EP63 臆病な英雄の空回り
ふぁいとーおー
「アレはどうなっている・・・。と・・・溶けたぞ?」
ジェニは警備部隊を研究室外部で待機させ監視カメラの映像を注視し、ナノマシンの存在を確認するが、リンクが遮断されている為情報の共有が出来ず、回収手段を模索している状態だった。
「ジェニちゃん、ボコボコしているのよ?」
監視カメラに映ったクルファウストであった液体は、水たまりの様に薄く広がり、深さなど無いはずなのだが、その液体の内から気泡が膨れ上がり弾け、間隔を開けボコボコとと弾けていた気泡の間隔が徐々に短くなり、グラスに注いだ水にストローで空気を送り込んでいるときのように、激しく動き、水面が競り上がってきた。
「何か出てくる・・・?」
せり上がった気泡は形を成し徐々に人型を形成していく。姿形は以前のクルファウストとほぼ変わらず、見た感じは何も変わってはいないが、監視カメラを凝視したその目の光は黄金色を放ち、カメラ越しにジェニを見ている様なそんな気配を感じる。
「なんだこれ・・・。」
艦内のスキャニング装置はナノマシンのリンクを使い情報をサーバーに溜め込んでいるが、現在そのサーバーを確認する事は雨宮にしか出来ず、それぞれのナノマシンに保存されている情報しか参照することが出来ない為に、目の前の状況を判断しかねているジェニだったが、ふとスキャン以外の確認方法を思い出す。
「アナライズで確認出来るかね?」
「ほー。私は出来ないのよー?」
「私もこの世界の魔法は使えません。」
「はい!いいえ!私はアナライズは使えません!」
「じゃあ私が・・・。」
ジェニ、エリー、アイリーン、フェインの四人はアナライズを身に付けて居らず、使用可能な数人が手を上げた中の一人の火風は取り敢えずブリッジにいる全員のデータを確認し、顔を顰めた。
「今このブリッジにいるクルーでウィルスに感染していないのは、レビルバンと私、エリーさんだけ。後は眷属も含めて全員感染している。」
「・・・感染ルートの特定は出来るかい?」
「可能性なら少しは言えるけど・・・。」
「それでもいい。」
火風はまず、推測の域を出ないと前置きをした上で、Ωウィルスが肉体だけで無く、電子的にナノマシンを経由しサーバーに感染し眷属へと拡散した可能性、空気感染することが分かっている為、外部へと出撃する際に開いたハッチがそのままの状態になっている事もあり、マジックシールドを抜けて来たウィルスがいた可能性を語った。
「マジックシールドの方は無いから大丈夫、途切れたタイミングは無かったのよー。」
「待ってください、出入りした人員はいますか?」
「・・・それも居ないねぇ。ティオレに下げられたクルー達も結局艦内には入れなくて外にいるみたいだし。」
「じゃぁサーバー経由で感染した可能性が高いのねー。」
「それはそれでおかしく無いですか?サーバー経由だと私とエリーさんが感染しない理由が見当たりません。」
「あー・・・私は感染したけど治せたのよー。」
「え?」
「あれ?」
「もっと早く言えよ!」
ジェニの大きな声に少しだけ感染した一般クルーの三人が反応したが、エリーは頭を掻き、えへへと気付かなかったことを謝罪した。
「スキルですか?」
「うん、でも結構なエネルギーを使うから、銀ちゃんがいないとあんまり沢山使えないのよー。それにー、感染したことで何が起こるか分からないから、迂闊にスキルを使えないと思ったのー。」
「それもそうか・・・。」
そして火風が感染していない理由としては、常時自身に薄いマジックシールドを張っている事で、ウィルスの侵入を防いでいたと言うことらしいが・・・。
「掃き溜めに来てから常に凄い魔力を消耗すると思ったら、そういう事だったんですね。ヘルフレムにいる間に訓練しておいて良かったです。」
しかしエリーのスキルで感染していない状態に戻った所で、新たに感染する今の状況を終わらせないことには、何度でも感染する可能性がある。
