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第拾玖話 『刀ガ当タレバ火花チル サレドモココデハ花火散ル』

 慧がつぶやく。


「結界に申請。氷室彗、登尾燐を『決戦ノ型』に移行」


 すると、どこからか声が聞こえる。


『承諾サレマシタ』

 

 結界には訓練用にいくつかの『型』がある。そのうちのひとつ、『決戦ノ型』は命に直接かかわるような傷だろうと癒えることなく戦闘が続行される超実戦向きの型である。決着がつくのはどちらかの肉体が『死』として扱われる状態になった時、またはどちらかが降参したときだ。

 都市を模した結界内、道路の上で二人がにらみ合う。相手は動くのをお互いに待つ……わけではなく、まずは燐が大地を蹴って慧に迫る。燐が動いたのを確認した慧は後方にジャンプ。距離を取りつつ手に持ったナイフを燐に投げつけるが、燐はそれを避け加速。

 二人の間の距離はおよそ2メートル。燐の横薙ぎが慧の首に切迫するが慧は余裕の表情でその刃の先を紙一重で回避、いつの間にか右手に持っていた刃で燐を斬りつけるが、燐は首をひねることで慧のナイフは燐に届かず、状況をリセットするためにお互い距離を取る。

 だが慧は後ろへ跳ぶついでにナイフをなげ、燐は避けたがそのナイフが地面にあたった瞬間小爆発、道路に穴があく。

 燐が警戒はしつつも、慧に話しかける。


「……噂には聞いていましたが、やはり強いですね。『特撃の爆刃使い』」


「それは師匠の肩書だ。俺っちは違う」


「そうなのですか……しかし、これほどヒリヒリとした戦いは久しぶり。心が躍りますわ」


「戦闘狂が……」


「おほめに預かり光栄です。さていきますよ……」


 燐が体を低くして構える。


「龍獄門……」


 慧はナイフを構えつつ警戒するが、


龍突(りゅうとつ)!」


 慧の頭を貫かんと銀色の鋼の刺突が超速で接近。慧が気づいたころにはもう目と鼻の先であり、なんとか体を曲げて避けるもその表情には焦りの感情が浮かぶ。


「まだですよ、龍爪斬!」


 片手での刺突から燐は右手の刀の刃を慧に向け、そのまま薙ぐ。

 慧は首と刃の空間にナイフを挟んで防ぐもただの小刀が剣にかてるはずもなく、小刀に刀が入り込み亀裂ができる。だが防いだは防いだゆえ、一瞬だけ猶予が生まれる。

 その隙に慧は再び距離を取ろうとするも燐がそれを許さない。上段の構えをとり、振り下ろす。

 慧は袖を軽く払うと、隠していたナイフを取り出し、なんとか防ぐ。二本のナイフでようやく互角。燐の一撃の重さを慧は痛感。

 このつばぜり合いの中、燐が口を開く。

 

「……このやり取りでわかったことが2つ」


「なんだい?」


 慧はナイフで刀を防ぎながら苦い顔で聞く。


「1つ目はあなたの武器が普通のナイフと爆発するナイフの二種類であること。もうひとつは……龍獄門……」


 答える前に燐は息を吸い、さらに刀に力を込める。


龍覚怒(りゅうかくど)!」


 一瞬にして爆発的な力がナイフに加わり、それによりナイフが砕け散る。慧は後ろに下がるがよけきれず、胸から腹にかけて紅い線ができた。傷を確認する慧に燐が剣先を向けて叫ぶ。


「あなたが! 接近戦が苦手だってことです!」


「……」

 

 お互いに10メートル。

 

 自分の弱点を当てられ少し顔をゆがめる彗。間髪入れずに再び斬らんと大地を蹴る燐に対し慧もまたナイフを投げた。

 だが、


(いったいどこに投げているの?)


