EP45 雨宮君とブレーメンの魔女
戦艦の指標としてのデータを少し。
ティタノマキア社 シルフ級<ウンディーネ級<サラマンダー級<オーガ級<オベロン級<ティターニア級<ティタン級
メーカーによって呼び方が違うだけなのですが、ややこしい話です(他人事)
キラキラとよく分からない光がモニター越しに光っては通り過ぎ、光っては通り過ぎ・・・。ディメンションスリップによって異空間に入り込んだ銀河旅団の日常は過ぎていく。
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ラピスメインブリッジ
「早いものね、こんなにも超空間航法が進歩していたなんて知らなかったわ。」
超空間航法とは所謂ワープと呼ばれるものの総称で、このマギアシリーズにはその最先端技術であるディメンションスリップが利用されている。
他の輸送艦や戦艦に積み込まれているワープ技術は、ディメンションスリップを指標とした場合二世代程前のものが使用されている割合が非常に多い。
一世代前のものは普通の市場で見た最新技術で有る為まだ普及していない。その為に非常にコストパフォーマンスが悪く、導入するメーカーも技術面で再現性の低さから研究すら行っていないという話だ。
「ティタノマキアの最新技術は、銀河様のお力添えもあって安定、安心、超!高性能を誇っていますのよ!」
「へぇ~。貴方も関わっているのね?新人類。」
この数日間ですっかりブリッジになじんだミンティリアはネイルにコーティングを施しながら、不思議そうに此方を見た。
「ふーっと。とても頭が良さそうには見えないのだけれどねぇ?」
「余計なお世話じゃ。」
「ZZZ」
トトは俺の膝の上で丸くなって眠っている。専用のシートまでわざわざ用意したって言うのに、もはや指定席状態だ。
「気になった所を指摘しただけでそう言われるなら、悪いもんじゃ無いな。」
実際俺にはそんな知識は無い。と言うか有るにはあるが必要ないので今のところ手の届かない場所に仕舞ってある・・・と言った所か。
そういうのはライとかミリアやミリュとか専門家に任せておけば良い。おらぁ適当で良いんだよ。
「それよりもそっちの具合はどうなんだ?」
「そんな直ぐにマスターできるわけ無いでしょ。マキナじゃ有るまいし。」
マキナ?
「マキナって何だ?」
「機人種の事よ。別に別称としてそう呼ばれている訳じゃ無いわ。昔マキナって言う名前の機人種が最初の超空間航法を発見したって事で盛大に持ち上げられたのよ。所謂伝説の人、時の人って奴ね。
それぐらい凄い人種だって言うことで、そう呼ぶ人が増えてるって話よ。」
「成る程ー。」
「名前にマキナを入れる機人種の人達もいるって言う話も聞いたことあるけど、私はまだ見たことが無いわね。」
俺は一人だけ知ってるな。だが世界が違うから意味もまた違うだろう。
「雨宮さんは随分と慣れていらっしゃいますね?熟練の艦長さんみたいです。」
そう言いながらクスクスと笑うザミール。
「だらけているだけだ。どうせ水星圏についても俺はまたレベルアップ出来ないんだろうしな。」
手元のコンソールを叩き終え一仕事終えたロペはシートをくるりと回して此方を向く。因みにジェニは通信室にこもりっきりになっている。
交渉ごとが多いと嘆いていたな。
「腐らない腐らない。何もダンジョンは有名なダンジョンばっかりじゃ無いんだよ?今回目指しているヴァルハラダンジョンとは別にいっぱいあるんだから。」
なん・・・だと・・・・?
「各星系で有名になっているダンジョンは超高難易度ダンジョンだしね。普通そんな所に初心者が挑んだりしないわ。水星圏ならそうね・・・。ここなんか良いんじゃ無い?」
大分操作に慣れたらしいミンティリアが、ネットワークから情報を抽出しAR化して俺の前にデータをよこした。
「ふーん・・・。金属ダンジョンねぇ。それにこっちはイチゴダンジョン?色々あるんだな?」
「そうね、数え切れない程ダンジョンはあるけれど、その多くは高ランク冒険者によって成長する前に討伐されるわ。ヴァルハラダンジョンみたいに異世界と繋がるダンジョンがホイホイ出来ても困るしね。」
確かにそうだ。力を試した時海王星と水星、そして月の方にそんな大きな力を感じた。
あの感じが異世界へのゲートを感じたものだったのだとすれば、それこそ大小無数にあると思うんだが直ぐに消えて無くなってしまうのはそのせいだったのね。
「まぁ、水星ダンジョンについては経験者も少なくないみたいだし、向こう側の人も居るみたいだし、問題は無いと思うんだけど。」
立った・・・・フラグが立ったな!