「普通のウィルスであるならば、免疫機能を手に入れることで防ぐことが出来ましょう。私はきっと長い人生の中で数多の病原菌を退けてきたことによって、それを獲得したのでは無いかと考えられますな。」
レビルバンは胸を張り、マジックシールド無しでΩウィルスを退けた事を主張する。
ジェニはエリーのスキルを最終フェーズとし、斗捌率いる生体研究室へと連絡を取る。
「カズマ、まだ生きているか?」
ーー・・・・。
「・・・。」
呼び出しを架けて暫くの沈黙があった後、呼び出しに応じる反応があった。その対応に出たのは斗捌では無く、その研究室に所属している眷属クルーのルゥ・リルゥであった。
ーーお待たせしました。斗捌は現在自失状態にあり反応はありません。
「やはりか、お前達の中に症状の酷い者はいるか?」
ーー居ません。先ほどまでの状況を有線確認しました。直ちに血清の作成に取りかかりたいのですが。
「判った、レビルバンだね、直ぐそっちに送る。」
ジェニはレビルバンへと視線を送ると、ブリッジの扉を開き移動を促した。
「駆け足!」
「イエッサー!」
レビルバンはベレーの軍人よろしく猛然と駆け足でブリッジを後にした。
「血清の・・・量産までにはどれぐらい掛かりそうだ?」
ーー銀河様から頂いていたデータもありますので、然程時間は掛からないかと思われますが・・・。
「何かあるのか?」
ーーはい、以前七番艦にΩウィルスの研究データの相談に行った際に、興味深い考察をする方が居まして。
「ほぅ?」
ーーゼニア・クラウンという、元海王星宇宙伝染病研究所に所属していた方なのですが、今は前線にて回収作業を行っていると最後の通信記録にありました。
「今は居ないと・・。」
ーー目の付け所などは流石の一言ですが・・・まぁその方が立てた推論として、Ωウィルスの精神生命体感染説というモノがありまして・・・。
「・・・魂に直接感染するだと?」
ーーそうです、もしそれが現実となった場合の症状の推測として、一般クルーなら肉体の制御喪失、眷属クルーなら制御機構の暴走、この二つの症状が推測されるという考察結果が既に出ておりまして、現状と当てはまるのでは無いかと。
「確かにそうだな・・・。だが眷属に関しては確認が・・・。」
「それは確認出来ているのよー。」
エリーがジェニとの通信の間に割って入り、待機中の眷属クルーがトレーニングルームで四方の壁に激突している様子が映し出される。
「これは?」
「サダコちゃん達なんだけどね?」「見りゃ分かる。」
サダコはトレーニングルームにて動く床を逆走する・・・所謂ルームランナーの様な物の上に乗り、ランニングをしていた様だが、感染したと思われるタイミングで突如意図せぬ身体の動きが発生し、踏ん張りを効かせて体勢を立て直すはずが、その身体の動きは傍から見れば勢いを付けて飛び出したようにも見え、勢いよくトレーニングルームの壁に突き刺さっていた。脳天から壁に突き刺さったサダコは壁に己の血糊を擦り付けながら気絶していた。
その他にもトレーニングルームには多くの眷属が身体を動かしていた様だったが、ウェイトリフティングをしていた者は、勢いよく持ち上げすぎてバランスを崩し、バーベルごと万歳したまま後ろに倒れたり、反復横跳びで競い合っていた者達は、大凡横っ飛びの範疇を超える飛びっぷりを披露し、肩から壁に激突涙を流しながら床に倒れ伏した。
「死屍累々なのー。」
「予想通りってとこか・・・。」
ーーはい、恐らく我が銀河旅団でウィルスに感染していない者は、七番艦のマギアノイド種か、アト様の様に常時マジックシールドを張っている方に限られると思われます。
火風は目の前のコンソールの上にタブレットケースを置き、魔力が其処を尽きない程度のペースでポリポリと咀嚼し、艦内の様子を手動で確認しレポートを作成していた。
ーーあ、レビルバンさんが此方に到着しました、研究に入りますので失礼します。
「頼んだよ。」
ジェニは皆が助かるであろう可能性が少し見えてきたこともあり、深くため息をつき艦外の様子をモニターに映す。
