EP71 ルビーダンジョン
暑さに負けない強い心で、頑張るぞい!
翌日再び冒険者ギルドレッドアイ支部へとやって来た雨宮達七人は、サクッとエマの冒険者登録を済ませ、再びジョンと話をしていた。
「では、ダンジョンへ向かわれると言う事で?」
「行っても良いかね?」
「禁止している訳では無いので問題は無いですよ、しかしまぁ・・・・・・」
「相応の実力があると言う事は別に言ってしまっても構わないんじゃ無いか?」
「そうですね、それにそういう時の為の、ロイヤルカードです、周りの冒険者は勘違いさせておきましょう」
「ギルドマスターなのにそういうの良いのか?」
「私は何も見ておりませんので」
(面倒毎に巻き込まれるのが嫌なのは皆同じだな)
「他の冒険者からやいのやいの言われそうやねぇ?」
「まぁ何とかなるでしょう」
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冒険者支部一階 受付
「では七名様での突入でよろしいですか?滞在予定はどの位を予定されていますか?」
目の前に居る受付嬢は、何故か非常にニコニコと笑顔を振りまきながら、やたらハイテンションに雨宮達へと視線を忙しそうに送り、その顔を覚えようとしているが、その視線が新庄へと向かうと首が止まり、一瞬言葉が止まる。だがそんな一瞬が過ぎると、又何事も無かった様に矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「Fランクの型がいらっしゃいますね?食料の持ち込みは充分ですか?ダンジョンでの生活環境の維持は・・・・・・」
「問題ない。Aランクが二人居てそんな事を心配している様では、まだ昇進は無い様だな」
心配をしてくれている受付嬢の話が何時終わるのかと雨宮があくびをかみ殺していると、新庄は突如毒を吐き、受付嬢の話をぶった切る。
「恭二君、仕事中なの、邪魔しないで」
一言一言判りやすく区切りながら、受付嬢は慣れた様子でしっしっと、新庄を追い払う仕草をして雨宮の手を取る。
「初めての方はきちんと学ばないと、此処は只でさえ死亡率が高いんだから」
冷え症なのか微かに冷たさを感じる掌の温度を感じながら、雨宮は軽くため息をつき受付嬢の手を離す。
「ヴァルハラダンジョンを攻略したメンバーだからな」
雨宮は新庄を見ながら首を傾け、さっさと行こうと合図をし受付嬢に軽く手を振りながら、受付を後にした。
後に残ったロペは、ティオレと供に代わりに受付嬢へと手続きを急ぐ様に急かし、氷の彫像の如く冷え切ったティオレの目で睨まれた受付嬢は、頬に冷や汗を一筋垂らしながらも笑顔を取り戻し、IDへと情報を入力し、頭を下げた。
「いってらっしゃーい・・・・・・なにょぅ・・・・・・」
腰から下が勝手に震えるままの状態で、何とか堪え、最後まで笑顔で見送った受付嬢は、全身に謎の悪寒を感じながらも通常の業務へと戻っていく。
その後の時間、彼女はずっと震えが止まらず、何が起こったのか判らないまま泣き崩れたと言うが、それは別の話。
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ルビーダンジョン前ゲート
「さっきの娘も知り合い?」
「幼なじみだ・・・・・・妙な事を考えるのはよせ、彼女とは何も無い」
「そっかー」
雨宮としては特に他意は無く、只聞いてみただけなので、特に返事を期待していた訳では無いらしく、皆で雑談を交えつつ揃って歩みを進め、ヴァルハラダンジョンでも見かけた、電磁ゲートと、物理ゲートが二重になった、巨大なゲートへと辿り着いた。
ゲートの端に小さなカードリーダーの付いた自動改札機の様な物が、少なくとも十はあるだろうか、引っ切り無しに冒険者が行き来し、それを見張るギルド職員達も目まぐるしい忙しさに辟易している様だ。
「凄い人の多さだな」
「密です」「やめろ」
雨宮は周りの人を押しやる様に両手を広げ、特に意味の無いポーズで立ち止まる。
「さっさと中に入ろう、此処よりは大分マシだ」
それぞれ自分のIDを用意し、流れに乗ってダンジョンへと進んでいく、ふと雨宮の視界の端に、IDを落としたのか寿司詰めに近いこの場で、這いつくばって何かを探す三人の男が見えたが、雨宮は人の流れに押される様にそのまま手伝う事も無く先へと進む。
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ルビーダンジョン1F
