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EP79 火星人(仮)

そろそろ布団を変えないと寒いな・・・・・・。

私はそれでも冬の方が好きです。

クレアの夢


 「お前は一体何の為にこのパーティーにいるんだ!?」


 (・・・・・・?此処は・・・・・・)


 「聞いているのか!クレア!」


 「はぁ?」


 クレアは不意に胸ぐらを掴まれ、意図しない方向からの力の入り用のせいで、ガクンと視界が揺れ一層混乱を極めていく。


 「ちょっとやめてよ!」


 バシンと大きな音を立てて震われたクレアの平手は、男の頬を真芯で捉え、漫画の様に椅子やテーブルを巻き込みながら施設の壁へと転がっていく。

どうやら此処は酒場のようだ。


 (???あれ???此処ってマッサマンの安酒場じゃ無い?)


 いつの間にここに居たのかと混乱してはいるものの、周囲をしっかり観察し、依然全く同じ状況になった事があったなと、過去の事を思い出す。


 (何だっけ、月の剣・・・・・・?とか言うパーティーに居た時こんな事有ったなぁ)


 数年前彼女が月にある首都マッサマンで冒険者をしていた時に所属していた弱小パーティ、クレアがいないとDランク相当のダンジョンにも潜れない、初心者から僅かに抜け出した、駆け出しレベルのベテランパーティ。因みに彼女はこの頃から既にAランクであったのだが、この件が有ってギルドから目を付けられ、B・Cと降格していくのだが、それは又別の話で有る。


 (あー・・・・・・なんか嫌な事思い出しちゃった・・・・・・これ絶対夢だよね?こんな事二度も有ってたまるか)


 クレアが角の席から立ち上がり、男を吹き飛ばした事で、彼女の隠していた実力が露呈し、同じパーティーに所属している六人は、囲んでいたテーブルから少し身を引き離し、完全に青白い顔をしている。その中でも特に酷い顔をしている女、クレアに対して常々小言を繰り返し、ミスをしない彼女の粗を探し、ちょっかいをかけ続けてきた女だ。

 「ベーファさん、何かしました?」


 (あの時はこのまま乱闘騒ぎになっちゃったっけ・・・・・・)


 クレアという娘は普段は特に大きな声を出すような事は無いのだが、一定のストレスを抱えると手にした杖を振りかざし、普通に人を殴る。しかしこの時は手元に杖が無く平手で殴る事になったのだ。


 彼女のマッサマンでの通り名は『近接戦闘系ヒーラー』。勿論ダンジョンに潜っている間にその様な事をする訳では無く、元々の肉体的な素質の事もあって、つい、手を上げてしまうのだという。その癖が噂を呼び、面白がってパーティーに入れるのだが、結局彼女の与り知らぬ所でパーティーメンバーが問題を起こし、不名誉な通り名を持った彼女がとばっちりを受け、ランク降格や、パーティーメンバーである為の連帯責任を負わされ、トントン拍子に転落の人生を歩む事になった。


 これはその始まりの時の夢だと、彼女は確信するに至った。


 (理由は分からないけど、夢なら良いよね)


 彼女は自分にそう言い聞かせるようにパーティーメンバーへと向き直り、Aランクの拳を遺憾なく振るい、狙い過たず、その顔面へと一発一発満身の力を込めて振り抜いていく。勿論その力の差は歴然で、その拳を受けた元パーティーメンバーは首から上を失い、床に血の湖を作り物言わぬ骸と化していくが、ベーファと呼ばれた女だけは何故か残しておきたくなり、一人だけお誕生席に取り残された女は目を白黒させ、周りの観衆と化した冒険者であろう者達とは違い、実際に命の危機が差し迫っているのだが今一つ反応が悪く、クレアの記憶との間にできた隔たりが大きくなっている事に気が付く。勿論彼女も実際はここまで大暴れして死傷者を出すほどの事は無かったし、周りの冒険者達も身を挺して彼女が暴れるのを防ぎに飛びかかってきたりもした。


 「・・・・・・」


 (???)


