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EP62 無知は罪なり

新キャラが出ていないので今回は設定のお話。

 「主よ、撤退を推奨します。」


 立ち上がる者の居なくなった広場に響く声に雨宮は振り返らず反応する。


 「今は駄目だ。このまま戻るとΩウィルスが艦内に入り込んでしまう。」


 スキルによってウィルスを遮断する事は出来るのだろうか?今判明している事は、ウィルスによって進化した後の生物は分解し、元の姿に戻す事が出来る。

分解の正しい姿だろう。だが理由が分からない事が有り、ウィルス自体を雨宮は分解出来なかった。それによりウィルス自体は今も尚以前に雨宮が手に入れた、二つの内の一つ、最初に手に入れたナノマシンが入っていた小箱の中に閉じ込められている。ウィルスそのものは目に見えないレベルの微小サイズなので、数億数兆存在していたとしても溢れ出してくる様な事は無い。だが物理的な箱で有る以上限界は存在するだろう。このウィルスのやっかいな所は、生物に寄生している間宿主を侵食し続け、全く自覚症状が無い所だ。そして全ての細胞が別の物と入れ替わる。この状態を雨宮達銀河旅団は、異世界からもたらされた情報を元に裏返りと呼んでいる。

界獣達はこうやって生まれたと推測出来る。これが銀河旅団の辿り着いたΩウィルスの一端だ。


 「でもこのまま私達も感染してしまったら、どうなってしまうのだろうね?やっぱり界獣になるのかな?」


 「それは多分・・・違うな。」


 クルファウストはΩウィルスは起爆剤になると言っていたが、それはそのウィルスの特性で有る侵食性を利用するという事だろう。

漠然とした事しか分からない今のままでΩウィルスと対峙し、果たして大丈夫なのだろうか。雨宮の不安は募るばかりだが、このまま何もしないで手をこまねいている訳にもいかない。分解して選り分ける事で元の状態に戻す事は出来る。だがウィルスそのものは何時までも残ったままなので、その辺りの解決方法を手に入れない事には、いつか大きな悲劇を呼ぶ事になりそうだと、この場にいる眷属達は頭を抱える事になった。


 「アレの中に入れた娘達は大丈夫なのかい?」


 エストは積み上がった独房ユニットを心配そうに見上げ、経験の無いままでその辛さを思う。


 「分解出来ないのは分かったけどぉ、選り分ける事は出来るんだよねぇ?だったら・・・。」


 「あ!おねーたん!!っっ!」


 「おねーたんって何だ。」


 こんな時でもパメラは元気いっぱいの笑顔で挙手し、場の空気を和ませる。しかしその当人の笑顔は一瞬で消え口を押さえて蹲り、何故か涙を流している。


 「かみまみた・・・。」


 今一つ締まりの無いパメラに、回復魔法の一つでもかけてやりたい雨宮だったが、雨宮には未だに使いこなせそうには無い。

直ぐ側に居るエストが手をかざすと、パメラは蒼い光に包まれ、徐々に顔色が良くなっていく。


 「あのねおにーさん・・・実はね・・・。」


 意味深な空気を纏いつつ説明を始めるパメラで有ったが、その内容は挙手する前と全く関係の無い話で、尚且つ周りのクルー達が口を思わず押さえてしまう様な内容だった。


 迂闊な事にパメラは舌を切断してしまったのだという。今この場で。


 「ホントに大丈夫かよ・・・。」


 「血は呑みました。」


 「そう言う話じゃ無くてだな。」


 普通なら実際そうなってしまう前に、脳の安全装置が働き顎の動きを制限するのだが、それが働いていないと言う事なのでは無いかと雨宮は考える。


 「待てよ・・・お前感染してないか?」


 「「「「「えっ!?」」」」」


 回復魔法とナノマシンによって回復したパメラは、さっと青い顔になり、姉達はそんな彼女の肩を軽く叩きそっと離れる。


 「「「「えんがちょ。」」」」


 「昭和か!」「うわぁん!」


 雨宮の思わず入った突っ込みと共に、寄り掛かっていたキャンディが離れた事によって地面に伏せる事になったパメラの悲痛な叫びが重なる。

感染した可能性を感じたのは分かりやすい話で、パメラはフルフェイスのバイザーを開けてこの空間の空気を普通に吸っていたからだ。


 (感染しているとして・・・舌を噛み切る症状とか無いよな。だとすれば普通に考えて、脳の制御が緩くなるとか・・・脳?)


