EP70 地元密着型新庄
夏本番!おうちで冷房付けて、第三世界トラブルツアーをガッツリ読もうぜ!
新庄の自宅マンション
六人は三十階建てのマンションの前でタクシーを降り、予想より遙かに大きいマンションを見上げていた。
「でけぇマンションだなこれ」
「まぁ、土地は余っているからな、下の方は賃貸で、かなりの人数住める様にしてあるんだ」
「上の方は分譲か」
「そういう事だ」
新庄はマンションの入り口に備え付けられた認証システムに、顔を近づけ認証を済ませると、扉を開け六人は最上階の新庄の部屋へと向かう。
「前世のエレベーターと比べて、かなり早いな」
「肉体の強度がそもそも違うのだろう、野球やサッカーなども一度見てみると面白いぞ」
「そんなに違うのか」
「あぁ。野球なんか、レギュレーションが色々あって、レベル制限とか、中々見応えがあるぞ」
「レギュレーションかぁ、流石に無いと試合にならないか」
雑談をしながら長いエレベーターに乗っていると、最上階に到着した。
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最上階 新庄家
「広いな!家!」
「ワンフロアぶち抜きだからな、無駄に広い」
ここまでする必要は無かったのだが、と、新庄はこのマンションが作られた経緯を話す。
「知り合いが此処の設計から関わっていてな、好きにさせていたらこうなっていたんだ」
「にしても持て余すだろこの広さ」
「まぁな・・・・・・」
一人暮らしの住まいとしては広すぎるのだが、そもそも家にあまり居ないらしく、広かろうが狭かろうがどちらでも良いのだとか。
「何をしに来たんだ?結局」
新庄は広いリビングから離れ、長くて広い廊下の先にある、電子ロックの掛かったドアを空け、何やら大きなケースを取り出した。
「俺の武器だ」
「おまわりさーーーーーん!!」
「前世とは違うんだ!!」
雨宮が茶化す様に言った言葉は、この世界では特に意味をなさないのだが、そんな事にもいちいち律儀にツッコミを入れる新庄は、ケースを床に置き、パチンパチンとロックを外し、やや細身な刀を取り出した。その刀は良く見ると刃の部分が三重になっていて、切られると酷い事になりそうだと雨宮は頭の中で、玉子カッターを思い出した。
「なんだその刀・・・・・・?っぽいの」
「この刀はな、異世界ダンジョンの中層で手に入れたマジックアイテムでな、鑑定士が付けた名が、超振動ブレード・・・・・・なんだと」
「振動?」
「そうだ、この三枚の刃は、実は上下に数ミクロ単位で超高速で動く様になっている、そのお陰で大抵の物は切る事が出来るし、切り裂けなくとも、削り取る事が出来るんだ」
雨宮は恐ろしい武器だと眉をひそめるが、ふと新庄に問いかける。
「構造解析しても良いか?」
「言うと思った、壊すなよ?コピーは作られているが、これはオリジナルなんだ」
「元の状態に戻るから大丈夫だ」
雨宮は受け取った刀をさっと分解し、その刀の仕組みを解析する。
どうもミクロ単位のギミックが仕込まれているらしく、偉く精巧に作られた工芸品のようにも雨宮には感じ取れ、機械仕掛けの武器だと判明した今でも、マジックアイテムと言われても勘違いしてしまうなと、感心する。
「こんな細かい物を作るのは大変そうだな、凄まじく精巧に作られた機械仕掛けの刀だ、内部構造は芸術の域に達するんじゃ無いか?」
どうやって作ったんだこれ、と雨宮は呟きながら、上から見、下から見、刃の正面、鍔、腹、柄、あらゆる角度から観察し、その出来の良さを褒め称える。
「良いねぇ、びゅーりほー、コレは良い」
「マジックアイテムだとずっと思っていたんだが・・・・・・」