「間違いなく問題に巻き込まれるだろうな。」
「私もそう思いますわ。」
「私もそうおもぅ。」
「俺もそう思う。」
「僕もそう思う。」
「銀ちゃんだもんねー?」
皆分かっているじゃ無い?
「何でそんなに信頼・・・というかわかりきった感じなのよ。」
「雨宮はな!何もしていなくても問題に巻き込まれるし、雨宮が動くと!更に大きな問題が起こるんだ!」
グッ!ッと力強く立ち上がり拳を握りしめた新庄はナチュラルに俺をディスり始めた。
「それが自然の流れというものだ。」
いや、自然じゃねーし。問題なんか望んでねーから。どや顔で言う無し。
「そうなのね。・・・あ。そういえば貴方に言いたいことがあったのよ。」
ミンティリアが俺に見慣れない文字で書かれたデータを渡してくる。
「読める?」
「ちょっと待て。」
俺はナノマシンに解析を任せ、データを読み進める。
ーー
神木に枯衰の兆しあり!
先刻、桜国の管理する神木が一部腐っているとの観光客からの報告があり、衛士隊が確認した所によると地上に露出した根の一部に腐ったような跡があり、魔力が漏れ出していたという。
事態を重く見た桜国政府は神木の観光を取りやめ、完全に封鎖することを決定した。
ーー
「なんだこれ?何処のニュースだ?」
「読めるのね?因みに私は読めないのよ。」
何で自分で読めないのに渡してくるかな?翻訳機か何かと勘違いしてないか?
「あー。別に翻訳して欲しいとかそう言うのじゃ無いのよ。ただ魔法を使っても読めないし、研究所に渡しても解読出来なかったからもしかしたらって思ったのよ。」
「ふーん。ところで桜国って何処のことだ?」
「私の前の故郷よ。」
「前?今は?」
「今は木星に有るコロニーケヤキサンバよ。」
名前ぇ。覚えやすいけど・・・。
「面白い名前だな。」
「ケヤキサンバって言う人が自治長さんなのよ。」
人の名前かよ!
「で?」
「で?って・・・。前世の話よ。もしかしたらそれが読める人なら何か分かるんじゃ無いかって思っただけ。」
転生者だったのか。俺とは違う世界の。
「神木に枯衰の兆しありっていう見出しで、根の一部が腐ってて観光が取りやめになったとか。」
「ふーむ・・・成る程ね・・・。」
「何か分かるのか?」
「ええ。その神木って言うのは、この世界では何に例えたら良いのか分からないけど、世界の柱って言えば分かるかしら?世界を支えているものなのよ。」
「ああ、大丈夫だ言いたいことはなんとなく分かる。なぁロペ。」
「そだねぇ。ファムネシアみたいなものだねぇ。」
「ファムちゃん?」
「そ。まぁそれは置いといて良いょ。」
「そう?じゃあ・・・えーと。その情報源って今私の端末に入っているデータチップなんだけど、それは私が産まれた時に口の中に入っていたって親が言っていたわ。」
「口ン中とかダイナミックな移動方法だな。」
生まれる前に飲み込んだらどうするつもりだったんだ?
「界獣っぽいのー。」
「ちょっとやめてよ、理由は私も分からないんだから。」
まぁ今聞いた話から推測すれば、そのチップに何らかの重要な情報を入れて異世界に届ける必要があったって事なのかね?
