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EP67 運の良い男トゥンガ

新章突入でござる

 水星圏を出発し、ハイパースペースを抜けた先は、大きく特徴的で、雨宮にも辛うじて見覚えのある面影が見える、不思議な惑星、月が見える。

しかしその月は虫に食われたリンゴのように、大きな穴が開き、辛うじて球形を保っている様に見えた。


 そして今、ラピスの応接スペースには客人が来ていた。


 「引き渡すって言ったらしいじゃないか!!!行き先も分からないし、追いつかないかと思ったぞ!」


 トゥンガ・ギータ、水星軍機動巡回大隊・・・・・・パトロール隊と呼ばれる部隊の中佐で、肩を怒らせ心の内を吐き出す程には、豊かな心の持ち主なのだろうと雨宮は思う。


 「悪い悪い、すっかり忘れてたんだ。」


 「ついさっきの事じゃないか!そっちの超次元航法に付いていけなかったら、何時引き渡しが出来るか分からなくなる所だったんだぞ!」


 確かに雨宮は暫く水星圏に戻るつもりも無く、結局何時まで月圏に居るかと言われれば分からないと答えるしか無い。

気持ちのはやる雨宮に対し、外向きは落ち着きつつも内心穏やかでは無い者がもう一人。


 「あ・・・・・・あのー、そろそろお話を進めませんか・・・・・・?」


 そう切り出したのは、公認でダブルスパイの真似事をさせている、ラーアミ・マトイヤル、()水星軍機密諜報部隊中尉である。

現在の所属は既に水星軍には無く、銀河旅団のクルーとして登録されているのだが、本人は水星軍所属のままであると思い込んでおり、誰もそれを修正しようとしなかった結果、今の彼女があり、先日銀河旅団の忍び、エリナ・甲賀の怒りに触れ、失血性ショックによる意識不明まで追い込まれている。


 「君は少し黙っていた方が良い、君は此方の人間では無いのだからな!」


 トゥンガはゴンザレスとは採掘戦争以前より懇意にしている間柄で、違う所属では有るものの、その役割においてお互い情報を共有し、共に戦場を駆け抜けてきた同士でも有った。その事も有り、今現在では彼の所属する軌道巡回大隊は、防衛部から機密諜報部の下位組織、諜報部へと所属が変わり、実質的な部下として、効率的に外苑の情報を手に入れる役割を与えられていた。


 「いやぁ・・・・・・悪かったなぁこんなとこ迄付いて来させて、下手したら死んでいても可笑しくなかっただろうに、運が良かったなぁ」


 雨宮は事もなげに、乾いた笑いを漏らし、その言葉を聞いたトゥンガは硬直し、壊れたブリキのおもちゃのように、何故か自分の後ろに居るラーアミから、雨宮へとゆっくりと視線を戻す。


 「な?何の話だ・・・・・・?どういう事だ??」


 雨宮はゴンザレスに説明不足を問いたい所であったが、先日のあの様子では、どうも其処まで気が回らなくても可笑しくは無いと思い直し、改めて彼に説明をするが、その固まった姿は、説明を受けただけでは元には戻らないようだった。


 「アンタの船、あれ、ネタローと同型艦じゃないか?」


 「む・・・・・・、いや、外見こそ似ては居るが、アレはサラマンダー級の第二世代、イフリート型の最新鋭艦だ」


 「うーんそうか、それで大丈夫だったのか・・・・・・?いやそう言う問題じゃない」


 「だからどういう事なんだ!?」


 トゥンガの説明では、イフリート型は、サラマンダー級の機動性を維持したまま総合的に性能を向上させた、純粋な後継機なのだというのだが、雨宮が聞きたいのはそういう事では無い。


 「マジックサーキットについて何か知識は?」


 「基本的な事なら一応、コレでも諜報部隊の一部だからな・・・・・・」


 トゥンガのもつ知識は基本的なものでしか無く、艦に配備された人員には、それをエンチャントする事が出来る程の実力のある紋章術士は居ないのだと言う事、それだけが判明しただけで、やはりどうやって雨宮達に追いついてきたのか不明なままだった。