「それも間違いでは無い、動力は魔力の様だからな、今は流石に魔力切れのせいで動かないみたいだが」
「暫く手入れをしていなかったからな、充電も切れているだろう」
そう言いながら雨宮から刀を受け取った新庄は、魔力を流し、刀の魔力を充填した。すると微かに聞こえるぐらいの金属音が部屋に響き渡る。
ーーィィィィィィ・・・・・・
「スゲェスピードで振動するのな・・・・・・」
「ああ、懐かしい。この振動が、これこそが俺の武器」
「これを取りに来たのか」
「まぁそういう事だ、他の物は普通の既製品だから、特に必要ない」
「ほなうちらで貰っていきまひょか~」
要らないと言い切った新庄の言葉を聞いたエクスは、ヒューニと供に家の物色を始め、家具から何から洗いざらい片付け、雨宮の位相空間の中へと放り込んでいった。
「もぬけの殻・・・・・・夜逃げみたいだな」
「まぁもう戻ってくる事も無いだろうからな、特に問題は無い」
「ほな今度はホテルに行きまひょか~」
「チェックインしておかないとね」
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ホテルレッドクリスタル
「久しぶり」
「新庄さん!?生きていらしたのですか!?」
此処のホテルのオーナーは新庄の知り合いの様で、マンションから徒歩五分程の場所に、二十階建ての豪華なホテルが有り、雨宮達はそのロビーへとやって来た。
「六人泊まれるか?」
「勿論です、直ぐに手配します」
オーナーと思われる青年は、新庄へと軽く頭を下げ、足早に奥へと引っ込んでいった。
「何処にでも知り合いが居そうだな」
「まぁここには長く住んでいたからな、それなりに知り合いも多い」
新庄は若くして議員となり、それなりの経験を積み人脈を作る事も怠らなかった。その成果もあって、レッドアイコロニーにおける政治家として不動の地位を築き上げている。先程このホテルまで徒歩で移動してくるまでの道のりでも、握手を求められたり、よく帰ってきたと肩を叩かれる様子を雨宮達は感心しながら見ていた。
皆、逮捕については間違った物であるとの共通認識がある様で、その事を責める様な人は居なかった。
「盤石とはこのことか」
「皆良くしてくれる、そこいらの渡り鳥議員共と違って俺は此処の生まれだからな、皆昔から見知った顔だ、そういう事も皆との距離が近い理由かも知れないな」
「良い政治家をやっていたんだな」
「そう努めていた」
(にしても、この世界は武器を持ち歩いても何も言われないんだな。アトレーティオ4の時もそうだったが、武器を買って皆振り回していたが、何か言われたとは聞いていないし、誰も気に留めていない。銃を下げて歩いている人間も珍しくないみたいだが、今の新庄の様に、あんな大振りな刀を持ち歩いていても、ちょっと珍しい武器ですね?位にしか思っていない様に思える)
このレッドアイコロニーは主に人種の生活圏となっている事もあり、純粋な人種が多く暮らしている。しかし他種族が居ない訳では無い、月圏での人口分布は、元々地球から近い事もあり、地球由来種の多い地域ではあるが、人種についで獣人種、メロウ種、そしてドワーフ種、それ以外の種族も居る事には居るが、差別感情が大きい古いタイプの人間が比較的多いせいか、冒険者や探索者を除き、人種が非常に多い。逆に冒険者探索者には、獣人種やドワーフ種フェアリー種やエルフ種等様々な種族が、人種と比べると比較的多くなっている。歴史的背景もあり、長くこう言う分布が続いている様だ。
ホテルのチェックインを済ませた一行は、雨宮の泊まる部屋に集まり、今後の方針について確認をしていた。
「まずは肩慣らしにルビーダンジョンでも行ってみるか?」
「中級ダンジョンなんだろ?いきなり行って大丈夫か?」