「他のデータは?」
「はい。」
ミンティリアは端末からチップを抜き魔力を纏わせて俺の所に投げてよこした。一直線に俺の方にふよふよと飛ぶようにチップが届く・
「解析してみるか。」
「お願い。」
「ミンちゃんはこの為にわざわざここに来たの?」
「そう言う訳じゃ無いわ。仮にデータがどんなものか分かったとしても、今の私にはどうしようもないもの。」
「成る程。世界をまたいで移動できるわけでは無い、と言うこともあるか。」
「そうね。それに時間の問題もあるし、今もまだその世界が残っているかなんて分からないもの。ここに来て色々学んだけど、それを踏まえて考えれば、その世界は閉鎖されている可能性が高いし、そうだとしたらこっちから行くなんて多分出来ないでしょ。」
「んー。どーだったかなぁ?」
ロペはまた何かを思い出せそうになっているようで、あーでも無いこーでも無いと首をひねっている。
「ざっくりこのチップの情報をまとめると。」
「もう終わったの?早いわね。」
ナノマシンだからな。
「桜国が管理している神木が半分以上腐って倒れそうになっていると。」
「半分!?」
「ど・どうしたのロペさん?」
「いや・・・今思い出したんだけど、半分も腐ったらもう取り返しがつかないょ。」
「じゃあもう手遅れなのね?」
「多分そぅ。」
「続けるぞ。」
「ええ。」
「えー・・半分が腐り落ちた時点で世界の境界がハッキリしたと政府が公表した。でその境界には物理的に通ることの出来ないフィールドが張り巡らされていて、通り過ぎようとした生物は、死ぬ。」
「その話は最近聞いたきがするのー。」
「騎士団長が言っていたな。で。徐々に境界が狭まってきているから皆で神木の最後の力を使って、転生しようと言う話に纏まった。」
「集団自殺・・・かなぁ?」
「で、転生しようとしたんだが、何かの邪魔が入って三人しか転生出来なかったんだと。」
「あ・後の人達はどうなったの?」
「わからん。生きては居ないだろうな。」
「そう・・・。」
「でもよかったのよー、ミンちゃんの他にあと二人も転生した人が居るんだからねー。」
「そうね。偶然私だっただけかもしれないけど、ありがたい話よね。ああ。勘違いしないでね?別に前の世界に関して何か思う所がある訳じゃ無いのよ。只の好奇心。冒険者故の興味よね。」
「・・・。」
時間の問題か・・・・。もしかしたら解決出来るかもしれないが、旨く纏まらんな。
「成る程。良い暇つぶしにはなった。」
「そう?それなら良かったわ。」
俺はチップをミンティリアに返し、コンソールに表示されたカウントの残り時間に目をやると、表示は残り三分を表示している。
「おぃ・・・データの結果を気にしているのは良いが・・・。」
「あっ!!いけない!」
「ミンちゃんもう通達は済んでるから良いのよー。」
「うぅ・・・ごめんなさい・・。」
こいつ艦内アナウンス忘れていたな。
「もう到着か。何だかすげー早く着いた気がするな。」
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水星圏 コロニーセブンフォール付近
「おぉ。水星だぁ。」
「きれーなのですー。」
・・・。大きくモニターに映し出された水星の青さに引き込まれそうになっていると、その画面端に何やら艦隊と思われる影を見つけた。
「エリー拡大できるか。」
「おっけーなの。」
拡大して確認するとやはり戦艦・・・それも十や二十じゃ無い。
「・・・水星軍だな。中隊規模か。」
「待ち構えていたって感じかな?」
まぁ・・・関係ない可能性もあるかもしれないし、ちょっと横をすれ違ってみようか。
「通信は無いか?」
「特にないわ。と言うか届かないわよ普通の船なら。こんな遠いのに。」
マギアシリーズの通信装置はナノマシンによって強化されている上、この世界には無い技術を使っているせいで果てしなく遠くまで早く届く。
まだ新人の二人は少し緊張しているようだ。レビルバンは・・・いつも通りだな。
「よし。艦隊を維持しつつ迂回して衝突コースを避ける。ルートを向こうに伝えてやれ。これで邪魔してきたら・・・な?」
「な・・・って・・・。」
ミンティリアとザミールは若干顔を青ざめさせているが、他の皆は分かっているようだ。
「連合艦進路を塞ぐように移動しました。」
報告するザミールの頬を一筋の冷や汗が伝い落ちる。
「仕方ないな。ルート変更。ど真ん中を突っ切ってやれ。」
「「「「了解。」」」」「「ええっ!?」」
「レビルバンさんこれが銀河旅団のやり方ですわ。よく見ていて下さいね。」「承知。」
「次元湾曲フィールド展開、マジックシールドも展開完了です。」