 「良いか、あの俺達が通ってきたハイパースペースというのはだな・・・・・・」


 「・・・・・・??」


 「簡単に言うならば世界を隔てる壁と、世界を構成し、その世界の生命体を保護する為のエーテル皮膜の外側、つまり普通の人間が生きられる場所じゃ無いんだが」


 「・・・・・・済まん、まだどういう理屈だかよく判らん・・・・・・」


 「あー・・・・・・何て言えば分かりやすいか・・・・・・」


 雨宮は頭を捻り考えるが、物事を単純に捕らえるには言葉の通りだときちんと信じさせる事が重要だと、昔々、初めて自分の上司になった男から聞きかじった言葉を思い出す。


 「じゃあざっくり言うと、入ったら死ぬ所にいたんだがなんで大丈夫なんだ?」


 「!?」


 世界の壁に触れると生命体の肉体が活動を停止する、しかし、その手前で壁に触れる事が無ければその様な事にはならない。だが、エーテル皮膜という世界を覆う安全装置は、その世界の壁と触れても問題が無い、だが、元々エーテル皮膜という物が、世界の壁と癒着しているべき物であると言う事を前提とし、雨宮の持つΔエナジーを中継するナノマシンによって、疑似エーテル皮膜を生成し艦全体を包み込む、更に安全の為にエーテル皮膜を無理矢理、次元振動によって一時的に引き延ばし、袋状になったその間を通る銀河旅団の超空間航法が、如何に無茶な物であるかは想像が付く事だろう。この航法は雨宮とナノマシンの二つが揃って初めて実現可能な余所では再現の出来ない航法で・・・・・・。


 「まず、マギアシリーズ全艦に備わっている空間湾曲フィールドによって、世界の壁と接触しないように、僅かに隙間を作り、其処にエーテル皮膜と同じ役割を果たすマジックシールドを調律して設置する、コレは普段この艦の防衛に使っているシールド配置と逆になっていて・・・・・・」


 「まてまてまてまて!何一つ分からんぞ!!」


 「そうか・・・・・・」


 最後まで説明したかった、と少ししょんぼりとした雨宮を見かねてか、トゥンガは話の軌道修正を試みる。


 「と・・・・・・とにかくだ!何故か分からんが無事に辿り着けたのだから良しとしようじゃ無いか!」


 かなり強引だった。


 「お・おぅ?」


 「それでだ、話を元に戻すが、三人の引き渡しはしてもらえるのだろうな?」


 雨宮はナノマシンリンクで、三人を引き連れた警備隊を呼び、応接スペースへと入らせる。


ーーーーーーーーーー


数刻前 ガフィア・マーフィー


 目が覚めたら胃の中の物が自然と逆流し、勝手に外に飛び出した。


 何を言っているのか分からないと思うが、俺も分からない。


 「おぇええええぇ!!」


 口内が胃酸によって洗浄され、一瞬だけスッと鼻腔の機能が戻った瞬間、第二波がやってくる。


 「うっぷ」


 ど根性で何とかそれを堰き止め、徐々に戻る視界を頼りに周囲を見渡す。


 (くっさ!なんだこの臭いは!!??)


 口でも呼吸したくない程の臭気にあらゆる体内器官が拒否反応を示し、一刻も早くここから移動しなければと、辛うじて戻った視界に捕らえられた扉と思われる場所へと、フラフラと駆け寄る。


・・・・


 力の限り扉を叩いては見たものの、その扉は異常な程固く、当代最強の騎士と言われていたはずのガフィアの力で叩いても、音も立てられなかった。


 (何で出来ているんだこの扉は・・・・・・)


 このまま息を止めていられるのは後何秒か、そんな考えが頭を過ったと同じくして、彼の後ろから身動ぎをする音が聞こえた。


 「う・・・・・・ぉぇ」


 自らと同じ道を辿った何者かは、寝ゲロをそつなくこなし、寝返りを打ち、目を覚ます。


 (ユー!!?)(ガーフィー!?)


