第弐拾話 『戦ニテモ 友情ハ育マレリ コレモマタ青春』
金属同士がぶつかり合い、火花が散る。
迫りくる刀の刃を銃身で受け止める正義。女性とは思えないほどの一撃だったが、おそらくそれはその一撃のために回転を加えたからであろう。
先ほど撃たれた左腕が使えないため、彼女は右腕だけで刀を振るっている。それでも、鍛え抜かれた筋力と技量が拮抗しているのか、剣と銃身がぶつかるたびに凄まじい衝撃波が走る。
「重い……!」
「どうしましたぁ! 女一人に力負けするなんてこと屈辱ではありませんこと!?」
昨日見せたような戦闘狂の目でにらみつける燐。
なんの! と押し返そうと力を入れた瞬間、刀を握っていた燐は力を抜き、後ろに二歩ほど下がったせいで正義は体勢を崩してしまう。前へ倒れそうになったところに燐が正義の横に立ち、刀を振り上げる。銃でなんとか彼女を撃とうと無理に腕を振ったが、
「龍獄門・爪龍斬!」
当然それでは間に合わず、正義の首は刃によって切断された。……首は斬られたが、首が落ちるどころか、血の一滴すら流れなかった。
「ひー! やっぱり首を斬られるのは死なないと知ってても怖いなあ」
首をさすってちゃんと傷がなくなっているか確認する。これで今日3回目の体験かつ、痛みはないがこの感覚は慣れないなと思う正義だった。
「でも最初よりは、ワタクシに攻撃を当てられるようになりましたわよ」
「まさか人を狙うのがこんなに難しいとは」
「正義君はワタクシの気迫に押されすぎです。冷静に狙えばいいでしょうに」
「自分に対して殺意をガンガンに飛ばして来たら狙えるものも狙えないよ。それにさっきは意志を込めたけど燐さんはたおせなかったし」
「正義君の弾はワタクシの体のどこかに『当たる』ことを目的にしてるとわかりましたので、先ほどのように左腕にわざと当てたりすれば、致命傷は避けられるのですよ」
そんないかれたことができるのは燐さんだけだよ、と正義は心の中で呟く。
彼らがいるのは寮の地下。東京を模した都会の建物が立ち並ぶこの場所は第327結界「訓練場」。この結界を含めた第三級以上の訓練結界には特別な処置が施されている。
突然殺す気で襲ってきた燐に正義が尋ねれば彼女は優しく答えてくれた。
曰く、
「この中では決して死なない殺し合いができるらしい」
というもの。
「死なないのか?」
「はい。結界そのものが中にいる人間の生命活動を管理し手助けするおかげで、たとえ腕を切り落とされても、致命傷を負っても、内臓が破壊されても結界が即座に治すのです」
「すごいねそれは……」
と正義は言葉を失った。
だから先ほどの燐の刀もはたからはまるで正義の首を通り過ぎたように見える。そしてもし人体が一瞬で損傷負荷のダメージを放たれる場合も、結界が強固なバリアを張り守ってくれるため死なない。修復のレベルも高く、体内に異物があればちゃんと外に出してから修復してくれるらしい。
傷はいえたが精神的には参ったため、燐にいったん休憩をとることを伝えた。
地面に座り、二人が話す。
「う~ん。まずは『命中』なしで相手にあてる練習をしないとなあ。でも命中も言いたい。でもこれ以上複雑にすると言うのが大変なんだよなあ」
その一言に隣の燐が身を乗り出してつっこむ。
「そう! 撃つ前に毎回なにか言ってましたけど理由があるのでしょうか?」
「う~ん……まあ言ってもいいか」
正義は自らの勇者の権利である「意志の増大」について話した。
***
「……なるほど、だから口で発すると。なら技名を考えるのはいかがでしょう?」
「『技名』?」
「必殺技。ワタクシの『龍獄門』がそうですね」
「それが口で発すると何か関係があるのか?」
「よくアニメや漫画で技名を叫んで敵に攻撃するでしょう? ワタクシは最初『なぜ言うのでしょう?』と思っていましたわ。でも刀を握って理解しました。あれは言うならば、『体全体に号令をかける』のです。これからこの技を撃つぞー! って」
燐は刀を抜き、動かしながら説明する。
「例えばワタクシの技の1つ、『龍獄門・龍爪斬』。これを放つ前に動作を意識すると大変でしょう? 手首はこう、腕の角度はこう、って。でも一連の動作を『龍爪斬』とまとめることで、そのひとつひとつの命令が一瞬で済まされる。そして、技名を言いながら戦っていくと、自ずと技名を言うだけで体が勝手に動くのです。頭の中で叫んでもいいのですが、やはり口で言わないと切り替えられませんね。こう……ピシッ! って体全体のスイッチが切り替わるのですわ」
「なるほど、その考えを応用すれば、一言で弾に何種類もの意志を込めることも可能か……」
「それに、正義君の言葉は直球すぎます。『命中!』って聞くと相手にどんな弾が来るかわかってしまうでしょう?」
