EP37 銀河旅団選抜セレクションその一
今回から無茶しません。
ぱーっぱららーぱらぱっぱっぱっ・・・・
ぽんっぽんっぽんっ
神域って良い天気だよなー。
「雨宮?運動会でもするのか?これは何の騒ぎだ?」
何故か有った広大なグラウンドの周りは観客席があり、ともすれば陸上競技のスタジアムかと思うぐらいの規模の施設・・・。
何故こんな所にいるかって?
実技試験ですよ!実技試験!
「はいこれ。」
俺は新庄にプログラムと台本を渡す。
「なになに・・・。」
ーーーーー
銀河旅団入団選抜試験
プログラム
・一万メートル走
・障怪物競走
・魔力測定
・魔導操作術競争
・パン食い競争
・勝ち抜き格闘
ーーーーー
「おいこれ・・・。」
「面白そうだろ?」
ーーそれでは全ての種目に全員参加していただきますので、準備の出来た方からさっさと始めてください!
「選べるとかそう言う訳じゃ無いんだな・・・。」
「当たり前だろ?選抜試験なんだから。」
「じゃあパン食い競争は何の為に・・・。」
「見たら分かる。」
ーーーーーーーーーー
一万メートル走
新型の移動倉庫にて輸送されてきた追加人員達全員が入場門から行進してくるが、準備が出来た奴からさっさと始めろと言われるや否や、周りを押しのけスタートラインに着く。
ーーよーい
パン!
あれは一万メートル走だな。
「一万メートルも走らせる意味は・・・?」
「スタミナとスピードだな。見るのはタイムだぜ?」
「マジか・・・。」
次々と猛ダッシュして一周一キロのトラックを爆走していく・・・。十周ぐらいなら何とかなろうよ。
と・・?一人途中で止まって両手を挙げているぞ?
ーーはーいそこ途中で止まらないでくださいー。
すっげーびっくりしてる。一番早かったけど次々に追い抜かされている。虎っぽい獣人さんだな。
「どう間違ったら一周で終わりだと思うんだろうか?」
「十キロだよな?」
俺と新庄は首をかしげてその獣人を見てみるが首をかしげながら慌てて他の参加者を追いかけている。
「あいつは失格・・・と。」
「早くないか・・・?」
千メートル=一キロもわからん奴にどうフォローを入れろと。
「最低限ふつーの知識は持っていて欲しい。」
「確かにな・・・。」
「まぁ他の分野でどんでん返しが出来るなら一考の余地有りかな?ナノマシンでてこ入れせにゃならんが。」
「ふむ・・・。」
しかし皆早いな・・・。一周するのに一分もかかっていない奴とかいっぱいいるンだが?
「ここ結構離れているから何とも言えんが、普通あんなに早いもんなのか?」
「俺もそれは思った。恐らく軍関係のOG、OBとか探索者、冒険者辺りなんじゃ無いんだろうか?」
「成る程ね。じゃぁ途中だけど追加しとこうか。」
俺はアナウンスしているキュキュに端末で追加ルールを送る。
ーーえーっと今からスキルと魔法の使用を禁止します。パッシブは全て切ってください。命に関わるもののみ可とします。
アナウンスが走った途端、目に見えてスピードが落ちた。が、そんな中で減速していく他の参加者をぐんぐん追い抜いていく二人の走者が現れた。
「おー。あの二人はやいなー。」
「あのマッスル加減・・・やはりサハギンは凄いな。」
全身ムッキムキの魚類・・・の顔を持つサハギン種の男ともう一人は・・・。
「あっちは馬系の獣人か?だが・・・。」
獣人・・・。あれ?ナノマシンで確かめてみたら普通に人種ってでた。
「馬面なだけだな。だとしても凄いな。サハギン種とタメを張るマッスル。」
はっきり言って測り直しなんだが、途中でルールを追加した手前今からやめさせるのもどうかなぁ。
「このグループだけ別にポイント振っておくか。」
因みにここ、俺達の座っている採点所には俺達を含め五人が座っている。
俺達の他にはプロフェッショナルの三人ティオレ、イファリス、ライだ。
「プロっていっても・・・ライ?」
「私は何でここに呼ばれたのか分からないんですが?実技は専門外ですよ?」
だよなぁ?