「火器管制オールグリーン・・・です。」
今気づいたが火風が火器管制シートに座っているが、もちろんその補助にホムラがついている。
「機動部隊各機スタンドバイ・機動部隊各機スタンドバイ。指示有るまで出撃は許可しない。各員コックピットにて待機せよ。」
出撃準備のアラームが艦内に鳴り響き、にわかに慌ただしい空気がブリッジにも漂い始めた。
「イントたん敵艦の情報を。」
「はい。艦隊総数四十隻、旗艦はサラマンダー級アクロポリス。ジン・メテオコメト水星軍大佐率いる第四艦隊です。」
なんか世界が破滅しそうな名前の人だな・・・。
「内訳はサラマンダー級十、ウンディーネ級二十、シルフ級八、オーガ級二です。」
「前面にオーガ級を配置して近づいてくるようだな、シールドシップとか言う奴か。」
この世界の宇宙戦艦は大きさの順に、シルフ級<ウンディーネ級<サラマンダー級<オーガ級の順番に大きい。だが・・・。
「マギアシリーズはそのオーガ級の上、オベロン級なんだよねぇ。」
「しかも旧型だな・・・オーガ級とは言ってもまともに攻撃してこようという気配は無いな。只の壁役か?」
「ロペはどう見る?」
「うーん。メテオコメト大佐はあのオーガ級を盾にする戦術で大戦を生き残った人だからねぇ。アレの後ろでSWとシルフが待機していて、オーガが開くように展開したら一気に突っ込んでくる。
奇襲作戦って奴だね。」
「成る程な。初見撃破専門って感じだな。物理的な目隠しか。」
向こうから通信をしてくる気配は無く、徐々に互いの艦隊は近づいていく。以前の経験から体当たりをぶちかましても艦内が揺れるようなことは無いと分かっている事もあり、新人三人・・・いやレビルバンも流石に緊張しているようだ。
出汁の匂いが微かにする。
「じゃぁ折角だから、隠し球をだそうかなぁ~。」
「隠し球?なんだそれ武器か?」
「まぁある意味武器だねぇ。」
ロペは端末を操作し、マイクでどこかの部署に呼びかけると、俺のコンソールにこの間やってきた新型の移動倉庫が発信したとの報告が上がってきた。
何をさせる機だ?
「誰が乗っている?」
「モニターオープン!」
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チャーチャーチャーチャーーーン
「ハーアーイ!皆久しぶりぅっ!マトゥーです!」
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大きく場所をとってARモニターに表示されたのは、紫色のケバケバしい髪色でキンキラの装飾の服を着た・・・キャスター?レポーター?
ガタイが良くやたら通るしなを作った野太い声が、非常に耳障りである。
「テレビ?」
「生放送だょ。」
「どこから?」
「直ぐソコ!」
慌てて周辺の宙域図を表示した新庄は、移動倉庫に緑の光点を付け追跡を開始する。
大きく弧を描くように戦艦の射程圏外から連合艦隊を中心に捉えるように宙域を旋回している。
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「今日わぁ!水星圏にあるコロニー、セブンフォール付近の宙域にお邪魔していまーす!」
カメラの映像が変わり平たい昔のアダムスキー型円盤のような形の居住コロニーが映し出される。
「特徴的な形のコロニーは見覚え・・・有るかしらっ?私は無いわっ!だって・・・初めて冥王星圏を出たんだものっ!」
そしてカメラの映像は壁として展開するオーガ級の後ろ側、奇襲作戦の要でもある高速戦艦シルフ級を映し出す。
「アレは有名な岩戸作戦ねっ!あの壁になった大きな戦艦が見えないように小さい戦艦を覆い隠しているのねっ!」
そしてマトゥーの前に設置してあるカメラに映像が切り替わる。
「でもね・・・みんな聞いて頂戴っ・・・。今、とても残念な話を聞いたの。水星軍が・・・水星軍の大佐が・・・海賊になったんだって!」
画面右下に小さなワイプから始まるメテオコメト大佐の詳細情報を表示した画面が現れ、モニターに大きく表示される。
「この人が今回の民間人襲撃犯の犯人、水星軍第四艦隊所属、ジン・メテオコメト大佐よ!私達は偶然民間船を取材に来ていたの。でも急に襲い掛かってきたの!!」
更に画面が変わり、ウォンテッドと赤い文字が大佐に貼り付けられ、その下に数字が表示されている。
「自体を重く見た連合政府と冒険者ギルドは彼に賞金をかけたわ!第四艦隊全体の賞金総額はナント六億五千万クレジット!!Aクラスの手配犯と同等の金額よっ!討伐に向かう冒険者の皆は充分に準備を怠らないように注意してねっ!」
そして再び第四艦隊の方へとカメラが変わり、艦隊を一周しその全貌を明らかにした。