「俺の言葉で判断されるってこと?」
そんな馬鹿なと思う正義だが燐はその通りと頷いて続ける。
「ワタクシのように察する人もいるでしょうし、普遍的権利である『刹那延』を使える人は聞いてから判断するのも可能でしょうね」
普遍的権利。
『職業的権利』とは違う、誰にでも習得しうる権利のこと。例は『フラッシュ暗算』とか『速読術』など。そのうちの1つ、『刹那延』は意図して一瞬を何秒にも感じるようにする権利だ。
「確かにそれを防ぐためにも、新たに弾丸名がいるか……いろいろと教えてくれるんだね」
「お礼としてですわ。あなたはワタクシの命を救ってくれた恩人です。今日だけでなく、これからも正義さんの訓練に付き合いますよ」
上品な笑顔を向ける燐に正義は男子らしく照れる。二人が弾丸名の案について一緒に悩んでいると、訓練場に誰か入ってきた。
入ってきたのは白い前髪を持つ長身の美青年、樫野涼也と、眼を前髪で隠しているおちゃらけた少年、氷室彗。
「うん? 正義君と燐さんじゃないか」
「ほんとだー二人とも訓練だなんて偉いねえ」
「二人とも訓練ですか?」
「うん。課題がたくさんあるからね、毎日やっておかないと。二人もそうかい?」
「いえ、正義君とは普通にお手合わせを」
「おいおい! 放課後デート!? 隅に置けないなあ正義君は!」
「首を斬られるデートがあってたまるか」
わき腹を肘で突きつつおちょくる彗と、それにツッコむ正義。
確かに門の前での誘いはデートではないかと一瞬期待してはいたが、彼女の後についていき、訓練場に着いた瞬間察した。そして思い出した。彼女が戦闘狂なのだと。
「うん、それでどうだい? 今のところの結果は?」
「ワタクシが三戦三勝、けれど最後はだいぶ互角でしたよ」
「へー、僕も戦ってみたいなあ」
戦う気満々涼也だが一方正義は疲弊している。肉体的には全快でも精神的にはつかれているのだ。
「少し休憩させて。あと俺の課題もやっておきたいし」
「うん、そういえば課題の中に『共同訓練』ってあっただろ? ほかの隊員と協力してやるやつ。せっかくだし、一緒にやらないかい?」
涼也の提案に正義は特に考えることもなく承諾する。むしろ誰も知り合いがいない中、相手側から誘ってきたのは助かった。
「別にいいけど」
「えー! 先越された! 俺っちも正義君とやりたかったのに!」
悔しがる彗へ涼也が勝ち誇るように見下ろす。
「うん、早い者勝ちだからね。正義君は僕のものさ」
「俺はお前の所有物じゃない。語弊のあるいいかたはやめろ」
満足げな顔をする涼也だが正義にとっては気持ち悪いことこの上ない。
「じゃあこれから暇になるなあ、どうするか」
悩む彗へおとなしかった燐が口を開く。
「じゃあワタクシと……」
「断る」
「一緒に……」
「断る」
「戦って……」
「断る」
最期まで言っていないのに彗は毅然とした態度で断り続ける。燐も乙女の誘いが却下されたことに動揺する。
「なぜなのですか!」
「当たり前じゃい! 意味のない戦いは俺っちはやらない主義なんじゃい!」
彼女の提案を最後まで聞かずにすべてを却下する彗。彼の予想通り、燐は彗と戦いたがっていた。もう帰る! と結界から出ようとする彗に対し不貞腐れたような表情を浮かべた燐が叫ぶ。
「むむむむ、ならこれはどうでしょう! ワタクシに勝てば、夏休みの読書感想文の宿題を代わりに書いて差し上げます!」
彗の足が止まる。
「というと?」
「あなたは読書感想文の宿題を、ワタクシが書いたものを書き写すだけで済むということですわ」
「俺っちが負けたら?」
どうやら自分が勝った場合は想定していないらしい。少し悩むそぶりを見せ絞り出したのが、
「まあ、ジュース一本おごるだけで構いません」
「……二言はないな?」
「もちろん」
燐の返事を聞いた彗は、懐から細い筒を取り出し、蓋を開ける。指先にクリーム状の何かをすくい手のひらでなじませると、一気に前髪をかき上げた。
ここで正義たちは、初めて彗の「眼」を目の当たりにする。
まるで水晶のような、限りなく白に近い銀色の瞳。誰もがその目に魅入ってしまう。およそ人の目の色とは思えない。遠くから見ていた正義は一瞬黒目がないように見えた。
彗は両手にナイフを持ち、構える。今までの彗からは考えられないほど、真剣で、まるで本当の兵士のような雰囲気だ。
「さて、やるならやるぞ」
まさか応じてくれるとは思わず、自分に敵意を向けられた燐は野性的な笑顔で応え、刀を構える。
「ええ、思う存分、死合いましょう!」
第弐拾話を読んでくださりありがとうございます!
正義君たちが通う高校は私立でもトップなので宿題の量もだいぶ多いです。
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