「まぁいいんじゃね?」
「はい・・・。」
二人のマッスルの後に一つの集団が形成されていく。
どうやら一人の女性がスキルの使用を禁止された事で、短期決戦から普通の持久走へとモードを切り替えたようだ。
「あの女最初に虎の獣人の後について飛び出していた奴だな。」
「彼女は私、見た事があります。軍で。」
ほほぅ?
「彼女はAGフォースの選抜に漏れた人で、身体能力は問題が無かったそうなんですが、それ以外に問題があって落としたとロペ教官が仰っていました。」
「問題て・・・。まず書類で落とそうよ。問題あるの分かってんだから・・・。」
嫌な予感しかなしない。走っている間もチラチラとこっちの方を見て何かを確かめるような祖振りを見せている。
「恐らくロペ教官がいないか確認しているのでしょう。彼女はガチですから。」
なんとー?そっちの人なの?別に問題があるわけじゃ無いが、生産性の無い関係はあんまり好きじゃ無いなぁ。物理的な意味で。
「ロペを求めて・・・ねぇ。」
「以前よりかなり鍛えているようですので、要注意人物かと。」
「ロペ女史も大変だな。目立つというのもやはり考え物だという事か。」
良い意味でも悪い意味でもロペは目立つ。均整のとれた超美人に軍での実績もそうだが冒険者としての実績もある。軍学校は首席に近い成績で卒業、戦争での戦果も華々しいものだったという話だ。
それでいて独身。いろんな奴が追いかけてきていてもおかしくは無い。
・・・あれ?今はちがくね?
「普通に既婚者の筈だが。」
「ガチには関係ありませんよ。寧ろ只燃えるだけの要素です。」
「その気持ちがちょっと分かるだけに否定も出来んなー。」
「確かに。」
「皆さんちょっとおかしいですよ・・・。」
来は一般人の感覚を持って俺達のちょっとおかしい考えを即座に否定してくれる。
でも・・・良いじゃん!?
「あの女合格候補に入れておこう。」
「「「何故。」」」
ついさっき問題がありそうだと自分で行っていたのに何故?と三人から疑問の声が上がったが、俺としては良いおもちゃが手に入りそうでわくわくでござる。
「あの集団は優秀そうだな。その後ろの集団はぼちぼち限界か。」
形成された三つの集団のうち一番後ろの集団は恐らく文理系のデスクワークを主にしてきた集団だろう。手元の資料に目を通すとこうなってしかるべきステータスが表示されている。
真ん中の集団は食らいついていこうとするものと脱落していくものが半々と言った所か。この集団は主に元探索者や冒険者達だな、ベテランであろう年齢の者達もそこそこ混じって見える。
しかしその経験がスキルや魔法に頼り切った経験しか無いのであれば、ここから先へと進む事は出来ないだろう。だってそんな奴いらんもん。
「・・・ん?」
先頭集団の中からひょいっと、その集団を引っ張っていたロペのストーカー(暫定)を軽く追い抜かし残り一キロ、ラスト一周のラインを越えた所で見覚えのある尻尾が、タタタタタっともうまもなくゴールラインを割るマッスル達の元へと驚異的なスピードで迫る。
「あら?あの子は・・・。」
風魔の犬っこだな・・・。あいつ何であんな所に・・・?
そしてダブルマッスル達をあっさり抜き去り、トップでゴールテープを切った。
はっや・・。何だあれ?
