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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四十八話 どっちつかずな感情


「ほうほう……なるほどなぁ! まさか彰人と間宮さんが夏休み中にもう再会してるとは思っても無かったが……これも一つの運命ってやつか…」

「…格好つけてるところ悪いんだが、そんな大したもんでもないからな。単に俺が眠そうなあいつを運んだってだけの話だ」


 施設の少し奥へと進んだ先。

 現在彰人と航生の二人がいるのはプールに併設されている男子更衣室であり、周りを見れば彼ら以外にも多くの客で既に賑わっている雰囲気が垣間見える。


 そんな中にあって彰人たちが何をしているのかと問われれば……それは先ほど知られてしまったばかりのホットな話題。

 万が一にも広まってしまえば根も葉もない噂が立てられるだろうと思い警戒していたというのに……そんな労力は全て無駄だったと言えよう。


 なんにせよ、恰好を先ほどまでの私服から水着へと変えながら彰人は、彼が朱音の家へと赴いた事実について聴取を受けている真っ最中でもあった。


「それにしてもなぁ……聞いた限りじゃそっちの母親とも仲良くなったってわけだろ?」

「まぁそうだな。…あれを仲が良くなったで済ませてしまっていいのかは分からんが」

「……それさ、もうやってること付き合ってるカップルと変わらなくないか?」

「ぶふっ!?」


 だがそんな会話の中で航生が放った不意打ちの一言によって、思わず彰人も吹き出してしまう。

 …それでも言われてみれば、状況だけを顧みるとそう思われてしまうのも仕方がないのかもしれない。


 言葉を切り取れば相手の両親に挨拶をしに行ったとも解釈が出来るだろうし、実際彰人は鳴海からかなり気に入られている。

 それこそ、今の関係性から彰人と朱音が進んだとしても即座に歓迎してくるレベルでだ。


 肝心の張本人たちにまだその気がないため現状では意味のない仮定でしかないが……仮にそうなれば満面の笑みで受け入れてくることは間違いないだろう。

 …あるいは、それ以上の形で迎え入れてくるかもしれないがまぁそこは置いておこう。


「まだ話し始めてから二か月ちょいしか経ってないっていうのによ……随分と仲良くなったもんだよな?」

「……それは否定しないけどな。あくまで俺と朱音の間にあるのは友人関係だ。そこは勘違いすんなよ」

「友人関係、か……彰人がそれで良いって言うなら口は挟まないけどさ。…ぶっちゃけ、お前の方は間宮さんのことをどう思ってんだよ」

「…俺が、朱音のことを?」


 感慨深そうに語っている航生の表情はしみじみとした喜色を感じさせてきたが……その直後。

 いつになく真剣な声色になった友の口からぶつけられてきたのは、誰よりも身近になった朱音に対して抱く感情への問いかけだった。


「ああ。多分お前もお前で色々と考えた上で間宮さんとは対等な友人でいようとしてるんだろうけどさ……それも大事ではあるけど、何よりもまず彰人自身があの人のことをどう思ってるかが大切じゃないのか?」

「そう、かもな……」


 航生の言うことは、正直図星だった。

 今までの彼は朱音を()()()()()で見ないようにと注意していたし、それはひとえに彼女との心地よい関係性を壊したくなかったから。


 せっかく得られた心置きなく接することのできるこの距離感を、そして何よりも鳴海との話を聞いたからこそ、朱音とは気楽に話すことが出来る友人でありたいと思っていたのだ。

 …だが、それは全て朱音のことを思っていたからこそ成り立っていた配慮だ。


 もしそれら全てを取り払った時、彰人自身が彼女をどう思っているかと問われれば…その答えは決まっている。


「……朱音のことは正直、可愛いとは思ってるよ。あいつほど魅力的なやつを俺はほかに知らない」


 これは嘘偽りのない本心である。

 時折見せてくるはにかむ様な笑顔や、心地よさそうに眠る際の何気ない寝顔。そこから生まれる甘えてくるような言動にだって、何度心臓の鼓動をうるさくしたか把握しきれないほどだ。