「ここから先は私が実況するわっ!民間船の協力してくれたナイスガイからとっても足の速い船を借りたのっ!余すところなくお届けするわっ!!」
ーーーーーーーーーー
水星軍第四艦隊 旗艦アクロポリス
「艦長!生放送に介入できません!このままでは我々が犯罪者になってしまいます!」
「狼狽えるな!どうせあのキャッシュマンのやったことだ!誤解は直ぐ晴れる!正義は我々にあるのだ!」
ブリッジの艦長席から立ち上がり、クルー達を鼓舞するメテオコメト大佐だったが、言い知れない不安を覚え水星軍本部へと通信を試みている。しかし何者かにジャミングされている通信は一切反応が無く、第四艦隊は孤立無援の状態にさらされていた。
「報道など無視しろ!どうせデマだ!我々は任務を全うする!」
「「「「了解!」」」」
大きな声を上げて檄を飛ばしてはいるものの、先ほどから何一つ上手くいっていない。
奇襲作戦の為に隠していた攻撃部隊は生放送のカメラで完全に戦力が露呈し、その後ろに見えない状態にしてあった艦隊の配置も丸裸にされてしまった。
「くそっ・・・何が起こっている・・・。」
メテオコメト大佐はふと、昔冥星軍のタロー・ピーチカン大佐と艦隊の盤上模擬戦を行った時のことを思い出した。
あの時もどんなに裏を掻く作戦を展開し、虚を突く戦術を展開しても何一つ成功せず全滅まで追いやられ敗北した。
若き日のメテオコメト大佐には到底許容しがたかった苦い思い出。あの時は周りに居た仲間と八つ当たりから発展した大げんかで二階級降格を喰らった。
(だが俺は自力で這い上がってきた・・・。)
採掘戦争の前に冥星軍から水星軍へと転属し、多くの戦果を上げてきた。戦時特進も相まって今や戦神と称される程の名声と大佐の階級を手に入れた。
だが蓋を開けてみればどうだ?大戦当時から使い回しのくたびれた戦艦を押しつけられ、他の部隊から厄介者扱いされた者達を押しつけられ、戦艦もSWも数が全く揃わないままで今、また謎の敵との戦闘に駆り立てられた。
見たことの無い戦艦、奇妙な陣形、そして・・・・。
「あの生放送は何とかして止められんのか!!」
「この艦の電子戦装備では不可能です・・・。やたら高強度な暗号通信で付け入る隙が全くありません。」
完全にお手上げといった様子で余所の部隊からやってきたばかりのオペレーターが両手を挙げる。
「もはや奴らを倒すしか我々に生き残るすべは無い。」
「「「「「・・・。」」」」」
「奴らが何をしてこようと叩き潰すしか無い!アコヤとアカニシを動かせ!数は此方が圧倒的に上だ!叩き潰せ!」
「アイサーーーーアッ!」
水星軍独特の返事を持ってオーガ級戦艦アコヤと、アカニシは艦隊の正面を開け敵艦隊が目視で確認・・・。
メテオコメト大佐は目をこすりモニターを凝視するが、壁の二隻が開いてもその前には一隻も戦艦が居ない。
「なぜ・・・だ?」
「レーダー上は動いていません・・・。」
ギリッと歯ぎしりが聞こえると、副官の男はブリッジにて捜索指示を出す。
「レーダーで見えないなら目視で探せ!シルフとSWは何をやっている!さっさと状況を報告しないか!」
ーー此方ピアス1周辺に敵影無し。
ーー此方サファイア1周辺に敵影無し。
ーー此方スター1周辺に敵影無し。
「もっとよく探せ!!!居なくなるはず無いだろう!!」
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くそっ・・・。何でこんな目に遭うんだ・・・。ついてねー。
つい先日巡視隊から異動を言い渡され、今迄全く乗ったことも無い旧型の戦艦のオペレータとして左遷された、アーマン・ブーリック少尉は背後で怒鳴り散らすメテオコメト大佐の指示を受け、周辺宙域を必死に捜索していた。
(何で居ない?・・・いや俺達は最初から一度も目視して見ていない。見ていたのはアコヤとアカニシのクルーだけの筈だ。)
「アコヤ、アカニシ両艦へ通信、目視していた間に何があったか報告してくれ。」
ーーざざっ・・・サーーー・・・。こちら・・・あか・・・とう・・は・・もく・・しして・・・・い・・・。
ーーこち・・・ら・・・・。・・・もく・・・・ない・・・・。
(雑音が多すぎて聞き取れない・・・。)
「両艦とも雑音が多すぎるもう一度だ。」
ーーザザッ・・・こ・・・ぷつっ。
ーー・・・・・。
「通信が途絶えただと・・・?おい壁はまだ生きているのか?」
隣のメインオペレータはモニターに張り付かんばかりに近づき、目視での確認をしているが何処を探しても何も見つからない。
「居ない・・・いない・・・!どこにもいない・・・!!!」
(くそっ役立たずが!)