「おい。あいつスキル使ってないんだろうな?」
俺がライに確認をとると、ライは間違いなく素の状態ですと改めて問題が無い事を教えてくれる。
「ござるはどうみる?」
ここ最近あまり仕事を頼んでいなかった事もあり、気配を消して俺の後ろに潜んでいるござるに質問をしてみると、直ぐに見えるように姿を現し近くへとやってくる。
「地力の違いでしょうな。元々そう言う鍛え方・・・生活をしていればそう言う身体に成長しましょう。風魔とはそう言う一族です。」
成る程・・・ああいう事が日常的に行われている家庭で育ったと・・・。どんなんやねん。
「かなり特殊な家庭で育ったみたいだな。」
「忍びとはそう言うものです。」
「そか・・・。」
前の世界に行く事が出来るようになったら、マジリスク忍法帳とか忍タマンランタローとか読んでみようかな。
「忍びというのは凄いんですね。私には無理ですね。」
ライは息一つ切れずにあっさりゴールした犬っこの方を見てうらやましそうに目で追っている。すると此方に気づいた犬っこはブンブンと尻尾を振りながら此方に手を振ってきた。
「可愛い・・・。」
流れるようなエメラルドグリーンの髪をお団子にし、ちらと除く犬歯がチャームポイントと言ってもいいだろう犬っこを目で追うライは、端末を取り出しその端末で犬っこを追い始めた。
「?何をしているんだ?」
「動画でも記録しておこうかと・・・。」
「ほどほどにな。」
犬っこが加速してから程なく、マッスルサハギンとマッスル馬面がゴール。肩で息をしゼーハーと犬っこの側に滑り込む。
ーーーーーーーーーー
「貴公・・・早いな・・・。」
「ああぁーーーー!!!俺が一番になれる唯一の競技だと思ったのにヨーーーーー!!」
「いや・・・競技では無い・・・。」
「わふ?」
「その身のこなし、ただ者では無いな。」
「ふうまは風魔なのです。走るのは大好きなのです!」
「成る程。噂に違わぬ風魔の走り良いものを見せていただいた。」
「わんわん!スキルなんて飾りなのです!」
「そうだ!己の足で走ってこその人間だっ!・・・でも負けたぁ!」
ーーーーーーーーーー
喧嘩になるような感じじゃ無くって良かった。
三人に続き先頭集団の者達が次々にゴールをする。
そういえばあんな走りが出来るのに、何でわざわざ集団の中にいたんだろうか?
「主よ恐らく集団の真ん中にいたせいで出られなかったのでは無いでしょうか?」
エスパーかよティオレ・・・。顔に出ていたかな?
「ちっこいもんなぁ。」
「それにあまり押しのけてまで前へと出ようとは思っていなかったのでは無いでしょうか。あの走りを見れば恐らくあのまま暫く走り続けていられる事は想像に難しくありません。
いつでもゴール出来るが故の余裕だったのでは無いでしょうか。」
「すげーな犬っこ。ちょっと見直したぜ。後で骨をやろうか。」
「獣人だからな?雨宮?」
そうでした。
ーーーーーーーーーー
・・・何なのあの犬・・・。私が折角トップでゴールしてロペ様に良い所を見せるチャンスだったのに!それに私の周りにいた他の奴らも、全然普通に走ってた。
本気を出す必要が無いって事?
結局途中で体力の限界が訪れ、先頭集団の中程まで順位を下げ漸くゴールしたロペストーカー(暫定)は地面に背中を預けて神域の空を見上げた。
(パフちゅん!待ってるよっ!)