 ベーファは何故か恐れ戦いた表情のままで固まって動かず、一言も発しないままで虚空を見つめていて、クレアの事も目に入っていない。


ーここまで暴れるなんて思わなかったんだけど?


ー想定外だ、さっさと『加工』してしまおう


 (・・・・・・?何?この声?)


 ベーファだけでは無く周りの冒険者達も動かなくなり、さらさらと砂のように消え去っていく、そして全てが消え去り上も下も分からない無の空間の中に一人。クレアは取り残された。


ー聞こえているか暴力女、今から貴様を我々の駒として『加工』する。その後は貴様の身体は我々がコントロールし貴様の意識だけが残る事になるだろう。


 (・・・・・・なんか雑音が・・・・・・)


 「ハイハイハイハイ、終わり、終わりー」


ーな!?


ー誰!?


 「キャッチ・・・・・・うはっ、これがその未確認データの送信先か」


 雨宮はクレアの側からぬるっと現れ、何かをしてきた何者かの何かをキャッチ、瞬時に解析を終わらせる。


 「あの、一体何が?此処は夢ですよね?」


 「そうだ、夢の中だ。詳しい事は起きてから説明する、これから楽しくなるぞ」


 雨宮は喉に刺さった小骨が取れたような晴れやかさを全身で表し、夢魔法因子を使いクレアの夢のコントロールを奪い、何者かを引き摺り出そうとするが、手応えが無い。


ーククク、何者かは知らんが、私を特定しようとしても無駄だ。


 「あ?・・・・・・あ?」


 雨宮の頭の中に直接響くような何かが掠めていったが、雨宮は特に気にしなかった。


ー何・・・・・・あれ・・・・・・?


 特定など既に出来ている、もう帰ってと言わんばかりにシッシッと手を払い、何者かの接続を強制的に切断、逆にナノマシンを送り込んだ。


 「さぁナノマシン達、馬鹿共を引き擦り出せ!ロペ!ゲートだ!」


 「おっけー!」


 雨宮の影から現れたロペは、クレアの夢を少しコントロールし、夕暮れ時の公園を展開、エクス・ヒューニ・ティオレ・イミルの四人もどこからともなく現れ、イミルはブランコに、エクスはジャングルジムのてっぺんに、ヒューニとティオレはブランコの周りの安全柵へと腰掛け、様子を見守っている。


 中空に魔力によって形成された両開きの大きなドアが現れ、勢いよく扉が開くと二人の男女・・・・・・だと思われる何かが飛び出してきた。


ーp@;,lom028jnfdadp!!


ーjjjuiepa00r@32//zpiu!?


 叩き潰されたタコを頭からかぶったような不思議な人型生物と思われる二人は、無理矢理この空間に引きずり込まれた事に混乱しているようだが、引きずり込んだ側の雨宮達にはその言語は理解できず、腰から何かを取り出そうと手を動かしたと同時に、待機していたエクスとティオレによって制圧され、公園の地面に押し倒される。


ー82hhap@@s[[3;a98##!


ー;,nuiaoeea[aije;;iaheo


 男の方は何やら怒っている様な怒鳴っているだけの様な、そんな動きをしているのだが、周りの皆にはそれが言語として届かず、何だかよく判らないが五月蠅い音がする位にしか認識出来ていない。


 「エクスの方は体付きからして女か?」


 エクスは踏みつけている人型の何かをもぞもぞと触り、それっぽい、と触って何となく気持ちいい手触りだと感想を述べた。


 「男の方は要らないかな・・・・・・?」


 「つがいで捕まえとくのもええかもしれへんよ?」


 「そうか!つがいか!・・・・・・つがいねぇ?」


 それにしては互いを思いやる気持ちが見えないと、夫婦としての思いやり的な物が欠けているのでは無いかと思っては見たものの、別に男女だからと言ってそう言う間柄じゃ無いだろうと、即座に否定し、取り敢えず雨宮は男の方を分解した。突如消え去った相方を目の前で何事かと見ていた女と思われる何者かは、タコの被り物らしき部分の下からどろっとした液体を垂らし、抵抗をやめた。