其処にはライ達の見つけたコールドスリープ装置を抱えて戻ってきた、雨宮直属の研究員達の姿があった。
エリーは直ぐに外部スピーカーにて確認を取り、暫くは出入り禁止だと言うことを伝え、コールドスリープの維持に必要なエネルギーを外部接続端子から供給するようにと指示を出す。十数個を数えるカプセルの様な物は、薄らとカメラを通してでも中に人間が入っていると言うことが判る作りになっている。そしてジェニはその研究員達の中に、先ほど名前の出たゼニアの姿を発見する。
「エリー、あの黒髪の眼鏡。」
「ほ?」
「アレがゼニアさんですかね?」
エリーは外部スピーカーにて確認をし、ゼニアを呼び出す。
ーー艦長代理、何やら起こっているようですが。
「Ωウィルスの事は銀から聞いているか?」
ーーいいえ、私は突入から帰還まで銀河様にはお会いしていません。
ジェニは右手の中指で額をぐりぐりと押し、考える。
(今更入艦を弾いた所で意味は無い様な気もするんだが・・・、うーん。)
まだ試したことが無い事があり、外にいるクルー達の誰かにそれを確認させてみようとは考えては居たものの、結果を予想してみれば非人道的な結果が予想されると言うこともあり、雨宮の居ない今にそれをやるべきかどうかと言う事だが、それを確認してしまえば取り敢えず外に居るクルー達を艦内へと収容することが問題なく出来る様になる。
治療の必要な者達も居る、ナノマシンを使わずにそれをやろうと思えば、どうしても艦内のちゃんとした医療施設を使う必要がある。
(一回でもそれが出来るんだったら・・・。一回?)
「エリー、あんたのスキルはどう言う物か聞いても良いかい?」
「えーっとね・・・究極反転の事だよね、簡単に言うと何でも反転させられるの。」
「何でも?」
「そう。何でも。その代わりちゃんとやることを明確にしないと、すっごい魔力もエネルギーも使っちゃうから下手すると死んじゃうかも?」
「そんなにか・・・。」
「特に今はリンクが切れているから、エネルギーがコレからしか取れないし。」
そう言ったエリーは肩から下げた小さなポーチからタブレットを取り出し、カラカラと振ってみせる。
中身は既に少なくなっていて、その音からは数個しか入っていないであろう事が窺える。そのことに気が付いたジェニは、自失状態の三人のアタッチメントからタブレットを取り出し、エリーの前に並べた。しかしその表情は未だに優れない、迷っている。
「エリー、足りるかい?」
「うーん・・・何をすれば良いの?」
「保険さ。」
雨宮が居ない今、ナノマシンによる完全な肉体の再構成を行うことが出来るのは、医療部隊のクルーだけなのだが、そのクルー達でも再構成の際に必要なエネルギーだけは、サーバーに蓄積されたエネルギーを使用することが前提の話である。それをやろうと思えば勿論、エリー自身にそれ以上のエネルギーの運用が必要になる訳だが、個人の能力の限界を超える事をさせてしまえば、死ぬと、エリーはそう言った。
「死んだ人間を生き返らせられるか?」
「流石に無理かなー。プ-ルエネルギーを使ったら出来るけど、それをやると私が死ぬよ?」
「やっぱりそうか・・・。」
ジェニはその言葉をハッキリ聞く事で自分の選択肢の一つを切り捨てた。無理にそんな事をしてしまえば、再構成が可能だとしても、ジェニは雨宮から切り捨てられるだろう。彼女の危惧する一番大事な所だ。
「・・・必要なエネルギーを確保出来れば出来ない事は無いと思うのよー。」
エリーは可能性を考えつつも、言う必要が無ければ言わなくても良い事を言わせてしまったと、少しの自責を感じ、もう一つの可能性を提案した。
「眷属が人数集まれば、皆のエネルギーを使って出来ない事は無いのよ、どの位のエネルギーが必要になるかは判らないのだけれど・・・やった事無いから。」
「・・・私は弱い人間だ、だからやれとは言え無い、良いのか?」
「きっと大丈夫なのよー。」
(・・・。万が一の事を考えれば、シールドと操舵手は抜けない、だがここに居る人数で果たして足りるのか?)
