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EP68 穴だらけの月

新章突入でございます。

 フェトラの中に格納したイフリートを見送った銀河旅団は、進路をレッドアイコロニーへと向けていた。


 「レビルバン行けるな?」


 「委細お任せあれ」


 何とも頼もしいサハギン系男子レビルバンの声を聞き、雨宮はARモニターに表示されているアラートをひょいっと除け、外部カメラの映像を表示するモニターを近くに持ってくる。


 「月圏って結構治安悪いのか?」


 モニターには十数隻の小型戦艦が、砲塔をラピス以下九隻の艦へと向け、徐々に此方を取り囲むように動こうとしているのだが、如何せん此方の船の巨大さに驚いているのか、足が遅い。


 「此方としてはそのまま進んでも何の問題も無いんだがなぁ」


 物理的に言えばその通りなのだが、何の通信も送ってこないで突如周りを囲んでくるからと言って、相手が犯罪者だったり、海賊だったりする訳でも無い。

実際、見た感じは普通のメーカー品の戦艦で、中古市場に出回っている型落ちの物である。どこぞの海賊の様に、ゴテゴテデコレーションされていたり、やたら改造されている様なものでは無い。


 「アレは民間の個人所有戦艦ですねぇ?所有者情報出しますか?」


 「うーん、一応見とこうか」


ーーーーー


登録名 絶対殺すマン


型式 GG-002


クラス ピクシー級


所有者 エンダーコス・ジージー


ーーーーー


登録名 ざっくばらん


型式 MTS-005


クラス ピクシー級


所有者 ドッジ・ダダン


ーーーーー


登録名 フェアレディ


型式 LG-1


クラス ピクシー級


所有者 パンタース・オムーチェ


ーーーーー


 「あーもういいもういい」


 「なんだこのゲームみたいな登録名は?」


 「新庄、所有者のデータはなんか無いのか?」


 「うむ・・・・・・有った、ハァ・・・・・・」


 「何だ?」


 「レッドアイコロニー、月圏冒険者支部所属のEランク冒険者・・・・・・クランだな、クランネーム正義の味方」


 「俺達は悪者か」


 「取り敢えずコロニーの軍警察に通報したのー」


 「「「「「ぐっじょぶ!」」」」」


 雨宮と今のオペレーター全員は、エリーへとグッドサインを送り、軍警察からの返事を待つ。


 ほぼ目の前まで接近してきたのは良いのだが、結局接舷する訳でも無く、通信を送ってくる訳でも無く、周りを何故かぐるぐる回っているだけで何もしてこない。


 「何やってんだあいつら」


 「この間仕様変更したんじゃ無かったかしら?湾曲フィールド」


 「・・・・・・あーそう言えばライがそんな事言ってたな」


 以前間違って攻撃をしてきた連合軍の兵士が、近付いてきただけで爆発し、酷い有様だった事を考え、接触爆発する仕様を変更し、そもそも接触できないように仕様を変更したのだった。しかしそれはそれで色々問題もあるのだが、攻撃してきた方に問題があると言う事で、そのままにしてある。

 それが原因で、此方に近付く事が出来ず、結果的に空間を滑ってぐるぐる回り続ける事になっている様だ。


 「返事は来たか?」


 「直ぐに来るって言っていたのよー」


 「さっさと来てくれないと、あの人達の船、燃料無くなっちゃうんじゃない?」


 「しらんがな」


 「うろちょろしている方が悪いだろう」


 雨宮と新庄の意見は一致しているが、先程から難しい顔をつきあわせて、副艦長席の周りで何やら話し合っているロペ・ジェニ・シンシアの三人は、ふと何かを思い出した様に雨宮の方へと顔を向けた。