「ロペ様・・・。」
脳内だけで展開されるロペストーカー(暫定)事パッフルフローネ・リングドンは、全身全霊を込めて走りきった己の無力さを棚に上げ、幸せで尚且つ現実では絶対にあり得ない妄想に身を沈めたが・・・。
ーーゴールした方は直ぐに次の試験に進んでください。後ろが支えていますのでさっさと動けボケ。
ーーーーーーーーーー
「早いなもう次が始まるのか。」
「時間は有限です。ボスの時間を無駄にとらせるとか害悪です。」
言い切ったな。
「まぁのんびり眺めているのも悪くは無いと思うよ。」
「駄目ですこの後はカテゴリー名称決定協議があります。時間をとってありますのでさっさと終わらせましょう。」
何ですかそれ。あーマシンの。
「そ・・それもうきまってんだ。うんわかった。」
ーーーーーーーーーー
障怪物競走
俺の目の前には今あり得ない光景が広がっていた。
「あの奥にいるのって洋介君だよな?」
「そうですね。」
これは一体何?といった感じで新庄は俺の方を見てくるが・・・。
「読んで字の如く。」
「怪物が障害になる競争かよ!!」
パンッ
スタートラインに並んだ走者達が一斉に走り出し、武器を抜く。
流石に素手では死ぬだろうという事で、持ち込みをしているモノの中で問題のないものだけ許可した。
「っせいやぁ!!!」
うぉおー。あのサハギン強いなー。超小型界獣をものともせずに走って行くぅ。
しかし先ほどトップを争っていた馬面のマッスルは、触手一本で弄ばれ良いように転がされている。
そしてふうまはというと・・・。
「たいあたりなのですー!」
ババババッ!と盛大な爆音を発する先を見ると風魔の犬っこは自身の周りに大きな円形の風を纏い、その風は界獣の触手を切り裂きいとも容易く界獣達の群れの中に突っ込んでいく。
「むちゃくちゃやんけ。」
「そ・・そうですね。」
「風魔とはそう言うものです。」
どんなだよ風魔・・・。イファリスが唖然と犬っこを見ている中、ファムがお茶を差し入れてくれる。
「マスターあの小さな界獣は害はないのですか?」
まぁ確かにそう思うのも無理は無い。だが洋介君曰く「全部操れるので問題ないですよ。」
と言う事だった。既に海王星ダンジョンの中にいたりソースをまるごと圧迫していた界獣達も、彼の手によって宇宙空間に移動させられ、宇宙にポップしてしまっていた元々ダンジョンに生息するモンスター達も界獣達の手によって喰われたとの事だった。
「皆ちゃんと分解しないとなー。」
「元に戻りますか?」
「それは多分大丈夫。」
「私も分解したいですマスター。」
そう言ってファムは俺の膝の上に座る。
「そうだな。ロペのシステムを渡す時にファムも一緒にやってみるか。」
「はいっ。」
ーーーーーーーーーー
おかしいでしょどう考えても!?何あれ?も・・・モンスター?なの?
私だってある程度冒険者として鍛えてきた訳よ、見た事無いんだけど?あのモンスター!
スパーン!
「痛った!!」
極太の鞭のようにしなる触手がロペストーカー(決定)の身体を打ち、白磁器のような肌に赤やら青やらの傷が刻み込まれていく。
「毒持ってるとかおかしいでしょ!!」
既に彼女の利き腕である右腕は紫色に染まり、全く反応しなくなっている。ほぼ戦闘不能状態と言っても過言では無いぐらいのダメージを負ってしまっている彼女は、ジリジリと後ずさり、少しでも離れようとするが・・・。
チュン
「あ”ぁ”っ!」
いの一番に飛び出していったサハギンと犬っこを追いかけ、その後ろに付いて行ったは良いものの、一瞬で距離を開けられ一人界獣の群れの中に取り残されてしまった彼女は今、周囲三百六十度を完全に囲まれてしまっていた。
そして後ろから腰の骨が砕ける衝撃を受け、うつ伏せに倒れ込み動かなくなった。
ーーーーーーーーーー
なに・・・これ・・・?