「取り敢えず十人位いれば良いんじゃ無いかなぁ。エネルギーの消費はコントロール出来るし、駄目だと思ったらやめられると思うんだけど・・・。」
エリーが危惧しているのは何をするのか判らないままでこの話をしているので、実際の事を考えると何をどうして良いのか判らないままであると言う事。
そのせいで曖昧な事しか言えず、どうして良いのか迷う事も出来ないままでオウム返しするしか無い。
「あー、・・・マジックシールドを無理矢理通り抜けたら、ウィルスだけ置いていけないかと思ったんだよ。」
マジックシールドは物理的、魔術的に通過する物を拒み、レーザーや電撃、炎など、非実体兵器に対しても有効な魔力で造られた隙間の無い壁である。
そもそも通り抜けるなどと言う考え自体が、エリーを含め周りのクルー達には無く、可能なのか不可能なのかすら不明であるのだが、可能であったならシールドの意味を問われる事にも成りそうだと、そう思う。
「えっと待ってください。その実験は無意味では無いですか?」
「どういう事だ?」
ジェニは魔法をほぼ使う事が出来ないのも有り、マジックシールドという物の詳細について今一つ把握していないのでは無いかと、火風は思い詳しく説明しジェニを説得する。
「今現在艦内外にウィルスが存在していて、仮に無理矢理通り抜けて体内のウィルスを置き去りに出来たとしても、又艦内で感染します。」
「どういう事だい?」
「このブリッジ全体をアナライズしてみましたが、此処に存在する酸素にはΩウィルスが蔓延しています。何らかの方法でウィルス自体を根絶しない事には、何度も感染しいずれは私達眷属も、一般クルーと同じ様に精神生命体を汚染されてしまうでしょう。それに・・・。」
精神生命体に感染するという仮説を是とするので有れば、マジックシールドを通り抜ける→魂が身体から抜ける、と言う事に他ならず、エーテルサーキットがどうなるか判らない。しかしエーテルサーキットが損傷する免れ得ないと考えられ、それを直す事の出来る雨宮は今此処には居ない。医療部隊にも、エーテルサーキットに手を出す事の出来るものは存在しなかった。
「そんなに都合の良い事は無いか・・・。」
迷い迷って紡ぎ出したジェニの案は暗礁に乗り上げ、後は研究室の報告を待つばかりになった。
ーーあの、艦長代理。
「あー、ゼニアかい?」
ーーはい、今の話を聞く限り、外の人間を中に収容してしまった方が良いのでは無いですか?
「・・・そうだね、そうか。どこに居ても感染するなら一緒か。」
ーーはい、そう思います。それに既に感染してしまっているのですから、リンクを遮断する必要も無いかと思われますが・・・。
「それはアタシ達にゃどうにもならん・・・事も無いか?」
「リファちゃんに直接言いに行けば良いのよー。」
ーでは。
「判った、全艦に通達、外部、前線基地に展開する一般クルーを全員収容、医療施設へと搬入しろ。眷属クルーは出来る範囲で周辺の警戒、研究員はラピスに集合Ωウィルスの研究に全力を挙げろ!」
ーマジックシールド、便利ですね。
「あたしもそう思う。」
エリーは出入り口になっているハッチを覆っていたシールドを解除し、ラピスを出入り可能にした。ゾロゾロと眷属クルーに担がれた者達が運び込まれ、あっという間に医療スペースはいっぱいになった。
「結局何にも出来ない気がするねー。」
「不吉な事を言うな。銀のお抱えも戻ってきたんだ、何とかなるさ。・・・後は。」
ジェニは結局カメラをジッと見つめたままで固まった様に動かない、クルファウストによく似た存在を再度モニターで確認し、静止画の様に佇む姿を見て何だか言い表しようのない不安を感じる。
「こいつをどうするかねぇ?」
動かない事も有り優先順位は低いものの、こいつがいるせいでずっと警備部隊の一部を張り付かせている事も、ジェニの気がかりの一つだった。
