん、どうした?」


 太陽が照り付けてくる真っ昼間の時間帯。

 だが、彰人たちが今いる場所は屋内のプールであるためにさほど日差しの影響を受けることも無く快適に過ごせていたが……そんな中にあって、彼は現状への疑問を隣に立っている友へと投げかけなければ気が済まなかった。


「何で俺たちは今……女子更衣室の前で待ってるんだ? こう言ったら何だが、注目されすぎて居心地が悪いんだが…」

「ああ、何だそんなことか」


 …現在の彰人たちが立っているのは先ほど自分たちが出てきた場所にも酷似しているが……その場所は全く異なる。

 事実だけを言ってしまえばここは女子更衣室の出口付近であり、当然近くにいるのは女性客ばかりであるため正直男二人の彼らはかなり浮いていた。


 さらに付け加えるのであれば、心なしかチラチラとしたこちらに集められている視線も多いような気がしてくる。

 …が、その辺りは少し考えてみれば原因にも簡単に思い至った。


 常日頃から絡んでばかりなため忘れがちだが、今現在も彰人の隣に立っているこの友人……航生はかなり端正な顔立ちをしており、イケメンと言って差し支えない程度には整った容姿を持っている。

 それに加え、運動部として鍛えられた身体はうっすらと浮き上がるくらいにメリハリのある筋肉を有しており、見る者の目を引いていく。


 同じ男である彰人から見ても羨ましく思えるくらいには理想的な体つきをしている航生が傍にいるともなれば、これだけの視線を集めることにも納得は出来るが……だとしても、それが気にならないかと言われれば答えはノーである。

 むしろ、注目を集めまくっていることで居心地の悪さは加速度的に増していく始末だ。


「彰人よ……お前のことは前から鈍いとは思ってたが、流石にこれくらいは気が付かないとアウトだぜ? 頼むぜおい!」

「…何で急に煽られてんだ、俺は」


 理由も分からずここまで連れてこられ、その先に待ち受けていたのは待ちぼうけながら受け続ける意図していない視線の独占。

 ただ朱音たちを待つだけならばもっと最適な場所もあったはずなのに、わざわざこの場所を選んだ理由があるのかと問うてみれば……その返答は、やれやれと首を横に振る航生のやたらと腹に立つ仕草だった。


