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趙括は高楼に立つと、軍列を整えさせながら宣告した。
「これより出陣いたし、秦軍を一気に葬りさる。軍令に従い、各自奮励して功名せよ」
伝令が散り散りに駆けて行く。
全軍に伝わるのを待ちながら、眼下に並ぶ軍兵を眺めて、戦いの勝利を確信する。
(これほどの大兵を擁していながら、敗れることがあろうか。廉将軍は余りにも慎重に過ぎた)
四十万以上の趙軍が、鬨を挙げると凄まじさに大気が震えた。
白起は斥候からの報告を聞いていた。
「趙括は軍を発するや、この陣をめがけて進んでおります。今頃は先発した軍と接触しているでしょう」
片膝をついた偵兵を労って呟く。
「趙軍は呆れるほど速いな。逸る趙括は、やはり小僧であったか」
趙軍が侵攻してくるであろう方を睨み、しばらく遠望していたが、砂塵が舞い上がるのを認めると武官を集めた。
「先軍を敗走させ、趙軍は勢いのままに攻め寄せて来ようぞ。討たずともよい。陣にて備え、防ぎ支えることを考えよ」
そして、埋伏させているそれぞれの軍にも伝令を発した。
趙括は迎撃に現れた秦軍と激しく戦った。
強兵である秦軍も、兵力の違い過ぎる趙軍に撃ち破られる。
しかし、大海の津波のような趙軍が相手では、まともな退却すら出来ない。
乗っていた戦車を捨て、進軍を妨害しながら敗走するのみであった。
敗走してきた秦兵が、息を切らして土城に飛び込む。
塁を連ねた土の城からは、喚声を挙げる口が見えるほどに趙兵が迫っていた。
迫る趙軍は大地を埋めつくし、その最後尾すら見えない。
「壮観だな」
更に溢れるように現れる趙兵に、白起も見入ってしまった。
白起が帥将でもあり、勝利を疑わなかった秦軍も、この未曾有の大軍を前に動揺が走る。
だが、恐怖に震える暇もなく、先鋒の趙軍が土城に取りついた。
防ぐ秦兵は、背負った弩を手にとり狙いを定めると、白起の打つ太鼓を合図に趙軍めがけ一斉に矢を放つ。
狙わずとも、的は無限と思えるほどにあった。
趙軍に大量の矢が降り注ぐが、呻き声をあげて倒れる兵を乗り越え、土塁に攻め寄せる。
塁で守る秦軍は、取りつく趙兵を矛で突き刺し、合図を聞けば、再び矢の雨を降らす。
趙兵は戈をきらめかせ、飽きることなく群がり押し寄せる。
防戦は激しさを増し、秦兵の疲労も色濃くなったが、白起が伝令を走らせて指示するたびに、趙軍は小さく崩れた。
秦軍には、この防戦が永遠に続くかと思われたが、死体の山がいくつか出来ると、趙軍の攻め足が目にみえて鈍った。
趙括は苛立ち、激をとばす。
「これほどの大軍で、どの塁も陥とせぬことなどあろうか。ひとつ塁を抜けば、土城を分断できるのだぞ」
だが、土塁に寄せるたびに増える仲間の屍は、瞬く間に趙兵から戦意を奪っていく。
やがて、土城を遠巻きにすると、盾を構えて放たれる矢を防ぐのみで、前進することをやめてしまった。