 「ライ。」


 「此処に。」


 ティオレと共に最後にこの場に到着したライは、ピュリアを伴い雨宮の側に来ようとするが、雨宮の制止によってその場に留まり数メート離れた位置で雨宮の言葉を待つ。


 「ここに居る全員をスキャンしろ。制御機構・・・脳と心臓を中心にな。」


 「了解しました。」


 コールドスリープカプセルを持ち帰った七番艦研究者チームと入れ替わりやって来た、零番艦研究者チームは総出でこの場にいる全てのクルーをスキャンし、その情報をサーバーへとアップロードしようとするが、一人の眷属がふと思い留まり、周りの研究者達を思い留まらせる。


 「待ってください。この情報はサーバーへアップロードしてはいけません。」


 「どういう事だ。」


 「推測ですがよろしいでしょうか。」


 「良い。」


 「このウィルス、肉体では無く精神生命体に感染する物なのではないでしょうか。」


 そんな物が存在するのか?と雨宮は頭の中で考えては見るものの、実際にそんなモノを見たり聞いたりした事は無い為に答えは出ない。


 「その可能性もあるの・・・か?」


 その可能性が在ると考えれば、精神生命体に届く経緯を考える事になるが、肉体からエーテルサーキットを通じて感染する事しか考えられない、しかし肉体の機能が低下していると言う事は無いらしく、その事からこのウィルスは肉体とエーテルサーキットをスルーして精神生命体に直接害をもたらす物として考えられる。


 「えらいこっちゃなその可能性・・・。」


 「えーっほ?ふまりろういうことれふか?」


 まだ痛みで舌を口内に付けるのが怖いのか、ふがふがと不安げに自分が確実に感染している事を悟ったパメラは、流石にいつもの様に空気を読まない行動は慎んでいるのか、その場に座り込み遠目に雨宮を見つめている。


 (もしそれが間違っていないのなら、皆の今の状態をサーバーに保存すると、サーバーでウィルスそのものをコピーしてしまう事にもなるのか。しかもウィルスをデータ化して、まだ活動を停止しなければどうなる?サーバーを通じて全世界に散蒔く事にならないか?)


 雨宮は慌ててサーバーの自動アップデートを停止し、クルー全員のデータを精査する。


 (・・・?あれ?大丈夫・・・だな?)


 未だ完全に調べ終わったわけでは無いので、警戒を解いたわけでは無いのだが、もう大丈夫なのでは無いかと楽観視したい自分がいる事も否定しない。


ーーマスター・・・聞こえますか?


 雨宮の頭の中に、サーバー娘ことテツの妹、リファンリアの声が響く。


 (聞こえている。何か・・・。サーバーの事だな?詳しい経緯を頼む。)


ーーはい、先ほどオートセーブ機能を停止なさいましたよね?


 (ああ。何か問題が起こったか?)


ーーいいえ。しかし保存された個人データーの量が突然莫大な量に跳ね上がったので、サーバーの容量を僅かですが圧迫しています。


 (それ程でも無さそうだな・・?)


ーーはい。問題と言う程の事でも無いのですが、そのデータの余剰分を切り離して隔離したものの削除出来ずに困っています。


 (余剰分とは何だ、ってそうか、情報の共有をストップしているんだったな。わからんか。)


ーーはい。この削除不可能なデーターを何とかしない事にはいずれ・・・と言っても数千年後の話ですがサーバーの処理にも負荷が掛かってしまいます。


 (気の長い話だな・・・。その容量の問題以外は特に問題は無いという事だな?)


ーーはい、いいえ。それが問題になると思います。


 (??)


ーーああ、えっと・・・。随時アップデート・・・オートセーブを再開すれば、自動的に余分なデーターの付随した個人データーがセーブされます。

それは切り離す事が出来るので問題は無いのですが、切り離したデーターが私では処理出来ません。つまりその・・・。怖いです。


 (ああそうか。何だかよくわからんものが其処に有るのが怖いという事か。)


 リファンリアは現段階で人としてちゃんと分類できるように完成させてはいるが、サーバーそのものとしての機能を外してしまおうかと雨宮がリファンリアに尋ねた時、彼女は自分の仕事がなくなってしまうと困ります、とサーバー娘としての存在を維持する事を自ら決めたのだった。だが今回はそのせいでアクセス不可能な謎のデーターと常に隣り合わせでいることに不安を覚えてしまう事になった。しかしΩウィルス自体をどうこうする事が現時点で出来ない以上、どうすることもできない。


 (隔離して見えない様にしても駄目か?)