警備部隊とて同じ眷属、トレーニングルームの者達と同じ状況になりかねない状況は依然変わっていないのだ。自爆覚悟で戦いに挑むにしても、雨宮が居ない今では、喪う物が余りにも多すぎる。ジェニを含めた眷属達の人間らしさが行動にストップを掛けている。
「私がリファンリアの所まで行ってきます、私は普通に歩けるので。それに、今のエリーさんはエネルギーの消費が多すぎる様に見えるので、そのままそこに居て欲しいですし。」
「えへへ、ばれてしまったねー。」
エリーの雨宮特製回復用のタブレットは、恐らく燃費が悪いであろう彼女のスキルを使う事によってみるみるうちに減っていく。時々お腹を擦りながら、首を傾げタブレットを口へと放り込む。
「もうお腹いっぱいなのー。」
「急ぎます。」
火風は火器管制シートを離れ、駆け足でブリッジを離れた。
「皆悪かったね・・・。変な事言ってさ。」
エリーはいつもの笑顔でジェニに頷き、他のクルー達も気にしていないと軽く合図を送る。
ーーーーーーーーーー
マギアラピス リファンリア私室
ピピッ
来客を知らせるコール音が鳴り、リファンリアは雨宮との通信を繋いだまま、客を招き入れる。
「あら?」
「初めましてでは無いけれど、あまり顔を合わせる事は無いね。火風。」
「判ります、私コレででもサーバー端末ですから。」
火風はブリッジでのやりとりを必要な部分だけ伝え、直ぐに雨宮の判断を仰ぎたいと状況を報告する。
「ではもう既に皆さん感染しているのですね、では私も・・・。」
「そうだと思うのだけれど、あ、あんまり大きな動きをしない方が良いよ、歯止めが効かないかも知れないし。」
火風は小型端末の置かれたデスクとにらめっこをしていたが、火風の来客により一度立ち上がろうとはしたものの、制止されワーキングチェアーに座ったままで、火風と向かい合う。精神的に漸く落ち着きを取り戻した先刻より少し時間が経ち、仲の良いクルー達ともコミュニケーションを取っているリファンリアは、最近ゲームに甚く感心が有るらしく、手元の端末にはRPGと思われるゲームが映し出されていた。
「今の所私に症状は無いようですが、肉体的な変化はやはり無いのでしょうか?」
眷属リンクを停止している今は、口頭による情報収集や、有線端末によるローカル通信を用いた情報交換でしか、内部情報を更新出来ない事も有り、矢継ぎ早に火風へと質問を繰り返し、火風は辟易とした様子で更にそれを制止する。
(自制が効いていないのかも知れない。)
「あっ・・・。その、すみませんつい・・・。」
「良いの、それもウィルスのせいかもしれないし。」
何気ない情報交換をする為にここに来たのでは無いと思い直し、火風はリファンリアへとリンクの再開を望み、雨宮への中継を頼んだ。
「皆感染しているから、もう既に。」
「はい、マスターはリンクの再開を許可しました。ですが貴方はそれで大丈夫なのですか?」
サーバー内のウィルスは既に隔離され、安全で有るとリンクを再開した時点で把握した火風は、前線の様子を心配そうに尋ね、部屋の中のベッドへと腰を下ろして一つ息を吐いた。
「教会組織と思われるクロスチャーチルの拠点は、ほぼ無人で籠城戰の構えのようです。毒でも蒔けばサクッと終わりそうですね。」
リファンリアの付け足された一言に火風は若干戦慄を覚え、宇宙で毒は駄目だろうと心の中でツッコミを入れつつ、最初に感じた可能性をより濃く感じ取っていた。
「貴方自身のウィルスは隔離出来ているの?」
「あー。忘れていました。」
(オイッ!)
「先にそっちをやりなさいよ、何か有ったでは済まないんだからね?」
「それもそうです。」
リファンリアは自身のクリーンアップを行い、ウイルスを隔離し、自身が正常であると判断を下し、ゆっくりと動き出す。しかしその動きは非常にゆっくりで、まるでスローモーションで動くドラマを見ているかの様なもたつきだった。
「・・・何をしているの?」
「いーえー・・・たーちーあーがーっーたーだーけーでーすーよー?」
(なに??何をしているの?)