ブーリック少尉は自分の前の戦術画面を切り替え外部監視カメラの映像を表示するが、そこには相変わらず閉じたままのアコヤ、アカニシ両艦が映し出されている。
(・・・はっ!?)
「大佐!・・・。」
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピス
「やっぱり旧式のサラマンダー級って電子的に脆弱だよねぇ。今頃パニックなんじゃ無い?」
ロペはつまらなさそうに手元の端末を操作し、ナノマシンによって合成された音声を流し、アクロポリスの通信に割り込みをかけていた。
「もうそろそろ良い時間だな。彼ら・・・彼女等はどうする・・・いや彼か?」
どっちでも良いじゃ無いか!俺はああいう奴は嫌いじゃ無い!半径五メートル以内に入ってこなければ嫌いじゃ無いぞ。
「どこかから通信は入ってきているか?」
「あ・・・ちょっと待って。今入ってきたわ。」
ーーおっほ!繋がった!ナイストゥーミートユー!なんてな!
また濃い奴が出てきたな・・・。
ーー俺達は水星冒険者ギルド所属の『虹色の風』だ。懸賞金譲ってもらえるんだって?助かるぜ!
黒髪のウェーブ掛かった短髪の大男が、心底嬉しそうに此方に目を向けてくる。身なりは小綺麗で、夏服をイメージしたような短パンとTシャツが、周りの季節感を狂わせる。
「ああ。此方は銀河旅団、冥王星圏の方から来た。旗艦は電子攻撃で混乱している。いつでもどうぞ?」
ーーイェーイ!あんたサイコーだぜ!オラおまえらっ!最大船側!回り込んで旗艦に一発ぶち込んでやれ!
「騒がしい奴らだな。」
「Bランククラン虹色の風、構成人数百四十人、改良型サラマンダー級四隻保持、か。よくこんな規模の小さいクランが金食い虫の戦艦を持っている物だ。」
「しかも無駄に改造してあるわね、光学兵器は積んでいないみたいだけど。実弾兵器にこだわりでもあるのかしら?」
目立つサーフボードのような黄色い塗装をした四隻の戦艦が、移動倉庫と同じような弧を描く軌道で素早く艦隊後方へと軌道を取り、その後ろに付こうとした時その足が急に止まり、何やら別の艦隊と出くわしたようだ。
ーー此方水星ギルド所属Aランククラン『ブレーメンの魔女』よ。早い者勝ちで良いのよね?
ーーオイ割り込んでくるんじゃねーよ!危ねーじゃねーか!
ーー・・・。で私達は水星軍の後方に展開しているわ。あの全く動かない戦艦、落としても良いのよね?
「問題ない。早くしないと他の奴らも続々来ているぞ。」
ーーアラいけない。みんな!主砲を使うわ!じゃぁねっ今度おごらせて貰うわ。
ーーーーーーーーーー
ブレーメンの魔女旗艦 インフェルノ級アストレア
「フフッ!今夜はごちそうねー!」
「リーダー!さっさと終わらせて仕舞いしょう!後続の反応多数!このままだと乱戦になります!」
(いっけない、ちょっと舞い上がっていたわね。)
「マジックサーキット導通確認!」
「・・・問題なし。」
(もうちょっと大きな声で言って欲しいわねぇ・・・。)
「トリガーオープン!」
「目の前にあるでしょ?」
「気分の問題でしょ!」
(もぅ!そんな所突っ込まなくても良いのに!)