ーーそう言う問題では無くてですね・・・?


 (なんか他に問題があるのか?)


ーーこのデーター・・・凄く五月蠅いのです。このままでは私、眠れません。


 (五月蠅い?)


ーーはい、排泄物に集る無数の蠅の様な音がずっと聞こえるのです。とてもその・・・嫌悪感と言いますか、何と言いますか・・・。


 (ふむ・・・・。じゃぁちょっと試しにやってみるか。ウルテニウムも大分自由に加工できるようにはなったし・・・。)


 雨宮は二つのウルテニウム小箱の内、使っていない方のもう一つを分解、リファンリアへと転送する。

ソウルクリスタルを封印していたこの箱にエンチャントされた紋章は未だ解明出来ていないが、何もエンチャントされていない方でもΩウィルスは閉じ込める事が出来たのだから、何とかなるだろうと箱をファムネシアしか存在しなかった隔離空間へと移動させ、其処に設置した超巨大サーバーの中に組み込み隔離したデーターを移動させる。


 (この箱の中に余剰データー専用の隔離クラスターを作って入れておけば、大丈夫なんじゃ無いか?試してみ?)


ーーはい・・・あ、凄いです、何も聞こえません。と言うかこの箱・・・元々こう言う使い方をするものなのですか?


 (知らん。ソウルクリスタルとか言うのが入っていたけど・・・ん?)


ーーマスターそのソウルクリスタルと言う物は共有空間に有りませんよね?


 (無いな。と言うかその箱自体俺のアタッチメントに直接付けていた物だし、中身はズボンのポケットの中だぞ。)


ーー扱いが雑だと思います。その物質を分解出来ますか?


 (出来る。だがやらない。今こいつをサーバーにブチ込んでも・・・。)


ーーマスターがそう仰るなら構いませんが、その中身より、入れ物のクリスタルの方の研究を進める事を推奨します。


 (クリスタルか・・・。そうだな・・・?)


 雨宮の頭の中に一つ、纏まりそうで纏まらない何かが浮かんでいるのだが、それが形になるには何かが足りない。


 (仕方ない、切り替えよう。)


 「パメラ以外にも、力の制御が出来ない、若しくは難しくなっている奴はいるか?」


 そうこの場にいる全員に雨宮が声をかけると、パラパラと手を上げる者が出始める。元の種族問わず眷属の中でも比較的年齢の低い者達を中心に、雨宮がちょっと抜けていると考えていた者達がその場で座り込み、雨宮の指示を待つ。彼女等が言うには、この地下に下りてきてから一度フルフェイスを脱ぐ、若しくはマスクを解放した事が原因で有るとの証言が撮れた。


 「馬鹿・・・。」


 若干所では無く調子に乗りすぎ、久しぶりに戦闘を楽しんだ事で箍が外れ、胸一杯に特に新鮮でもないリサイクル酸素を吸い込んだ。

流れとしては分からなくは無いが、評価通りの危機感不足。雨宮自身も似たようなことを余所でしているので特に声を荒げるようなことは無いが、ティオレや教導隊に所属する者達は拳や首を鳴らし、手を上げた自分の受け持つ生徒達(なかまたち)に向かい、後で覚悟しろとジェスチャーを送るのだった。


 「取り敢えず仕置きは後回しにしてだな・・・・ん?」


ーーそういえばマスター。マギアシリーズのマジックシールドがずっとフル稼働しているのですが、外で何かありましたか?


 リファンリアからの話が脱線した様な問いに何が起こったかと雨宮は、ラピスのブリッジを予備出す。


ーーーーーーーーーー


ラピスメインブリッジ エリー


 「何だかよく分からないけど・・・前線とのリンクが途絶えたのよー?」


 エリーは前面に展開された数多くのARモニターを選り分け、雨宮の履歴を探ると其処には、Ωウィルスが蔓延している前線の状況が書き置きの様に残され、連絡が途絶えた詳細は推測出来そうで出来ない。


 「きょうちゃんどう思う?」


 隣にいる新庄はその他のクルー達の生体情報の表示されたモニターを確認しながら、中指で眼鏡を押し上げあれこれと考えを巡らせるが、リンクが強制的に遮断され多原因については一つしか思い当たる節は無い様だ。