 「うわぁ・・・・・・なんやこれ・・・・・・」


 エクスは抑えている存在の身体を更に弄っていたが、突如粘性の有る液体を吐き出した為に、両手にねっちょりとその液体を纏ってしまったようで、ヒューニにハンカチを借りようとポタポタと液体を垂らしながら近付いていくが、すすっと離れていくヒューニは雨宮の後ろへと陣取り・・・・・・。


 「えんがちょ、エクスえんがちょ」


 (今時それかいな)


 「分解しろ分解しろ!やめろっ!こっちに手を付けようとするな!」


 その様子を地面にうつ伏せになったままで見つめていた人型の女らしき何者かは、更にどろっとした液体を吐き出し、目が付いているらしい場所を手で覆い、ぷるぷると小刻みに震えだした。


 「虐め良くない」


 「「「えっ?」」」


 そんなタコ女らしき生物をじっくり観察していたイミルは、もしかしたら泣いているのでは無いかと近付き、肩らしき場所に手を置きポンポンと慰めるような行動を取ってみた。するとタコ女はゆっくりと起き上がり、イミルの頭を丸呑みにするように覆い被さった。


 「うっぷ」


 「「「「あぁ!!」」」」


ー;;pkoia923[]//;lp@933a!!


 真っ正面からぬめっとした何かに完全に視界を閉ざされたイミルは、何故かがっしりと抱きしめられるように掴まれ、べちゃべちゃと・・・・・・舐め回されているのだろうか?


 「ま・ぶはっ!」


 その纏った何とも言え無い悲しげな空気に、雨宮達は無理矢理引き剥がす事も出来ず、為すがままのイミルに、頑張れと心でエールを送る事しか出来なかった。


ーーーーーーーーーー


ーpoa8hj4o@l@--[]]:;--


 「いや分からんて」


 暫くイミルの頭をべちゃべちゃとかぶり付いていたタコ女だったが、漸く落ち着いたらしく、何とかイミルから引き離す事に成功し、雨宮はイミルから腹パンを受ける事になった。


 「べちょべちょやなぁー」


 ニコニコと仲間を探すようにイミルの身体を綺麗に分解していくエクスだったが、頬をこれ以上無いぐらいに膨らまし、そっぽを向いてしまったイミルはもっと早く引き剥がしてくれても良かったのに!とご立腹で有った。


 「銀河きゅん解析はまだ終わらないの?」


 「流石に生物丸ごと一匹だと、ちょっと時間が掛かるかな・・・・・・しかもこいつやっぱり別の世界の生き物だからプロテクトがな」


 「この世界のキーでは駄目かな?」


 「もう試したが、系列が違う世界らしくて駄目だったな」


 解析待ちの時間を持て余す雨宮とロペだったが、その間に何とか意思疎通をしようとヒューニは近くの木の枝を折り、タコ女と絵を描きながら意思疎通を図っていた。


 「・・・・・・これが何か分かりますか?」


 ヒューニは丸の周りに線を引いて太陽を描き、人型を描き、バナナを描いた。


ーkjrepauh;^3^;ajpoan:


 手をパンパンと叩き、これっこれっ!と何故かバナナを指さすタコ女は、その形に何かを感じたのかとても興奮しているようだ。


 「バナナですか・・・・・・お腹が空いているのかな・・・・・・?」


 ヒューニが呟く言葉にタコ女は反応せず、次は何かとともすれば何か大きなものを期待されているような気配を醸し出したタコ女は、ヒューニの次の絵を待っている。


 ヒューニは次に自ら感じた疑問を投げかけるべく、お腹を抱えた人型を描き指を指す。するとタコ女は頭をこてんと横に倒し、何かを考えるような仕草をし、ヒューニの描いた絵に丸を描いた。