 「銀、アンタ戸籍は何処の国になっているか覚えているかい?」


 「国?そう言うもんがあるのか?俺はてっきり太陽系連合国って物だとばっかり思っていたが?」


 「ジェニちゃん、銀河きゅんは商業連合に捻じ込んであるょ」


 「成る程・・・・・・識別データは端末にインストールしてあるのかい?」


 「其処は抜かりないょー、私が全部ちゃんとやって・・・・・・あぁ!?」


 突如大声を上げカタカタと、自分のコンソールからデータをAR表示にし、確認していくロペは、ない、ない、と何かを探して焦っている。


 「何を探しているんですか?ロペさん」


 「アンタは大丈夫そうだけど、巨人とか天使とか、スプラシオの奴とか、皆戸籍が無い!!」


 「「??」」「「「はぁ!?」」」


 雨宮とシンシアは首を傾げ、新庄やジェニ、ミンティリア、エリーは驚愕に開いた口が塞がらない。


 「なんか問題あんの?」


 「無い訳無いじゃん!!私達は今、警察を呼んだんだょ?全員の所属データを見せなきゃならないんだから、未登録とか、海賊と間違われてもおかしくない!」


 警察を呼べば当然、呼んだ側もどういう存在であるのかを証明する必要があり、その為に船員登録されている全ての人間を記したリストを提出しなければならない。登録におかしなところが有れば、当然追及を受けるし、犯罪歴のある人間は、最悪事情聴衆に付き合う事もあり得る。

 銀河旅団のクルーは、大半が元犯罪者で構成されている為、殆どのクルーの戸籍が無い事が分かり、ヘルフレム監獄関係のクルー達は、ほぼ死亡扱いとなっている事も、今回の件においてネックとなっていた。


 「・・・・・・密入国みたいに扱われるって事か?」


 「コロニーに入ればそうだね」


 「でも以前テツは普通に入っていただろ?」


 「それはアタシがちゃんと処理したから!そもそもあそこは冥王星圏だろ!?此処は月圏だぞ!?管轄外だし知り合いもそんなに居ない辺境だ、今からじゃどうにもならない・・・・・・」


 「うーん、冥王星圏なら私でも何とでもなるんだけどなぁ」


 「月軍の知り合いとか居ないのかい?」


 「居ない事は無いけど、そんな偉い人でも無いしなぁ」


 「ゴンさんじゃ駄目なのか?」


 「「駄目じゃ無い!!」」


 雨宮がふとゴンザレスの階級を思い出し、ダメ元で話を出してみたのだが、それは相当に強いカードなのだと、ブリッジ居るクルー達は思い知る。

何せ彼は連合軍の中将閣下だ、上から二番目の人である。だが、それでも組織の大きさから同格の存在があと三人居るのだが組織上は二番目となる。

しかも彼はその中でも最も格の高い、全ての情報をその手に握る事が出来る、機密諜報部隊を傘下に置く存在、組織内でも最も恐れられる存在でもあるのだ。

最も、雨宮がそれをどう認識しているかは、今迄の態度を見れば察しは付くだろう。


 急遽エリーはゴンザレスに持たせた、超空間通信機へと連絡を送り、連絡を取る、既に周辺宙域図には、星系軍を示す緑色の光点が幾つか表示され、接触までの時間がカウントダウン表示されている。


 「ゴンさんオッスオッス」


ーおー!どのような手段かは分かりませんが、トゥンガ一同は無事に此方に戻ってきましたぞ!


 「其れ処じゃ無い!!今すぐに所属識別チェックをパス出来る何かを!くれ!下さい!」


ーナノマシンでは出来ませんかな?


 (出来る・・・・・・かな?とは言っても、その所属識別チェックってのが、どういう物なのか分からん事には何としようも無いんだが)


 「俺が見た事も聞いた事も無いようなことは出来ないぞ」


ー成る程、では冥王星圏の仮IDでも発行しておきますかな?


 「それは大丈夫なのか・・・・・・?かなりの人数がいるんだが・・・・・・」


ー流石に全員分は必要ないでしょう?


 「クルー全員分という訳では無い、だがそれでも、巨人も天使も、元囚人も、数千人単位で居るんだが?」


ーな・・・・・・何と!?いや・・・・・・うーむ、あっ、いや・・・・・・、うーーーむ。


 「何か浮かんだぁ?」


ー巨人と天使に関しては、難民と言う事で通るかも知れないと思いましてな?ですがそれはそれで少し面倒に発展しそうなのです。


 「どゆこと?」


ーゼンメツ一族が絡んできそうなのですよ、見目麗しい天使の難民、力のある巨人の難民、その二つは月共和国の力になりますからな。


 「どういう事だ?」


 何やら不穏な空気が漂い始めたゴンザレスの言葉に、雨宮の声のトーンが下がる。


ー今現在、月圏と言われている場所は、月共和国という国によって統治されているのです。勿論それも太陽系連合政府の一部なのですが、ある程度の自治は共和国に任されているので、大概の事は共和国政府によって納められます。しかし、欲望の的になる様な物事が舞い込んでしまえば、ハイエナ共は群がってくるのですよ。