薄らと赤く光る壁に囲まれた洞窟は、少しばかり空気中の水分が多く、普通の人間であれば、ジメジメして肌に下着が張り付く様な不快感を感じる程の湿度を感じ、只そこに居るだけで、体力を徐々に削られていく様に感じるだろう。しかし雨宮達にはその様な事は無く、只一人を除き、スタスタと奥へと進んでいく。
その只一人普通の人間新庄は、時折曇る眼鏡を拭きながら、ダンジョンのあれこれを説明しながら、そんな雨宮達と供に歩みを進めていく。
「凄い湿度だな、この身体で良かったぜ」
「実にうらやましい話だ、ここに居る間はいつも曇り止めが必須でな?」
「ナノマシンは便利ですなぁ」
「多分普通は汗だくになるんだろうねぇ」
ダンジョンの一階層は他の冒険者も多く、右を見ても左を見ても只喋りながら奥へと進んでいく冒険者ばかりだ、雨宮達もそれに習い、流れに沿って進んでいくが、一向にダンジョンらしい気配が訪れない・・・・・・。モンスターがいないのだ。
「誰も戦っていないのにモンスターがいないとはコレ如何に?」
「人がいっぱい居すぎて出現出来ないのだろうな」
ダンジョンのルールというか決まり事の様な物で、統計的に確からしいと言う状況が一つ言われており、人の視線がある場所ではモンスターはポップしない。
そういう風に認知されているが、その話を理論的に説明しようとしても、確たる証拠も無い為、状況として実際にそうである、としか言え無いのだ。
「つまり、これだけいっぱい居ると、人の視界に入らない場所が無い訳だな」
「恐らく、だな。確かでは無いが状況的には間違いとも言え無い」
「難儀なルールだなぁ、おっ?あの岩陰・・・・・・誰も見てないんじゃ無いか?」
「覗き込むと出てこないぞ?」
「めんどくせぇ」
そんなに大きな声で言った訳では無いのだが、雨宮の声に反応した冒険者達の一人が岩陰に飛び出し、岩陰の裏に振りかざしたナイフを叩き付ける様に突き刺す、その冒険者の上半身は、丁度岩陰にすっぽり隠れ、下半身だけが周囲から見える様になっていたのだが、当のナイフを何かに突き刺したであろう本人はピクリとも動かなくなり、まるで凍ったかの様に下半身は、踏ん張った姿勢のままで動かない。
周りの状況を注視していた冒険者達の頭の上に、はてなマークが出始めた頃、突然吸い込まれる様に、下半身が姿を消した。
「アースイーターだ!!!」
岩陰の近くに居た冒険者の一人が、大声で雨宮には聞き慣れない単語を発し、首をを傾げる雨宮の側を多くの冒険者達が、非常に慌てて駆け抜けていく。
「アースイーターって何?」
「岩で出来た大ミミズのことだ、人間を丸呑み出来るぐらいのサイズはある」
「よく有ることなのか?」
「そうだな、有ると言えば有る、位かな」
「珍しいと言うことか」
アースイーターは体長十メートル程の大ミミズのモンスターなのだが、如何せん弱い、しかし今のこの状況では、人数が多過ぎてまともに戦えないと判断する冒険者が多く、その大半が距離を取る為に離れているのだが、新庄は特に何も問題は無いと言い、雨宮達はそのまま放置して先を急いだ。
「ほっといて良いのか?」
「気にするな、バカは死ぬ、それだけだ」
スタスタと先程のミミズについて、歩きながら雨宮が質問をしていると、入り口から入って二十分程で下へ下りる階段が現れた。
「階段だな」
「階段だねぇ」
しかし階段の周りも、相変わらず大勢の冒険者で溢れており、中々思う様に動けない。
「もう全員押し倒していって良いかな?」
「やめておけ、三階層ぐらいまでずっとこんな感じだ」
それから暫くどこぞの電車ホームの様に、ゆっくりと人の流れに添い、二階層の階段にさしかかると、徐々に冒険者も少なくなり、ちらほらモンスターと戦う姿も見える様になってくる。
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ルビーダンジョン B3
雨宮達がギルドで手に入れたパンフレットを片手に、下りの階段を目指していると、大きな十字路にさしかかり、進行方向に見える曲がり角の影に、見慣れない影が見える。
「何か居りますねぇ」
「モンスターかな?」
曲がり角の向こう側に明かりでも有るのか、伸びた影は此方を伺う様に動き、何かを待っている様だ。
「石でも転がしてみるか」
「小動物かな?」
雨宮は手頃な石ころを、大きく振りかぶって曲がり角を作っている壁にぶち当てた。
パァン!