 慧はまっすぐ投げたのではなく、左・右斜めに投げたのだ。だがその理由すぐ燐は理解する。

 グルン! とナイフの軌道が三日月の軌道を描いて曲がり燐に向かう。よく見るとそのナイフは普通のナイフの形ではなく、Uの字のような刃だ。続けざまに慧は再びナイフを投擲。これはまっすぐ燐に飛ぶ。


「龍獄門・竜巻!」

 

 周囲に斬撃を飛ばし、向かってくる4本のナイフを空圧で弾く。

 刀を振り終えた瞬間、慧は再び両手でナイフを投げた。

 何度も放たれた単一的な攻撃に燐は慣れた様子でかわす……が、

 燐の顔の横に飛んでいたナイフがピタッ! と空中で止まる。それに違和感を感じた燐が横を向きナイフを見ると、ナイフの柄の末端部分には謎の輪っか。そしてちらりと光でその輪っかから糸のようなものが慧に向かって伸びていることを視認。

 

 燐の頭にある武器が思い浮かぶ。

 と同時にその輪っかがピンッ! とナイフの柄から外れた。


「グレネー…………!」


 ナイフが爆発。

 燐はその爆発にもろに巻き込まれてしまった。爆発による煙に向かって慧が語る。


「そう。お前が言ったように俺っちのナイフは()()()()()()二種類。でもな、そのナイフにもいろいろと種類があるのさ」


 煙が明けると、燐はまだ立っていた。だが体中が傷だらけであり、血が服にしみている。髪は乱れ、刀を支えにしてようやく足で立っているようだ。まさに満身創痍。グラリと燐の身体が揺れ、前へ倒れそうになる。

 慧も戦いの終わりを察したその瞬間、ダン! と燐が足を前に出して体勢を立て直した。

 いや、その踏み込みは我慢の踏み込みではない……攻撃の踏み込みだ!


 そのまま燐は足に力を入れ、刀を両手で構える。血だらけの顔をあげ、殺意のこもった目が狙うは慧の首。大地を踏みしめ、一瞬にして接近。

 先ほどと同じようだが慧にとっては完全なる不意の攻撃でありまともに対処ができない。体をひねりつつ、抗うようにナイフを振ろうとするも、


「なにがっ!」


 慧の右腕が切断される。

 次は首を斬らんと燐は刀を構えなおす。だがここで燐は傷だらけの身体を無理に動かした反動で一瞬体が硬直してしまう。一瞬だが戦場では致命的。それでも燐には少しばかり安心があった。慧は体をのけぞらせており、左手によるナイフ攻撃は絶対にできない。やったとしても絶対にこちらの刀の振りが早い。

 と思ったが慧はなんと右足で蹴りを燐の首めがけて放った。が、ぎりぎり届かず、慧の足は虚しく空を切った。


 ここで燐は勝利を確信。

 

「首よこ……!」


 何かが斬れた。

 首に激痛が走ったかと思えば燐の首がパクっと割れ、出血。と同時にアナウンス。


『登尾燐ノ『死』状態ガ確認サレマシタ。決戦之型ヲ終了シマス』


 アナウンスが終わると燐と慧の傷が治っていく。だがそれよりも燐には気になることが。

 

「なぜワタクシの首が……!?」


 その答えを聞くよりも先に慧の姿を見て納得する。正確にはその足。右足の足裏からナイフが一本突き出していたのだ。


「なるほど……その足のナイフで切ったのですか。先ほどの蹴りもそれが狙い」


「ああ。でも驚いた。まさかここまで奥の手を出させるとは」


「いい戦いでした。それともうひとつ、あなたの目、ふつうじゃないでしょう? ナイフはもちろん、さきほどの『蹴り斬り』の間合いの正確さ、何かの権利でしょうか?」


 燐の問いに対し一瞬応えようか迷った慧だが別に隠すことでもないため説明。


「……まあ同じ部隊の仲間だし話してもいいか……そう、『おれ』の目は普通じゃない。この目は才能型権利『超眼』だ」


「才能型権利……というと生まれつきのあれですか。何百万分の一で授かるという『天からのもらい物』」


「おれの場合は違う。十二年前にちょっとあってな……」


 慧は目をつむり言い淀む。

 よほどの過去を持っているのか、おそらくその先に踏み込んではいけないと燐は考える。


「ふむ、まあ詮索はしませんが」


 慧は前髪を掻いて目が隠れるまで下ろす。


「ほんで! この目は使い続けるとめっちゃ疲れるからこうやって前髪で見えなくしてるんよ!」


 髪を下ろした慧は、さっきまでの緊張が嘘のように明るい口調に戻る。


「でもあれだね、違う職業の人と戦うのは自分の弱点が分かって面白い。ちゃんと近接戦闘も慣れとかないとねえ」


「同感です。ワタクシももう少し早くあなたに近づけば首を斬れたでしょうに……つまりワタクシは接近力を鍛えないとですわね!」


「そうかな……まあそうか」


「終わったばかりで何なのですが……」


 燐はもじもじした様子で上目使いで提案する。

 