 (全く意味が分からない)


 これで合っているという意味の丸なのか、それとも何か別の意味が有るのか、言葉が完全に通じない事がこれ程の障害だとは雨宮達にとっては大きな誤算だった。


 「尋ねては見たものの、此処では解決できないな・・・・・・」


 それもその筈、此処はまだ夢の中、精神世界と言っても良い空間で有り、此処で何かを口にした所で全て夢の中の産物、腹など膨れる事は無い。

しかもタコ女の今の状態は、異世界の現実世界から夢の中に引きずり込まれたままで、第三世界に顕界・・・・・・生きたままで出ようとすれば、雨宮に何とかして貰うしか方法が無いのだが・・・・・・と考えた所で、ヒューニに又一つ疑問が生まれた。


 「えー・・・・・・ロペさん?」


 「ん?」


 「ゲートで夢の中に転移できると言う事は、第三世界にもそのまま出られると言う事ですかね?」


 「あ、出来ると思う・・・・・・今なら」


 (夢魔法因子を手に入れた今なら)


 「あの・・・・・・」


 「「?」」


 夢の中で時間つぶしと雑談が始まりかけていた時、クレアの顔色が徐々に悪くなっていくのをイミルが気付き、このままで居るのは大丈夫なのかと、二人に尋ねたのだった。


 「・・・・・・早く出なきゃだね」


 「すまん、其処まで考えていなかったわ」


 元々他の人間が入り込んでくる事など想定されていない夢の世界で、キャパシティーを大きく上回る人数と、本来あり得ない現実世界と繋がるという大きな負荷が、クレアの精神をガリガリと削り取っている状態になっている様で、今にも世界自体が崩壊しそうな程の揺れが始まり、クレアの意識が喪失しそうになっている。


 「やばいやばい、脱出だ脱出!」


ーーーーーーーーーー


医務室


 雨宮は夢から脱出して直ぐにドリームダイバーをベッドに置くと、既に目を覚ましていたロペがゲートを開き、タコ女をゲートから連れ出し直ぐにゲートを閉じた。


ー?p0ijo2n9da?ljpw;;


 胸と思われる所で手をぎゅっと握り締めオロオロと辺りを見渡しているのだが、勿論タコ女の期待しているような光景では無く、白を基調とした静謐な病室の中で周りは相変わらす、見知らぬ者達に囲まれたまま、その状況に又不安を覚えたのか、てろーんと粘性の液体が滴り落ちてくる。


 「おいやめろ、お前の頭の下には・・・・・・」


 ゲートから引っ張り出されると同時に何か大きなふかふかにぶつかったタコ女はそのまま倒れ込み、今正に目を覚ましたイミルの頭の上に覆い被さり、もにゅもにゅと謎の動きを繰り返す。


side イミル


 「うっぷ・・・・・・」


 (えぁ・・・・・・また)


 頭の中に感じた重みが消え去り、心地よい眠りから目を覚ますはずだったイミルは、目を開けた直後目の前が真っ暗になり、先程クレアの夢の中で味わった形容し難い不快感を再び味わう事になった。


 「~~~~!!」


 バンバンと彼女?の頭を叩き、頑張って引き剥がそうと藻掻いているのだが、思ったより吸い付く力が強く頭の天辺から掃除機で吸われているかの様な感じた事の無い吸引力によって中々離してくれない。


 その様子を見ている雨宮は無理矢理引き剥がすにしても、あれだけがっちりと包み込まれている状況では下手をすれば首を折ってしまうと思い、手を出せずに居たのだが、イミルの必死の抵抗によって頭?をバシバシ叩かれていたタコ女は緑色の液体を吐き出し、イミルを吐き出した。