 「Ωウィルスか・・・。」


 こう言う時こそクルファウストにと、イントと交代しメインオペレーターの席に着いているアイリーンは、確認を取っては見たもののΩウィルスそれ自体の情報は不明という返事が返ってきただけだった。


 「はぁ・・・役に立ちませんねあの方。」


 長い髪をくるくると指で遊びながら、一般クルーの情報を確認していたアイリーンの手がふと止まる。


 「何故か一般クルーの皆さんが、錯乱状態になっているんですが。」


 リンクが遮断される前に、独房ユニットへと押し込められた一般クルー達は僅か数分の間に、僅か数人を除き精神に支障を来していた。


 「これは独房ユニットへと入れられた様ですね?何故?」


 「隔離するにしたってやり過ぎじゃ無いか?」


 「あのー・・・。」


 あーだこーだと三人が言い合っている後ろから、イファリスの声がその会話を中断させた。


 「マジックシールドが尽きそうなのですが・・・誰か交代を・・・。」


 「「「「「!?」」」」」


 雨宮、ロペに変わりブリッジに詰め指揮を執っていたジェニは、今更何をと言わんばかりに報告の遅れたイファリスの方を睨み付ける。


 「遅い!タブレットはどうした!」


 「もう既にカラです!」


 「もっと早く言えよ!」


 思った以上に逼迫した状況になっている事にブリッジが俄に騒がしくなり、イファリスの交代要員として訓練ばかりで魔力の有り余っているフェインが現れ、事なきを得た。


 「今のうちに予備を取ってきな!走る!」


 「はいっ!!」


 魔力が底を突きそうになりフラフラとしていたイファリスは、ジェニに背中を叩かれブリッジを後にした。


 「フェインやれるね?」


 「ハッ!魔力は十二分であります!」


 シールドが途切れない様に交代し、席に着いたフェインは、以前とは見違える様にしっかりとした佇まいで、訓練を終えた新兵の様に背筋を伸ばし、シールドコントロール用の端末、オーブへと魔力を注ぎ続けている。


 「エリー、何が起こっている?報告しな!」


 「うーん。何だかよく分からないけど・・・何かが当たっている・・・?のかな?」


 「脇侍(きょうじ)、外部モニターを出しな。」


 「了解。」


 大型ARモニターに映し出された外部の様子は散々たる状況で、バトルドレスを着ていない一般クルー達は立っている事もままならず地面へとへたり込み、それらを介抱する眷属クルーが、マギアシリーズの救護室へと仲間を担ぎ込もうとするも、マジックシールドに阻まれ内部へと入れず途方に暮れていた。


 「ミンティリア?ザミール?何故報告しなかった?」


 「「申し訳ありません!」」


 「んんー?」


 ミンティリア、ザミールの新人オペレーター二人は、何故かフラフラし視点が定まらない。


 「これは・・・。」


 二人はまだ眷属化こそされていないものの、それに近しい位置に居るとして雨宮から目を付けられる存在ではあったが、経験が不足している事は周囲の目から見ても明らかではあったが、それでも懸命に与えられた役割を果たそうと努力する姿は、好感を持って迎えられていた。


 イージーミスとも呼べないこのような状態を引き起こす理由が、直ぐ隣にいるエリーの脳裏を駈ける。


 「感染したの!?」


 「馬鹿な!この艦はウルテニウムコーティングが!・・・あっ!」


 何か否定する情報は無いかと必死に探していた新庄の努力もむなしく、頭を抱えたエリーから寄越されたARモニターの情報履歴に目を通し、軽く目眩を覚える新庄。


 「ふ・・ふふ・・・。何だか目眩がしてきたな。」


 「きょーちゃんも感染しているよねー。そうだよねー。」


 このブリッジの中にいる一般クルーとそれに相応した者は、新庄、ミンティリア、ザミール、そしてレビルバン。


 「ん?私はなんともないが・・・。」


 「何故・・?」


 操縦席のサブシートに座ったレビルバンは、首を傾げて体調を確かめるも、依然好調の様で特に問題は無い様だったが、彼も微量のナノマシンを体内に飼っている事は他のクルー達と変わらず、逆に感染していない理由が不明である。いや、感染しているのかも知れないが、彼には症状らしい症状が出ていない。メインシートに座ったアンジーは、戦場に出る時にはバトルドレスを着るタイプの人間であった為か、その他のブリッジクルーが制服に身を包んでいる中一人臨戦態勢でレビルバンの無事に疑問を呈し、首を傾げながらメインシートに座っている。