(いーやー・・・)(あ、話しかけた訳じゃ無いんだけど・・・。)
「そーうー・・・」
「取り敢えず座って・・・。」
火風は滑らかにスロー再生されているかの様な動きのリファンリアを、無理矢理座らせ、雨宮との直接通信を繋ぐ。
(先輩・・・先輩・・・。)
ーー火風か、悪い、今ちょっと手が離せない。リファンリアはどうした?返事が返ってこない。
(彼女は今凄くゆっくり動こうとしているようですが、何か有りましたか?)
ーーゆっくり?あ・・・もしかして。
雨宮には心当たりがある様で、何かをしているのだろうが、火風にはそれが判らなかったが、リファンリアの動きは僅かにスピードを取り戻した様に見える。
「かーかーぜーさーんー?」
(直ってませんね。)
ーー少し時間が掛かりそうだ、今処理の割り当てを変えている、暫くすれば元に戻るだろう。それより・・・。
(Ωウィルスの事ですね。今研究室で対抗策を構築中です。此方も少し時間が掛かりそうだと・・・。)
ーーそうか・・・不味いな。
「苦戦していますか?」
思わず念じるだけで伝わる超空間通信を使わずに口に出してしまった火風は、反応しようとするリファンリアを手で押し留め、雨宮に向き直る。
ーーウィルスの処置が追いついていないんだろう、リンクを再開したは良いが、一般クルーの精神生命体に巣くったウィルスが、増殖してサーバーを圧迫している。
(人数を増やした事が裏目に出ましたね。)
ーーそうだな、だがそれは良い。皆にちゃんとエネルギーは行き渡っているか?枯渇して死ぬなんて事は無いか?
(大丈夫です、魔力タブは充分在庫があります、ですが私やエリーさんの様に常時ウィルスに抵抗出来る手段を持つ者達は、若干負担が増しています。艦隊のマジックシールドは一時的に停止しましたが、コレまでの消耗を考えてもやはり根治治療が必須では無いでしょうか?それに、未知の状況に不慣れなクルー達は若干疲弊しているのでは無いでしょうか?
ーーいてっ、そうか・・・。リファンリアの動きは、サーバーの処理に引き摺られての事だろうから心配はしていないが、研究室の方はこの状況で続けられるか?)
ーー銀河様、割り込みを失礼いたします。ゼニアです。
ーー進展は?
ーーΩウィルスの詳細情報をそちらに送信しようと思うのですが・・・。
(暫くは難しいでしょうね。先輩の処理能力があれば研究を短縮する事も・・・。)
ーーふ・・舐めないでください、既にΩウィルス・・・いえ反転進化ウィルスについては詳細を明らかにしました。今レビルバンさんの抗体を培養しワクチンを製造しています。
(なんと!)
ーーそうか、こうやって通信する事のメリットも・・いてっ、有るんだな。
ーーサーバー内のウィルスを駆除する為のワクチンプログラムだけが、今の所進みが遅くなっていますが・・・。
ーーアレをもう一度使うか。
(あれ・・・ですか?)