 「もうやだ・・・・・・」


 夢の中に引き続き現実世界でもべっちゃべちゃのぬっちょぬちょになったイミルは枕に顔を埋め、緑色のシミをシーツに拭い付けている。


 「コイツは!火星人!?」


 「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」


 そう言って現在の火星に住む人全員を敵に回しそうな発言をしたのは、シンシア(適当)事雨宮不結理(あまみやふゆり)、彼女はイミルの身体を綺麗にしながらもじっくりとその姿を観察し、間違いないとの結論に至り、ゆっくりとイミルを火星人(仮)から離した。


 「火星人ってこう言うのじゃ無いと思うんだけど・・・・・・」


 枕を涙で濡らしていた事を余所に、ひょいっと抱き上げられて仕舞ったイミルは、しっかり乾燥し綺麗になった自分の顔の違和感を拭うべくゴシゴシと袖で擦っていたが、自分に変わってぐったりと先程のベッドに寝かされた火星人(仮)の事を改めて観察し、どういう事かと雨宮の方を見るが、分かりませんと首を横に振るばかり。


 「いいえアレは間違いなく火星人よ、居なくなったと思ったら第三系列世界軸に浸透していたとは思わなかった」


 イミルは抱かれていた腕の中からゆっくりと降ろして貰い、腕の届くギリギリの範囲で人差し指を伸ばし、火星人(仮)の頭を突っつきその感触に頬を引き攣らせる。


 (ぶよぶよしてる)


 「にしても良く此奴の弱点が分かったわね、あのまま吸い付かれていたら窒息死するまで離れなかった所よ?」


 (えぇっ!?)


 「別に襲っていた訳では無いらしいのだけれど、脳の作りの違いのせいらしくて、ストレスの解消?だとか何とか言っていたような・・・・・・?」


 (ちょ(`Д´#))


 イミルはそれを聞いた途端、手にしていた枕を投げつけベッドに蹴りを入れ始めた。


 「まぁまぁ、危害を加えるつもりは無いみたいだしその辺にしてあげなよ」


 (酷い目に遭った・・・・・・)


ーーーーーーーーーー


side 雨宮不結理


 (あり得ない話では無いか。あの世界でもあいつらはコミュニケーションの下手くそさ故に世界から消えたとか言われていたし・・・・・・、だとしてもこの世界軸にまでやってくる理由は・・・・・・まさかね)


 不結理は万が一の時は火星人(仮)を消さなくてはならないと考えながらも、戦う事を極力避けていた彼女?等が何故このような敵対的な行動を取ってきたのかと言う事に疑問を抱き、コミュニケーションを取らなくてはと思うのだが、言葉による意思疎通は不可能、ヒューニから共有された視覚情報によるコミュニケーションもイマイチ要領を得ない、しかしテレパシーによって火星人(仮)とコミュニケーションを取る事は非常に危険で有る事を彼女は知っている。


 以前・・・・・・遙か昔、彼女の知る研究者の一人が火星人(仮)の思考を読むべく、エスパーを使い翻訳をさせようとしたのだが、火星人(仮)の思考を読み取ろうと力を使ったエスパーは脳をオーバーヒートさせ爆散した。結局何のデータも取れずエスパーの死因も不明、それ以降彼らとのコミュニケーションは・・・・・・。


 「「モールス信号しかないのか」」


 雨宮と同時に同じ事を口に出した不結理は驚き雨宮を見るが、雨宮の表情は優れない。


 「ん?モールス信号出来ない?」


 「そんなもん言葉や文字でしか知らんがな」


 とは言え、今火星人(仮)はベッドの上でダウンしており、とても意思疎通の出来る状況では無いし、不結理が先程のイミルが行った意図しない攻撃による火星人(仮)のダメージを考えてみれば、死んでいてもおかしくは無いと思える位にはダメージを与えている様に見えた。それ位火星人(仮)にとっては頭部へのダメージは深刻である。今の彼女のミッションは、イミルにその事を何とか気付かせないように、雨宮に蘇生させ、意思疎通可能な状態に持って行く事、そして彼女等の意図を知る必要が有る。