 「・・・・・・」


 雨宮はその言葉を聞き、現状持ち得る情報から、ナノマシンをフル活用し、最も簡単で、最も安全では無いかと思われる策をゴンザレスに提示する。


 「銀河旅団を国にしよう、それしか無い」


ー・・・・・・成る程、それならば・・・・・・。


 「此処の中に居る全員を、今から新しい国の人間ということにすればいいわけか、しかしどうやって?」


 「俺達は今、海王星圏を手に入れている事を忘れたか?新庄」


 「それに、神域もあるしねぇ」


ーランドマークとなる場所も存在し、人もそれなりに居る、国として建てるには、充分でありますな!


 牧場世界からの難民は、人数にして数千万、それと神域にいる天使、巨人の難民も数万単位で生活を始めている。


 「後は、太陽系連合政府に認めさせれば良いのねー?」


 「其処はアタシに任せな、ぶん殴ってでも認めさせちゃる!」


ーでは私も直ぐに動きましょう、ジェニ様そちら(・・・)はお任せします。


 「問題ない、ちょっと外すよ」


 ジェニはそう言い残し、急いで通信室へと駆け込んでいった。


ーでは吉報をお待ちください・・・・・・と、そうだ、国の名称は如何しますかな?


 「ふっ・・・・・・そんなの今迄の流れから決まっている」


 「おい何を言ってる」


 「分かりきった話なのよー」


 「おーい」


 「「「「「「「「「「銀河帝国にきまってる!」」」」」」」」」」


ー成る程承知しました、では私も急ぎます故。


 ゴンザレスも急ぎ通信を切断し、仕事に取りかかった。


 「もーーーー!お前達はーーーーー!」


 (しかしだ、しかしだぞ?不法に越境している事実はかわらんのでは無いかな?いや、変わらんな?其処をどうやって・・・・・・)


 「あれ?銀河きゅんなんか迷ってる?」


 「いや、今ふと気付いたんだが、立場がハッキリするのは良いんだが、不法侵入的な話は変わらないんじゃ無いかと思ってな?」


 「んん?ああ、そういう事かぁ。大丈夫だょ」


 「そうなのか?」


 要は所在のハッキリしない人間がいる事が問題になるのであって、その所在が明るみに出て、尚且つ確固たる立場が其処に有るのなら、特に連絡も無く移動する事に関しては問題は無いのだという。ただ、普通惑星間移動を行う際には、専用のルートが存在し、そのルートを通る事で、自動的に連合政府所属の管理機関へと連絡が行きログが残る。どちらかと言えば問題になるのは後者の方なのだが、そちらの方は寧ろゴンザレスや、バーバラ、ジェニの専門となるので、手段さえ選ばなければ解決するのは容易い。


 「元々移動するのに連絡するのなんか必要ないんだょ、私達は民間人だから・・・・・・あれ?」


 「だろ?民間人じゃ無くなるんだぜ?俺。そんな奴が急に現れたら余計に怪しいしおかしくね?」


 これまでの流れを考えれば、銀河旅団が国になり、帝国になったとして、そのトップになるのは間違いなく雨宮、国のトップが何をうろうろしているのかと、それこそ職務質問でもされておかしい事では無い。寧ろ護衛でも付けますと言われて、監視者がべったりひっついてくる事も考えられる。