ーーそうだ。ウルトラロボットクリエイターだ。
ゼニア・クラウン 三十五歳 デロゥ種 元海王星宇宙伝染病研究所所員
デーモン種の父とメロウ種の母を持つデロゥ種と呼ばれるハーフとして共和国の外れに産まれ、薄青く発光する様な肌が特徴。身長はデーモン系の種族にしては低めの百六十ほど。太陽系連合大学海王星分校を優秀な成績で卒業、卒業後は直ぐに研究室に招き入れられ、宇宙に無限に存在すると言われているウィルスによる伝染病を専門として研究する事になる。
研究チーム在籍時は伝染病、感染症などの最前線で活躍する研究者として辣腕を振るっていたが、賢しいタイプの後輩研究員から何故かやっかみを向けられ、事ある毎に面倒を掛けられる事になり、辟易していたが、彼女が研究所の副所長に任命される事が決定した次の日、彼女の管理していた研究中のウィルス通称失神ウィルスが保管室から漏れ出し、パンデミックを起こした。
彼女はそのパンデミックに果敢に立ち向かったが、研究所は全滅、コロニー丸ごと一つを壊滅へと追い込む結果となった。
彼女は自らのスキルによって失神ウィルスに感染する事が無かった為、パンデミックの責任を問われ、ヘルフレムへと無期限の懲役を背負い入所する事になった。
ヘルフレムではアンジーの派閥に加わり、派閥の頭脳として数々の修羅場をくぐってきた。
雨宮が騒ぎを起こした際、アンジーと合流出来ずあわやヘルフレムへと取り残されそうになるが、彼女は元からロペに目を付けられていたらしく、イントによって出発間際に引き摺られ脱出を果たした。
(2)ハイパーヒューマノイド化 零番艦ラピス雨宮研究室室長
雨宮によって自らの肉体を研究する為に立ち上げられた、雨宮研究室の室長として抜擢されナノマシンの様々な可能性を解き明かしてきた。
銀河旅団発足前から様々な研究者経験のあるクルー達と交流し、その知識と見解を深めてきた。又雨宮専用の新型バトルドレス銀王タイプを開発、実戦に投入するべく研究を続けている。
趣味はダーツ、好きな食べ物はサラミ。学生時代からダーツバーに通い、バーで研究資料を広げる珍しい女として常連にも良く知られ、息抜きにダーツをプレイしPCの傍らにサラミを置きながら爪楊枝で突いている姿は、周囲から特異な目で見られつつも、実績のある美女として言い寄られる事も多かった。
ルゥ・リルゥ 二十九歳 エルード機人種 元外来生物研究所副所長
火星帝国に存在する外来生物研究所に務めていた経歴を持つ、生物兵器によるテロを実行していた元テロリスト。
過去に外来性の病原体ハンドシェイカーを三つのコロニーへと散蒔き、被害者総数十億人以上死者数八億人以上という歴史上希に観る大事件を起こした張本人。
ハンドシェイカーに感染した生物は、生活が出来なくなるレベルで手足が震え、食事を取る事もままならず飢えて死んでいく。まともに歩く事も、物を持つ事も出来ず、次第に筋繊維が限界を迎え、全身が痙攣する事態に陥り、この状態になって漸く食事を取る事が出来る様になるが、その頃には既に力尽きる物が多く、感染者は八割以上の確率で死に至る。
ルゥは研究チームに所属している際に、非人型の外来生物と接触、その存在との意思疎通を自らのスキルによって行い、彼らの地球圏への接近理由とその目的を知る。
彼らは外宇宙にて未知の人種と接触し、排斥され宇宙を漂う事になったが、元々攻撃的な性格では無い彼らは意思疎通を行うべく火星に降り立ち、人々に接触しようとしたが、偶々であった火星の人類が、研究員達であり意思疎通を行う間もなく捕らえられ、研究所の中に隔離される事になった。
しかしそこでルゥと出会い、彼女に外宇宙で起こっている事の全てを話したが、火星の気候は彼らの生存には適して居らず、彼らは情報を全て託した後世界へと還った。
ルゥは彼らから伝えられた事態を理解出来ず、全てを記録媒体に残しておく事しか出来なかったが、何かを間違って学んだらしく、彼らの死体を培養する事によって生まれたハンドシェイカーを旅行先で設置し、テロを引き起こした。
(2)ハイパーヒューマノイド化 零番艦ラピス斗捌研究室所属
第三世界の生物や人種の種族を研究する斗捌和真率いる研究室に所属、過去に引き起こしたテロのことを思い出すと熱を出して寝込む様になった。
現在は以前から研究をしていた外来生物の研究を再開し、彼らの遺体を手に入れるべく火星帝国外来生物研究所へと諜報員を派遣しようと資金を貯めている。
ハンドシェイカー事態は未だにワクチンが開発されていない特別保護ウィルスとして太陽系連合全体に知れ渡っているが、銀河旅団では彼女のもたらしたデータを元に既にそのワクチンの設計図は完成しており、何時でもそのワクチンを散蒔く準備が出来ている。