火星人(仮)は不結理達にとってイレギュラーな存在であり、雨宮に余計な事を教えてしまう事故の起こる可能性が非常に大きくなる、最大級の懸念事項である。


 彼女達三人、不結理、雪之丞、蓮華は反目し合う存在ではあるが仲間で在り友達で在り、家族に近い存在だった。

三人は正体を明かす前から、特別に加工処理したグループゾーンを形成し、雨宮、銀河旅団を関与させない思考、行動を行っている。


ーーーーーーーーーー


 (蓮、雪さん、火星人処理する?)


ーいけません、余計な疑念を抱かせて仕舞いかねませんわ


ーそうだよ、駄目だよ、もう今そんな事をしても追求は避けられない


 (じゃあどうするのよ、あの世界の情報はまだ与えては駄目でしょ?このまま分解してしまったら・・・・・・)


ーもう一人分解してるから、もう無理なんだって


 (そういうの早く言ってよ、でも此奴を生かしておくと、兄さんが又余計なお節介をしかねないでしょ?)


ー・・・・・・意思疎通結局出来ないんだよね?


 (モールス信号以外ではね)


ーこの世界にモールス信号なんてもう残っていないよ、私達は出来るけどね。でもそうじゃなくて、分解して再構成するだけで意思疎通は出来るよ


 (・・・・・・え?そんな事出来るの?)


ー銀河きゅん舐めたら駄目だよ、あのナノマシンはもう私達の知ってるバイオセルじゃない、もっともっと進化して全く別物になっているんだよ


 (・・・・・・はぁ・・・・・・めちゃくちゃよねー)


(しん)君・・・・・・じゃなかった銀河さんらしいですけどね


 (そうやって甘やかすから・・・・・・)


ー良いじゃん、此処はその為の世界だよ


 (そうかも知れないけど・・・・・・危険じゃ無いの?)


ー何の為に私達がここに居るのさ、それに、銀河旅団は半端じゃないよ?


 (私がまだ知らないだけって言いたいの?)


ーそう、銀河きゅんの進化速度は速すぎる、もう既にあの時を超えているよ


 (じゃあ私達の事がバレるのも時間の問題だった訳ね)


ーまぁ、それは私の失態でも在った訳だけど・・・・・・


 (そうよ、今思えば蓮がなんかよく判らない事になっていたせいで・・・・・・)


ーーーーーーーーーー


 「不結理?ロペ?聞いているか?」


 「「え?あ」」


side 雨宮銀河


 何やらドタバタと色んな事が一気に起こり、イミルは雨宮の足に抱きついて離れようとしないし、ロペと不結理と雪之丞は黙って俯いたまま動かない、エクスとヒューニは火星人(仮)が動き出しても問題ない様に警戒をしている。アトはエルドーラを連れて既に仕事に戻って居るが、ミリュとティオレは動かなくなった三人を睨み付け、そちらの方に警戒を向けていた。


ーーーーーーーーーー


 (二人共そんな目で見てやるな、あの三人には別にやるべき事が有るんだろう)


ーしかし銀河様、やはりロペさんは危険では・・・・・・


 (くどいぞ、今迄のおかしな行動は結論が出ただろう?)


ーそれは・・・・・・そうですね


ーふぅ、まぁ何か事情があるにせよ、少し位は私達を頼って欲しいものです


 (確かにな、まぁロペの事だ、何かこの世界にとって不都合が起こる可能性があったのだろう)


ー大きな話ですね


 (俺達だけじゃ抱え切れんよそんな事、それを避けてくれていると思えば、悪くは無いだろ?)