ロペは巨大なベッドに寝転がりながら端末を取り出し、ダンジョンの詳細な情報を調べている。
「銀河きゅんがそんな事言ったら、他の人なんか絶対無理だよ」
「そう言うもんか?」
「お前だって少しはレベルが上がっているだろう?」
「うーむ、一応な?」
このレベルという物がくせ者で、高いからと言って強いかと言えばそうでも無く、低いからと言って弱い訳でも無い。
その証拠に、雨宮はつい先日までレベル零だったが、高レベルの敵性人物達を容易く叩き伏せ、今此処に居る。
銀河旅団のクルー達の中には、冒険者として成らし、レベルを上げて強さを手に入れた者も居るが、冒険者としての経験が無く、レベルが零であり、個人としての力を磨き上げた元海賊達に敵わない、などと言う事もある。
だが一般的な認識としては、レベル零の一般人と、レベル一の一般人では、勿論レベル一の一般人の方が戦闘能力は高い。
レベルが一体何を表しているのか、これは第三世界に多数有る不思議の内の一つとなっており、研究者や識者の間でも意見が割れている事象の一つである。
雨宮も又、その謎について自らの研究室を以て、研究させている。
「今のレベルは五十・・・・・・だなキリの良いものだなぁ」
「普通の人がそのレベルで此処のダンジョンに行こうとすれば、浅層であっぷあっぷって感じかなぁ」
「レッドキャップに囲まれて死ぬのがオチだな」
レッドキャップとは子鬼タイプのモンスターで、赤い帽子がをかぶっており、帽子を取り上げられると激怒し、戦闘力が倍加する事で知られている。
「ウチは未発見ダンジョンに潜った事もあるさかいに、ある程度はレベルアップしてますけど、眷属化した方がよっぽどパワーアップしてますし」
「身体が丈夫なので早々死ねる気はしませんね」
エクスとヒューニもレベルについては気にする必要が無いと言い、ダンジョンに行く事は賛成らしい。
「只・・・・・・ギルドマスターからメッセージが届いたんだが、討伐はしてくれるなと言う事だ」
「・・・・・・あー。ダンジョンコアだっけ?」
雨宮は少し前に資料で見た、コアの映像を思い出し、触ってみたいと唸っている。
「そうだな、アレさえ生きていれば、ダンジョンはほぼ無限にレッドアイを生産し続ける事が出来るだろう」
「ほな一番奥まで行っても、ガーディアンを倒してお終いにせなあかんねぇ」
「それは逆に大丈夫なのかねぇ?」
「まぁ、早々最深部まで行ける冒険者も居ないらしいが・・・・・・ガーディアンの詳細は不明、未だに未発見だという話しだしな」
「おー!未踏領域!」
ダンジョンにおける未踏領域、誰も辿り着いた事無い階層、隠しエリア、そう言った場所を発見すればその報告をするだけでそこそこの報奨金が出るらしく、冒険者の中には未踏ハンターと呼ばれる、未知の領域や未知のモンスターだけを目的として動いている、賞金目当ての物も存在している。
レッドアイダンジョンの予想最深階層は、四十五層であると言われているが、勿論飽く迄予想は予想、実際の最深層とは異なる場合も多い。
その予想は、ミニスタンピード、ぷちすた、等とも呼ばれる、浅い階層のモンスターがダンジョンを飛び出してきてしまう時に、ダンジョンの吐き出す余剰魔力を測定する事で、予測を立てる事が出来るのだという。多くのダンジョンのデータをギルドに集め、ギルド所有のスーパー量子コンピューターによって統計分析を行う事で、その情報をざっくりと予測としてギルド全体に開示している。
そう言ったデータを専門に集め生計を立てる冒険者も多く存在し、その者達は収集家と呼ばれ、ライトに兼業をする冒険者や、研究者やデータ取引業者などの専門の会社からの雇われ冒険者等が、そう言った呼ばれ方をしている。
ぴんぽん
(昭和を彷彿させるインターホンだ!)