 「その辺は気にしなくても良いと思うぞ」


 「「え?」」


 新庄は眼鏡の蔓を直し、何やらARモニターを見ながら、雨宮達の考えが杞憂に終わりそうだと考えを述べる。


 「世界を救う英雄様が、問題のある場所に赴くのに何の問題がある?俺達は何しに月へ来たんだ?・・・・・・いやほんと何しに来たんだ?」


 新庄の話は嘘では無いが、主たる雨宮の目的では無い、世界を救うのは雨宮にとってあくまでもついで、雨宮はこの世界をエンジョイしたいだけなのだ。

自信ありげにその目的を話し出した新庄だったが、途中から尻すぼみに声が小さくなり、ついには首を傾げる。


 「アレ言ってなかったっけ?異世界ダンジョンに行くって・・・・・・」


 「それだけなのか?」


 「それだけ、と言うか何回も言うが、俺は旅行に行く先の事は目で見て知りたいのだわ、事前に情報を仕入れたりしないぞ」


 「胸を張って言う事じゃないわねー」


 「そうか?」


 「銀ちゃーん」


 エリーの声に振り向き、雨宮の方へと渡されたARモニターを受け取ると、そのモニターには見覚えのある三隻の中型戦艦が迫っていた。


 「アレって、軍警察のサラマンダー級じゃね?」


 「そうだよー。間に合うかなー?じぇにちゃん」


 「ちょっと時間稼ぎでもしててくれるか?」


 「色々お話しする事もあるし、そんなに急がないのなら大丈夫だと思うのよー」


 「ん、任せるわ」


ーーーーーーーーーー


五時間後


 「あのねぇ!いい加減にしてくれる!?お茶を飲みに来た訳じゃ無いのよ!?あ、羊羹下さい」


 やって来た軍警察の女性警部は、エリーや新庄とガッツリ話し込み、昼食を食べ、艦内を案内され、そして又お菓子を持ちだして来たエクスから、切り分けられた羊羹の盛り付けられた皿を受け取り、熱いお茶を流し込む。

のらりくらりと本題に入らない程度に、自分達について説明し、これからの事や、彼女の恋人について、そして彼女の恋愛事情について根掘り葉掘りと聞き出している。


 (おや?こっちから質問しすぎかな?)


 「最近の男は駄目ね、皆お金持ってないのよ」


 (世知辛い話やで)


 「私だって公務員だからさ、ちょっとはあるのよ?でも頼られても困るのよねー」


ー銀ちゃん・・・・・・愚痴が始まっちゃったねー


 (致し方有るまい)


 「せめて年収一千万クレジットぐらいは稼いで欲しい訳」


 (この世界ではそれぐらいが普通なのか・・・・・・?)


ーそんな事無いと思うのよー?


 (やっぱそうか?)


 「後、家は戸建てじゃ無くちゃね」


 (こいつ頭の中が昭和だぞ?)


ーしょうわ?


 (前の世界の昔の年号でな?)


ー古いタイプの人なのねー


 「一姫二太郎っていってね?」


 (こいつ転生者じゃねーか?)


ーその可能性もあるのねー


 「いーい?女ってのはねー?」


 警部は徐々に顔を赤くし、心持ち左右に頭が振れてきている。


 「おーい誰だー酒飲ませたのー」


 「おさけなんてのんでないわよー!まだしごとちゅうなんだろー」


 「ブランデーケーキしか出してへんのやけどねぇ?」


 「ウィスキーボンボンも食べてたと」


 エクスとヒューニは、次々と酒の入ったお菓子を出し、何故か口まで運んでやっている。


 「ほーらあーん」


 「あーん・・・・・・おいち」


 (ベロンベロンじゃねーか)


 しかも途中から飲ませていたお茶にも酒が入り、熱いお茶→冷たい水→ジュース→チューハイ→ワイン→清酒(冷)へと徐々に味が変わっていき、気が付く事も無く、大量のアルコールを飲ませていた。


 (ぼったくりバーかよ)


 気が付くと警部ともう一人、警部補と思われる男の二人はベロンベロンに酔っ払い、もはや何をしに来たのか全く分からない状態になっている。

雨宮としては、ナノマシンを使えばアルコールを分解する事ぐらいなら、眷属クルーなら誰でも出来るとして、まあ良いかとやりたい放題やらせていた。


 「もうねぇ・・・・・・あちゅいの・・・・・・」


 ぐいぐいとボタンすら外さずに、制服を脱ぎ捨てていく警部は、もはや知能が低下しすぎているのか、幼児化し上半身全裸になったままで、襟元が閉まったまま上着で頭が隠れてしまい、ジタバタと暴れ始めた。


 「ぬーげーなーいー」


 そんな警部の様子を、突如応接スペースの扉を開けて入ってきた、カメラを持ったクルー達が、パシャパシャと撮影している。

彼女達の持つカメラはアナログタイプの、高性能な物で、以前ファムがメーカーのカタログをネットで見ていたのを雨宮は思い出した。


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


 一頻り今の状態を保存し終わったのか、カメラ持ちのクルーが一人警部に近付き、襟元のボタンを外しつつスッとスカートのファスナーを降ろし、離れる。


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


 「いいねいいねー!」「表情くださーい」「あ、視線こっちもお願いしまーす」「もっと顎引いて貰っても良いですかー」「あー脚閉じて脚ー」


 (なんかイベント始まった・・・・・・)


 対する警部は、呼ばれた声に反応し、ぼーっとした顔でカメラに顔を向けているが、徐々に赤らんでいた顔に青が差し、表情が暗くなり、ついには俯いてしまった。


 「アレ・・・・・・?私?・・・・・・え?何?」


 彼女の頭の中には、正気を取り戻す前の記憶がしっかりと残っているのか、乱れ倒した時の記憶と、何故か写真を撮られている今とが、頭の中でループし、完全に混乱している。


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


パシャ!パシャ!