 「リンクを切るタイミングの問題だったか・・・。」


 雨宮が気付いた時には既に遅く、判断こそ早く速やかだったが、リアルタイムでリンクを常に張りっぱなしであったオペレーターチームの二人は、現場のクルーが感染していた頃に直ぐに感染し、徐々に肉体のコントロールを失っていく様だった。



 「何か対処は!?」


 ジェニは連合軍の前線に居た頃から今迄、伝染病の対処などした事が無いと頭の中で愚痴りながらも、現状手に入っている情報を元にその答えを一つ導き出す。


 「・・・。シールドに当たっているのは、クルーか?それともそれ以外の別の物か?」


 「ハッ!両方であります!」


 「エリー、外のクルーに入ろうとするなって言ってやれ、魔力が無駄だ!」


 「はーい。」


 艦外にいる眷属クルー達の情報を見ても、感染している者達は幸い居ない様で、リンクが途切れている為情報の更新がされず、指示を仰いでいる位で大きな混乱は無い様だが、感染していると思われる一般クルー達は産まれたての子牛の様にぷるぷると膝を振るわせ、立っているのがやっとのものが大半だった。

エリーは備え付けられて居はいた物の、殆ど使用する事が無いと思っていたマイクを取り出し、艦外へと指示を出す。


 「皆落ち着いてー、一般クルーの皆は病気なのよー、眷属クルーは外部マイクの近くに来て報告なのよー。後今は中には入れないから、どんどんアタックしたら駄目なのよー。」


 「もっと言い方は無いのかよ・・・緊張感無いなぁ。」


 既に眷属クルーも感染が確認されている事もあり、ブリッジは完全に閉鎖され、この場でジェニに全ての判断が任された。


 「はぁ~・・・銀・・・。私こういうのホント苦手なんだよ~・・・。」


 「ジェニちゃんー?」


 「ジェニ女史・・・いや艦長代理。クルー達のシールドへの接触は無くなった。だが未だに何かがシールドを削っている。」


 「やっぱそうか。それが何か確認は出来るか?」


 「・・・。Ωウィルス・・・。そんな馬鹿な・・・。」


 「何か分かったか!?」


ビーッー!ビーッ!ビーッ!


 けたたましいサイレンが艦内に響き渡り、ブリッジのモニターにアラートのサインが表示される。


 「何が有った!」


 「艦内第二研究室にて敵性反応発生!・・・クルファウストだ!」


 「はぁ!?」


ーーーーーーーーーー


マギアラピス第二研究室 クルファウスト


 「おごぉおおおおおお!!」


 数分前から急に体調が悪くなり、研究室に設置してあったソファーに横になっていたクルファウストは、身体の内側から臓器がねじ切られる様な痛みと熱さを感じ、研究室内を転げ回っている。辺りに設置された機器類や資料は破損し散乱、精魂込めて気付き上げてきた雨宮研究レポートも所々破損し、見るも無惨な姿になっていた。


 (焼けるぅうううう!内部が!!ねじれるぅううううう!!!)


 自らを限界まで捻り上げ至る所から骨の折れる音が自身の内に響き、それでも尚その身体をコントロール出来ず、クルファウストは全力で奇声を上げる事で辛うじて意識を保っている状態だった。全身全霊を込めて肉体のコントロールを取り戻すべく抵抗を試みるも、まるで手応えが無く見えない何かに捻り潰されていく様に身体は形を変えていく。


 「これが!!!っっ!!!」


 クルファウストの肉体を構成する要素の一つが、Ωウィルスと結びつき、その肉体を変化させていくのが手に取る様に分かる彼は、魔導式端末に全神経を集中させ至る所から出血しながらも、研究室を完全にロックした。


 (う・・・裏返り・・・。)


 クルファウストの肉体は形を失い、徐々に溶解していく。発声する器官を失ったその肉体は形を保った部分の重さで崩れ、形容し難い色の液体としてウルテニウムの床へと広がっていく。


 (我が内に宿りしナノマシンよ・・・全ての情報を・・・雨宮殿に・・・。)


 ナノマシンはクルファウストの肉体を再構成しようとサーバーへとコンタクトを取っているが、リンクの遮断によりその返事は無く、液体となったクルファウストであった物の中を浮遊する様に漂うばかりだった。