 寝ぼけ眼の視線と絡み、お互いを直視したユーティリー・ナムランとガフィア・マーフィーは、お互い数百年ぶりの再開を果たし、硬直する。


 「おぇっっぷ」


 その更に奥では、もう一人、胸に逆さ十字のタトゥーを刻んだ男、オー・レッチーが目を覚ましていた。


 「くっせ!」


 何故か胸一杯にその臭気を吸い込んでも大丈夫だったオーは、目聡く部屋の隅に配備してある監視カメラを見つけ、手を振る。


 「たーすけてー」


 ハッ!?と入り口に近い二人もその行動に気が付き、監視カメラの方へと向かい、大きく手を振る。


ーーーーーーーーーー


マギア・ラピスメインブリッジ


 「おーい、げんきー?」


 「?」


 何やら表示した一つのARモニターへと手を振るエリーへと、疑問の表情を投げかけるミンティリアはその肩越しにモニターをのぞき込む。


 「牢屋?」


 「起きたみたいなのー」


 ピピッとコンソールの呼び出しが鳴り響くと、どうやら外に水星軍の戦艦が此方への接舷を求めているようで、ザミールは首を傾げる。


 「エリーさん、水星軍の方から通信が・・・・・・」


 「えー?何で・・・・・・あー」


 今のブリッジには彼女達三人を含め、各シートへと座るサブクルーを数えても十人程しか居らず、今は就寝時間である事を示唆している。

夜勤と言っても良い時間帯の今、寝ぼけ眼を拭うミンティリアは、面倒そうに雨宮の部屋へと通信を送る。


 さうんどおんりー、と記されたモニターが表示され、女達の艶やかな媚声と共に、雨宮の応答が返ってくる。


ーどうした?


 「随分と忙しそうね」


ーいつもの事だ、もう慣れたよ。


 「って、そうじゃなくって、何でか分からないけど水星軍の人が来てるって」


ーえ?


 「銀ちゃん三人の引き渡しなのよー」


ーあーっとぉ!?忘れていたぞー?


 「・・・・・・あの、あの方達は、どうやってここまで付いて来たんでしょうか?」


 「「・・・・・・」」


 勿論そんな事は二人には分かるはずも無く、ザミールは取り敢えずちょっと待ってと、水星軍の艦艇へと通信を返した。


 「それより、あの三人はあそこに居させたら不味くない?」


 「あ、吐いた」


 「きっと凄い臭いなのー」


 判っているなら助けてやれよ、と言わんばかりの視線を周りから受け、エリーはによによと口元を緩め、警備部隊にゆっくりと彼らを回収し、風呂へ入れるように指示を出す。


ー取り敢えず応接に行くわ。


 「了解、丸洗いしてから三人も応接に向かわせるわ」


ーーーーーーーーーー


時は戻り 応接スペース


 応接スペースへと入ってきた大柄な三人の男達は、何故か腰布一枚と、足首に鎖鉄球を付けられており、何時の時代だかの奴隷を彷彿とさせる格好をさせられていた。


 「何でそんな格好してんの?」


 「「「俺達が知る訳無いだろ!?」」」


 雨宮としては至極普通の疑問を投げかけただけなのだが、敢えて雨宮からの指示は無かったのでと、エリーはリンク通信で答えた。


 「あー・・・・・・その、なんだ」


 トゥンガは非情に聞き難そうに、雨宮へと質問を投げかける。


 「奴隷商でもやっているのか?」


 「やってへんがな・・・・・・」


 深くため息をつき、エリー後で覚えてろと心で呟く。


 「まぁ服装はともかく、ハゲと髭とアフロ、この三人と他の生き残りの大半をそっちに渡す事で良いかね?」


 「ハゲてねぇ!」「髭は生えてるけどさぁ・・・・・・」「俺への認識よ!」


 三者三様の反応を返す三人は、何が何だか判らないという表情をしながらも、余計な口を挟んでくる様子が無く、隙無く辺りを警戒し、訓練されている事を容易に想像させる。


 「俺達は、そっちの生え際のきわどい方に引き取られるのか?ノブンはどうなったんだ?」


 ハゲ・・・・・・ガフィア・マーフィーは、トゥンガの後退した額へと視線をわざと送りながら、仲間の事を知りたいのか、さりげなく質問を投げかける。


 「ノブンとか言う奴もお前さんと一緒に、そっちに行って貰う予定だが?」


 「生え際とか言うな!!」


 (ちょっと気にしてるんやな・・・・・・)


 「此処に残るのは女と、コールドスリープシステムにまだ入ったままの奴ら、それだけ。後は全員水星軍行き」


 「別にウチに所属する訳じゃ無い、聞きたい事があるだけだと、中将閣下はそう言っておられた」


 「中将か・・・・・・話の分かる奴だと良いんだがな」


 髭、ユーティリー・ナムランは、我関せずと言った表情を崩さないが、内心では結構気が気では無いのだろう、ゆっくりではあるが周囲を観察し、頭を回転させているようだ。


 「他に何か有るか?生え際さん」


 「トゥンガだ!生え際言うな!・・・・・・いや、特にコレといった話は聞いていない、いや・・・・・・」


 トゥンガはふと、ここからどうやって帰ったものかと、思案し首を捻る。


 そもそも水星軍の上級士官が、各管轄の星系軍へと連絡もせず、管轄を大きく離れて、地球圏改め月圏へと金星圏を飛ばして移動しているのは、非情に状況がよろしくない。彼らは金星圏を飛び越えて、月の衛星軌道上へと、何故かやって来てしまっている。