 「今度は脚開いてー!」「顔上げてかおー!」「肩こっちに向けてくださーい」「鎖骨良いねー」


 (ちょっと面白いと思っているけどそろそろ・・・・・・)


ー銀ちゃーんこっちの準備は出来たのよー。


 (あぁ良かった、ちょっと気の毒な状況になってるから、サクッとデータを寄越してくれ。)


ーりょーかいなのー。


 エリーの返答と同時に、雨宮はナノマシンを再構成し、一般的に使われているコネクター式メディアを作り出す。


 「そろそろ本題に入ろうか」


 「「「「「「「「「「この状況でか!?」」」」」」」」」」


 身内も含めた全員が雨宮に総ツッコミを入れるが、当の雨宮は何処吹く風、写真撮影の為に離れていたが、改めてソファーに深く座り直し、青白い顔色になり、完全に俯いてしまった警部へと話しかける。


 「そう言えば名前を聞いていなかったな、必要なデータが揃ったので見て欲しいんだが」


 「・・・・・・ナオ・シルババオト・・・・・・上級警部よ・・・・・・」


 ナオと名乗った警部はメディアを受け取り、俯いたまま携帯端末へと接続、データを閲覧しているが、急に顔を上げたと思えば目を白黒させ、手で頭を抑えて頭を振った。


 「ちょっと何なのよこの人数は」


 手渡されたメディアには、銀河旅団、現在マギアシリーズに搭乗している全乗組員のデータが収められているだけなのだが、ナオはその中の名前に見覚えの有る者がかなり多く居る事に気が付き、青白い顔のまま雨宮を睨み付ける。


 「大きな船だからな、十隻もあるし」


 「そういう事じゃ無いわ!殆どが犯罪者じゃ無い!?なんで此処にその名前があるの?」


 「人聞きの悪い、全員前科無しの一般人・・・・・・ああ、元冒険者とか、元海賊とか、元軍人とか、元警察官とか、色々居るが、ウチの国の善良な国民だぞ」


 長い時間が掛かったが、今、現在進行形でジェニ、ゴンザレス、バーバラ、そして数人の諜報員が第三世界中に銀河帝国の建国を吹聴し、様々なメディアに取り上げられているのだが、今この場に居る彼女にそれを知る術は無い。


 雨宮はそれを知った上で、敢えて彼女にはその情報を小出しにしていく。


 「国民って・・・・・・えっ?なにこれ?銀河帝国・・・・・・所属?何処の事よ!?」


 「海王星圏が空いているのでね、ちょっと貰ったんだ」


 雨宮は電車のシートが空いていたので座った、とでも言う様に何でも無い様な口調でその話を流そうとするが、ナオは噛みつく様に身を乗り出し、疑問を全力で投げつける。

 「そんな物貰える訳無いでしょ!?大体国なんて、そんな簡単に手に入る様な物じゃ・・・・・・雨宮・・・・・・銀河?」


 今更気が付く事に若干の混乱を感じながらも、ナオの頭の中に雨宮の情報が溢れ出す。


 (雨宮銀河、銀河旅団の代表にして、海王星圏を異世界から奪還した英雄・・・・・・商業国家生まれとはなっているが真偽の程は分からず、出自不明、発祥地不明の新人類にして、テクノロジー不明の超高性能戦艦を所有し、ヴァルハランテとの戦争を未然に防いだ・・・・・・英雄・・・・・・。それが国?流れはおかしくは無い、おかしくは無いけれど、本来挟むべきプロセスが省略されすぎている、大体、連合政府がそれを許可するなんて・・・・・・)