「いいか彰人、よく考えてみろ! …今俺たちが待ってるのは一体誰だ?」

「は? そりゃ…朱音と優奈の二人に決まってるだろ」

「その通り! …そんじゃ俺の方からも逆に聞くが、もしこのまま二人が出てきてそこに俺らがいなかったら……どうなると思う?」

「どうって………あっ、そういうことか」


 こちらの鬱陶しい感情などスルーしつつ、言葉を続けてくる航生。

 その態度にはやはりイラっとしてきたが、反論していても仕方がないので大人しく耳を傾けていれば……言われて気が付いた。


 今彰人たちが待っている相手は朱音と優奈の二人だ。それは流石に把握している。

 把握していたのだが……そんな彼女達が周囲と比べても、圧倒的なほどに優れた容姿を持っていることを完全に失念していた。


 普段が普段なだけに彰人の感覚も麻痺していたのだろう。

 ふとした拍子に朱音と話していて彼女の魅力を再確認することなんかはあったりもするが、それでもあの二人がベクトルこそ違えど美少女であることは確かなのだ。


 …そんな彼女たちが、無防備な水着姿でここにやってくればどうなるか。

 もはや想像に難くないことである。


 確実に今の彰人たちよりも多くの視線を集めることはそうだろうし、そこに加えてスタイルも良い美少女が現れたとなればガラの悪い輩に狙われたりもするかもしれない。

 そうなることを事前に見越して、航生は前もってここまでやってきていたのだろう。


「…理解したみたいだな。あの二人が出てきたら確定で大騒ぎになるだろうし、それで近づこうとしてくるやつらへの牽制って意味でもここで待ってるんだよ」

「なるほどな…納得した」


 普段の言動があれなだけに振り回されてばかりだが、航生は決して単なる馬鹿というわけではない。

 …いや、勉強面だけを見ればどうかは分からないが、それでも身内に対する配慮はしっかりとこなすやつなのだ。


 現に今も、優奈たちが不快に思うようなことが無いようにこうして待機をしているわけだし、こういうところだけは見習っておきたいものだ。


「まぁそれを抜きにしても、二人の水着姿を最初に見るのは俺たちの特権だからな! そこをどこぞの相手に譲るつもりはないってのもある」

「………そういうことを言わなければ、素直に尊敬出来たんだけどな」

「何だよ、そんなこと言ってお前も少しは期待してんだろ? …何せあの間宮さんの水着姿だからな!」

「……ノーコメントだ」

「照れんなよ! 俺には分かってるぜ!」

「照れてねぇよ!」


 …この発言さえ無ければ本当に尊敬出来たというのに、何故最後の最後で格好良く締められなかったのか。

 それと、ウザ絡みをしてくるように肩に手を回してくる航生の発言には……下手な回答を返さないようにしておこう。


 航生が言う通り、プールに行くと決まった段階である程度朱音と水着で向かい合うことになるというのは理解していたし、それを期待していなかったと言えば嘘になる。

 …我ながら邪な情を抱いたものだと溜め息をついたのは記憶に新しいが……あの朱音が普段はそうそう曝け出すことも無い肌を出すとなれば、意図せずとも考えてしまうのはもはや抗えない自然の帰結である。


 ただ、それを口にすればいくら彼女であっても軽蔑されるだろうと思い隠し通そうと思っていたのだが、航生からしてみればバレバレだったのだろう。

 一通りの受け答えを無難に回避してやろうとすれば、それを見透かしたようにこちらの本音を明るみにしてやろうと企む航生。


 不毛なやり取りだとは思いつつもこちらが否定すればするだけ燃え上がっているのが友の性格でもあるため、どうしたものかと悩んでいると……そのタイミングで、更衣室の出口付近でざわめきが起きたような気がした。


「ん……おい航生。今のって…」

「聞こえたな。確定ではないけど…ちょっくら見に行ってみようぜ。この感じからして二人なことはほとんど間違いないだろ」

「だな。……って、おいあれ…」

「…あちゃー。一歩遅かったか」


 この騒めきようからして、おそらく二人が出てきたことはほぼ間違いないと判断した彰人達は自分たちも出口近辺に彼女たちを迎えに行こうとしたのだが……それよりも早く、後味の悪いものを目にしてしまった。

 確かに朱音たちは更衣室を後にしていた。先ほどの喧騒はそのために起こったことだろう。


 …だが、そこに付随して付いてきてしまったらしいトラブルを視界に入れれば、げんなりとするテンションの低下は止められそうにも無い。

 何故ならば、今出て来たばかりだと思われる朱音たち二人の傍を見てみれば……それに付きまとっていると思われる男の二人組も同時に立ちはだかっていたからだ。


 見ただけで分かる。穏便な雰囲気ではない。

 ここに来るまでのあのような相手と彼女たちが会話をしていた見覚えも記憶も彰人には皆無であったため、十中八九今この場で絡まれてしまったのだろう。


 …まさか気を付けようと航生と語り合っていた直後にこんなことになるとは思ってもいなかったが、こればかりは向こうの影響力を見誤っていたこちらの責任もある。

 少し考えればナンパ目的の者が待ち構えていることなど分かっただろうに、そこを甘く見て出口付近で待っていれば何とかなるなどと考えていたのは彰人の落ち度なのだから。


「こうなったらしゃーない。彰人、とにかく割り込みに行くぞ」

「はいよ……先行きが不安になってくるな」


 それでも、いつまでも呆けてばかりではいられない。

 このまま放置していけば待ち受けているのはろくでもない未来であるため、そんなことにはさせないためにも彼女たちを迎えに行く。


 何だかスタートダッシュの段階からつまづいたような気もしてくるが……こればかりは避けようのなかったトラブルだったと意識を切り替え直し、彰人は朱音の下へと足を進めていくのだった。


配慮も虚しく、結果的に絡まれてしまった朱音たちでしたが……これは仕方がない。


それだけ二人の魅力が天元突破しているってことです。

見た目麗しい少女が二人も、水着姿で出てくればそうもなるよねって。

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