現在彼らのサラマンダー級イフリートには、超空間航法を行うシステムは搭載されて居らず、出来ても亜光速航行位なのだが、それも直線上の安全を確保する各星系軍のデータベースへと情報を送り、タイムスケジュールに沿って計算された軌道を航行しなければならず、物理的にどうやっても今この場に居る事がおかしい、と突っ込まれる事は必然で有る。しかも言い訳をする材料すら無く、自分達も何故どうやってここに来たのか判らない。


 「どうやって帰るんだ・・・・・・?」


 そもそもそう言った軍のしがらみを回避しつつ戻る事も不可能では無いが、そう言った多くの場合は補給などは行わない距離しか移動しない。

圧倒的に燃料が足りない、それもそうだが、今回の航海はそもそも只のパトロールだったのだが、色々あった事であっちへ行き、こっちへ行き、とうろうろしていたが為、人道的航行限界時間を既に超過してしまっている、つまり、平時労働基準法の限界時間を越えているのだ。


 其処まで考えが及ぶと、トゥンガの顔から血の気が引き、戦時中でも無いのに余計な残業をさせている事に、後悔の念が押し寄せてくる。


 「何とかならないだろうか・・・・・・」


 もはや自分ではどうにもならない状況であると、改めて思い至ったトゥンガは、雨宮に助けを求めた。


 「ん?んー・・・・・・」


 以前一度、フェトラにアンジーを乗せて一気に空間跳躍を行った事があった事を思い出した雨宮は、部屋でシャワーを浴びていたアンジーへと通信を送り、了解を得ると、ラピスに接舷している、トゥンガの船をフェトラへと格納し、送迎の準備を整える。


 「よし、おっけ。何時でも帰れるぞ」


 「は?」


 そんな事を雨宮が言うタイミングと同じくして、非常に雑音が多く全く聞き取れない通信が、トゥンガの通信機へと入る。


 「何を言っているのか全く判らんな」


 「当たり前だろう、今アンタの船はフェトラの中に格納されているんだから」


 「はぁ?」


 何を言っているんだこいつはとでも言いたげな、トゥンガの気持ちも周りのクルー達はは分からなくは無いのだが、雨宮だからそうなっているのだろうと、納得出来ている。

 護衛の二人とトゥンガ、そして腰布達だけが状況に取り残されている。


 「もう用がないんだったら何時でも帰れるように準備してあるぞ」


 「もっと詳しく状況を説明してもらえると大変ありがたいんだが」


 「ちょっと待ってくれ、俺達は本当にそれでいいのか?此処で・・・・・・」


 ガフィアが自分達について、雨宮達が何も知らないと思っている事は容易に想像出来る。だが、彼ら三人は一度ナノマシンによって完全に分解されているので、彼らの知っている事は大半、雨宮の知る所となっている。そして彼を探していたピュリアももう今は居ない。

雨宮が三人を引き留める要因は既に無かった。


 「問題ない。取り調べ?が終わって行く所が無いなら又戻ってくると良いよ」


 「そ・そうか・・・・・・」


 ガフィアの視線は最初に入ってきた時からキョロキョロと忙しなく動き、何かを探している様だったが、シンシィとの戦いの記録を見ている雨宮には、何となく察しは付いている。


 そんな事を雨宮が考えていると、意を決したようガフィアは一歩前に進み、思いがけない事を言い出した。


 「俺の異世同位体は何処に居るのか知らないか!?」


 (何でそんな事を聞いてきた?)