「はーぃ!」
(居るな、聞こえないのに何故か返事をする人)
ティオレはロペの背中に向かい納得した様に頷くと、外の景色に目を向ける。
ロペがカメラ付きインターホンの受話器を取ると、そのモニターにはエルフと思われる耳の長い女性が映っている。
「誰だ?」
「・・・・・・銀河きゅんが分からなかったら誰にも分からないとおもぅ」
「その謎の信頼感よ」
(データベースから参照・・・・・・っと、あ)
「エマか」
「「「「「エマ?」」」」」
「一度話を聞いたきり、ずっと自由にさせていたんだが、何をしに来たんだろうな?」
因みにエマは界獣から分離される際に、一度完全に分解されているのだが、眷属化はして居らず、牧場世界による改造処置のせいで、β種と呼ばれる銀河旅団の研究者曰く、未完成人類、と呼ぶ存在になってしまっていたのだが、雨宮によって回収された後、様々なデータ解析の末、ハイエルフと呼ばれるこの世界には存在しない種族であった事が判明、ナノマシンによって何時でもその情報を元に肉体をロールバックさせる事が可能な状態にしてあったのだが、雨宮の悪い癖により、忘れ去られていた。
ーーーーーーーーーー
「あの・・・・・・」
何かエフェクトでも掛かっているのかと思える程、キラキラと光を反射するブロンドの髪は一つ結びできゅっと後頭部辺りで結ばれており、切れ長の目とシャープな顎のラインが、若干気性の荒さを感じさせる。何かを言いたげに雨宮を見上げるエマは、銀河旅団の制服に身を包み、畏まった様子でソファーへと座っている。
「何か用があって来たんじゃ無いのか?」
「はい、あの・・・・・・私は一体今どういう状況に置かれているのでしょうか?と、お伺いに来た次第でして・・・・・・」
「銀河きゅんがほったらかしにしてるからぁ」
「はいごめんなさい」
今現状彼女は只のエルフ種としての肉体を雨宮に与えられ、その精神生命体の器として仮に使用していたのだが、銀河旅団で生活していく内に、徐々に精神生命体が活性化したらしく、肉体が悲鳴を上げているのだという。
「術式を以て肉体を維持するのが精一杯なのです、私は一体どうなってしまうのでしょうか」
血の気の引いた青白い顔で、薄らと涙を浮かべたエマは、不安を隠す事すら出来ず自らを抱きしめる様に肩を抱く。
「あー・・・・・・悪かった、その身体は器としては小さ過ぎたみたいだな。ハイエルフ・・・・・・だったか」
必死にエマの情報を寄せ集め、表層にアップロードした雨宮は、必要な処置を思いつく。
「元の身体の方が良いか、それとも、眷属になるか?」
「あの、眷属というのは?」
(其処からか・・・・・・)
雨宮が頭を抱えた事で、ヒューニが一歩前に出て、眷属とはなんたるかを説明し始める。その説明を聞くにつれ、徐々に顔が赤くなり、その輝く様な白い肌が僅かに赤みが差してくる。
「その・・・・・・私の様なおばあちゃんで良ければ・・・・・・」
「「「「「「おばぁちゃん?」」」」」」
見た目はかなり若いエルフとしてしか周りの皆は認識出来ていないのだが、エマが言うには、彼女は既に七千年以上を生きてきた銀河旅団最年長の人物であった。
「よろしいやないの、アトちゃんかて元々おばぁはんやったし」
「見た目が問題なければ気にならないんじゃ無いのか?」
「お前等言いたい放題だな、まぁ・・・・・・間違ってないけど」
雨宮の頭の中に、ふと、ハイエルフとしての情報と、エマのその七千年の情報が手に入れば、又新しい事が思いつくのでは無いかと光が差した様な気がした。
記憶に相当する情報は、敵対している者で無い限り、勝手に覗き見をするようなことはしないと、雨宮は考えている、しかしそれは単純に面白くない、と、雨宮がゲームの攻略情報をクリアする前に見てしまうのを邪道とする、そんな精神から来た物であり、特に高尚な理由が有る訳ではない。何時でも出来る事をやらないという選択をしている、一種の縛りである。
「俺に全部託す気はあるか?」
「既にこの身は貴方の作った物ですし、今私がこうやって皆さんの前に居られるのも、こうやって人として生活が出来る様になったのも、全て貴方のお陰ですから・・・・・・これでも向こうの世界では酷い目に遭っていたのですよ?又普通に生きて行けるだなんて、そんな事無いと思っていましたから」
エマはニコリとまるで太陽を追い掛ける朝のひまわりの様な、晴れやかな笑顔で頬に手を当てながら雨宮を見つめていた。
(あー・・・・・・これはあかん)
雨宮は無言でソファーに座ったエマの前に座り、その顔に手を伸ばす。その雨宮の手のぬくもりに身を任せ、目を閉じたエマが、今度は比喩では無く実際に光り輝きだした。
「あぁ・・・・・・暖かい・・・・・・まるで、聖樹ユグドラシルの様・・・・・・」
そして光に包まれたエマは、一度完全にナノマシンと化し、その肉体を再構成させていく。
(ハイエルフ・・・・・・こんな膨大な情報の詰まった存在はこんな事を始めてから初めてだな、うぉおお!?)