「「「「「「!?」」」」」」
音速を超える速度で軽い石は、硬質で在ろう壁に当たり、大きな破裂音を鳴らして砕け散った。
すると、どさっと言う何か重い物が倒れる様な音と共に、曲がり角の影か消えた。
「し・・・・・・死んだか?」
「転がすって言いはったやん?」
何処からどう見てもトルネードな投球フォームで石を投げた雨宮は、直前で投げることを思いついた様で、まぁまぁと気にした風でも無いのだが、もしコレが人間だったらと気が気では無いのは地元民の新庄で在る。
直ぐさま曲がり角へと駆け寄り、事の顛末を確認するが・・・・・・?
「・・・・・・なんで此処に・・・・・・」
新庄が発見したのは、幼なじみの女性、ディオラ・海卯、ギルドの受付嬢だった。
「完全に気を失っているな」
「いやぁ・・・・・・なんか敵っぽかったからつい」
「ふむ・・・・・・その線は捨てきれないな、何か拘束具は・・・・・・」
新庄がスーツの内ポケットを探る様な動きをしているのを見て、ヒューニは雨宮に黄色と黒の虎ロープを手渡す。
直接渡してやっても良いじゃ無いかと思いながらも雨宮は、受付嬢の両手を後ろ手に縛り、まるで親の敵かの様に体中を隈無くロープで縛っていく。
「何でエロい縛り方をした」
「何か・・・・・・普通じゃ駄目かなって」
雨宮の拷問術が達人の域に達していることは、前世から練習台にされていた新庄達男衆は知っていたが、実際パブリックな場所で行われているのを見てしまうと、特に悪いことをしている訳では無いのだが、周りを確認してしまう六人。エクスやヒューニ、ティオレなどは若干頬を赤く染め、想像力を膨らませながらもその縛りっぷりをじっくり観察している。
「銀河きゅん亀さん縛りとかマニアックぅ」
「何を言ってる、パブリックスタンダードだろう?捕虜としては」
「何の為の捕虜だ」
結局こんなやりとりをしている間も意識を取り戻すことが無く、ティオレがロープの先を持ち、ずるずるとダンジョンの凹凸のある地面を引き摺りながら進むことになった。
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B4
「モンスターがいねぇ」
「おかしいな、流石にこんなにモンスターがいないことなんか無いと思っていたんだが」
「このままサクサク進んでいくと、強いモンスターにいきなり出合いそうやねぇ」
「流石にそこ迄ずっと出ない事は無いでしょぉ?」
ずるずる音を鳴らしながら、進んでいく一行の前には何も無く、産出するはずのレッドアイ原石も、モンスターも居ない、流石につまらなすぎて集中力の切れてきた雨宮は、ナノマシンを放ち、原因を探ろうとした。
「・・・・・・なぁ新庄、この辺りの冒険者は、わざわざ大人数で移動するのか?」
「それはパーティーの活動方針にもよるだろうが・・・・・・、どれぐらいだ?」
「百人ちょっと・・・・・・だな」
「それはいくら何でも多すぎるな、この辺りにそんなに手の掛かるモンスターは居ないはずだがな」
ダンジョンの中には、ボスモンスターと呼ばれる十の倍数の階層を守るモンスターがいるのだが、それ以外にも理屈は不明だが、天文学的な確率でサプライズボスと呼ばれる、ダンジョンの難易度と全く似合わないモンスターが現れることも報告されており、そう言うボスは大概強敵であり、Sランク以上の冒険者が討伐には必須とされている。