目の前に怏々と隆起する女性の手には大きすぎるその物体は、太く・・・そして長い。
床からニョッキと生えているように見えるそれは、テカテカと光を反射する大きな宝玉をその頂点に装着していた。
「一発で・・・全滅させてやるわ!」
「「「「「「「悪!即!爆破!」」」」」」」」
ブリッジクルー全員が唱和する中、魔力を通したその長い竿のようなモノは徐々に熱を帯び、脈打つかのようにマジックサーキットへと彼女達の魔力を導通させる。。
モンキーレンチのような艦の前頭部が開き、開いた空間に青白い光が漂い始めると、真空中に火花を散らし大きな魔方陣が姿を現す。
「行くわよ!魔女の真髄!電撃鉄格子ぃいいいいいいいいいい!!!」
ーーーーーーーーーー
マギア・ラピス
「お?おおっ!?」
「紋章兵器なのー!」
「他では初めて見たな!」
後で現れたブレーメンの魔女と名乗るクランの戦艦の前部が開いたかと思えば、膨大な魔力が収束し宙域を覆い尽くす程の巨大な鉄格子を作り出した。
「あの中にいる人は生きてるかなぁ。」
「無理だろ?アレはちょっとマジックシールドも無い艦に直撃したら終わりだろ。」
案の定、電撃の格子に囚われた艦隊は見るも無惨に爆散し残骸だけが宙域を漂っていた。
「おみごとっってか?」
「ギルドにも恩を売れたし、水星軍にも貸しを作れたし、上出来かなぁ。」
まぁ・・・俺達は結局殆ど何もしていないんだけどな!
ネミッサリア・ファイブスター 二十九歳 ヒューエル ブレーメンの魔女リーダー
インフェルノ級戦艦アストレアを所有する水星圏冒険者ギルド所属の女性のみで構成された大型クラン、『ブレーメンの魔女』のリーダーを務めるSランク冒険者。
魔女とは女性魔法使いへの別称であるが、彼女達にとっては職業のようなものである為、別称としての認識は薄い。
多くのクランメンバーを束ねるリーダーとして内外に有名で、雷神ネミッサリア、の二つ名を持つ。
水星圏でも指折りの実力者でもあるが、ここ暫くクランが活動しすぎた為か、宇宙海賊討伐などの依頼が激減、運営が徐々に苦しくなっていることに頭を悩ませている。
魔女はつまらない依頼を受けない。をクラン内に浸透させてしまっているが為に、護衛や輸送などの簡単で尚且つ稼げる依頼を受けられ無くなっており、それもクランの財政を圧迫する要因となっている。
一年程前の雨宮が救助された時のニュースを見ており、一度個人的に冥王星圏にまで出向いたが、その頃には雨宮は既にヘルフレムに収監されていた為入れ違いになってしまっていた。
魔女の勘として、雨宮に何か感じるものがあったらしくネットワークを通じて雨宮を探していたが、偶然ギルド内にて雨宮銀河名義の依頼がアップロードされていることを発見、破格の依頼報酬には目もくれず雨宮に合う為だけに艦隊を動かすことにした。
マトゥー・キャイ 三十二歳 人種 PSN所属レポーター
冥王星圏生まれの冥王星圏育ち、冥王星中央大学報道科を卒業後冥王星圏中央放送『PSN』へと入社。普通の男性アナウンサーとして活躍していたが、採掘戦争の折りに心を壊す事態に遭遇しばらく休職していたが、現場に復帰女性キャスターとして活動を再開した。
濃い外見とは裏腹に元々の実力もあり、報道は繊細且つ大胆にを心情に現場に飛び込んでいくスタイルを崩さない。
レポーターとしての実力もなかなかのモノだとして、復帰後も徐々に人気を集めPGNの人気キャスターとして数々の番組を手がけてきた。
しかしアトレーティオ4襲撃事件の際マギアシリーズを報道しようとしてしまったが為に、エクス、ヒューニの両パイロットにより報道シャトルごと拿捕され、長らくラピスの牢屋に放置されていた。
偏向報道を嫌うマトゥーは、銀河旅団に取り込まれることを良しとせず、ロペからの度重なる説得にも応じなかったが、もし応じるなら肉体を改造しても良いという一言に負け陥落、銀河旅団専属の報道官としての地位を与えられた。