突如熱さを伴う衝撃に目を見開いた雨宮は、目の前で際限なく光り輝きを増すエマに目を細めるが、両目を焼かれてしまうのでは無いかという錯覚を覚える程の光は、やがてゆっくりと収まっていく。
(第五・・・・・・双性世界?)
光の収まった後に現れたのは、外見こそ先程と全く変わらないが、肉体の根幹がウルテマヒューマノイドと、ハイエルフのハイブリッドとして、新しく完成した名も無い新人類、しかしその身に纏う波動は、何故か雨宮を少し郷愁に浸らせる。しかしその感情は直ぐに消えて無くなり、その理由も雨宮には分からなかった。
「銀河・・・・・・様」
完全に輝きが収まった後、エマは小さく何かを呟いたが、ハッと何かを思い出したかの様に口元を手で覆い、視線を彷徨わせたが、直ぐに平静を取り戻し、雨宮の前でソファーを後ろに押しやり、床に膝を付き三つ指を添えて頭を下げた。
「不束者ではございますが、どうかよろしくお願い致します」
綺麗な所作で流れる様に頭を垂れるエマを、雨宮はまるで日本人の様だとそう思った。
「身体の具合はどうだ?」
「はい、私にはもったいない程の、黄金の器でございます、益々これから先が楽しみですね」
花が咲いた様な笑顔を雨宮に向けたままで、身体のあちらこちらを確認し、その調子は万全だと改めて雨宮に報告し、下げたソファーを元の位置に戻した。
「・・・・・・」(デジャブ・・・・・・?)
雨宮の目には、白いワンピースに麦わら帽子の、砂浜ではしゃぐ幼い子供の姿がエマとダブって見えていた。
その情景が理解出来ず、何故か懐かしく、しかし記憶には無い、不思議な感情を雨宮は持て余していた。
「・・・・・・」(銀河きゅんは、誰を見ているのかな・・・・・・?)
いつの間にかサングラスを掛けていたロペはそんな雨宮の背に、ゆっくりと覆い被さると、計ったかの様に腹の虫が騒ぎ立てる。
「銀河きゅんお腹空いてないのぅ?」
「む・・・・・・そう言えば食事がまだだったな」
「ふぅ・・・・・・堅苦しい所より、大衆的な所の方が良いだろう?馴染みの店がある、そこへ行こう」
新庄を含めた他の四人は雨宮、ロペ、エマの三人の空気に息を呑み、見守っていたが、漸く何かが始まったのだと、そう感じ、その時を再び動かし始め、新庄は端末を取り出し、近所の店へと今から食事に行く旨を伝え、通信を切った。
「いつか俺達にも分かる時が来るか?あー・・・・・・目がチカチカする」
「・・・・・・どう・・・・・・だろうね?銀河きゅん次第かなぁ」
新庄はそう言うものかと部屋の出入り口へと歩みを進め、三人の不思議な空気に入れなかったエクスとヒューニは、頬を膨らませ雨宮の両腕にしがみ付き、雨宮を無理矢理立たせ、追い立てる様に新庄の後に続かせる。その後ティオレがため息をつきながら追い掛けていく。
「エマ・・・・・・E・MA・・・・・・成る程ね・・・・・・程々にしてよね」
「貴方こそ・・・・・・と、言いたい所ですけれど、長い間ご苦労を掛けました、これからは私も居りますので、システムFAMの解析はお任せ下さい」
「はいはい・・・・・・期待しないで任せますょー」
(終末の管理者・・・・・・ねぇ?間違いでは無かったのかもしれないけど、今はどうなのかなぁ?)
