第三章:灰の戦士、選ばれし者
西暦5000年。
長き時を超えて戻ってきたアイの目の前には、かつてと違う世界が広がっていた。文明は高度に進化し、人々の営みは空にまで広がっている。だが、闇もまた進化していた。
アイは静かに空を見上げ、風になびくブロンドの髪を押さえた。
「……帰ってきた、か。リリ姉に……会えるな」
その呟きに宿るのは、長い時を超えた再会への切なる願いだった。
彼女の帰還から数ヶ月が経ったある日。ヒーロー協会が世界を守る新たなヒーローを選出した。アイの姉、リリもその一人だった。
協会の試験官たちは驚愕した。リリの戦闘力は、常識を逸していた。灰色の戦闘スーツに身を包んだ彼女は、「物理強化属性」の持ち主——いわば“無属性の中の属性”という特異な力を持っていた。常人の何百倍もの反応速度、運動能力、精神集中力を持つリリは、試験中に一切の攻撃を受けずに勝利した。
「合格だ。君は150代目ヒーロー戦隊に推薦する」
そう告げられたリリは、微笑みながら首を横に振った。
「まだ……私は、一人で戦いたいです。……それに、アイがいるから」
彼女の隣には、ブロンドの髪を靡かせた少女がいた。アイ——天才魔術研究者であり、ヒーロー協会に身分を伏せて支援者として登録していた。
「ふふ、まったく……お前は昔から頑固だな、リリ姉」
「アイ……でも、今度は一緒に戦えるんだよね?」
「ああ。私が後ろから支えるから、お前は前だけ見て進めばいい」
アイはもう、かつてのような孤独な研究者ではなかった。戦場の最前線に立つことはなくとも、リリを支える影の魔術師として、サポーターという形で共に歩むことを選んだ。
彼女の魔術はそのまま兵器だった。魔力を変換し、サポート魔術を即座に展開。空間固定による踏み込み強化、反射速度向上、思考高速化、異常回復といった多層の支援を、一瞬で施すことができた。
「アイ、次の任務……荒野都市の掃討作戦だけど、私が前に出るから、援護お願い」
「了解だよ、リリ姉。突っ込むタイミング、いつもより早めだからな。お前の癖は全部覚えてる」
リリは嬉しそうに笑った。二人の呼吸は完全に一致していた。
ヒーロー協会は彼女らの活躍に注目していた。だが、まだ二人は、正式なヒーロー戦隊の仲間たちには出会っていない。これは“前日譚”であり、二人の絆が真の戦いへと繋がるための準備に過ぎなかった。
それでも、リリの中には確信があった。
「アイと一緒なら、私は何にだって立ち向かえる。たとえ、この世界すべてを敵に回しても……」
アイもまた、心の中で誓っていた。
「私の全てを懸けてでも、お前だけは守り抜く……それが、私の生きる意味だ」
二人の運命は、まだ始まったばかりだった。