 「珍しい単語が出てきたな?何でそんな事を聞く」


 「同じ所に居た筈なんだ、もう大分前に別の牢に移されてしまってから行方が知れない、居なくなると困るんだ」


 かなり焦った様子でガフィアは雨宮に一歩近付く。雨宮にしてみれば対した大きさの人物では無いが、他のクルー達からしてみればかなりの身長で、圧迫感が増している。

テカった禿げ頭に浮かぶ脂汗が、生っぽさを強調するようで、一瞬雨宮は顔を歪める。


 「ちょっと待て、一歩下がれ、確認するから」


 雨宮の拒絶にも似たバックコールに傷付きながらも、ゆっくりと元いた位置へと戻り、大人しく返答を待つガフィア。


 (誰か今の話分かる奴はいるか?)


ーあ、銀河、私の情報を共有するねー忘れてたわー。


 アーニーが返事をし、情報を共有すると、彼女の見た視覚情報と共に、その様子を軽く分析したレポートが同時に展開される。


 既にガフィアの探していた異世同位体であると思われる存在は、既に死亡してから数ヶ月もの時が過ぎており、ほぼ原形を残していなかったが、アーニーが分解した同位体、リュー・カージーは、クロスチャーチルにおける高位の神官であると共に、アーティファクトの保持者でもあった。

しかもこのアーティファクトは、以前ヴァルハランテで造られた劣化品とは違い、上位存在によって造られた本物のアーティファクトである。


 このアーティファクト、リューが生きていた頃の記憶を読み取ると、出所不明のマジックアイテムとしてしか記憶されていなかったが、そのアイテムをスキャンしてみた所、『断罪』と情報が抽出され、ナノマシンで解析しようにも、数年単位の時間が掛かると言う事だった。

雨宮は既に天文学的なレベルの解析を実行中で在る事もあり、後回しにせざるを得ないのだが、使い方に関してはロペ辺りが知っているような気もしている雨宮だった。


 「・・・・・・ふむ、リュー・カージーだっけか、既に死んでいるが、何か問題があるか?」


 「な!?何故死んでいる?彼奴は不死身の筈だ!」


 何やら不穏な発言をする奴だと目を細めて、眉を寄せる雨宮だったが、話の内容には興味があるようで、ガフィアに続きを促した。


 「不死身って言うのはどういう事を指して言うんだ?叩いても切っても死な無いのか?」


 「そうだ、奴の腕は切っても再生するし、頭を潰しても元に戻る。血液を全て抜き去っても数時間で元に戻るんだ」


 (何それ、バグキャラじゃね?)


 雨宮は、某ネットRPGでサーバー処理の関係上、読み込み遅延が発生し、何回攻撃をしても絶対に倒せない様になる事がある。そこら辺のモンスターですらこの現象に出合うと、弾丸が無くなるまで撃ち尽くしても倒せなくなる、そんな現象を思い出した。


 「それって何時どんな時でもその状態なのか?」


 「本人が言う事を鵜呑みにするなら、恐らくそうなんだろう、だが・・・・・・」


 「実際死んでいたしな、アンタの言うように、再生したり、復活しそうな感じも全く無かったらしい」


 「そうか・・・・・・」


 (ん?待てよ?異世同位体・・・・・・)


 「彼奴は何処の異世界から来たんだ?」


 「分からん、彼奴はこのユーティリー・ナムランが反乱を起こす前に突如現れ、そそのかし、教会王国をめちゃくちゃにした」


 「ふーん。何でそんな奴と一緒に居たんだ?」


 「彼奴の持つアーティファクト、アレは元々教会王国で手に入れた物だった、アレを取り返さない事には、不安で夜も眠れん」


 「アレは一体何なんだ?スキャンを受け付けなかったんだが」


 「光学式のスキャニングなど通るはずも無い、アレはマナで出来ているという話だからな」


 今迄雨宮が出合ってきたアーティファクトは、ヴァルハランテ製のコピー品と、それの元になった宝物庫にあった本物のアーティファクト。だがヴァルハランテで手に入ったアーティファクトは、レキオン、元巨人王によって産み出される『神気』と呼ばれる特殊なエネルギーによって稼働する、高出力のマジックアイテムと言ったレベルの物が多く、上位存在によって造り出された物は片手で数えられる程しか無かったうえ、大半は倉庫の肥やしとなって埋もれている。


 この世界で生み出されたアーティファクトには今の所出合って居らず、ヴァルハランテから持ち帰った物と、アーニーによって掃き溜めから持ち出された首飾り、これら数点が今現在、銀河旅団の所有するアーティファクトである。