ーむぅ・・・・・・銀河様がそう言うのなら・・・・・・


ーーーーーーーーーー


 雨宮はミリュとイミルの頭に手を置き、ムニャムニャと安らかな眠りに落ちたクレアに目を向けるが、暫くは目を覚ましそうに無いと思い、改めて緑色のシミをシーツに作った火星人(仮)の様子を観察する。


 タコを頭にのせたと言うより、首から上がタコそのものにも見え、イミルが先程触った触感を詳しく雨宮に伝えていたのだが、正にタコと思いもしかするとタコ型の獣人、若しくはタコ型のサハギンなのか?と推測しては見るのだが、海洋生物型の獣人は確認されて居らず、サハギンなら意思疎通ぐらいは出来るだろうと考えを改めた。


 そんな思考の渦に巻かれそうになっていると、タコ男の分析結果が抽出され、そのデータを確認した研究員達の結論は・・・・・・。


 「「モールス信号か」」


 秘密の通信を追えた不結理は雨宮を見て同じ結論に至った事に対し、それしか無いかとそう考えているのだが、雨宮はそれがこのままの状態で在ればと言う条件あってのものである事も理解していて、既に瀕死のタコ女を分解し再構成する準備を整えている。


 「直ぐに終わるからな」


 雨宮は身体の部分に手を触れ、瞬時にタコ女を分解し、再構成する。するとタコ女は普通の人種の女に変わり、閉じていた目をパチリと開く。


 「くぅおれぃはなぁぬぃがぁおこぅとぅたのでぃすぅか?」


 「な・・・・・・?なんて?」


 彼女はベッドから起き上がった途端、まるで歌舞伎の様に声を出し何かを口に出したが、余りにもイントネーションの強弱がめちゃくちゃだったので、内容を把握する事が誰にも出来なかった。


 

 火星人


 原初世界における火星人は、出自不明の人型怪生物として認識されており、首が無く、頭部に当たる部分が擬態したタコの様に浅黒く、触手の様なものを生やしており、頭部、特に後頭部に当たる部分への衝撃に非常に弱く、子供の力で叩かれただけで瀕死の重傷を負う。


 ファーストコンタクトに当たり、彼らはヘルメットの様な物を被っており、その存在は人間に近しい者と考えられていたが、言語による意思疎通が不可能で有ると言う事が判明するまでに時間を要する事が無く、その外見も相まって早々に敵性なのでは無いかと議論されていたが、性格は非常に温和、人間との意思疎通を積極的に行おうとしているのでは無いかと好意的に捉える声も多く、様々なコミュニケーション実験を行い、意思疎通を行おうとしていたのだが、全ての実験が実を結ばず、死人が出る事もあった為これ以上のコンタクトは不可能なのでは無いかと考えが広がりつつあった時、偶然金属のコップを金属のテーブルにコンコンと叩き付ける音に反応を示した火星人は、非常に興奮しそのコップを叩き付けていた実験総責任者の頭に齧り付き、窒息死させてしまう。しかしこの件によってモールス信号による会話が可能で有ると言う事が判明、彼らとの意思疎通が始まったが、彼らは人間が抱いていたイメージとは全く違う存在であり、人類に対して何も期待していない事が判り、コミュニケーションを取ってもお互いに何の利益にもならないと言う事だけが判った。


 この無駄な時間に業を煮やした交戦派の研究員によって火星人は殺害され、人類は宇宙へと大きく羽ばたく技術を手に入れる。


 そして、火星人と呼ばれていた生物との戦争が始まり、地球の半分が焦土と化し、人類は滅びの道を歩む事になる。


 と言う事が、火星人と後に呼ばれる者によってモールス信号で接触前に研究者達に伝えられ、地球人との戦争を回避したい意志を感じた担当者達は、火星に移住してはどうかと提案、数億からなる彼らの集団は火星を開拓、居住して静かに暮らしていたのだが、やはり交戦派は火星人を攻撃、原初世界を去って行った。

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