だが、Sランクの冒険者など早々捕まらず、大概の場合はAランク以下の冒険者による大型レイドパーティーによって、討伐されることが多いのだとか。
しかしその実例が殆ど無く、実際に記録されているサプライズボスは、十年程前に冥王星ダンジョンにて発見された、『ガイガー』と呼ばれる巨大ロボット型モンスター、そして更に間を開けて、二百年以上前に火星本星に存在する、『闘いのダンジョン』に現れた『ネオヴァンパイアロード』、この二例しかまともなデータは上がっていない。
そしてどちらの戦闘も、冒険者の被害は甚大で、前者はSW二百四十機及びパイロット二百人、生身の冒険者千八百人が犠牲になり、後者はおよそ七千の冒険者が犠牲になる。
当時の冒険者ギルドは、太陽系を上げて討伐する事を選択せざるを得なかった。
「サプライズボス・・・・・・かな?」
「だとしたらギルドマスターが俺達に何も言わないのもおかしいと思うが・・・・・・、まさかな」
「う~ん、この人受付に居った人やよねぇ?もしかしたら今から報告に行く所やったりするぅ?」
一行の中にその可能性はある、と、沈黙が流れ、受付嬢を引き摺ったままパンフレットに記された最終地点、五階層を目指した。
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B5 ホール
「やべぇ!やべぇぞ!誰かSランク呼んでこい!!」
「おかしいな・・・・・・ヘルプコールは送ったのに、返事が・・・・・・?」
「でけぇ・・・・・・」
ズシン
ズシン
五階層の階段を下りて直ぐは、大きな部屋の様な空間になっていて、其処には殆どモンスターはやってこない、仮に現れたとしても、全くと言って良い程遮蔽物の無いホールでは、現れた途端遠距離攻撃で蜂の巣になり、近付いてくることすら出来ない為、休憩エリアとして多くの冒険者に利用されていた。
そんな五階層ホールに、突如渦を巻く不思議なエネルギー流が現れ、巨大な一匹のモンスターを残して消えていった。
「見たことねぇぞ・・・・・・あんなモンスター」
「やばっ!こっちを見て居るぞ!」
PUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
冒険者達を認識した巨大モンスターは、突如甲高い咆哮を発し、冒険者達に襲い掛かった。
「ま・まほ・」「ばかっ!にげろっ!!」
無謀にも立ち向かい、魔法を放とうとした魔法使いは、頭から丸呑みにされ腹の中に収まった。
「グレッグーーーー!!」
「叫んでる場合か!逃げろっ!!」
そしてその叫びに反応するかの様に、声の発生源を瞳の無い頭で追い、大木の様な二本脚で跳躍すると、逃げようとしていた冒険者の導線を防ぐ様に立ちはだかる。
PAAAAAAAAAAAAAAAAA
「ぐあぁああああああああああ!!」
「あがっ!!」
百メートル以上離れていても頭が揺れる様な咆哮を、目の前で受けた冒険者達は、首から上の到る所から出る物を全て吐き出し、倒れた。
そして一人、そんなモンスターに立ち向かう、小さな女の子がいた。
「まさかこんな所で、出合うとは思っていなかったわ」
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女の子?