「もう一度戦いましょう! 今度は負けま……」


「断る!」


 これ以上絡まれたくなかった慧はすぐに走って結界から出た。

 一人残った燐は残念そうな顔を浮かべながらも先ほどの戦いを思い出して恍惚。興奮が治まる気はしない。


「……しかたありませんわ。課題でもやりましょう」


 ***


 一方、その数百メートル先にて。


「正義君、今だ! 撃つんだ!」


 涼也に指示され、目の前の10mほどの鬼のような式神の背中に無数の銃弾を放つ正義。その巨体は、左右のビルをも圧倒するほどだ。

 込めた意志は『衝撃』。それまでのダメージが蓄積し、ついにその弾で鬼を仰向けに倒すことに成功。


「ありがとう正義君! 後は僕の役目だ!」


 大きく飛び上がり、手に持った薙刀を振り上げる涼也。


「樫野流薙刀術・剛裂!」


 刃を鬼のうなじに勢い良く振り下ろし、さらに力を込める。


「はああああ!」


 涼也が叫ぶとともに皮膚に、肉に、そして背骨に刃が入り、そして切れた。


「ぐオオオオオ……」


 うめき声をあげて光へと消滅する鬼。式神は活動限界が来るとこうして消えてしまうのだ。


「うん、これで課題完了……順調だね」


 そう正義へと問いかける涼也。正義もまた涼也の方へと歩く。

 

「うん、どうする? 僕はまだいけるけど、まだ課題を進めるかい?」


「ああ……俺も大丈夫……まだいける。けどその前に休憩したいな」


「わかった。少し試したいものがあったんだけど、まあいいかな」


 結界を抜け、廊下にある休憩室でひと段落する二人。ジュースの缶の蓋を開けながら正義が涼也に聞く。

 

「なあ涼也、なんで俺にあわせてくれるんだ?」


 そう、式神との戦い、そのすべてに涼也は正義にこう言った。「君に合わせる」と。そして有言実行し、戦いでは涼也が敵の注意を引き、正義がダメージを与えるといった戦法で戦ったのだ。

 

「うん、まあ僕は君に命を救ってもらった。その恩返しさ」


「あれは俺の『義務』でやったんだ。別に涼也が気にすることじゃないよ」


「ならこれが僕の『義務』さ。命を助けてもらった人の役に立つっていうね。そのためなら、僕は君が狙えるようになんどもいつまでも敵を足止めしよう」


「……」


 義務と出された手前、正義は反論しない。ジュースを飲もうと缶に口を近づけたとき、また涼也が口を開く。


「それに……」


「なんだ?」


「命を助けられてそいつに惚れるのは、何も女だけの特権じゃないのさ」


 そう言って爽やかな笑顔を向ける涼也。普通の女の子がこんな笑顔を向けられればイチコロだろう。だが正義にとっては気色悪いという感想以外でてこない。それでも涼也との共闘は非常に戦いやすいものであったため、無下にしたくはなかった。


「すきにしてくれ」


 そう返事し、再び武器を取って結界に入ろうとしたとき、正義は横から声をかけられる。


「おい正義」


 涼也の声ではない。左を振り向くとそこにか赤のメッシュを掘った金髪の野犬のごとき人物、火御門仄が立っていた。その目はヘリの時に向けられた侮りの目ではなく、真剣な眼差しで正義を見つめている。


「今時間あんなら、俺様と戦ってくれねえか?」


 正義は一瞬断ろうと思った。でもその眼差しの真剣さに何か応えないといけないなという考えが咄嗟に浮かぶ。


「わかった」


 そういって二人が結界内に入る。

 

 残された涼也が呟く。

 

「うん? もしかして僕、仲間外れ?」

第拾玖話を読んでくださりありがとうございます!


慧君はめっちゃ疲れるとは言ってますがだいぶ嘘よりです。


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