「…だけど、恋愛感情があるかって聞かれればそれはまた違う話だ。それに朱音の方だって……俺に対しては何とも思ってないだろうしな」

「………そこだけは滅茶苦茶異論を唱えたいんだが、とりあえず今は黙っておいてやる」

「…? 何の話だよ」


 …しかし、だからと言ってそれが恋愛感情かどうかと言われば……判断は微妙なところだ。

 確かに彼女のことはとても可愛いと思うし、その点をかけがえのない朱音の魅力として認識もしている。


 大切な友人であることには違いないし、そこだけは間違いないと断言も出来るが……異性への好意を抱いているかどうかは自分自身でもよく分からないのだ。


「……なんというか、どこまでいってもこういうことに関しては奥手だよな。お前」

「何がだ。というか奥手とか言うけどな。むしろそういうのは何も考えずにホイホイ進めて良いものでもないだろ」


 己の心情を素直に明かし、現時点でという注釈も付くが彰人の嘘一つない本心を語れば…何故か微妙そうな空気を纏った航生からは溜め息を吐かれたが、こればかりは簡単に曲げられる考え方でもない。


 高校生離れしている考え方だとは自分でもよく自覚しているが、己の内でもはっきりとしない時に無理やり関係性を進めたところでその先に待っているのはパートナーと上手くいかない未来である。

 もちろん、付き合ってから相手のことを好きになるというパターンだって星の数ほどあるだろうし、一概に否定出来るものでもないだろうが……少なくとも彰人は、その点を蔑ろにはしたくなかった。


「まっ、そこが彰人の良さでもあるから文句は言わねぇけどさ。それにお前の本音も聞けて安心したしな」

「そうかい。それなら何よりだ」

「…欲を言えば、もう少し進展を見せてくれたら嬉しかったんだけどな。まぁその辺りはこれからのそっちの変化に期待しておくさ!」

「……んなことがあるとは思えないんだけどな。もうそれは勝手にしてくれ」


 予想外のきっかけから始まった己の内情の再確認だったが、ある意味では彰人にとっても良い見直しになったかもしれない。

 朱音に対して抱く感情こそはっきりさせられないが…唯一はっきりさせられるのは、彼女を好意的に思っているという事くらいのもの。

 それだけは変わらないと言い切れるし、向こうも同じように思ってくれているのであれば……それはそれで、嬉しいとも思える。


「とにかく、深い話はこれくらいにしておこうぜ! せっかくプールに来てんだから楽しまねぇとな!」

「…始めたのは航生の方なんだけどな。分かったよ、そんじゃ行くか」


 だがそうこうしている間にも、航生はそれまでの深刻な雰囲気から一転して普段通りのお気楽さすら思わせる態度へと変じていき、目前のレジャー施設へと今にも走り出していきそうな空気を発し始める。

 …本当に走り始めたらマナー違反なんてものではないためはたいてでも止めるが、そのくらいにはしゃいでしまう気持ちは彰人も分からないでもないため、苦笑しながらも友の跡に続いていくのだった。




「…おおぉぉっ! 凄い盛り上がりようじゃねぇか!」

「へぇ…! これは確かに凄いもんだな」


 着替えを済ませた彰人たちが更衣室を出ていき、いよいよ目的のプールを目にしてみれば……その圧倒的なフォルムに声を上げてしまう始末だった。

 目を向けたあちこちに広々とした水場が設置されており、その一つ一つが趣向を凝らされた特徴を持っているようだ。


 一目見ただけでも遠くにある大きなウォータースライダーだったり、かなりの面積を誇っている流れるプールなんてものが目に付いてくる。

 それに伴って、楽しそうに遊んでいる子供たちの姿や家族連れで来ている者達のほのぼのとした様子が散見され……施設の充実さがよく伝わってくる。


「…けど、まだ優奈たちは来てないみたいだな……とりあえず二人が来るまでこっちは待機してるか」

「ん、ああそうだな。待ってればいずれ来るだろうし、適当な場所で待ってればいいだろ」

「それもそうだな。んじゃ、向こう側に行ってようぜ!」


 しかし、周囲をきょろきょろと見渡していた航生が姿を見せない女子二人を見つけられていなかったため、朱音たちはまだ更衣室から出てきていないのだろう。

 仕方がない。女子の身支度というのは往々にして時間がかかるものだし、それはどんな時であっても変わらない。


 どこかで腰を落ち着けて待機していれば向こうでもアクションはあるだろうし、それまでは視界を遮るものも少ない開けた場所にでもいればいい。

 そう思って彰人も航生に待つことを提案すれば、無事に受け入れられて軽く移動することとなった。


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