バトルドレス一号


 雨宮が第二世界の特撮ドラマの主人公を元にして作り出した、空間戦闘用パワーアーマー。

ウルテニウム合金を使い雨宮の力を以て肉体にフィットする様に加工されたナノマシンの集合体。

装着する事で肉体を構成するナノマシンと同調、装着感の無い新しい身体として扱うことが出来る様に個々に調整されている。


 使用者は雨宮、新庄、斗捌等の男性や、ロペ、イント、アンジー等、初期から眷属として成った者達。

銀河旅団再編後は解体され、新しいバトルドレスへと姿を変え、現在は雨宮の管理する虚数空間の中で数着残って居るのみ。


白衣


 シスセブン専用バトルドレス。バトルドレス一号を改良した全身を白い着色をしたナノマシンで覆った専用バトルドレス。性能的にはバトルドレス一号とほぼ同等だが、若干装甲が厚くなっており機動性を犠牲にしつつ防御力が上がっている。しかし、第二世代に相当するこの白衣は、ティオレ因子と呼ばれている重力操作因子を組み込まれており、バトルドレス自体の自重が非常に重くなっているが、因子の存在によってほぼ普通の洋服と変わらない重さにまで軽くすることが可能となっている。


 なお、カスタム仕様として、彼女の白衣の内側にはミスリルインクによってマジックサーキットがエンチャントされており、魔法の出力をコントロールしやすくなっている。この仕様は、まだ生まれて間もないシスの為に雨宮が訓練用として与えたことが関係しており、通常戦闘は可能ではあるが、元々の想定は装着して安全に魔力の訓練をする。と言う物であり、実戦をこのままで行うことを雨宮は想定していなかった。


BMシリーズ


BMシルバー


 ラピスに搭乗するライプリー・レシュ率いる、新装備普及開発部によって開発された、銀河旅団の新型量産バトルドレス。

新配合ウルテニウム合金、ライ合金を使用している。この合金はウルテニウム、ミスリル、オリハルコンの三種類をそれぞれ1・3・6の比率で精錬しており、オリハルコンの比重が非常に大きく、かなりの重量を持った装備になっている。しかし作者本人曰くこの配合が最も加工がしやすく、雨宮の手を煩わせることが無い為に心労が少ない。とのこと。

 このBMシリーズとカテゴライズされる第二世代バトルドレスには、ティオレ因子と呼ばれる、重力操作因子が組み込まれており、魔力を通すことによって、バトルドレス自体の重さを軽減し、装着者の動きを阻害しないで動くことが出来る仕様となっている。

しかしこの仕様は、魔力適性の低い者にとっては非常に扱いが難しく、身に付けたは良いが動けない者も現れてしまった為に、そう言った者達にも扱える別バージョンも存在する。

 このバトルドレスの内部には、装着者の動きを補助する、オリハルコニウム人工筋肉が使用されており、魔力を導通させることによりある程度自由に伸縮させることが可能になり、移動、攻撃などの補助をさせることが可能。


 このBM(バトルマリエ)シリーズと分けられるバトルドレスは女性専用となっており、男性にはBT(バトルタキシード)シリーズと呼称される物が割り当てられている。

又シリーズ、世代関係なく全てナノマシンによって構成されている為、使用者本人以外に着用することは出来ず、魔力にも識別判定がある為、ティオレ因子を外部から作動させ持ち運ぶことも出来ない。


 量産型とは言えバトルドレス一号のダウングレード版では無く、新規生産された上位互換である為に性能は全てにおいてバトルドレス一号を上回る。

スペック上溶岩の中も泳ぐことが出来、木星の大地(コア)に降り立つことが出来ると言われている。つまり非常に頑丈。


 BMシリーズには様々なバリエーションが存在し、眷属の中でも比較的下に位置する者達はこのBMシルバーを割り当てられる。

指揮官や隊長クラスの眷属には、BMブラックと呼ばれる雨宮がマジックサーキットをエンチャントした物が与えられ、差別化が図られている。

又、能力的に他の者達より上回るエースと呼ばれる眷属には、BMホワイトと呼ばれるエース専用機が与えられる。


 個々人の感性によって様々なカラーリングが施されることもあるが、デカールは所属する派閥によって決まっているらしく、デカールによって所属艦、派閥が分かる様になっているとか。名称に色が使われているが、本体がその色をしているわけでは無い。

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