エマを加えた七人の向かった先は、ラーメン屋だった。全員でカウンター席に座る事になったのだが、雨宮の両脇を巡って、五人が静かな争いを繰り広げていたのを雨宮は知らない。
エマ 混合β超エルフ種 僧侶 第五双性世界の基幹システムであるシステムユグドラシルの外部管理責任者。
世界樹と呼ばれる樹木性管理システムユグドラシル7号機の管理責任者として育てられ、神祖エルフという第五双性世界の片割れを支配する種族の長でもあった。
当世界でユグドラシルの異常を感知し調整作業中に牧場世界へと強制召喚される。
牧場世界に召喚された後子供であった洋介を守る為様々な知識や技術を、洋介へと教え込んだ。
牧場世界の王への協力を頑なに拒んだ事で王を怒らせ、牧場世界にて人間牧場の苗床として設置される。(EP31)
(2)ウルテマエルフ化 七千歳over 無職
銀河旅団に留まる事となり、クルーとして第三世界の事を知ろうと、多くのクルー達に教えを請うていたが、雨宮の適当に作った肉体に精神生命体が適応せず、多少馴染んだ所で、肉体に限界が来た為、雨宮に再構成を願い出た。
再構成後、全く違う人物の様になってしまったが、雨宮に付き従う気持ちに偽りは無く、若干ロペと反目し合う立ち位置に立つ事も。
神祖エルフ→ハイエルフ→βエルフ種→エルフ種→ウルテマエルフ種と、長い時を経て様々な肉体を渡り歩いた事によって、それぞれの種族スキルを手に入れ、戦闘能力は非常に高く、元になったハイエルフ種は、エルフの中でも飛び抜けて肉体が脆弱な存在であったが、ウルテマエルフ種となる事で、脆弱性を完全に排除、魔力とオーラ、両方を使う事が出来る様になった。
彼女の存在については謎が多く、雨宮が解析した肉体からは彼女そのものの存在を推測する事は出来ず、シンシアとも仲良く話をしている所を目撃されている。
ホテルレッドクリスタル
過去に何度も立て直し、リニューアルを重ねてきたレッドアイコロニーにおいて老舗中の老舗。
創立六百年を迎え、立ち上げた当初は地球の極東に居を構えていたとか。
地球から移住を余儀なくされ、まだレッドアイコロニーが出来ても居ない頃から、水星圏への移住の急先鋒を担い、移住者達の居住空間を作り上げてきた住まいのエキスパートであるオーナー、赤目龍一が子々孫々受け継いできたホテル経営の手引き書、これを実践し、約百年前からレッドアイコロニーへと拠点を移し、一族終の拠点とするべくホテルを盛り上げてきた。
ルビーダンジョンが有名になると、上位の冒険者がこぞって宿泊を求め、この地域の冒険者達にとって、高級ホテルでの居住生活を維持できるほどの収入がある事の証明として、大きなステータスとなっている。
収容人数は最大約三千人、独自の宇宙船ドックを持ち、移動ホテルレッドクリスタルが格納可能である。
又、公然の秘密として、このホテル自体も宇宙船としてパージ可能となっており、レッドアイコロニーの危機の際には、住民を収容し、脱出を図る。
名物はレッドアイコロニーを一望出来るスイートルームの景観や、ルビーダンジョン原産のモンスター赤鰻の蒲焼き。