「ちょっと強すぎじゃ無いこれ?レーザーガンが効かないんだけど・・・?」
「俺に言うなよ・・・。」
「あんた前衛でしょ?隙を作るぐらいしなさいよ。」
「無茶言うなよ・・・。俺の剣だってもうボロボロなんだが・・・。今にも折れそうだし・・・。」
高かったんだ!と泣きを入れる男の後ろで三人の女が腕を組んで界獣を遠巻きに観察している。
「召喚獣にしてはちょっと趣味が悪いわ。」
「グロすぎ。」
「ちょっと触りたくないなぁ・・・。」
彼女たちは冷静に周りを見ているが決して近づこうとはせず、あくまで競争であるという事を念頭に置き三人のうちの一人がアイディアを絞り出す。
「競争なのよね?しょうがいぶつきょうそう。」
「障・・・かいぶつ競争ね。」
「ワロエナイ。」
一番背の低い人形のような女が火球を作り出し、コースのど真ん中に鎮座する極小サイズの界獣に向けて数発放つが、せいぜい薄皮一枚暖まった程度であろうか、暖をとるにも足りないレベルで損害と呼べる物が与えられるような物ではなかった。
しかし彼女の魔力が低いだとかレベルが低いだとかそう言う話ではない。普通なのだ。彼女らを含めてそのほかにここで足止めを喰らっている者達は、あくまで普通の冒険者なり、軍人なり、探索者なのだ。
彼女たちとてCランクの冒険者パーティである。最近冒険者でいる事にも飽きてきてしまった、そんな時にこの銀河旅団の募集をしていると知り合いから紹介され、やってきては見たものの・・・。
「走るだけならまだしも、こんな訳の分からない化け物と戦うってどうなのかしら?」
「でも必要なのは分かる。」
「しかもこの後ペーパーテストがあるんだよね?」
暫く戦艦の中に放置されていたと思ったら慌ただしい事だが、恐らくこういうことになるであろうとは紹介者からは聞いていた、
忘れられていたわけではないのだろうが・・・彼女たちがマギアシリーズに乗り込んだのは海王星ダンジョン突入直前だった。あわや間に合わないかもしれないという上え下への大わらわの中ギリギリ間に合ったのだ。
「基礎魔法だけじゃ怪我すらさせられないみたい。」
「あれやろう。」
「「?」」
そんな彼女たちが見たのは、犬っこが風を纏い触手を躱しながら界獣の隙間を突き抜けていく所だった。
「無茶ですよ!」
「そうよ!あれは私達のレベルじゃ無理よ!」
「でも出来そう。」
「「えぇ?」」
口数の少ない女は右手に淡い光を放つ水晶なものを浮かべ、魔力を集中する。
すると先ほどの犬っこの纏った風にも劣らない激しい風が巻き起こった。
「それって・・・。」
「フェアリーオーブ。」
「そんな高いアイテムを試験で使うぅ?」
「でも使わないと突破出来ない。」
二人は顔を見合わせ、分からなくは無いがと首をかしげる。
「次の試験にかけるって言うのは無しなの?」
「リタイアしたら失格かもしれない。」
そうなのだ。ついさっきの一万メートル走ではいきなりルールが追加された。この試験もどこかでルールを追加出来るような人物が見ているのだ。
不確定な要素はいつでも起こる。だったら・・・。
「全部全力で行くしかない。」
「そうね。」「うん。」
その話を聞いていた周りの参加者達も覚悟を決めたようで、次々に見た事の無いようなアイテムを取り出し怪物へと突っ込んでいく。
「あぁ・・・それでも駄目なのね・・・。」
「皆よく見てない。行こう。」
「あ!ちょっと!」
そう言うと水晶を掲げていた女はその水晶を抱え込み、さぁ!と背の高い女の方を見た。
「抱えろって事ね?よし。」
「行きましょう。」
「GOGO」
しっかりと小脇に抱えられた女は持てる全ての力を水晶に注ぎ込んだ。
「エクステンションマジック・・・。」
「いっくよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁっ!!!」
「オーバーバスター・・・。」
目前まで迫り来る触手を剣と盾で華麗に裁く剣士の女は全力で走りながらも全ての攻撃を裁ききった。
「テンペストバリア!」
ブオン!!
ーーーーーーーーーー
・・・うぇ?
