物語の開幕
堀川玲人が転生を果たしたその直後。
メル=ビクトリアはまだ彼女が転生をするために使用した物を見つめていた。
「ついに、行ってしまったか」
メル=ビクトリアはS裂きほどの物体から昔の形――人間の姿へと体を作り替えていく。
彼の本来の姿はすでに存在しない。
だからこそ、彼は何者にでもなることができる唯一の人物だった。
「いいんだよ、これは彼女が望んだことなんだ。僕は彼女の願いを叶えるために存在している」
誰もいない虚空を見上げ、メル=ビクトリアはそう言い放った。
誰かの返答を求めているかのように。だが、返事は帰ってこないとわかっているように。
「僕は彼女にすべてを教えてもらった。もちろん君からもね――だからこれは、僕の偽善。彼女に対してのね」
メル=ビクトリアがしゃべり終わると、それを察したかのように、彼の足元の周りには、先程堀川玲人を転生させた物が白い光を帯びて浮かび上がる。
「時間か…さぁ帰ろう僕たちの世界へ……」
メル=ビクトリアの考えを察したのか、堀川玲人と同じように、メル=ビクトリアは白い光に包みこまれていく。
「次の生では、もうちょっと静かに生きてよ…僕が呼び出されないように」
そう一言呟きながら、メル=ビクトリアは白い光に包まれ、元の世界へと転送されていく。
「ごめんね……」
●●●
王煌歴 227年
レグリアット王国 フロストメイル領
フロストメイル侯爵家 屋敷の一室
「やだやだ!めんどくさい!何で私がそんなことしなくちゃならないのよ!」
私は、結局何もわからないままこの世界に飛ばされてしまった。
今の私は、リンメル=フロストメイルとして生を授り、まだ8歳。遊びたい盛りの子供だ。
メル=ビクトリアは転生した後のことを何も口にしていなかったが、生まれた当初は本当にただの赤ちゃんだった。
そのせいか、私の精神力までもが、年相応になっている。
20何年と生きた大の大人がこんな風に駄々をこねていると考えたら…私なら吐き気がしてたまらない。
まぁ、自分のことなのだけれど。
私がこの世界で意識をこの体にはっきり定着させたのが3歳の誕生日。その時に1回目の記憶が宿ったのだと思う。次6歳になるとまた新しい記憶が頭の中に駆け巡ってきた。
あのときは頭がかち割れそうになったのを今でも覚えている。3歳の時は、記憶が先に宿ったから例外だったのだろう。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
まずは、こっちを先に処理しなければならない。
「お嬢様、時間ですよ!早く準備をなさってください」
なぜならこのメイド…私に…まだ八歳の私に――
「ほら早く!勉強のお時間です!」
勉強させようとしてくるんだよ~~~~~!!!!