 この世界の言い伝えでさえ、アーティファクトとは一つで一軍の戦力に相当する等と例えられる事もあり、血眼になって探し回る者達も多い。

一攫千金を夢見てアーティファクトを探す冒険者や、探索者、傭兵、国家の所有物とし、政治目的で所有したがる国等、上げれば切りが無い程それを求める物は多い。

しかし、多くの場合、言い伝えや古文書などの情報の残っていないアーティファクトは、使用方法が分からず、倉庫の奥深くに厳重に保管されているだけになっている物もあると言う事だ。


 「マナか・・・・・」


 「銀河きゅんは自分でアーティファクト作れるよねぇ」


 「「「何だと!?」」」


 元クロスチャーチルの三人の声が揃い、雨宮を見開いた目で凝視するが、雨宮はしっしっと手で払い、乗り出した身を引っ込め、それぞれなんなんだ此奴はと珍獣でも見るような目で雨宮の事を見ている。


 「作れるのは作れるが、そんなもんホイホイ見せたりせんわ」


 この三人はやはり過去からやって来た人物である事もあり、過去のアイテムに関しても幅広い知識を持ち合わせているようだ。

三人は雨宮の興味を若干引いてしまった事に気付かず、やいのやいのとアレはどうだコレはどうだと、緊張のほぐれた反動か雨宮を質問攻めにするが、のらりくらりと曖昧な返答を返す雨宮は、今はまだ彼らに情報を与えるつもりは無いようだった。


 「えーい五月蠅いわ!さっさと水星に言って来い!」


 「水星までは行かないがな」


 トゥンガ達の行き先は、ポセイドンコロニーで有るらしく、微妙に雨宮と認識に差があるのだが、特に雨宮に合わせる必要を感じていなかったトゥンガは、細かくスケジュールを三人に説明して立ち上がった。


 「この三人は話を聞き終われば此方に返しに来る事になるだろう」


 「何でよ?」


 「拘束しておく理由は無いからな、特に理由も無いまま軍で拘束してしまえば、それも問題になる」


 「成る程めんどくさそう」


 「公的機関とはそう言うものだ」


 「そうか、じゃあ戻ってくるんだな?フェトラは事が済むまでそっちに待機させるから、何か有ったらフェトラに連絡してくれ。暇だったら行くわ」


 「何回連絡しても来ない奴の台詞だなそれ!」


 「そんなことないて」


 席を立ったトゥンガを引き連れ、各階層に新たに設置したトランスポータールームへと連れて行き、コレは何だと又騒ぎ始めた男達を無理矢理押し込み、フェトラへと転送する。


 彼らに多少の興味が湧いた雨宮は、トゥンガとも再開の希望を告げ、掃き溜めで捕獲した人達がイフリートへと乗り込むのを見送り、フェトラは雨宮へと贈られるアンジーの投げキッスを合図に、掻き消えるように姿を消した。


 「ディメンションスリップか・・・・・・」


 この技術もアーティファクトと言えばそう言うものなのかも知れない、そう考える雨宮だったが、改めてブリッジへと戻り、足止めを食った事を思考の端へと追いやった。


 「さて、月ってどんな所なんだろうなぁ」


 艦長席へと腰を下ろした雨宮は、眼前のARモニターに映し出された、穴だらけになった月を眺めながら、有りもしない妄想を膨らましていくのだった。

ユーティリー・ナムラン 三十六歳 人種 聖騎士


 少し長めの黒髪に顎髭を生やした仏頂面の男、顔は整っており精悍と持て囃される事もしばしばあるが、心の内では(女にしとけよ!男はどっか行け!)と常に毒を吐いている。


 掃き溜めの地下深くの空間に眠っていた、コールドスリープシステムの中に封印されていたが、掃き溜めの崩壊と共にナノマシン群の奔流に呑み込まれ、分解されてしまったが、Ωウィルスをによって無理矢理ナノマシンから引き剥がされ三つ首の巨人の頭の一つを担う羽目になる。


 再生された肉体は健康だが、元々エーテルサーキットが消耗していた事もあり、身体能力が著しく低下している。


オー・レッチー 三十八歳 人種 聖騎士


 飄々とした印象を持つアフロで細身の騎士。


 周りに同調する能力が高く、自らの主張よりも味方の主張を優先する気遣いな面を持つが、誰よりも向上心が高く、心の奥底ではいつか自分が騎士団長になれる時を待っている。

 オークと同じ牢の中に入れられていたが、彼一人だけ肉体に影響が無かった。

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