(耳栓でもあれば良いんだけれどねー、此処に来てそんな物が必要になることが無かったから、もってないなー)
PYUA?GUUUUUU
モンスターはヌメヌメした首を長く伸ばし、他の冒険者が逃げ去っていくのを追い掛けず、少女に狙いを絞ったようだったが、如何せん小さい獲物を食べても腹の足しになるだろうかと、悩んでいるようだった。
多くの人が動き離れていく音と、目の前で少女がシャンシャンと、地面を突きながら鳴らす不思議な金属音、両方に気を取られ、モンスターは少女の動きに気が付くのが一歩遅れる。
「バーストブレイド!」
腰から抜いたナイフを勢いのまま突き刺した少女は、刃先に魔力を集中させ解き放つ。巨大な爆発がその身体の内側を駆け巡り、一撃の下にモンスターの息の根を止めたように見えたが、少女は身軽にモンスターの身体を蹴って離れる。
「何で効いていないのか分からないけど、おかしくない・・・・・・?割と全力だったんだけど?」
横っ腹にナイフと魔法を突き刺されたモンスターは、硬直し、まるで恐怖に戦いたかのような姿勢のまま、小さな手で触れる自分の身体を触りたくっていた。
そして自らに異常が無いことを確認すると、その口角がが僅かに動き、少女をその長い首を伸ばして只弾き飛ばした。
「あ”っ!?」
人形のようにゴロゴロと転がり、虫の息となってしまった彼女の視線は、先程逃げ去っていった冒険者達の方を向いているが、その目に光は宿っていない。
ーーーーーーーーーー
雨宮銀河
「おいおい、なんだなんだ」
「皆向こうから逃げてくるねぇ」
必死に手足を動かし、全力で逃げ出していく冒険者達の流れに逆らい、受付嬢を引き摺った雨宮達は、五階層のホールへと到着し、巨大なモンスターを視界に入れた。
「恐竜?」
「いやぁー恐竜はあんなに変な口はしてないと思うなぁ」
まるでケツの穴のように閉じられた口は、眷属達にはハッキリと見えるが、新庄には少々遠すぎるようで、眉をひそめてその様子を確認しようとしているが、結局判らないようで見ることは諦めたようだ。
「よし、奴を穴竜と名付けよう!」
「「「「やめなさいって!!」」」」
女性陣から猛烈に批判され、判りやすいのに、と、とぼとぼモンスターへと向かっていく雨宮は、足下に何かが転がってくるのを見守っていた。
「助けてあげないのですか?」
エマはそう言いながら少女に近付くと、首を傾げ、ん~?と記憶のどこかにある何かを探している。
「何だか見たことがあるような・・・・・・無いような・・・・・・」
「知り合いか?」
「えっと・・・・・・そんな筈は無いのですが・・・・・・」
「銀河きゅんエマは余所の世界の人だょ?」
「あぁそっか、知り合いが居るはず無いか」
「そっくりさんは居るかも知れへんねぇ」
雨宮達はこれまでにも、他の世界で見たことのある人間と、同じ顔をした人間や、異世同位体と呼ばれる、異世界の同一人物なる存在と出合っている。
そう言った類いの人間かとそう思いはしたが、雨宮の足下に転がってきた少女は、既に虫の息であり、今にもその生を終えようとしている。
「た・・・・・・す」
「ん?」
「け・・・・・・」
(何か割と余裕在る?)