 「どうした?」


 「・・・・・・国があると仮定しましょう。その国はどのようにして建国されたのですか?」


 彼女の問いは至極簡単な事だと、雨宮は軽く去なす様に返答を返す。


 「連合政府の議会は、全会一致で銀河帝国の建国を認めたよ。ちゃんと議会を通したさ」


 不敵な笑みを浮かべる雨宮に、訝しげな顔を向けながらも、目を通せば通す程その情報に偽りが無く、全ての情報がクリーンであると言う事が判明していく。


 「我が国は移住者を募集していますー・・・・・・何てな、実際募集もしているが、俺の所に来られても困るってな」


 「ふ・・・・・・いえ、そうですか、ではそれは良いとします。・・・・・・ここから先は個人的な話なので、答えられなければ答えなくても構いません・・・・・・」


 そう言うと彼女は再び俯き、ぷるぷると何かを耐える様に拳を握り締める。


 「私の写真をどうするつもりなのよ~~~~!!!」


 一切の疑問を挟み込む余地がないと判断したナオは、先程受けた屈辱の撮影会について、縋り付く犬の様に雨宮に飛びつき、イヤイヤと頭を振って座る雨宮の膝元にしがみつく。


 「もうお嫁に行けなーーーーーーい!!」


 そのまま雨宮の膝に顔を擦り付けオイオイとくだを巻き始めるナオだったが、それ以外の疑問も多く残っているのか、混乱した頭の中を整理する事も出来ていないままで、次々と質問を続けていくのだが、雨宮はナオの頭に手を置き、ぽんぽんと軽く叩く様に撫でると、ため息をつき、逆に質問を返す。


 「聞きたい事が纏まってから又聞きに来いよ、そんときは又お茶でも用意してるから」


 とどのつまり、もう帰れ、と、雨宮はニコリと笑いかけながらその頭を掴み上げ、手首を捻る事でナオを回れ右させ、入り口の方を向かせる。


 「あがっ!!」


 (容赦ねぇ・・・・・・)


 隣の男性警部補は、一言も発する事は無かったが、立ち上がり、ピッと綺麗な敬礼をした後、ナオを連れてラピスを去って行った。


 彼女達はラピスを出た後直ぐに周りを取り囲んでいた冒険者達を確保し、連行、そしてそのことに関して月共和国冒険者ギルド本部から、銀河帝国宛てに正式な謝罪文が届いたのだが、それは少し後の話である。


今回から、用語の詳細なんかも入れていこうかなと。


ーーーーーーーーーー

レッドアイコロニー 人口 約七億人 主産業 農業 観光業


 月圏のコロニーとしては比較的大きいサイズのコロニー。


 主な産業は農業、米や野菜を数多く月圏へと出荷する食料供給源となっている。又、観光業も盛んであり、周辺のコロニーには無いテーマパークや、ダンジョン博物館、水族館等、アミューズメントの種類も豊富。


 又、このコロニーは外宇宙から飛来した小惑星を母体としており、その巨大な小惑星からは、コロニー建設後百数十年経った今でも、レッドアイと呼ばれる大粒のルビーが産出する。


 そしてそのレッドアイが産出する坑道は、ダンジョン化しており、無限に富を吐き出す事が期待されているが、月圏屈指の高難易度ダンジョンとしても名を馳せており、産出する赤い宝石の多さから、ルビーダンジョンとも呼ばれている。


ーーーーーーーーーーー

ナオ・シルババオト 三十六歳 人種 太陽系連合軍警察上級警部


 月共和国生まれ、首都コロニー、一〇一番(いちまるいち)出身の純粋な人種の女性。


 厳格な家庭に育ち、十七人兄弟の長女として、幼い頃から次々に増えていく兄弟達を纏めて、両親を助けてきた才女。

個人の能力も然る事ながら、集団としての機能を効果的に運用出来る、統率スキルの持ち主。


 一意専心の家訓の元、幼い頃から夢見ていた刑事に成るつもりが、その能力を買われ、教官や指導官を経て、あれよあれよという間に警部へと昇進、その美貌もあってか月圏軍警察の広報モデルなども務め、祭り上げられてきた。


 好きな食べ物はすき焼き、趣味は将棋。


 将棋の腕は一級品で、その戦略眼を買われ、軍へとスカウトを受けるも、地元から離れたくない一心でこれを断り、レッドアイコロニーと、首都コロニーを行き来する生活を望んだ。

 甘めのタレで煮込んだすき焼きは、兄弟達を満足させるツールとして、非常に有効的であり、下の兄弟の母親代わりも務めてきた彼女にとっては、安上がりでしかも自分も満足出来ると、月に数回は食卓にすき焼きが上がる。

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