途中まで良い感じで走り抜けていたと思われていた挑戦者達だったが、犬っこに追いつけなくなった途端あっさりと囲まれ完全に足止めを喰らっていた。しかし、とうとう覚悟を決めたおっさんが一人突っ込んで触手一発でコース外へと弾き飛ばされた。それに続くように他の者達がわらわらと持てる様々な力を使い、少しずつではあるが界獣を押しているようだ。
「すもうかな?」
「間を抜けていけば良いように設定してあったと思ったのですが。」
しかし次の瞬間。
びゅうううううぅうううううう!!!
コース上に設置されていた界獣達がものすごい風で吹き飛び、コース上の障害がなくなってしまった。
「うはっ!すげーなあれ!」
「なんと。オーブの力を借りているとはいえ上級魔法に、エクステンションマジックを合わせているのですね。それに他の上乗せがありますね?スキルでしょうか。」
「あの・・・何処まで飛んで行ってしまうのでしょうかあれ。」
ライは、自身の苦い思い出を思い出し界獣達の行く末を案じた。
「あのこ達は何者?」
「えー・・・。」
「Cランクパーティートリプルミルクティ・・・。だそうです。構成は三人、剣士ザミール・スカラボニエ。魔法使いテン・リントシー。格闘家ウィムリー・カラッシュ。との事です。」
れたびえー・・・。成る程、良いトリオなんだな。しかし・・・。
「あれじゃぁ皆通り抜けちゃうなぁ。」
「そうですね。障害も何もあったもんじゃないですし。」
ーー銀河さん、界獣達なんですけど、流石に外に置いておく訳にはいかないのでもう一度ダンジョンの中に入れておきますね。
「え?」
次だ次!
ザミール・スカラボニエ 人種 二十五歳 Cランク冒険者
ソードダンサー一族スカラボニエの次女。一族の伝統として成人してからは冒険者として銀河系を旅し、踊りを披露するステージを開きながら、生計を立ててきた。
しかし日に日に冒険者である今の生き方が楽しくなり、実家に戻りなさいとメッセージを受け取るもこれを拒否。家を出てソロの冒険者としての活動を本格的に始める。
しかしこれまで冒険者一本ではそうそう稼げず、ダンサーとしてステージに上がる方がお金になっていたのだが、実家を出た事が裏目に出てステージを拒否されてしまう。
これでは食い詰めてしまうと思い冒険者ギルドに相談を持ちかけた所、似たような境遇の人がいると紹介して貰った二人とパーティを組み、三年でCランクへと上り詰めた。
得意武器はバスタードソード好きな食べ物はポトフ。
テン・リントシー フェアット種 二十八歳 Bランク冒険者
本人はギルド頼み込んで自分のランクを詐称している。仲間二人にはCランクだと伝えていたが実はBランク
幼い頃から魔法使いの高みを目指し、冒険者ギルドの孤児院で育ったチャイルドエリート。目標としているのはSSランク冒険者であり元チャイルドエリート、プリムラ・シーンジョ。
元々コミュニケーションに問題があり、ソロでしか活動出来ていなかったが攻略対象ダンジョンを変える際に心機一転、ギルドにパーティーメンバーの募集を委任する。
しかし一年経っても誰も募集に集まらず、ギルドに無理に頼み込み成績を残しているのでと言う事で、Cランクということにして貰い、ザミールとウィムリーにであった。
ウィムリー・カラッシュ 鬼種 二十二歳 Cランク冒険者
産まれながらに戦う事を強いられていた戦闘奴隷の生まれ。木星圏にある奴隷市場で生まれそのまま闘技場で戦う奴隷としてひたすら戦い続けて生き残った生粋の戦士。
戦時中闘技場のあるコロニーが戦渦に巻き込まれ、コロニーを脱出し冒険者ギルドに駆け込んだ。
ギルドの救済システムを利用し奴隷から解放されたウィムリーは、冒険者として登録するも彼女にはあまり良くない噂が流され、パーティを組もうと行ってくるものは誰もいなかった。
そこで見かねたギルド職員からパーティメンバーの募集がでている所にねじ込んで貰ったそのパーティが偶然冥王星圏で期待の新人パーティとの地に呼ばれる事になる、トリプルミルクティであった。