「それは無いとおもぅ」
「エスパーめ!」
「見たら分かるょ」
「で、治してやるのか?放っておくと死ぬぞ?」
新庄にそう言われ、少しだけ考えた雨宮は、トラブルに巻き込まれそうな予感を感じ、一瞬躊躇った後に顔でエクスとヒューニに合図を送り、二人はモンスターへととことこ向かう。
雨宮は少女の身体にナノマシンを流し込み治療を図った。
「むぅ?何だか妙に抵抗を感じるぞ?」
不思議と強い抵抗を感じる雨宮は、直に少女の頭に手を置き、強制的に肉体を修復させる、するとあっという間に外傷は消え、少女の瞳に光が戻った。
「何をやってこんな風に治るのよ!!何をしたのよ!!!」
少女は寝かされたままの状態で、雨宮に頭だけを向け、精一杯の大声で罵声を浴びせた。
「治ったんだから良いじゃねぇか、文句言うなよ」
「動けないじゃ無いのよ!私をどうするつもり!?侵すの!?冒すの!?犯すのね!?」
「黙れ少女」
雨宮はその辺に転がっていた石ころを少女の口の中に突っ込むと、位相空間にしまい込んでいたガムテープで、動けない少女の口を閉じた。
「字面だけを追うと事案だねぇ」
「やめろ、そういう風に言うな」
「んーーー!んんーーーー!!!」
暴れることも出来ない程衰弱しているはずなのだが、口だけは何故か元気な少女は、口を塞がれても尚何かを雨宮に訴えようとしているのだが、もはや雨宮の興味は少女には無く、エクスとヒューニの後を追って走って行くエマの後ろ姿を見つめ、後の展開を楽しみにしている雨宮は、ナノマシンで椅子を作り出し、観戦する態勢に入った。
「雨宮、俺も行った方が良いだろうか?」
「オーバーキルも度が過ぎると面白くないぞ」
「そう言うものか、俺にも椅子をくれ」
ティオレは少女の横に引き摺られてボロボロになった受付嬢を並べ、余計なことを考えるなよ、と少女に忠告し、雨宮の後ろに回り周囲の警戒に入った。
「銀河きゅん私もー」
「自分で出来るじゃろうが」
やれやれしながらも雨宮は二人分の椅子を作り、二人の手に瓶入りの飲み物を手渡し、まるでプロ野球でも観戦するかのように二人を送り出す。
「かっとばせー」
「たーまやー」
エクスとヒューニの二人は一瞬振り返り、雨宮に手を振り、モンスターの近くへと歩みを進める。その後ろを、自分だけ名前が呼ばれなかったエマが慌てて追い掛けて行く。
「サプライズボスかなんか知らんけど、ちゃんとええ情報持っとるんやろうなぁ?」
「只のモンスターでは物足りないと思っていた所です」
「一度も出合っていないような気もしますけどね」
エマは両手の甲に見たことの無い文様を宿し、先制攻撃を開始した。
「そろそろ目立たないと行けませんから・・・・・・光よっ!」
雨宮達の目の前に突如、視界が失われる程の光が溢れ、凄まじい爆音が響き渡る。
砂埃と光のせいで何も見えなくなったホールは、ゴウンゴウンと反響した音が荒れ狂い、三人の行く末がとても心配になる雨宮だった。
(大丈夫かアレ・・・・・・?)
ディオラ・海卯 人種 三十四歳 ギルド娘
月圏レッドアイコロニー冒険者ギルド支部所属の受付嬢。
新庄脇侍ことクゥエル・新庄の第三世界における幼なじみ、彼女は新庄の事をかなり意識し、過去に冒険者になった新庄の事を支えるつもりで、冒険者ギルドの職員になったが、彼女が見習いの期間を終える頃には、既に彼女が担当出来るランクの冒険者では無くなっており、すれ違うまま新庄は議員になり、冒険者ギルドには来なくなった。
ゆっくりと時間を掛け受付嬢の現場リーダーを任される立場になったが、彼女の力は冒険者のそれと比較しても、ルビーダンジョンへと挑戦する者達よりも一回り優れており、次のサブマスター候補とまで噂されている。
雨宮達がルビーダンジョンへと潜った直後、ダンジョンを巡回するギルド職員からヘルプコールが入り、確認に向かおうとしていたが、雨宮の放った投石により、脳を揺さぶられ昏倒、そのまま引き摺られている間も、中々意識が戻らない程のダメージを受けていた。
趣味は金属細工、好きな食べ物はクマ鍋。
ルビーダンジョンに多く生息するモンスターの内の一種、ルビーベアは食用としてレッドアイコロニーに広く流通しており、癖の無い柔らかな肉質で様々な料理に用いられ、長くレッドアイコロニーの食卓へと上がっている。そんな中でも様々な野菜と共に煮込み、バリエーションも豊富な鍋料理を特に好んでおり、薄切りにしたクマ肉をさっと湯通しして食べる、クマ鍋が彼女にとっては至福の一時。
しかし安い女と思われたくないが為に、周りには秘密にしている。




